05.封印した言葉



 いつの間にかモニターの電源は切られていて、部屋には私とイデアくんが唇を交わし合う音が響いていた。ゲーミングチェアのアームレストは上げられているし、私は彼に跨るような姿勢になっているしで、もう行為を回避することはできない。結局は彼の思う壺なのだろう。
 イデアくんの全部が好きだった。羨ましいほどの白い肌、彼だけの色の唇、たまに鋭くなる黄色い瞳、どれだけ好きって言っても足りないくらいだったから、私はいつからか彼に愛のすべてを伝え切ることを諦めてしまった。初めて会った時のことは残念ながら覚えていないけれど、私はきっと、出会った時からずっとイデアくんのことが好きだった。
 いつもより丁寧に感じる舌使いで口内を犯される。ちゃんと覚えておかなきゃ、たぶんすぐに忘れてしまう。イデアくんのキス、味、ギザギザの歯。全部好きだよ。知らないだろうけど。
「イデアくん、大好き」
「知ってる」
「今日のキス、優しいね」
「その言い方、いつも優しくないみたいですが」
 笑って誤魔化すと不服の表明なのか唇を噛まれる。ちゅ、と可愛いリップ音を残してキスを終えたと思えば、まるで飼い猫にでもするかのような愛情あふれた手つきで私の髪を撫で始めた。混乱する頭でされるがままになっていると、今度は頬にくちづけられたり顎の下を撫でられたりと本当に愛玩動物になってしまったような錯覚に陥る。
「やっぱりイデアくん、変だよ。なんか落ち着かない」
「最後になるし、思い出に残るようにしようと思いまして」
「イデアくんとのことは全部がいい思い出だよ」
 ふーん、とどこか嬉しそうに表情を和らげたイデアくんが私の肌に手を這わせた。授業中に散々触られた体は快感を拾いやすいのか、少し素肌を撫でられただけで、すぐに反応してしまう。恥ずかしくて彼に抱き着いて、感じている顔を見られないようにする。
「気持ちいい?」
「ん……気持ちいい……」
「顔、見せて」
「恥ずかしいから、だめ」
「僕と名前って何回くらいエッチしたかな。結局最後まで恥ずかしいんだ」
 それはもう数えきれないくらいだ。処女だってイデアくんに捧げたし、それからだってもちろんイデアくんとしかエッチしてない。
「最初は全然感じなかったよね。乳首とかくすぐったがってたし」
「は、ぁっ……あっ、だめっ、さっきいっぱい、いじったでしょっ……」
「でも感じるんだろ。君さぁ、本当に僕と婚約破棄したら別の男と結婚するの? 名前が一番感じる方法を知ってるのは拙者なんですが。ここまで開発したのに知らない男に横取りされるとか気分悪いんだよね」
「やっ、あっ、あっ、イデアくんっ、だめぇっ……」
 勃ち上がった乳首を軽く捻りながら引っ張られ、ずるずると膝からくずおれる。気持ち良すぎてだめ。イデアくんの言う通り、私の身体は全然感じなかった最初に比べたら全部イデアくん好みに調教されてしまっているし、今更他の人になんて抱かれたくない。
 座り込んだ箇所にはちょうど彼の雄が屹立していて、その固さに思わず腰を引く。
「んっ……イデアくんっ、お願いっ……」
「入れたいの? いいよ、入れて。自分でできるでしょ」
 許可が下りたので、スラックスから彼の自身を取り出した。あまりに熱い肉棒に私の秘部から一気に蜜が零れ出す。ただでさえ濡れて大変なことになっていたのに、もう我慢できそうになかった。自分で秘部に指を入れて少しかき混ぜる。予想通り、難なく複数本を飲み込んでいった。
「んっ……あっ、や、ぁ」
「自分でシてるの? エッチだね。続けて」
「んんっ、イデアくんっ……は、ぁ……」
 慣らすためにしているはずなのに、いつの間にか手が止められなくなってしまう。早くイデアくんのを入れたいはずなのに、だけど気持ち良くてどうしようもない。
「イデアくんっ、あっ、イデアくんっ、あぁっ」
「聞こえる? 音、響いてる」
 耳元でイデアくんの声が聞こえる。部屋中に私のエッチな自慰行為の音が響いてる。早く欲しい。でも止められない。イくまで止まられそうに、ない。
