小説 | ナノ



11
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エアリス:「ここ……古代種の神殿……わたし、分かる……感じるの……漂う……古代種の意識」



地面に耳をあてがいながら言うエアリス

エアリスにだけ聞き取れる言葉

改めて彼女は古代種なんだと思わせる



ヴィンセント:「エアリスの力は不思議なものだな…」


クラウド:「あぁ…」



感心しながら階段をのぼり、神殿の中に入る

と、そこに居たのは…



エアリス:「あっ!ツォン!」


クラウド:「タークスのツォンか!?ユリア、は……」



ツォンの状態に言葉を詰まらせた

胸から腹にかけて致命的な傷を負い、息も絶え絶えとなっているツォン

意識を保つので精一杯だろう



ツォン:「くっ……やられたな。セフィロスが……捜しているのは……約束の地じゃない……」


クラウド:「セフィロス?中にいるのか!?」


ツォン:「自分で…確かめるんだな……」



目を見開き問うクラウドを軽くあしらい、エアリスの方を見るがすぐに視線を逸らす



ツォン:「っくそ……エアリスを…手放したのがケチ…の……つきはじめ…だ…。社長は……判断をあや…まった」


エアリス:「あなた達、勘違いしてる。約束の地、あなた達が考えてるのと違うもの。それに、わたし、協力なんてしないから。どっちにしても、神羅には勝ち目なんかなかったのよ」



そう言って、柱の陰に隠れるエアリス

それにはツォンも苦笑いだった


ツォン:「ハハ……厳しいな。エアリス…らしい……言葉だ」



ツォンはキーストーンを床に置いて立ち上がり、近くの柱に寄り掛かって座る



ツォン:「キーストーン……祭壇に……置いて…み…ろ」



が、クラウドは祭壇ではなくツォンに歩み寄った



ツォン:「どうした?私は……まだ、生きている……」


クラウド:「俺が聞きたいのはアンタの事じゃない。ユリアだ」



ツォンの手がぴくりと動く



クラウド:「ユリアはお前が連れていった。なのに、ユリアはここに居ない。ユリアをどこへ連れていったんだ?」


ツォン:「ユリアは……」



顔を歪め、苦しそうな表情になるが、ゆっくり息を吐いて落ち着かせている

クラウドにとってはそれさえももどかしく、眉間に皺を寄せた



ツォン:「ユリアは……、セフィロスに連れていかれた」


「「っ!?」」



空気が凍り付いた

なぜ、ユリアが連れていかれなければならなかった?

セフィロスはいったい何を考えているんだ?

