04.最終確認



 入れ替わり立ち代わり私の元に様々な男子生徒が声をかけてくる。私が通っている学校は共学だからみんな友達みたいなものなので、こんな風に関心を持たれたことはない。普通に話す分には大丈夫だが、恐怖すら感じるほどの勢いに圧倒され、私はイデアくんの袖を掴んだ。
「イデアくん……」
 彼も彼で人がたくさんいる場は苦手だ。私を引きずってさっさと廊下へ出てしまう。きっとこの様子だと残りの授業は部屋で受けるのだろう。
「だから言ったじゃん……本当に教室行くのかって」
「だって……いくら女子が珍しいからってこんなに人が群がってくるなんて思わなくて」
「女子だからってだけじゃないよ」
「え?」
 言葉の意味が分からなくて問い返すも、彼は答えてくれなかった。そのまま部屋に入れられて、壁に強引に押し付けられる。
「イデアくん、怒ってるの? ごめんね」
「怒ってるよ。何で名前はいつもそうなの?」
「ご、ごめん……でも、いつもって……?」
 負の感情がいつも以上に彼を冷たく見せかけて心臓がざわめく。イデアくんが何に怒っているのか見当もつかず、私はただ困惑するばかりだった。
 やがて私を開放した彼が苛立たし気に椅子に腰かけた。次の授業の準備をするのだろう。私はドアを開けて部屋を出ようとしたが、鋭い声に咎められる。
「どこ行くの?」
「と、隣の部屋……使っていいんだよね?」
「勝手に出歩かれると困る。部屋から出ないで」
「でも……」
 更に口を開こうとするとイデアくんがもう一睨みしてきたので、私は渋々口を閉ざした。
 やっぱり、婚約者と認識されている私が教室でうまく立ち振る舞えなかったのがいただけなかったのだろう。ただでさえ私が婚約者と知られたくなかっただろうに、その上クラスメートと上手に会話もできないんじゃ婚約者失格だよね。イデアくんが怒るのもわかる気がする。私はイデアくんにふさわしくなろうと努力をしたつもりでいたけれど、こんな不測の事態にも対応できないようじゃシュラウド家の面汚しとなってしまう可能性がある。いくら勉強や運動や家事に長けていたって臨機応変を不得意とするのはかなりのマイナスポイントだ。やはり早々に婚約を破棄した方が彼のためだろう。
 落ち込んでいるのを悟られないようにベッドに腰かける。仕方ないから、持ってきたパソコンで自分の学校の授業にでも参加しようかとしていたところで、イデアくんが椅子を回転させて振り返った。
「見ないの?」
「え?」
「授業。こっち来なよ」
 いいの? というのは愚問のようだった。イデアくんがモニター越しに教室の様子を見せてくれる。さっきまでいた場所が映し出されているのは不思議な気がしたけれど、これはこれで面白いかも、と思いながら彼の横に立ってその風景を眺めた。
「隣に立たれると気が散る」
「あ、ごめん。後ろから見ようかな」
「だからこっちおいでって言ってるのに」
「きゃっ……」
 イデアくんが私の腕をグイッと引いて、膝の上に座らせた。びっくりしている間に、「ちゃんと見える?」とか「今日から新しい範囲だから」とか耳元で囁いてくる。その上、私の肩に顎を置いたり耳を噛んだりと謎の構い方をしてくるから心臓が変な打ち方をしてしまう。
「あの、足、痛くなったら教えてね。隣から椅子借りてくるから」
「別に名前一人くらい膝に乗せてられますけど。そこまで体力がないとお思いか?」
 確かに体力がないとは思っているが、そんなことよりもイデアくんの考えていることが全く掴めずに混乱してしまうのだ。私たち、もうすぐ婚約破棄するんだよね? なんでイデアくんは今になって、これまでしたことがないようなことばっかりしてくるの? 何が目的?
「イデアくん、なんか変じゃない?」
「何が? 別に普通ですが」
「そうかな……」
 しばらく会わない内にイデアくんの性格や性質が変わってしまったのだろうか。違和感の正体がわからないまま、大人しく授業の風景を眺めるも、いまいち集中しきれなかった。