「こっち見て」
「や、恥ずかしい……」
「名前の顔が見たいんだけど」
 結局私はイデアくんに弱いから、そんな風に甘く囁かれたら逆らうことなんてできるわけもなくて。自慰行為に耽りながら怖々とイデアくんの顔を見る。いつも冷めているはずの瞳に、熱情を灯して私を見る彼が好き。この瞳を見れるのは今日までは私だけなの。明日からは違う人にこの目を向けるのかもしれない。だけどイデアくんが幸せなら、いいよ。
「気持ちいい? イけそう? いっぱい濡れたね」
「あっ、あっ、やだぁっ、気持ちいいっ、あっ、だめっ」
「いつも一人でシてるの?」
 緩く首を振って目を伏せる。イデアくんのことを想って一人でシたことなんて一度や二度じゃない。会えない期間が寂しすぎて、つい大好きな人とのエッチを思い返して体に手を這わせてしまうのだ。罪悪感に満ちたひどく背徳的な行為は激しい快楽をもたらしたけれど、同時に寂しさが募ってどうしようもなかった。
「嘘つき。これは慣れた手つきですぞ。拙者の目をごまかせるとお思いか?」
「んっ、ご、ごめんなさ、いっ、あっ、イデアくんっ、どうしよ、あっ、イっちゃうっ、あっ、イデアくんっ」
「ちゃんと僕の目、見て。そのままイって。できないならイっちゃだめ」
 顎を掴まれて無理矢理目を合わせられる。今日のイデアくんは優しかったり意地悪だったりと読めないことばかりしてくるから翻弄されっぱなしだ。
「できる?」
「んっ、気持ちいい……イデアくんの目、見てイくっ……」
「いい子」
「あっ、イデアくんっ、んっ、好きっ、あっ、見ないでっ、あっ、イくっ、イくっ、だめっ」
 秘部が自分の指を締め付ける。恥ずかしくなるほどの脈動に頬が染まってしまう。欲情に塗れた表情を大好きな人に向けながら自慰行為で達してしまった。彼にこんな淫らな姿を見せたことはない。最後の最後で私の密やかな営みが知られてしまったことになる。
「上手にイけましたな。いつも僕のこと考えてシてた?」
「……ん」
「……あー、もう」
 観念して頷くと、イデアくんが私をぎゅっと抱き締めた。乱れた吐息が耳元を掠めて、背中がゾクゾクする。
「ねぇさっきからお預け食らってるんですが。早く入れてよ」
「う、うん……落ち着いたら、入れる、から……」
「もう待てない。五秒数えるから早く。それまでに入れないなら今日はもう終わり」
 その厳しいルールに、まだ絶頂の余韻が残った体になんとか力を入れた。彼の雄が秘部の入口に触れた瞬間、下腹部がキュンと疼く。イデアくんのを久々に受け入れると思うと今まで以上にドキドキした。
 ゆっくり腰を落とすと、中が彼の形に広がっていく。私の身体はすっかり彼のものに馴染んでいるから、今後別の人のを受け入れると思うとものすごく不思議な感じがするし、あまりいい気分はしなかった。
「今更だけど、まだ薬飲んでるよね?」
 避妊薬を飲む習慣がまだ続いているかの確認が入った。頷くと、イデアくんは軽く私の髪を撫でた。褒められたみたいで何だか嬉しい。
「なんかこの感覚、ものすごく久しぶりなんですが」
「……イデアくん、浮気しなかったんだ」
「この男だらけの寮生活でしかも陸の孤島だっていうのに、どうしたらそんな発想になるの? 相手がいるなら探してきてほしいくらいだよ」
「そんなのだめ」
 私が拗ねてみせると、イデアくんは優しくキスをしてくれた。しばらくそのままキスに耽る。イデアくんのを無事に入れられて嬉しい。だけどもうすぐ終わりなんだな、と思うと無性に寂しさが募ってくる。
「あ、一人だけいた」
「何が?」
「うちの学校、一人だけ女子がいまして」
「……え」
 飼い主の手つきで私の髪を撫でながらイデアくんが衝撃発言をした。思わず身を乗り出すように動けば、彼の肉棒が中を擦り、すぐに力が入らなくなる。
「あっ……や、イデアくんっ……女子って、だれ……?」
