百人一首題-014

今日はどこか様子がおかしい。
顔を真っ赤にしてちびりちびりと酒に口をつける政宗を見て、兼続はそんな感想を抱いていた。

時は秀吉が天下統一を成し遂げた泰平の世。
派手好きな秀吉が全国から大名を招いて大宴会を開いているときのことだった。
これを機に仲良うせいと天下人に言われた兼続は、政宗にお酌をしていた。
いつもならば貴様の酌などいらぬと言い返しそうなものなのに、今日は黙ってそれを受け取っている。
仲良うせいと言われている手前、いつものように喧嘩する訳にはいかないのだけど。
喧嘩にならぬようにと慶次を連れて来たが政宗は黙りこくったままだ。
いつも慶次に会うと目を輝かせて話をしているのがまるで嘘のようだ。
さすがにこれはおかしい。
どうしたのかと兼続が口を開こうとしたその時、慶次が先に口を開いた。

「政宗、酒はもっと豪快に飲むもんだぜ」

そう言って豪快に笑い、とっくりをそのまま口につけた。
さすが天下御免の傾奇者である。
そんな慶次の姿に一瞬目を見開いて、政宗は小さな声で告げた。

「わしはあまり酒に強くないのじゃ」

そのように飲んだら早々に潰れてしまう。
いつになく弱気な政宗に、こんな一面があったのだと意外に思った。
そして先程から感じていた違和感の正体もわかった。
政宗は舐める程度にしか飲んでいないが、どうやら少し酔っているようだ。
だからいつもより静かで顔も赤くなっている。
いつも尊大な態度ばかり取っているがこう見ると年相応に見える。

「ならばお酌もやめようか」

政宗の為を思って気遣ってみれば一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
その後すぐにもう十分じゃと目を伏せた。
一体なぜそのような顔をしたのか、兼続にはわからなかった。
しかし相手は酔っているのだ、あまり気にするのもよくない。
持っていたとっくりを置いて、自分のお猪口を手に取った。
その時、政宗が切なげにふぅと小さく溜め息をついたの慶次は見逃さなかった。

「おや」

周りには聞こえない程度の大きさで呟いて政宗と兼続の顔を交互に見遣る。
酒のせいだけではない顔の赤みにほうと合点がいった。

「たまには酒を飲んで酔うのもいいもんだぜ」

だから慰めるつもりでそう言ってみれば、兼続がこらとそれをたしなめた。

「無理に飲まそうとするのは不義だぞ」
「ちょっとくらいいいじゃねぇか」

ようやく空になったお猪口を見て、兼続にとっくりを手渡した。

「ほら、空になってるから入れてやりなよ」
「大丈夫なのか?」

確認するように兼続が顔を覗き込めば目を逸らしてこくんと頷く。

「無理をするんじゃないぞ」

いい具合に酔っている兼続がそう微笑むと、政宗はぽかんとしてから大丈夫じゃと答えた。

*

宴会も終わり、屋敷に帰る途中で兼続が思い出したように呟いた。

「政宗が酒に弱いとは意外だったな」

顔なんか真っ赤だったじゃないか。
顔の赤さを酒のせいだと思い込んでいる兼続が思い出すように口を閉じた。

「いつもああして大人しくしていれば可愛いものを」

すぐにいつもの政宗を思い出したのか眉を寄せながら兼続は言った。

「顔が赤いのは酒のせいだけじゃないと思うけどねえ」
「む、どういうことだ?」
「まぁアンタのせいだよ!」

慶次が大きく笑い飛ばすと兼続はどういうことなんだと語尾を強めた。
意外とこの二人はお似合いかもしれない。
そんな事を考えながら屋敷へと足を早めた。

*

普段喧嘩ばっかしてる兼続にお酌をしてもらったこっそり喜ぶ政宗←

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