さまざまな疑問が渦巻くなか、エアリスが祭壇に向かう



エアリス:「ユリア、助けなくちゃ。きっと、待ってるよ?」



エアリスの目には涙が溜まっている

たぶん、ツォンの事だろう

子どものころから知っている唯一の存在

ツォンがエアリスに抱いている感情とは異なるが、エアリスもツォンに特別な感情を抱いていたはず……

クラウドはエアリスに頷き、ツォンを見やった

いちおう息はしているが……どうだろうか…


ヴィンセントもエアリスの隣に並び、祭壇を見つめる



ヴィンセント:「私はセフィロスに興味はない。だが、仲間が捕まっているとなれば話は別だ。…行くぞ、クラウド」


クラウド:「…あぁ」



キーストーンを拾い、祭壇に置く

すると、辺りがフラッシュをたいたようにチカチカと光る

クラウド達は地面に引きずり込まれていき、やがて見えなくなった





ツォン:「……急いでくれ、クラウド…」








クラウド:「ここが古代種の神殿か……」



入り組んだ道が遥か彼方まで続いている



ヴィンセント:「出口なしか…。もう戻れないぞ」


エアリス:「大丈夫!頑張ろ?」


クラウド:「そうだな。行こう!」










───────



ユリア:「何だ?この壁画…」


ツォン:「ここが……約束の地……?まさかな」


ユリア:「こんな不気味なとこが約束の地だなんて……やめてくれよ…」



あの後、神殿の中を進んでいって今の壁画がある部屋に出た

まわりにも特に何かがあるわけでもないし……、何なんだろう、この部屋

ツォンに苦笑いを向けた瞬間、

突然、背中に悪寒が走った

それはツォンも同じだったらしい

同時に後ろを振り返る


そこには銀髪で長髪、片手に刀を握っている男が立っていた

…見間違うはずがない

こいつは……



ツォン:「セフィロス!?」


セフィロス:「お前達が扉を開いたのか……ご苦労だったな」


ユリア:「セフィロス…!」



すっ、とツォンが前に出る

まるでボクを庇うように…



ツォン:「ここは何だ?」


セフィロス:「ここは知の宝庫…。私は星とひとつになるのだ」


ツォン:「星とひとつに?」



訳が分からないという感じのツォンを嘲笑うセフィロス



セフィロス:「愚かなる者共。考えた事もあるまい。この星の全ての精神エネルギー。この星の全ての知恵…知識…。私は全てと同化する。私が全て…全ては私となる」



どこか誇らしげに話すセフィロス

が、こっちは全く話が読めない



ツォン:「……そんなことができるというのか?」


セフィロス:「その方法が……ここに」



そう言って壁画を指す

何度見てもよく分からない絵だと思う

分かるのは、空から隕石のようなものが降ってきていて、人々は逃げ回っている

とりあえず、いい事ではない



セフィロス:「……お前達には死あるのみ」



持っている刀を構える

瞬間、嫌な音がしたかと思うと、ツォンがスローモーションのように倒れた



理解ができなかった



ユリア:「ツォ…ン……?」



足が、手が震える

目の前で起きた事が信じられない

生きてる……よな?