「ちゃんと集中しなよ」
 イデアくんの膝に乗せられてから二つ目の授業に入った頃。彼が素知らぬ顔をして私の制服に手を入れて中をまさぐり始めた。スピーカーからは厳格そうな先生の声が響いている。
「ちょっ……イデアくん、何して……」
「ほら。この科目は先生毎に教え方に特徴あるからしっかり聞いておきなよ」
「もう、何なの……」
 ワイシャツの裾から侵入した手が腰や腹を撫でる。好きにさせておこうと放っておけば、拒絶でないと判断したのか、ブラをずらして胸を揉み始めた。
「柔らかい……触り心地抜群ですな」
「イデアくんこそ、ちゃんと授業聞いてるの?」
「この範囲はとっくにマスターしてますが。退屈すぎて寝そうだよ」
「やっぱり天才は違うなぁ……」
 そんなことを言い合いながら一応二人で授業を受ける。しかし、イデアくんが本格的にことを進めようとしてきたので、つい狼狽えてしまった。
「イデアくん、これ、大丈夫だよね? 音声聞こえないよね」
「マイク切ってるから平気。そんな凡ミスするはずないし」
「それ以上触るならちゃんとブラ外して。形崩れたら使い物にならなくなるから。下着だって安くないんだよ」
「はいはい。外したら触っていいってことと判断しますが」
 イデアくんがもう一度マイクを切ってあることを確認してから私の下着のホックを外した。いやらしい手つきが胸元を這い、ゾクゾクしてくる。
「胸、大きくなった?」
「ちょっとだけね。触ってわかる?」
「わかるに決まってますし。名前の体なんだから」
 彼がどこかの誰かと浮気をしたりしていない限りは私としかエッチをしたことがないはずだし、その言い分にはなかなか説得力があった。イデアくんは乳房の弾力を楽しみながら、私の首や耳に唇を落としていく。
「ねぇ、イデアくん……するの?」
「迷ってるとこ。名前は授業見たい?」
「……イデアくんといられれば、どっちでもいい」
 じゃあ続けるよ、と言ってイデアくんが胸の先端を撫で始める。本当にマイクオフなんだよね、と私も何度も確認して、それでも心配で声を出さないように努める。押し殺した喘ぎ声が吐息となって唇の隙間から漏れ出た。
「ではこの問いを、シュラウド。答えられるか」
「はい」
 まさかのタイミングで先生がイデアくんを指名した。彼はマイクをオンにして、何事かをすらすらと答えていく。私は全く授業なんて聞いてなかったし頭にも入っていなかったのに、さすがすぎる。しかしイデアくんは先生と問答を続ける間も私への愛撫は止めなかった。胸の飾りをすりすりと擦られてしまい、懸命に唇を噛む。声を我慢しながら涙目で彼を振り返ると、悪い笑顔が返ってきた。
「よし、いいだろう。次の問題に移ろう」
 先生がそう言ったので、イデアくんは再びマイクをオフにした。私も何度もマイクが切ってあることを確認して、彼への力ない抗議を行う。
「イデアくんっ、あっ、なんでこんな、んんっ、意地悪、やだぁ」
「いじめたい気分だったから。気持ちいい?」
「ひゃ、ぅっ、気持ちいいっ、あっ」
「またいつ指名されるかわかんないから。この授業終わるまではこれ以上しないよ」
 これ以上も何も、もう十分に体は熱くなってしまっている。イデアくん、本当に変。昨日から不機嫌だったのに急に上機嫌になったし、とてもじゃないけど婚約破棄するような雰囲気には見えない。彼の手は全く止まる気配を見せないし、私の身体ももっと刺激を欲しがってしまっている。
「あっ、ん、やっ、ねぇ、イデアくんっ」
「なに?」
「あの、やあぁっ、書類、サイン、するんだよね……?」
「するよ」
 やっぱり婚約破棄はするみたいだ。お別れ記念エッチみたいなものなのかな、と思いながら彼の手技に翻弄される。授業が終わるのをこれほどまでに待ち遠しく思ったことは未だかつてなかった。








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