小説 | ナノ



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〜闘技場〜




ディオ:「ここは闘技場だ。少年のその力、私に見せてくれたまえ。少年1人でな。期待しているぞ!」



そう言ってディオは去っていった

ディオがキーストーンを譲る条件として持ち出したのは、“自分を楽しませること”

つまり、闘技場でバトルしてこいという事だった



ユリア:「……相当な格闘好きだな、あいつ」


クラウド:「…仕方ない……」



闘技場の受け付けへ行き、登録をするクラウド

ものすごく面倒くさそうなのがはっきりと顔に出ている



ユリア:「まぁ……頑張れよ、クラウド」


クラウド:「あぁ…」



背中に担いだ大剣を手に、クラウドは会場内に入っていった



レッドXV:「クラウド、すごく面倒くさそうだったね」


ユリア:「顔に出てたしな…」


レッドXV:「……ユリアはさ、」


ユリア:「ん?」


レッドXV:「クラウドの事、どう思ってる?」



突拍子もない質問に唖然とした

何?いきなり何なんだよ…



ユリア:「あー……それは誰に聞けって言われたんだ?」


レッドXV:「エアリスだよ?」



エアリスかよ……っ!!



レッドXV:「クラウドはユリアの事、大事に思ってるよ」


ユリア:「へ?」


レッドXV:「クラウドね、ユリアがいなくなったり、怪我したりすると、すっごく心配するんだよ?過保護なくらいにね」



楽しそうに話すレッドXVに軽くため息を吐く

…たしかにクラウドは過保護かもしれない

でも、それは違う



ユリア:「それは“仲間だから”だろ?別にボクが大事とかそういう事じゃないよ」


レッドXV:「…そうなのかなぁ?」



首を傾げ、考え込むレッドXV

と、会場への扉が開き、クラウドが出てきた

……どうやら全勝したらしい…

これにはディオも満足したようだ



ディオ:「はっはははは!やるな、少年よ!よし、約束だ、持っていきたまえ。そうだ、これもやろう」



そう言ってキーストーンの他にもいろいろとくれた

よし、これで古代種の神殿に行ける!











……と、思ったのに…



係員:「申し訳ございません。ロープウェイが故障してしまいまして…」


ユリア:「え〜!?じゃあどうすんだよ…」



ロープウェイが使えないんじゃ、コレルに下りれないし…



ケット・シー:「なんや、故障ですか?」


レッドXV:「うん。そうなんだよ」


ケット・シー:「よくあるんですわ、こういう事。…ほな、今日はここに一泊しましょ。ボク、ここのホテルにちょっと顔利くんですわ」



行きましょ、と急かすように背中を押されてホテルへと向かう

ホテルのロビーには他の皆がすでに集まっていた

……皆、いつの間にロープウェイの事知ってたんだろ?



エアリス:「まったく。こんな時に壊れるなんて、ね?」


ユリア:「あ、だよな…」


エアリス:「ユリア?」



そういえば、ロケット村以来ティファと話していない…

あの時は少しイライラしてたから半分八つ当りしてしまった

やっぱり…謝らなくちゃな



ユリア:「ちょっとティファと話してくる」



エアリスから離れ、ティファにかけよる

レッドXVと話していたティファは顔を上げた



ユリア:「あの…ティファ?その、こないだは…ごめんっ!あんなきつい言い方して……」


ティファ:「こないだ…?あぁ、あの事?そんな気にしなくてもよかったのに!」


ユリア:「でも……っ」


ティファ:「私もごめんね?ユリアが元タークスだって事に頼りすぎてた。これからは自分の力で何とかするね!」



元気に笑う姿を見て安心した

同時に罪悪感も押し寄せる

もう少し待ってて?