セフィロス:「悲しむ事はない。死によって生まれる新たな精神エネルギー。やがて私の一部となる」



そっ、とツォンを壁に寄り掛からせてユリアはセフィロスを睨み付ける

それに怯む様子もなく、セフィロスはユリアに刀を向けた



セフィロス:「次はお前だ」



唇を強く噛み締める

口の中に少しだけ鉄の味が広がった



セフィロス:「お前は……クラウドと一緒にいた女か?」


ユリア:「あんた……何人の人を傷つければ気が済むんだ…」



セフィロスの問いには答えず、立ち上がる



ユリア:「───ボクの大切な人を何人奪えば気が済むんだよっ!!」



素早くホルダーから短銃を取り出し、セフィロスに向かって発砲する

が、それは簡単に避けられてしまった



ユリア:「っち……」



後ろに飛び退き、セフィロスとの距離を取る



セフィロス:「どうした?本気を出せ」


ユリア:「黙れ……っ」


セフィロス:「お前の奥底に眠っている力を…解放してみろっ!」


ユリア:「黙れって言ってるだろっ!!」



同時に地を蹴り、高く飛び上がる

発砲音、金属がぶつかり合う音が部屋の中に響き渡る

その音でツォンも目覚めた



ツォン:「っく……ユリア…?────っ!!」



自分の目を疑った

繰り広げられる空中での戦闘

一人はセフィロスで、もう一人はユリア



ツォン:「どうして……」



確かにユリアは昔から優れた戦闘能力を持っていた

だが、こんな超人並みの戦闘力ではなかったはず

これではまるで………



ツォン:「っ!ま、さか……」



嫌な予感が頭の中を支配する

…けれど、思いつく結論は一つしかない

ツォンは必死に意識を繋ぎ留めながらユリアの姿を見守った



ユリア:「っはぁ、はぁ…」



地面に片膝をついて、肩で息をする

もう、立っている体力も残っていない様子のユリアにセフィロスは片方の口角を上げた



セフィロス:「……終わりだ」



後ろに引かれた刀は勢いよく突き出され、ユリアの左肩を貫いた



ユリア:「う、っ!!い……っ」



痛みに歪む表情

それをセフィロスは楽しそうに眺める



セフィロス:「お前にいいものを見せてやろう」


ユリア:「な、に……?」


セフィロス:「見てみたいだろう?」



すっ、と近寄られ、耳元で囁かれる



セフィロス:「壊れゆくクラウドの姿を…」


ユリア:「っ!?」


セフィロス:「クックックッ……」



含み笑いをし、ユリアと共に姿を消したセフィロス

それをツォンはただ見ている事しかできなかった





───────





エアリス:「ユリア、すごい…」


ヴィンセント:「ユリアはあんなに強かったのか?」


クラウド:「セフィロスと互角……あり得ない…」



知識の井戸で一部始終を見ていたクラウド達

元タークスというだけでセフィロスと同等の戦闘力があるとは思えない



クラウド『ユリア……』



ふと、さっきみた映像で気になった部分を思い出した

セフィロスがユリアに何か囁いた所だ

こちらには何と言っているのか全く聞き取れなかった



クラウド:「セフィロスはユリアに何を囁いた?」


ヴィンセント:「こちらに聞かれてはまずい事なのか…?」


エアリス:「……そうかもね。まぁ、ユリアに聞けばいいじゃない、ね?」



そう言って先を促すエアリス

それをクラウドは引き止めた



クラウド:「待て、エアリス」


エアリス:「なぁに?」


クラウド:「なんでそんなに先を急ぐんだ?」



するとエアリスは眉間に皺を寄せた



エアリス:「何それ。ユリアはほっといて、のんびりゆっくり行きましょうって言うの?」


クラウド:「ち、違う!そういう意味じゃなくて……その……いつもと様子が違うっていうか、なんていうか…」



口籠もるクラウドに苦笑いし、眉間の皺も消えるエアリス



エアリス:「なんだかね、心配なの。嫌な予感は絶えないし、それに……」



そこまで言って首を振り、笑顔で話す



エアリス:「とにかく!ユリア、迎えに行こう?」


ヴィンセント:「…そうだな」


クラウド:「とりあえず、壁画の部屋を探そう」


エアリス:「あ、それならこっち!」



そうしてエアリスを先頭に壁画の部屋へ向かった










ユリア『くっそー、セフィロスのやつ……どこ行った!?』



あの後、突然目の前は真っ白になってセフィロスは消えていた


ふと自分の手を見てみれば、

手を通り越して地面がよく見える……



ユリア『…………はい?』



体を触っても何も異変はない

………いや、あった



ユリア『ボク、セフィロスに刺されたのに痛くない…』



先程、思い切り貫かれた左肩が全く痛くない

……もしかして、これって…



ユリア『こ、これ……幽体離脱ってやつ!?』



自分とは無縁だと思っていた体験に体が震え上がる

こ、このまま戻らないとか…ないよね?

戻る方法を探すべく、ユリアはとりあえず辺りを探索した



ユリア『あ、クラウド達だ!おーい、クラウド!!ヴィンセント!!エアリ、ス……』



どんなに大声を出しても誰も決してこちらを向かない



ユリア『え、ちょ……無視しないで
ケット・シー:「お待ちどうさん!!ケット・シーです〜!あとのことは任せてもらいましょ!ほんな、皆さんお元気で!」


エアリス:「ケット・シー…」



え?え?

話が読めないよ…?



エアリス:「ほら、クラウド…。何か言ってあげなきゃ」


クラウド:「……苦手なんだ」



頭を掻きながら罰が悪そうな顔をするクラウド

ケット・シーも同じ意見らしく、うんうん、と頷く



ケット・シー:「ん〜、よう分かりますわ〜。ボクも同じような気持ちですわ」



何……?ケット・シーと、お別れなのか?

なんかそんな雰囲気がする…



エアリス:「そうだ!ねぇ、占ってよ」


ケット・シー:「そうやな〜。それも、久しぶりですねぇ。わくわくしますなぁ〜♪当たるも〜ケット・シー、当たらぬも〜ケット・シー。ほんな、何占いましょ?」


エアリス:「そうねぇ……」



う〜ん、と腕組みをして考える

と、隣に立っていたクラウドに寄り添った



エアリス:「クラウドとわたしの相性!」



………え?



ケット・シー:「そりゃ高うつくで。デート1回やね!」



エアリスは頷いた



ケット・シー:「ほんな、やりまっせ!」



どこからか紙を取出し、目を通す

が、エアリスに背を向けて俯くケット・シー

よっぽど悪い結果が出たのか?



ケット・シー:「こりゃあかんわ。ちょっと言えませんわ」


ユリア『あー……、悪い結果なら言わない方がいいだろうな』


ケット・シー:「ユリアさんに悪いわ」


ユリア『そうそう、ボクに………………え?』



突然自分の名前が出た事に驚く



エアリス:「ダメ!教えて!絶〜っ対、驚かないから」


ケット・シー:「そうですか?ほんな、言いますよ」



二人の方に振り返り、紙にもう一度目を通す



ケット・シー:「…ええ感じですよ。お二人の相性、ぴったりですわ!エアリスさんの星とクラウドさんの星!素敵な未来が約束されてます!」


ユリア『素敵な未来、か………』



───あの、その……なんて言うか……

───俺とっ!結婚、してくれないかな?