「気持ちいい? なんか異世界から迷い込んできたとかいう特殊設定の監督生って呼ばれてる子。一年だったかな。拙者は全然接点ないですが」
「んっ、そ、なんだ……その子、可愛いの……?」
「話、聞いてた? 接点ないって。顔とか知らないよ」
「でも……」
「顔を知ってても関係ないし興味もないよ。名前の方が絶対に可愛いですし」
 ゆるゆると私の身体を揺さぶりながらイデアくんが衝撃発言をした。エッチの最中にも関わらず、私は思わず口をポカンと開けて彼の顔を見る。イデアくんは私の表情に不思議そうな顔をした後、しまった、と唇を形作った。
「えっ、イデアくん、今、私のこと」
「あー、いいから。聞かなかったことにして。はい、ここ気持ちいいでしょ」
「あっ、や、ぁっ、気持ちいいっ、けどっ、んっ」
 私の言葉をキスで奪って、そのまま胸の先端に触れてくる。秘部からの蜜がさらに増えて私も思わず自分から腰を動かしてしまう。聞きたいことがあるのに、きっとそれはいい話のはずなのに、幸せなキスで言葉を紡げない。あまりに幸せな二択。だけど欲張りな私はどっちも選びたい。
「んっ、イデアくんっ」
「なに? 質問は受け付けませんので」
「どうしても、だめ?」
「だめ」
「私のこと、可愛い?」
「……言わない」
 そう言って私の手をきゅっと握って、唇に軽いキスを落とす。慣れない言葉に照れたように視線を逸らしたイデアくんを見て、なんだか私まで気恥ずかしくなってしまう。
「イデアくん、今までそういうの一回も言ったことなかったから、びっくりして……私、嫌われてると思ってたの」
「こんなに態度で示してるのに……ていうか、やっぱりあのこと、忘れてるパターン? そうじゃないかとは思ってたけど」
「何が?」
「今はいいから。はい、あとは名前が頑張って僕のことイかせて」
 イデアくんがリクライニングを器用に倒したことで、騎乗位に移行する。まだまだ追及したいことがあったけれど、もしかしたら快楽に溺れてからでも遅くはないのかな。
 ほぼ水平になった椅子の上で彼に抱き着き、キスをしながら腰だけ上下に動かす。イデアくんの手が私をぎゅっと抱きしめる。普通の騎乗位よりも密着できて幸せいっぱいだから、私はこの体位の方が好きだった。
「やっ、んっ、気持ちいいっ、あっ、イデアくんっ、好きっ」
「僕もすごく気持ちいい……ほんと、エッチ上手になったね」
「イデアくんの、あっ、いっぱい擦れてっ、んっ、あっ、中、すごい熱いっ、やっ、あっ」
「あんまり煽んないでよ。出そうになる」
「ね、私のこと、好き?」
「……言わない」
 強引に私の頭を抑えて、イデアくんがキスで追及を躱す。幸せな息苦しさに浸っていると、彼が空いた手で私の腰を押さえつけた。ほぼ同時に下から凶悪な攻めが襲ってくる。腰を掴まれているためにまともにその刺激を受けてしまい、一瞬で絶頂の予感がした。
「やあぁっ、イデアくんっ、だめっ、だめぇっ、あっ、待ってっ、イっちゃうっ」
「イかせようとしてるんだから当たり前だし」
「あっ、あっ、中、熱いよぉっ、イデアくんっ、イデアくんっ、好きっ、イくっ」
「あー、もう……中出すけどいいよね」
 イデアくんの雄が中に放たれた瞬間、それを飲み干すかのように秘部が激しく痙攣した。今抜いたら飲み込み切れなかった精液が重力に従ってポタポタと垂れてしまう。結構前から毎日避妊薬を飲んでいるから中出しも初めてじゃないけれど、流れていく白濁をいつももったいない思いで拭いている。
 私の背中を優しく撫でながらイデアくんが呼吸を整え始めた。私はまだ激しい快感から抜け出せずにぐったりと彼の上に横たわることしかできない。
「言っていいの?」
 イデアくんが唐突に声をかけてきた。わけもわからぬまま曖昧に頷いてみると、ずっと欲しかった言葉があっさりと降ってきた。
「好きだよ」








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