百人一首題-015

日が落ちた城下街にひらりひらりと雪が舞う。
吐く息は白くいくら羽織を着ていても寒い。
そんな中、政宗は健気に今か今かと想い人を待っていた。
かじかむ手は赤くなっていて、屋敷に帰ったら小十郎に怒られてしまうかもしれない。
だけど久々の逢瀬に心踊る政宗はそんなことがどうでもよくなるほど、兼続が現れるのを心待ちにしていた。

「すまぬ、遅くなってしまったな」

それから一刻ほどしてから兼続はようやく姿を現した。
ひらりひらりと舞う雪に兼続の白い肌は見とれそうなくらい幻想的だ。
一瞬息を飲んだが、それを悟られたくなくてついいつもの調子になってしまった。

「待ちくたびれたわ馬鹿め」
「だからすまぬと謝っているだろう」

一国の城主を一刻以上も待たせておきながら兼続はへつらうようなことはしない。
慶次に引き止められてしまったのだと素直に理由を口にした。

「そんな理由で待たされていたのか」

呆れて溜め息が出るわ。
兼続のことだからてっきり政務に追われていたのかと思いきや。
むすっと機嫌を急降下させた政宗に気付かずに兼続は口うるさく喋り続ける。

「慶次が今日の私はどこか浮かれていたように見えると言うのだ。まるで逢瀬を心待ちにしている乙女のようだと。だからそんなことあるはずないだろうと言ったのだがなかなか聞いてくれ」
「兼続」

慶次がそう言ったということは兼続は今日のことを少しでも楽しみにはしていてくれたのだろう。
下がり気味だった機嫌を浮上させた政宗だったがそんなことあるはずないと否定した兼続にまた逆戻りしてしまった。
止まる気配のない兼続の言葉を名前を呼んで止めた。

「わしは待ちくたびれて寒いのじゃ」
「ああそうだった、ならば早く」

先へ進もうとする兼続を手を差し出して止めた。
きょとんとした顔が寒さで赤くなった手を見つめている。

「貴様の手で暖めぬか」

普段なら怒りそうなものだが兼続は黙ってその手を取った。
兼続の手も冷えているが繋がったところからじんわり暖かさが広がっていく気がする。

「随分長い間待たせてしまったのだな」
「貴様が遅過ぎるせいじゃ」

そうは言うけれど手を見れば政宗が待ち合わせよりも早く来ていたことは分かった。
労るように優しく包み込めば存外純粋な政宗の顔にほんのり赤みを増した。

「政宗」
「なんじゃ」
「私は明日の分の政務を先に終わらせてきたのだ」
「わしとて明日の政務は終わらせてきたわ」

それは明日一日二人で過ごせるということで。
兼続からそういうことを言ってくれるのは初めてのことだった。
政宗は重なる手にぎゅっと力を込める。

(こんな日も悪くはないな)

そんなことを考えながら二人は雪の舞う夜道を進んでいったのだった。

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