ユリア『…………』


ケット・シー:「クラウドさん。ボク、司会でも仲人でもスパイでも何でもしますわ〜。そん時にはきっと、呼んで下さいね」



そう言ってまたクラウド達に背を向ける



ケット・シー:「スパイのボクの事信じてくれて、おおきに!ほんまに、ほんまに……行ってきます!」



そのまま神殿の奥へと歩いていくケット・シー



エアリス:「頑張って、ケット・シー!!」


ユリア『ケット・シー…………っ!!』



目の前が再び真っ白になる



ユリア『なんなんだよっ…!』



白さが眩しくて目をつぶった



次第に光が落ち着き、おそるおそる目を開く

辺りを見れば神殿の外だった



ユリア『っ!神殿が!!』



目の前に建っている神殿がみるみる小さくなっていく

やがてそれは見えなくなった



ユリア『な、何!?』



急いで近くへ駆け寄る

そこに神殿はなく、地面が深く抉られていた

そして黒い物体が一つ



ユリア『あれは…?』


クラウド:「あれが、黒マテリア……」


ヴィンセント:「私はここで待っている」



壁にもたれるヴィンセントに頷き、クラウドとエアリスは抉られた地面へと降りていった



ユリア『黒マテリア…?聞いたことないな…』



興味をそそられ、ユリアも下へ降りる

と、クラウドが黒マテリアを拾い上げた



クラウド:「これを俺たちが持っている限り、セフィロスはメテオを使えないってわけだ」


ユリア『セフィロスがメテオ!?』



ボクがいない間にいろいろあったんだ…

クラウドはそのまま帰ろうとしたが、ある事に気付いた



クラウド:「ん?俺たちは使えるのか?」


エアリス:「ダメ、今は使えない。とっても大きな精神の力が必要なの」


クラウド:「たくさんの精神エネルギーってことか?」


エアリス:「そう、ね。ひとりの人間が持ってるような精神エネルギーじゃダメ。どこか特別な場所。星のエネルギーが豊富で………」



しばらく考え込む二人だが、すぐに答えは出た



エアリス:「あっ!約束の地!!」


クラウド:「約束の地だな!!」


ユリア『約束の地…』



聞いたことはある

昔、社長…元社長が言ってた

“約束の地が見つかれば、神羅は今以上に栄える”
って……

精神エネルギー………ライフストリーム……

そういうことか…!!



クラウド:「いや、しかし……」


エアリス:「セフィロスは、違う。古代種じゃない」


クラウド:「約束の地は見つけられないはずだ」


セフィロス:「……が、私は見つけたのだ」


「「っ!!」」


ユリア『なっ…!?』



いつのまにかクラウド達の後方にはセフィロスが立っていた

上にいるヴィンセントも何も気配を感じなかったらしく、目を見開いている



セフィロス:「私は古代種以上の存在なのだ。ライフストリームの旅人となり、古代の知識と知恵を手に入れた。古代種滅びし後の時代の知恵と知識も手に入れた。そしてまもなく未来を創り出す」


エアリス:「そんなこと、させない!未来はあなただけのものじゃない!」


セフィロス:「クックックッ……どうかな?」



ふとセフィロスと目が合った

まさか……あいつには…

セフィロスはボクを見て薄く笑う

それで確信した

あいつにはボクの姿が見えてる…



セフィロス『ユリア。しっかり見ておけ』


ユリア『っ!!やめ
セフィロス:「クラウド、これを見ろ」



すると、クラウドの目の前にはユリアが現れた



ユリア『ボク…?』



いや、あり得ない……あれはセフィロスが創り出した幻影だ!



クラウド:「ユリア…?」


ユリア:「クラ、ウド…エアリ、ス……」


クラウド:「ユリア!無事だったんだな?」


エアリス:「待って、クラウド!そのユリア、何か変よ!」



エアリスの言葉も聞かず、クラウドはユリアに近づく



ユリア:「ク、ラ……っ」


クラウド:「ユリア!?」



いきなり、ユリアが崩れるように倒れた



クラウド:「ユリア、ユリア!!しっかりしろ、ユリア……っ!」



抱き起こしたユリアの体は冷たかった

口端からは血が流れている



クラウド:「嘘、だろ……?」


ユリア『クラウド!ボクはここだよ!!そいつはセフィロスが創った偽物だよっ!』


セフィロス『無駄だ。お前の声は聞こえない』



どれだけ叫んでもクラウドは見向きもしない

やめろ…やめろよ…!!



クラウド:「そんな…───っ!!」



クラウドが自分の手を見て固まった

赤く染まった手

流れ込んでくる何か



───そっか……気を付けてね?
───まだ──じゃないよ?あた
───…クラウドだよな?クラウ
───あ、あぁ…そうだったな…
───な…、何バカな事言ってん
───…好きな人が……いるんだ