もう少しだけ……



ケット・シー:「クラウドさん、どうやろ。このへんでここまでのまとめ、やってもらえませんか?」


クラウド:「あぁ、そうだな」



そう言ってこれまでの情報をまとめる

セフィロスが世界のあちこちを歩き回っているのは、約束の地と黒マテリアを探しているから

そして今、セフィロスは古代種の神殿を探している

その古代種の神殿に入るにはボク達が持っているキーストーンが必要だ

ま、セフィロスより先に手に入れちゃったんだからもうこっちのもんだよな?



話が終わり、解散となると急にエアリスに部屋に連れ込まれた



ユリア:「な、何?」


エアリス:「ユリア、落ち着いて聞いてほしいの」


ユリア:「?」



なんだろ、改まって…



エアリス:「ユリアには別の部屋で寝てもらおうと思うの」


ユリア:「え!?な、なんで!?ここじゃダメなの?」


エアリス:「だって…一部屋にベッドは何個?」


ユリア:「3個…」


エアリス:「じゃあ、女性は何人いる?」


ユリア:「えっと…ボク、あー……あたし入れて4人…あ!」


エアリス:「ほら。誰か一人寝れないわね?」


ユリア:「うっ……」



すごいショック……

でも、なんでボクなんだ?



エアリス:「じゃあ男性は何人いる?」


ユリア:「5人」


エアリス:「二部屋とったからベッドの数は?」


ユリア:「ろ、く……!」


エアリス:「あらぁ?一個余るわね?」



ニヤリと上がるエアリスの口端



ユリア:「ちょ、あたしに男2人と寝ろっていうの!?」



そうか、男2人と寝せるんだったらボクみたいな奴が一番楽だろうしな…

くそぅ、エアリスめ…!



エアリス:「誰が男2人なんて言った?」


ユリア:「へ?」


エアリス:「レッドXVはベッド使わないと思うの」


ユリア:「あ、なるほど」



確かにあんまり必要ないかも……



エアリス:「はい、今日の部屋割り!」



満面の笑みで差し出された一枚の紙

おそるおそる受け取り、目を通す



5号室にはティファ、エアリス、ユフィの名前が記され、6号室にはバレット、ヴィンセント、シド、レッドXVの名前が書かれている

そして7号室はクラウド、と書かれた隣に( )の謎の空欄が書かれていた


明らかにエアリスによって書き加えられた文字

ボクの名前ない時点でバレバレじゃん…



ユリア:「なんでクラウドと同じなの?」


エアリス:「ん?いい機会だと思って」


ユリア:「………何の?」


エアリス:「自分の気持ち、確かめた方がいいよ」


ユリア:「え、」



エアリスと目が合う

ボク、この目苦手なんだ…

全てを見透かしてそうで、何でも知ってそうで…



エアリス:「ユリアの中、すごく争ってる。何だか苦しそう」


ユリア:「………でも……」



ティファの顔が頭をよぎる

これは…裏切りになるのかな?



エアリス:「そうだっ、まずは一緒に散歩でもしてきたら?…ティファには適当に話しとくから、ね?」


ユリア:「っ!なんで……」


エアリス:「ほら、行っておいで!」



ぐいぐいと背中を押され、入り口に立つ



エアリス:「はっきりさせなきゃダメだよ?」


ユリア:「……うん」


エアリス:「もう!元気よく!!」


ユリア:「は、はいっ!」


エアリス:「よし、その意気でね!」



満足そうに笑うエアリスにつられて笑う

そうだ、ボクは自分の気持ちにケリをつけに行くんだ

部屋を出て、廊下を歩いていく

クラウドの部屋の前で軽く深呼吸をする



ユリア:「うしっ!」



決意を固め、部屋のドアをノックした



ユリア:「クラウド…?」



部屋に入ると、クラウドは窓際に立っていた



クラウド:「ユリア?どうしたんだ?」


ユリア:「あの、さ。ちょっと付き合ってくれないかな?」


クラウド:「?付き合うってどこへ?」



うっわ、素で言ってんの?クラウドさん…



ユリア:「いいから。さ、行こ!」


クラウド:「お、おい」



クラウドの後ろにまわり、背中を押す

少し驚いた顔してたけど、そんなの気にしない!







