百人一首題-008

政宗の屋敷の近くなればなるほど、やたらと視線を感じる気がする。
じろじろと見られては、ひそひそと声を潜めて会話をされる。
最初は気のせいかと思ったけれど、こうも頻繁に感じるとさすがに気のせいでは済まされない。
いつものように上がり込んだ政宗の部屋に腰を下ろすと、出されたお茶を啜るよりも先に口を開いた。

「最近、お前の屋敷の近くに来るとやたら視線を感じるのだ」

もしや謀反を疑われているのだろうか。
眉間に皺を寄せながら兼続が出されたお茶を口に含む。

「嫌疑をかけられているのならば、今すぐにでも釈明しなければならぬ!」

ずずっとお茶を飲み干し、今にも出て行きそうな兼続を政宗が押し止める。

「そういう訳ではなかろう」
「ならばどういう訳かお前は説明出来るのか!」

恋仲だというのに、相変わらず二人の空気は剣呑だ。
やれやれと思いながら政宗は煙管に手を伸ばす。

「貴様、最近よくうちに来るな」
「だから釈明をと、」
「わしの話を最後まで聞け」

一人暴走しそうな兼続を制して、煙を吐き出す。

「貴様が来るのはいつも陽が傾いてからじゃな?」
「私にも政務があるからな」
「で、帰るのは大体朝方じゃろ」
「ああ、お前と閨を共にしているからな」

はきはきと口に出すことではないじゃろう。
情緒に欠ける兼続の言い草に政宗が心の中で溜め息を吐き出す。

「周りの奴らはそれを噂しておるのじゃろう」
「・・・それでは意味がわからないぞ、政宗」

敢えて言葉を濁すように伝えたのに、この男にその気遣いは伝わらなかったらしい。
仕方なく兼続でもわかるようにわかりやすくかみ砕いて説明してやる。

「わしと貴様が恋仲じゃないかと噂しておるのじゃ」
「それは事実ではないか」

やはり情緒に欠ける物言いだが、兼続にはっきりと事実だと言われると嬉しさが込み上げてきてしまう。
ともすれば赤くなってしまいそうな顔を引き締める。

「上杉の、しかも小姓とも呼べぬ貴様と逢瀬してるのが面白いのであろう」

ただの噂話じゃ、それで政宗はこの話題を終わらせるつもりだった。
しかし兼続はだんと畳を叩いて立ち上がった。

「噂話とは・・・不義だ!」

私が話をつけてくる。
言うなり部屋を出ようとした兼続の腕を慌てて政宗が引っ張った。

「言いたい者には言わせておけばよい」
「だが」
「見られるのは気分が悪いかもしれぬが、堂々としておればよいのじゃ」

視線を浴びたからといって怯むようなやわな性格ではないことを、政宗が一番知っている。

「何を言われても、わしは兼続とこうしていられるのなら構わぬ」

兼続の顔にかかる髪をかきあげて、指先で輪郭をなぞる。
先程から不義だと憤っていた兼続もその一言で腹の虫が治まったらしい。

「政宗」
「ああ、わかっておる」

小さく名前を呼ばれた政宗が兼続の手を取り、二人は襖の奥の寝室に消えたのだった。

*

最初むねきよで書こうとしたけどやっぱまさかねで。
むねきよは城下町デートで注目され、噂されてるらしいがそんな事は関係ないと言い切るイケメン宗茂様を書こうとしていた。
最初はいけると思ったのになー。

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