クラウド:「う、あっ……!!」


ユリア『クラウド!?』



頭を抱えてその場にしゃがみこむクラウド



セフィロス:「さあ、クラウド……いい子だ」


クラウド:「う……うるさ…い…」



セフィロスの声を振り払うかのように頭を振る

が、無駄な抵抗だった…



クラウドの体がビクッと揺れた



ユリア『クラ…!!』



ゆっくりと立ち上がるクラウド

が、その瞳に光はなく、目は虚ろだ



クラウド:「う…あ……あ…」



片手に黒マテリアを持ち、セフィロスの元へと歩み寄る



ユリア『クラウド!どうしたん
少年『だ〜めだよっ!』



どこから現れたのか、少年がクラウドに必死に呼び掛けている

どことなく誰かに似ている…

金髪でツンツン頭で……



ユリア『子どもの頃のクラウド?』



少年にもユリアの声は聞こえていなかった

何回も何回もクラウドに呼び掛ける少年

が、その呼び掛けも虚しく黒マテリアはセフィロスの手に渡ってしまった



セフィロス:「……ご苦労」



まだ虚ろな表情のクラウドにそれだけ言うと、セフィロスはどこかへ飛び立った

同時にユリアの幻影や血だまりも消える



エアリス:「クラウド、だいじょぶ?」


クラウド:「……俺はセフィロスに黒マテリアを……?」



正気に戻ったのか、自分の手を見て震えるクラウド

先程ついた血は消えていたが、自分のした行動が信じられないようだ



クラウド:「お、俺は何をしたんだ……エアリス、教えてくれ」



錯乱しているのか、半ば詰め寄るように問うクラウドをエアリスは冷静に宥める



エアリス:「クラウド……しっかり、ね?」


クラウド:「ウヘヘヘヘ……俺は何をした!」



不気味に笑うクラウドにユリアは一瞬怯んだが、エアリスの目は強くクラウドを捉えている



エアリス:「クラウド……あなた、何もしてない。あなたのせいじゃない」



そっとクラウドの肩に手をおくエアリス

が、その手は勢いよく払い除けられ、クラウドはエアリスを思い切り突き飛ばした



ユリア『エアリス!?』



そのまま地面に倒れこんだエアリスの上にクラウドが馬乗りになる



クラウド:「俺は!俺は───っ!」



怒りと戸惑いが入り交じり、訳が分からぬままエアリスを殴りつけるクラウド

その様子に上にいたヴィンセントも驚いて駆け降りてきた



ユリア『クラウドっ!何やってんだよ!!クラウド!!』



クラウドの暴走を止めようと肩を掴む

……はずだった

ユリアの手はクラウドの肩をすり抜け、空を掴んだ



ユリア『………ぁ…、』



何も掴めなかった手を見つめる

…今の自分は無力だ

クラウドを止められない



ユリア『ボクじゃ…ダメ、ってこと?』



考えれば考えるほど気が沈む

ボクには何もできない……ただ、黙って見守ることしか…

と、再び目の前が白くなってきた


視界に映ったのは、未だエアリスを殴り続けるクラウド

急いで駆け寄るヴィンセント

新しく来たケット・シー



ユリア『っクラウド────!!』



ボクには、ただただ叫ぶことしかできなかった


そんなボクを見てどこかで笑ってるんだろ?

ボクの無力さを嘲笑ってるんだろ?

セフィロス……

どうせボクには何もできやしないんだ…


静かに目を閉じて流れに身を任せた

どこへ流されているのか分からない

流れが止まったと同時に全身に痛みが走った



ユリア:「痛っ…!!」



左肩を抑えて、はっとする



ユリア:「戻ってる……本体に戻ったんだ」



手はもう地面が透けて見えたりしない

痛覚もはっきりしてる



ユリア:「よかったー!」



ため息を吐き、後ろに倒れこむ

でも…



ユリア:「ここ、どこだよ…」



すごく幻想的な場所

はるか上に続いている階段

地面一面は水が張っている

自分がいるのは、透明のドームに覆われた場所

どことなく神聖な感じがする



ユリア:「すご……」


「誰かいるの?」



後ろから声をかけられ、慌てて振り向く



ユリア:「っ!エアリス…?」


エアリス:「ユリア!どうしてここに?」



不思議そうに見つめるエアリスにさっきまでの状況を軽く説明した

幽体離脱したこと、気が付いたらここにいたこと…



エアリス:「じゃあ、あの時出てきたユリアは…」


ユリア:「セフィロスが創った幻影。厄介なもの出しやがって……」


エアリス:「でも、ユリアが無事でよかった!」



にっこりと頬笑まれ、つられて頬笑む



ユリア:「ところで皆は?皆と一緒に来たんじゃないの?」


エアリス:「あ、ユリア、今自然に戻ったね。偉い偉い!」



頭を撫でられ、子ども扱いされた気がしたが黙っていた



エアリス:「皆は、置いてきちゃった。私、一人で来たの」


ユリア:「え?」



一人で……?