〜ターミナルフロア〜


客引き:「さあ、今夜はマジカルナイト!全てのアトラクションが無料になってるよ!…あっ、どうです、そこのお2人さん。今から、こちらイベントスクエアで楽しいショーが始まりますよ!」


ユリア:「へぇ……」



そういえば、ゴールドソーサーのアトラクションって初めてかも…

前に来た時は穴に落ちてばっかだったしね…



クラウド:「行ってみるか?」


ユリア:「え?いいの!?」


クラウド:「ユリアがすごく行きたそうだからな」



ふっ、と笑ったクラウドの顔に少し心が揺らぐ



ユリア:「じゃあ、行こっか!」



クラウドの腕を引き、イベントスクエアへ移動する

中は小さな会場になっていて、カップルや親子連れなどがいる

と、突然係員が立ちふさがった



係員:「おめでとうございます!!あなた方が本日100組目のカップルです!!」


ユリア:「カッ……!?」


係員:「あなた方がこれから始まるショーの主人公です!!」


クラウド:「はぁ?」


係員:「難しいことはありません。あなたは好きにしてくださればショーのプロが話をまとめますので。ささ、こちらへ」


クラウド:「お、おい」


ユリア:「なんか面白そう!行ってみよ、クラウド」



係員についていき、裏へと案内される

うわぁ、楽しみだな〜








ナレーション:「平和なガルディア王国に突如として襲い掛かる、邪悪な影…。あぁ、悪竜王ヴァルヴァドスにさらわれた姫君ルーザの運命はどうなってしまうのでありましょうか…。しかし、その時!伝説の勇者アルフリードがガルディア王国に現れたのであります!!」



するとクラウドがクルクルと回りながら入場してきた

その後に兵士も入場する



兵士:「おお〜、あな〜たこそ〜伝説の勇者〜、アルフリ〜ド!」


アルフリード:「…………」


兵士:「ちょっと、アンタだよ」



クラウドは自分を指差し、確認する

自分の役ぐらい覚えとけよ!



兵士:「そう、アンタ。オホン!おお〜、あな〜たこそ〜伝説の勇者〜、アルフリ〜ド!なぜか分かりま〜す、分かるので〜す。どうか〜、どうか、ルーザ姫をお救い、くださ〜〜〜い。さあ〜、王様に〜おはな〜しを〜〜!!」



……なんか言葉伸ばしすぎじゃないか?

つーか、王様も回りながら入場かよ…



王様:「おお〜、勇者アルフリ〜ド。私の愛しいル〜ザを救うために〜やってきた〜。悪竜王ヴァルヴァドスの住みかは〜はるか険しい山の上〜。哀れル〜ザは捕われの身〜。しか〜し、今のお前では悪竜王には勝て〜ん!お前の力とな〜る者に語りかけよ〜」



魔法使いもクルクルと入場する

クラウドはその魔法使いに話し掛けた



魔法使い:「わた〜しは大魔法使いボーマン〜。お前〜は何を知りたいの〜?」


アルフリード:「悪竜王〜の弱点」



あ、クラウド初台詞!



