百人一首題-016

一国の主のくせに政宗は毎日のように文を寄越してきていた。
元気にしているかだの今日は月が綺麗だっただの最初は普通の内容から始まって、終わる頃には会いたいだの夜を共にしたいだの見ているこっちが恥ずかしくなるようなものばかりだ。
これも若さ故に出来ることなのだろうかと兼続は溜め息をつく。
このような政宗の文に兼続が返事を書くのはごく僅かだ。
内容も素っ気ないものばかり。
それでもそれが届いた直後の政宗からの文はいつもより熱く愛を綴ってきていたのだ。

なぜ兼続がそんなことを考えているかというと、政宗からの文が来ないからだ。
つい十日ほど前に文を送ったのだから政宗の元には既に届いているはずだ。
なのにここ数日間、返事どころかあれほど毎日のように届いていた文もぴたりと止まってしまっていた。
政務が忙しいのかもしれない。
そう自分を納得させて兼続も政務に集中しようとしたのだけど、どうも気になってしまい仕方がない。
もう一度こちらから文を送ってみようかと考えたけれど、もしも返事がなければ今以上に気になってしまうに違いない。
どうしたものかと考えていると、しばらく顔を見せていなかった慶次がふらりと居室に現れた。

「おお、慶次か!久し振りだな!」
「ちょいと奥州まで行っててねえ」

人の居室だというのに構うことなく慶次はごろりと横になった。
今奥州と聞こえたのは、気のせいだろうか?
そんな疑問の表情が出ていたのか慶次は豪快に笑って奥州まで行っていた理由を教えてくれた。

「孫市に会いに行ってたんだよ」
「ああ、なるほどな」

雑賀衆の頭領である孫市は確か今伊達に仕官している。
その孫市のところに行っていたのだから、政宗のことを何か知っているかもしれない。

「素直な御仁だねぇ!」

また考えが顔に出ていたのか、慶次は面白そうに笑ってそう言った。

「伊達の殿様は風邪をひいちまったらしいぜ」

ハッハー!と笑い飛ばした慶次に、そこまで深刻なものではないのだと窺い知れた。
内心安堵していると、慶次がずいっと顔を近付けてきた。

「弱ったときは誰でも寂しくなるもんだ」
「ああ」
「政宗はずっとあんたに会いたいって言ってたぜ」

それを聞いて体中の血液が沸騰したかのように熱くなる。
確かに政宗から送られてくる文の最後には必ず早く会いたいという一文が添えられていた。
片や一国の主、片やただの家老だ。
しかし暇を見付けて会いに来るのはいつも政宗の方だった。
ふわぁと大きく欠伸をした慶次に構わず立ち上がる。
そのまま景勝の居室に直行した兼続はなんの躊躇いもなくこう告げた。

「景勝様、伊達殿の具合が悪いそうなので見舞いに行ってきてもよろしいでしょうか?」

一応それらしい理由をつけてみるが景勝にはすべてお見通しである。
無言で小さく頷いたのを見て、兼続は駆け出すように城を出た。

「俺の馬に乗って行きなよ」

すると門前には先程まで兼続の居室でだらけていた慶次が松風に跨がって待っていた。

「ありがとう」

それだけ行って後ろに飛び乗ると、松風は名前のごとく風のように走り出したのだった。

(政宗の驚いた顔が楽しみだ)

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