どうして?そんな危険な…



エアリス:「私は私にしかできない事をやらなくちゃ。メテオ、止める方法考えないと」



力強く頷くエアリスをただ呆然と見つめる

自分にしかできない事?

何?何が起ころうとしてるの?



ユリア:「エアリス、ここで何をするの?それに…ここはどこ?」


エアリス:「ここは忘らるる都。古代種が暮らしてた街のひとつ。知ってると思うけど、今、古代種は私だけだけどね」



少し寂しげに頬笑み、話しだす



エアリス:「古代種は星の声を聞くことができるの。星からいろんな事、聞いてみようと思う。どうすればセフィロスを止められるか、ね?」


ユリア:「そんなこと……」

エアリス:「ね。少し話そっか」



ユリアの言葉を遮り、ゆっくりと近寄るエアリス



エアリス:「ユリア、わたしが知ってる人に少し似てる」


ユリア:「え?」


エアリス:「似てるっていうか…同じなの」


ユリア:「同じ……」



エアリス:「まだ、言いたくない?」


ユリア:「…………っ」



顔を覗き込まれ、言葉に詰まる

エアリスは軽くため息を吐いた



エアリス:「言いたくないなら仕方ないよね。ユリアから話してくれるまで待って

ユリア:「あたし……、」



なぜか声が震える

勇気を奮い起こさせるため、自分の手をぎゅっと握った



ユリア:「あたし、エアリスが知ってる人を……知ってる」



どうしよう……うまく喋れない…

今度は体が震え出した

手も足も肩も、カタカタと動く



ユリア:「でも、その人は…もう…」



頭が真っ白だ

何も考えられない……

……考えたくない?