魔法使い:「ああ〜、悪竜王の弱点、それは〜、それは〜。そう!それは真実の〜愛!愛し合〜う2人の力こそが〜悪竜王の邪悪な〜る牙に打ち勝つただひとつの武器〜!」


ユリア:「真実の愛、ねぇ…」



さすがお芝居だな…

少し苦笑いしながらも出番を待つ



「お嬢さん、そろそろ出番だよ」


ユリア:「あ、はいはい」



いそいそと竜の着ぐるみを着ている人に近づく

ボクが姫役って…なんか恥ずかしいかも……



ナレーション:「なんということで〜ありましょう〜!おお!勇者よ〜、あれを見よ〜!」



その声を合図に、ボクは悪竜王に抱えられて入場した



悪竜王:「ガハハハハ〜!我こそは〜、悪竜王ヴァルヴァドス〜!さらった姫に〜何もしないで待っていたぞ〜!」


ユリア:「お助け〜ください〜勇者様〜!……こんな感じ?」



適当に言葉を伸ばし、それっぽくする



悪竜王:「ガハハハハ〜!いくぞ勇者アルフリ〜ド〜!なんで〜名前を知っているかは気にするな〜!」


魔法使い:「さあ〜勇者よ〜!今こそ汝の〜愛するものに〜口付けを〜!真実の愛の〜力を〜!!」


ユリア:「し、真実の愛が口付け!?」



き、聞いてないよ、そんな設定!

クラウドはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる

ど、どうしよう……っ


オロオロしている内にクラウドが目の前に立った

とりあえず目を固く瞑る

来るであろう衝撃に体を強ばらせた


………が、予想は大きく外れた

いつまで経っても来ないのでうっすら目を開けると、クラウドは跪いて手の甲にキスをした



ユリア:「クラウド……。じゃなかった、アルフリ〜ド〜」


悪竜王:「ウギャアア〜俺は〜愛の力に弱〜いんだぁ〜!!」



悪竜王は上空へ吹き飛び、天井に突き刺さった



王様:「おお見よ〜!2人の愛の〜勝利〜だ〜!さあ皆の者〜戻って〜祝いの宴を〜」


兵士・魔法使い:「「そうしよ〜そうしよ〜」」



そしてボク達はクルクル回りながら退場した



ナレーション:「ああ、何と強い愛の力でありましょう……伝説の勇者アルフリードの物語は、こうしてめでたく幕を閉じるのであります」



客席からは大きな拍手が送られてきた

照れ臭さと嬉しさが混じって何とも言えない気持ちだった

そのまま会場の外に出てターミナルフロアに戻る



ユリア:「あはは、楽しかった!クラウド、次はゴンドラ乗ろうよ」


クラウド:「あぁ」



るんるんと先を歩いていたユリアだが、ふとクラウドの方を振り返る



ユリア:「なぁ、ゴンドラに乗ってる間だけさぁ…“あたし”で居させてもらってもいいかな?」



ほんの少しの間だけでいい

元の自分……“本当のあたし”の気持ちで居させてほしい

そしたら、気持ちは決まる…



クラウド:「…俺も……」


ユリア:「?」


クラウド:「ユリアに話したいことがあるんだ。だから……その方が話しやすい」


ユリア:「分かった……ありがとなっ」




ラウンドスクエアへ行くと、乗り口には係員が立っていた



ユリア:「二人でお願いします」


係員:「はい、お二人様ですね。では、ゴールドソーサーの景色をごゆるりとお楽しみ下さい」



二人が乗り込むとゆっくりと扉が閉まる

席に座れば、自然と向き合う形となった

普通なら少しくらいいい雰囲気になったりするものなのだが……



ユリア:「わぁ、すごい!花火だ!綺麗〜…」



そんなのお構いなしに騒ぎまくるユリア

それが小さな子どものようでクラウドは笑みを零す



ユリア:「クラウド、見てよ!あれ…―――っ!!」



途端にユリアの顔色が変わった



クラウド:「どうした?」



窓の外を眺めたまま顔は引きつり、肩を震わせているユリア

不思議に思い、立ち上がる



ユリア:「揺らさないでっ!!」


クラウド:「え?」


ユリア:「な、何で……考えれば分かることだったのに…」



ブツブツと何かを呟きながら頭を抱える

クラウドは立ち上がった姿勢のまま聞いてみた



クラウド:「何かあったのか?」


ユリア:「……い、言ったじゃん…高所恐怖症だって…なのに、ゴンドラなんか乗っちゃって……」



小さく縮こまり、今にも泣きだしそうな顔をしている

クラウドはなるべくゴンドラを揺らさないように腰掛けた


ユリアの隣に……



ユリア:「クラウド…?」


クラウド:「俺がついてるから大丈夫だ。怖くない」



そう言って肩を抱かれる

クラウドに寄り掛かるかたちとなり、恥ずかしさから顔が赤くなるのを感じた



ユリア:「……ありがとう」



そのままおとなしく寄り掛かっていると、だんだん落ち着いてきて震えも止まった



ユリア:「ねぇ、クラウド?」


クラウド:「ん?」


ユリア:「あたしね……好きな人がいるの。その人の話、聞いてくれる?」



瞬間、クラウドの手がぴくりと動く

それを誤魔化すようにユリアの肩をぽんぽん叩いた



クラウド:「それを俺に話してどうなるんだ?」


ユリア:「う〜ん…誰かに聞いてもらいたいだけ。……ごめんね?」


クラウド:「あ、いや……聞くよ、話」


ユリア:「…ありがとう」



軽く頬笑んで、話しだす



ユリア:「あたし、その人と付き合ってたの。その人ね、すごい努力家でかっこよかった。ある日、彼が遠征任務に行く時にプロポーズされてさ。『任務が終わったら結婚しよう』って。いきなりだよ?まだ結婚できる年でもなかったのに!まぁ…びっくりしたけど、嬉しかった。あたしも『うんっ!』て言ったし。けどね……」



ふっ、とユリアの表情が暗くなる



ユリア:「彼、任務から戻ってこなかった。何年待っても連絡ないし、生きてるのかさえも分からない。もし、生きてなかったら…」


クラウド:「きっと……生きてるよ」


ユリア:「じゃあ、何で連絡くれないの?」


クラウド:「それは……っ」


ユリア:「あたしとの約束忘れて、他の人と結婚してたりして!」



冗談っぽく笑いながら言ってみたけど、笑顔は作れなかった



クラウド:「その人は……何か理由があるんだと思う。連絡が取れない場所にいるとか、いろいろ…」


ユリア:「クラウド……」



これがクラウドなりの慰め方なんだろう

親身になって答えてくれて、話聞いてくれて…



ユリア:「ありがと、クラウド。少しすっきりした!」



クラウドに向かって笑いかければ向こうもつられてか笑顔になる



ユリア:「そういえばクラウドも話あるって言ってたよね?何?」


クラウド:「……いや、俺はいいんだ」


ユリア:「え?なんで!?」


クラウド:「今じゃなくても大丈夫だし。大した話でもない」


ユリア:「……ホントに?」


クラウド:「あぁ」


ユリア:「何それ〜!勿体ぶってないで言っちゃいなよ〜!!」


クラウド:「べ、別に今日じゃなくてもいいだろ!?」


ユリア:「ちぇー、つまんない」


クラウド:「ったく……すっかり元気になって」


ユリア:「えへへ、もうそんな高くないしね!それに、クラウドがこうしてくれてるおかげ!」



言いながら、肩に置かれているクラウドの手に自分の手を重ねる



ユリア:「ありがとっ」



顔を近付け、クラウドの頬に軽く口付ける



クラウド:「っな………!!」



目を見開き、固まるクラウド

その様子に必死に笑いを堪える



ユリア:「あ、降りるよ、クラウド」



ゴンドラの扉が開き、外に出る

クラウドも後を追うように降り、ターミナルフロアに戻った




クラウド:「ユリア、そろそろ部屋に戻った方がいいんじゃないか?」


ユリア:「げっ、もうこんな時間か……」


クラウド:「エアリス達も心配してるんじゃないか?」


ユリア:「いや、エアリスは心配しないな。ボクを部屋から追い出すぐらいだもん」


クラウド:「追い出す…?」


ユリア:「ほら、一部屋にベッドって3個だろ?それを占領されてさぁ…」


クラウド:「じゃあユリアはどこで寝るつもりなんだ?」


ユリア:「そりゃクラウドのとこし、か……」


クラウド:「え……?」



…………し、

 し ま っ た !!



