百人一首題-006

一国の城主のくせに、アイツはいつも気まぐれに熊本城を訪れる。
今日も自らを風だと名乗るように颯爽と清正の居室に入ってきた。

「清正、今日はもう終わりにしないか?」
「無理だ」

せっかく清正に会いに来たのに。
女の子が聞くと卒倒してしまいそうな台詞を吐きながら宗茂は腰を下ろした。
とは言われても清正には今日中に終わらせないといけない政務が溜まっている。

「黙っていたら後で構ってやる」

振り返ってそう告げると、宗茂は満足そうに頷いた。



後から構ってやるという言葉を信じて待ち続けていた宗茂だったが、待てども待てども清正が筆を置く様子はない。

「清正」
「まだだ」

しばらく我慢していたが、さすがに後ろ姿を眺めるのにも飽きてしまった。
声を掛けただけなのに、振り向くことなく冷たい言葉が返ってくる。
こんなやり取りを何度か繰り返す頃には辺りがすっかり暗くなってしまっていた。


「ふう・・・」

清正が深く息を吐き出して筆を置いたのは、夕餉の時刻もとうに過ぎた頃だった。
待ちくたびれた宗茂は壁に背を預けうたた寝をしている。
女の子とすれ違えば必ず振り向かれるほどの端正な顔も、寝顔は年相応のどけなさを残している。
込み上げてきた笑いを隠しもせずにつんつんと頬をつつく。
このまま寝かせておこうかとも考えたけれど、清正も宗茂も夕餉を食べていない。
それにせっかく会いに来たと言うのだからこのまま寝かすのはさすがに悪い。
つんつんと何度か頬をつつくと、ゆっくりと瞼が開いた。

「清正・・・?」
「起きろ、終わったぞ」

その言葉に宗茂が見とれそうなほど綺麗に微笑む。
寝起きのくせに、こんなに綺麗に笑えるものなのかと清正が考えていると、手を掴まれた。

「随分と待たされた」
「仕方ないだろ」

言い訳を言おうとした口は、宗茂の唇によって塞がれてしまった。
優しく畳の上に押し倒されて、深く口付けられる。

「夕餉・・・」
「いらない」

乗り上げて着物の隙間から手を差し込んでくる宗茂に抵抗してみたもののそこどくをつもりはないらしい。
どうやら長く待たせ過ぎてしまったようだ。
首筋をがぶりと噛み付かれながら清正ははぁと溜め息を吐き出した。


そのまま畳の上で何度も身体を重ね合った宗茂と清正。
ようやく宗茂が満足した頃には、開けっ放しだった障子の向こうが少し明るくなっていた。

「もう朝になってしまったな」

畳の上に転がったまま清正も障子の向こうに目をやる。
あぁと小さく言ってまだ重い瞼を閉じた。
こうなると思って前もって政務を片付けておいた、なんて言うとコイツは調子に乗るだろう。
だからもう少し、空気を読んだ小姓が起こしに来るまで眠ってから教えてやろう。
ウトウトと働かない頭でそんなことを思いながら清正は深い眠りに落ちていった。

*

冗長だな←
でも後半部分だけやと自分の中で形になる気がしなかったんだもん、仕方ない。
宗茂さまは別に好きじゃないけど宗清と宗就は好きっていう不思議。

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