エアリス:「ありがとう、ユリア」



ふわっ、と抱き締められ、マイナスに動いていた思考は消えた

温かなぬくもりが全身に伝わる



エアリス:「頑張って話してくれて、ありがとう。嬉しいよ」


ユリア:「エアリス、……」



エアリスの肩に顔をうめる

それをあやすようにエアリスはユリアの背中をポンポンと叩いた



エアリス:「ユリア。これからは自分に正直に生きるといいよ。偽らず、隠さず、ありのままの自分を見せるの」


ユリア:「……ありの、まま?」


エアリス:「そう。それはとても大変だし、苦労すると思う。でも、誰かが見ててくれるから。ユリアの努力、無駄にならないよ?」


ユリア:「エアリス……?」



何か違和感を感じ、顔を上げる

エアリスはニコニコしていた



エアリス:「さて!わたしも頑張らなくちゃ」



ユリアの頭を撫で、中央に跪いて祈りの姿勢をとるエアリス

それを静かに見つめながらユリアは思った

自分は何か忘れている

とても重要なことを……







一方、クラウド達はエアリスを追って忘らるる都に来ていた



ユフィ:「ユリアもエアリスと一緒にいるかな?」


シド:「いてもらわなきゃ困るぜ?ホントによぉ」


バレット:「ったく、なんだってユリアまで行方不明になるんだ?」


ケット・シー:「それはボクにも分からへん。ユリアさんが自分でどこかへ行ったのか、それとも……」


ヴィンセント:「タークスが連れていったか…」


ティファ:「セフィロスに捕まっているか、だね」


クラウド:「……………」



皆が話し合っている場所からやや距離を置いて考え込むクラウド

そこにレッドXVが近寄る



レッドXV:「ねぇ、クラウド。オイラの勘なんだけど……ユリアは、タークスに帰っちゃうような気がする…」



クラウドは無言でレッドXVの方を向いた

クラウドの眉間の皺が増えていることに気付き、慌てて付け加える



レッドXV:「あ、その……ゴンガガやウータイでタークスに逢った時、ユリアは…タークスに心残りがあるのかなって思って…」



するとクラウドの表情が少し和らいだ



クラウド:「そんなに心配するな。ユリアは俺達の仲間だろ?」


レッドXV:「うん…」


クラウド:「仲間を信じろ。ユリアはタークスに戻ったりしない」



いや、戻らせない

たとえユリアが、タークスに戻りたいと言っても…



レッドXV:「そっか…そうだよね!オイラが間違ってたよ。ありがと、クラウド」



納得したらしく、尻尾を振りながら皆の輪の中に入っていく

それを見送りながらクラウドはまた考え込んだ


自分の中にもう一人、“自分”がいる

未知の自分が……







エアリスが祈り始めて数時間

これと言った変化は見られなかった



ユリア:「……………」



真剣に祈っているエアリスを少し距離をおいて眺める

エアリスのその姿は神々しく、安易に近寄れるような雰囲気ではなかった



ユリア『これが終わったら、ちゃんと言おう』



さっきみたいに混乱したりせず、はっきりと話そう

そっ、と心の中で決意を固めた時、



クラウド:「エアリス……?」



近くから聞き慣れた声がした

辺りを見回すと、少し下の方にクラウドとヴィンセントとシドがいた



ユリア:「みんな……」


シド:「お?あれ、ユリアじゃねぇか?」


ヴィンセント:「そのようだな……クラウド、行こう」


クラウド:「…いや、俺一人で行くよ」



先を行こうとしたヴィンセントを制し、一人で石段を上る

一段一段飛ぶ度にユリアとの距離が縮まる

ゆっくりと手を伸ばし、ユリアの腕を掴んだ



クラウド:「ユリア……?」


ユリア:「ん?」


クラウド:「無事、なんだな?」



よかった…

ユリアもエアリスも生きている



ユリア:「うん。あ、クラウドは?大丈夫?」


クラウド:「あぁ、俺は大丈────っ!!」



瞬間、クラウドの体が強ばった

と、エアリスに近づいて行き、真正面に立つ

そして、ゆっくりと剣を構えた



ユリア:「クラウ、ド?」



まさか……!

クラウドは剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろした



ヴィンセント:「クラウド!」
シド:「バカ!!」

ユリア:「クラウド!!」








………あれ?

俺は、何をしてたんだ?

気付けば後ろから羽交い締めにされている



ユリア:「クラウド、やめて…」



どうしてユリアが……

が、その理由が分かるのに時間はかからなかった

握り締められた剣

それはエアリスの頭上ギリギリで止められている

クラウドは慌てて後ずさった

また、俺の中の人格か…!!



クラウド:「クッ……俺に何をさせる気だ…」



頭を押さえ、唸るクラウドをゆっくりと離す



ユリア:「クラウド…」



どうしてこんな事に…?

色々な出来事が突然起きたため、頭の整理が追い付かない

軽く頭を振り、エアリスの方を見る

驚いた事にエアリスはこちらを向いて頬笑んでいた



ユリア:「エアリス?」



次の瞬間、一気にユリアの頭が働きだした

自分が今まで忘れていた重要な事も思い出した

どうやって自分はここに来た?……古代種の神殿で幽体離脱して、本体に戻ってきたのだ

じゃあ、その本体をここまで運んだのは?

………そう、セフィロスだ



ユリア:「エアリス、逃げて!!」



そう叫ぼうと口を開いた瞬間、

頭上から人が降ってきた

それがセフィロスだと分かった時にはもう遅くて…



エアリスの腹部を刀が貫通した



エアリスの瞳は光を失い、体は力なく垂れる

ユリアも隣にいたクラウドも目を見開いた


今……何が………


状況を理解できぬまま立ち尽くしている二人などお構いなしに、セフィロスはゆっくりと刀を引き抜く

その時、エアリスの髪に結ばれていたリボンと共に何かが落ちた

それはポチャン、と音を立てて静かに水の中に吸い込まれていく


ユリアはその場から一歩も動けずにその光景を見つめていた


倒れかけたエアリスをクラウドが抱き留める



クラウド:「……エアリス」



軽く揺さ振ってみても反応はない



クラウド:「……ウソだろ?」



愕然とした表情でエアリスを見つめる



セフィロス:「気にする事はない。まもなくこの娘も星を巡るエネルギーとなる」



両手を高々と伸ばし、悠長に喋りだしたセフィロス

クラウドの表情が少しずつ険しくなる



セフィロス:「私の寄り道はもう終わった。あとは北を目指すのみ。雪原の向こうに待っている『約束の地』。私はそこで新たな存在として星と一体化する。その時はその娘も
クラウド:「……黙れ」