言うつもりなんかなかったのに!

な、なんか、そのために誘ったみたいじゃんか!!

うわぁ〜………
最っっっ悪だ……


まともにクラウドの顔が見れない



ユリア『クラウド、絶対に困った顔してるよ…』



俯いたまま視線を泳がせる

と、視界の隅に白い物体が映った

そちらを見るとなぜかケット・シーがいる



ユリア:「あれ?ケット・シーのやつ、何してんだろ?」



あたりをキョロキョロと見回していて少し挙動不審だ



クラウド:「っ!!あいつが持ってるのはキーストーンじゃないのか?」



見ればケット・シーは何かキラキラしたものを持っている

目を凝らせば、それはクラウドが手に入れたはずのキーストーンだった

なんでケット・シーがキーストーンを…?



ユリア:「お、おい!ケット・シー!」



ボクの声を聞くと慌ててケット・シーはどこかの入り口に飛び込んだ



クラウド:「追うぞっ!」


ユリア:「もちろんっ!!」



ボク達もケット・シーを追いかけ、入り口に飛び込む

いろんなところを回り、チョコボスクエアでやっと追い付いた…

と思ったら誰かにキーストーンを渡してしまったところだった

相手は神羅のヘリに乗っている



ケット・シー:「ほら、これや。キーストーンや」


ツォン:「ご苦労様です」


ユリア:「っ!?ツォン、なんで……」



ツォンがキーストーンを受け取ると、ヘリはどこかへ飛び去った

すぐさまクラウドはケット・シーに詰め寄る



クラウド:「おい!」



物凄い形相で睨み付けるクラウドにケット・シーも焦るばかり


ケット・シー:「ちょちょ、ちょっと待って〜や。逃げも隠れもしませんから。……確かにボクはスパイしてました。神羅のまわしモンです」


ユリア:「ふざけんなよ!今までボク達を騙してたってのか!?」


ケット・シー:「しゃあないんです。済んでしもた事はどないしようもあらへん。なぁ〜んもなかったようにしませんか?」


クラウド:「図々しいぞ、ケット・シー!スパイだと分かってて、一緒にいられるわけないだろ!」


ケット・シー:「ほな、どないするんですか?ボクを壊すんですか?そんなんしても無駄ですよ。この身体、もともとオモチャやから。本体はミッドガルの神羅本社におるんですわ。そっからこのネコのオモチャ操っとるわけなんです」


ユリア:「それじゃあ正体は神羅の人間なんだな。誰だ?」


ケット・シー:「おっと、名前は教えられへん」



………なんだそれ



クラウド:「話にならないな」


ケット・シー:「な?そうやろ?話なんてどうでもええからこのまま旅、続けませんか?」


クラウド:「───ふざけるな!!」



未だ睨み付けているクラウドにケット・シーは軽くため息をつく



ケット・シー:「…確かにボクは神羅の社員や。それでも、完全に皆さんの敵っちゅうわけでもないんですよ。……ど〜も気になるんや。皆さんのその、生き方っちゅうか?誰かが給料はろてくれるわけやないし、だぁれも誉めてくれへん。そやのに、命かけて旅しとる。そんなん見とるとなぁ……自分の人生、考えてまうんや。なんや、このまま終わってしもたらアカンのとちゃうかってな」



ペラペラと喋るケット・シー

喋りすぎて逆に怪しい…



ユリア:「また嘘ついてんだろ?」


クラウド:「正体は明かさない。スパイは辞めない。そんなやつと一緒に旅なんてできないからな。冗談はやめてくれ」



確かに正体不明のスパイと一緒に行動するのは無理がある



ケット・シー:「……まぁそうやろなぁ。話し合いにもならんわな。ま、こうなんのとちゃうかと思って準備だけはしといたんですわ。これ、聞いてもらいましょか」



そう言って突き出された携帯電話

それをただ眺めていると、声が聞こえてきた



マリン:(父ちゃん!ティファ!)