怒りで体を震わせている

俯いていた顔を上げ、セフィロスを睨みつけた



クラウド:「自然のサイクルも、お前のバカげた計画も関係ない………エアリスがいなくなってしまう」



視線を戻し、静かに喋る



クラウド:「エアリスは、もう喋らない。もう……笑わない。泣かない……怒らない……」



エアリスを優しく抱き締め、肩に顔を埋める



クラウド:「俺達は……どうしたらいい?…この痛みはどうしたらいい?」



そっ、とエアリスを床に寝せる

クラウドは未だ体を震わせていた



クラウド:「指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱いんだ!!」



が、クラウドの激情さえもセフィロスは嘲笑った



セフィロス:「何を言っているのだ?お前に感情があるとでも言うのか?」



その言葉にクラウドは勢い良く立ち上がり、セフィロスと向かい合う



クラウド:「当たり前だ!俺が何だと言うんだ!」


セフィロス:「クックックッ……悲しむふりはやめろ。怒りに震える演技も必要ない」



するとセフィロスは宙に浮き上がった



セフィロス:「なぜなら、クラウド。お前は……」



セフィロスは舞い上がり、代わりにジェノバが現れた



シド:「チッ!厄介なモン寄越しやがって!!」


ヴィンセント:「…ユリアはエアリスと後ろに下がっていろ」


急いで駆け付けたシドとヴィンセント



ユリア:「……分かった…」



床に寝かされているエアリスを抱き起こす

その体に温もりはなく、柔らかさもなかった



ユリア:「エアリス…、なんで……なんで…っ」



エアリスを強く抱き締める

少し前まで一緒に話してたのに……

涙がとめどなく溢れ続ける

次々に思い出されるエアリスの表情、声、笑顔…



ユリア:「あたし、まだ…ちゃんと言ってないよ?エアリスに秘密にしてたこと、言ってないよっ…」



別に秘密にしたくて黙っていたわけじゃない

言ったらエアリスが悲しむと思ったから……

いや、違う……エアリスのせいじゃない

自分が壊れそうだからだ

その言葉を口にすれば、事実だと認めることになるし、何より……怖い…



ユリア:「このリボン、可愛いね……。待っててね。今、つけるから…」



歪む視界を懸命に拭い、震える手でエアリスの髪にリボンを結び付ける





───────


エアリス:「そういえばわたし、ミッドガル出るの初めて…」


ユリア:「……不安?」


エアリス:「ちょっと、う〜ん…かなり、かな。でも、なんでも屋さんが一緒だし、ね?」


ユリア:「何があっても、ボクはエアリスを守るから…」


エアリス:「あら、頼もしいわね」


ユリア:「へへ…」



───────





また……守れなかったんだ…

大切な人、七番街の人、そして

エアリス……



クラウド:「ユリア…?」



戦いを終え、放心しているユリアに駆け寄るクラウド達



ユリア:「クラウド……エアリス、エアリスが…っ」


クラウド:「もういい。言わなくていい」



ユリアの頭を抱え込むように抱き寄せるクラウド



ユリア:「エアリスと、約束したのにっ……エアリスのこと守れなかった…!」


クラウド:「それは…俺も同じだ……」



ユリアを抱き締めている手に力が籠もる

しばらくの間、ユリアはクラウドにもたれて泣き続けた

涙は枯れることなく溢れる

いっそ枯れてくれればいいのに……

どうして、あたしの願いはいつも叶わないの…?







その後、エアリスは外の湖に水葬する事に決まった

クラウドが抱き上げ、湖まで運ぶ



クラウド:「この辺りでいいだろ」



湖の中心まで進み、エアリスを水面につける



ユリア:「あ。クラウド、待って!」


クラウド:「どうした?」


ユリア:「これ……エアリスにあげようと思って」



そう言って左耳についているピアスを外し、エアリスの手に握らせた



ユリア:「もし、あの人に会ったら…返しといて?」



それだけ言って数歩下がると、クラウドはそっと手を離した

ゆっくりと沈んでいくエアリス

鼻がツン、と痛む







弱い自分を捨てても、結局何も変わっていない

変われていない……

“あの人”とエアリスはそんな自分を許してくれるだろうか…



───これからは自分に正直に生きるといいよ。偽らず、隠さず、ありのままの自分を見せるの

───それはとても大変だし、苦労すると思う。でも、誰かが見ててくれるから。ユリアの努力、無駄にならないよ?



あの時に感じた違和感、今頃分かったよ…

エアリスは“誰かが”見ててくれるって言った

“わたしが”見てる、とは言わなかった


ねぇ、エアリス……

もしかして、分かってたの?

全部知ってたの?

今更そんな事を考えても答えてくれる人は、もういない

自分に正直に、か…

軽く笑みを浮かべ、エアリスを見送る



クラウド:「……大丈夫か?」



さっきまで泣いてたから、ボクの事心配してくれてるのかな?

いや、もう“ボク”って言う必要はないんだ



ユリア:「ありがと。あたしは大丈夫だよ?」


クラウド:「ユリア!?」



目を見開いて驚くクラウドに吹き出しながら、湖の底を見つめた


……こういう事だよね?

あたし、頑張るから!

ちゃんと見ててね?



おやすみ、エアリス……





第十一話 ー終ー