クラウド:「マリン!?」


マリン:(あ、クラウドの声だ!あのね、クラウド!!)



そこで電話は切られた

クラウドは力なくうなだれる



ケット・シー:「……というわけです、皆さんはボクの言う通りにするしかあらへんのですわ」


クラウド:「……最低だ」


ケット・シー:「そりゃボクかてこんなことやりたない。人質とか卑劣なやり方は……。まぁ、こういうわけなんですわ。話し合いの余地はないですな。今まで通り、仲ようしてください」



そのまま去ろうとするケット・シー

こんな中途半端に逃がしてたまるかっつの!



ユリア:「ちょっと待「待て」…え?」



後ろからの声に反射的に振り返る


…あれ?そういえばクラウドはボクの前に立ってたはず……

そう思いながら見やると、立っていたのは黒髪に黒スーツ

が、そこまで確認して視界が歪んだ



ユリア:「っう……!!」



ユリアの腹部に拳がめり込む

そのままユリアの体はどさ、と前のめりに倒れた

その音に気付き、クラウドとケット・シーが振り返る



クラウド:「タークス!?さっきどこかへ行ったはずじゃ…」


ツォン:「用事を思い出したんでな。わざわざ戻ってきてやったんだ」



そう言ってユリアを抱え、ヘリに乗り込む



クラウド:「ユリアをどこへ連れていくつもりだ!」


ツォン:「お前が知る必要はない」


ケット・シー:「待ちや!ユリアさんの事は聞いてへんで!?」


ツォン:「これは我々の独断ですし、今決めた事ですから」



ツォンを乗せたヘリは徐々に上昇していく



クラウド:「ユリアっ!!」



届くはずもないユリアへ手を伸ばす



クラウド:「っくそ…」



遠ざかるヘリに舌打ちをし、伸ばした手は空気を強く握り締める

クラウドもケット・シーもしばらくそこに立ち尽くしたままだった















ユリア:「う……んっ」



ここは…どこだ?

朦朧とする意識を無理矢理働かせる

目の前にはつり橋があり、その先にはピラミッドのような建物が建っている



ツォン:「ここは古代種の神殿だ」


ユリア:「ツォン…?」



いつの間にか隣にはツォンが立っていた


あぁ、そっか

ゴールドソーサーでツォンに殴られて、気失ってたんだっけ



ユリア:「なんでボクを連れてきたんだ?」



ゆっくりと立ち上がり、スーツについた汚れを払う



ツォン:「お前がクラウド達といると厄介でな」


ユリア:「は?」


ツォン:「まず、レノがクラウド達に本気を出せない」


ユリア:「…そんなの……ボクのせいじゃない…」


ツォン:「どうだかな」


ユリア:「──ツォン。他の理由は?」


ツォン:「あぁ。もう一つは、……」



そこまで言うと軽くため息を吐き、ユリアの方をちらっ、と見る



ツォン:「お前もつらいと思ったんだがな…」


ユリア:「…………」


ツォン:「…余計なお世話だったようだな」



ツォンは再びため息を吐くと、神殿を見据えた



ツォン:「お前も行くか?」


ユリア:「……古代種の事、何か分かるのか?」


ツォン:「分かるかもな」



古代種……エアリス…

もっと知りたい…

ボクが知らない事を知りたい!



ユリア:「ボクも行くよ」



ふっ、と笑い、神殿に向かって歩きだすツォン

その隣を歩くユリア

二人の姿は神殿の中に消えていった








ケット・シー:「古代種の神殿の場所やけど、ここからタイニー・ブロンコで海に出て東に進んでいけばありますわ」


クラウド:「……急ぐぞっ」


エアリス:「っ……なんか、嫌な予感がする…」



セフィロスを追い、仲間を連れ戻すため、古代種の神殿へと向かうクラウド達



その時はまだ、

誰も何も知らなかった





第十話 −終−