小説 | ナノ



04
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次の目的地へと進む道中、ユリアの精神は極限に達しかけていた

後ろからきゃあきゃあと明るく騒ぐ女性2人

この声を聞いているだけで体力と精神力がゴリゴリと削られていく…

なんなんだ、こいつら!!



ティファ:「ねえ、ユリア?どっちなの?」


ユリア:「どっち、って…」


エアリス:「ユリアはクラウドが好きなの?」


ティファ:「それともレノ?」


ユリア:「………」



瞳を輝かせながら詰め寄るエアリスとティファ

スラム育ちのド根性娘と、アネゴ肌の格闘娘のツートップは幅広い意味で怖い…



ユリア:「もーーっ!!知るかっ!」


「「あ、待て!!」」



2人の尋問を振り切って走り出す

逃げ込むように入った町、次の目的地であるカーム

その宿屋の前には、先に着いていたクラウド達が待っていた



バレット:「おう。何走ってんだ?」


ユリア:「バレット、助けて!!あいつら恐ろしく
ティファ:「つーかーまーえーたっ」



いつの間に追い付いたのか、ティファに腕を掴まれる

その後ろには腰に手を当てて仁王立ちしているエアリス



エアリス:「白状しちゃいなさい!」


ユリア:「だから!知らないってば!よく分かんないよ、そんな事…」



視線を外して俯くユリア

すると、ティファとエアリスの表情が急に哀れみを含んだものに変わった



ティファ:「分からない、か。まだユリアも幼い…いや、若いしね。そういうのに疎いのかもしれないわ」


エアリス:「そっか…まだ子ども、うぅん、若いから自分の気持ちに気付いてないのね?」



…なんかバカにされてるような気がするのは気のせいか?

2人でうんうんと頷き合い、勝手に納得しているようだから突っ込まないでおこう

話についていけない男性陣は顔を見合わせたり首を傾げたりしていたが、痺れを切らしたバレットが早く中に入ろうと全員を促した

部屋の中に入ると、エアリスがクラウドの昔の話を聞きたいと言い出した

ここにいるメンバーのうち、何人かはクラウドと初対面なのだ

グループを率いるリーダーとはどんな人物なのか…

興味津々なメンバーを横目にユリアは部屋の外へと足を進めた



ユリア:「ボク、クラウドの昔なら知ってるからいいや」


ティファ:「どこ行くの?」


ユリア:「そこらへんにあったお店」



それだけ言って部屋を出ていく

宿屋を出て、武器屋で武器を買ったり、アイテムの補充をしたり、旅の案内人に話し掛けたり……

わりとゆったり過ごしたつもりだったが思ったよりも時間は過ぎておらず、ユリアはふぅ、と溜め息を吐いた



ユリア:「暇だなぁ…」



プラプラ歩いていると、一人の幼い少年が壁に寄り掛かっているのが目に入った

どうやら彼も暇を持て余しているらしい

ユリアは少年に歩み寄って声をかけた



ユリア:「君、暇なの?」


少年:「うん。父ちゃんは中で飲んだくれてるし…つまんない」



心底つまらなそうに、溜め息とともに言葉を吐き出す少年

ユリアはきらりと目を光らせ、少年の顔を覗き込んだ



ユリア:「じゃあ一緒に遊ぼうよ!ボクもちょうど暇だったし」


少年:「ホント!?やった〜!!」



素直に喜ぶ少年を見て、自然と笑みが零れる

こうして何でもない遊びをするのは久しぶりだな



ユリア:「よ〜し、何して遊ぼっか?」













クラウド:「…ここにいたのか」


ユリア:「あ、クラウド」



石橋の下にあるトンネル

その入り口から中を覗き込んでいるクラウドの背後に見える空は少し赤らんで見えた



ユリア:「もう出発なの?」


クラウド:「あぁ。ところで、何してたんだ?」



地面には大小さまざまな石が転がっており、壁には石で書いたのであろう文字や絵が白く刻まれている

他にも木の枝、草花、本なども散らばっていた



ユリア:「それはヒミツ!ね〜?」


少年:「うんっ」


クラウド:「そうか……」



仲間外れにされた気分になり、少しヘコむクラウド

それには気付かずユリアは少年に別れを告げる



ユリア:「じゃあね、また遊ぼ!」


少年:「うん!また来てね!」



大きく手を振る男の子に、ユリアも手を振り返す

“遊んでくれてありがとう!楽しかったよ!”と叫ぶ少年にユリアは笑みを返し、先を歩くクラウドの隣に並んだ



ユリア:「そういや、パーティー変わった?」


クラウド:「あぁ。バレットとユリアが交換した」



やっとあの2人組から解放される…!!

これで無駄なHP・MPの削減に悩まされることはないんだ…!!

そっと心の中でガッツポーズを決めるユリアの心境など隣にいるクラウドには分からなかった



そうして一行が向かったのはミスリルマイン

何気なく足を踏み入れたその地では予想外の出来事が起きていた


まだ動揺している自分の気持ちを落ち着けようと、ユリアは小さく息を吐いた

先程の光景がまだ目に焼き付いている

自分の体の何十倍もある大蛇が木に突き刺さって死んでいた

大蛇の体には無数の切り傷や刺し傷があり、恐らく剣や刀でやられたのではないかと思う



ユリア:「さっきのデカ蛇…やっぱりセフィロスが……」

クラウド:「…ユリア、気を付けろ」


ユリア:「へ?何に?」



突然のクラウドの声かけに顔をあげると、目の前の崖の上に見知った顔が現れた



ユリア:「ルード…イリーナ……」


イリーナ:「あ、ユリア〜!」



呑気にこちらに手を振っているイリーナに肩を落とす

…あいつ、タークス向いてないんじゃないか?



ルード:「お前、俺達が誰か分かるか?」


クラウド:「……タークス」


ルード:「分かってるなら話は早い。我々タークスの仕事を説明するのは難しいからな」



そんなルードの言葉をクラウドは鼻で笑った

今さら何を説明することがあるんだ?



クラウド:「人攫いだろ?」


イリーナ:「他にも!セフィロスの行方を突き止める事。それから、あんた達の邪魔する事…あ、逆だったか。私達の邪魔してるのはあんた達だもんね」



クラウドの言葉にムッとしたのかこちらを煽るように話すイリーナ

隣ではルードが呆れたように首を横に振っている

新人育成に早くも疲れているルードとそんなことには全く気付いていないイリーナの後ろからもう一人現れた



「イリーナ。しゃべりすぎだぞ」


イリーナ:「ツォンさん!?」



ツォンの登場にイリーナの声がワントーン高くなる

隣にいるルードはもはや額を抑えていた

さすがのユリアもルードに同情した



ツォン:「我々の任務を彼らに教えてやる必要はない」


イリーナ:「…すいません、ツォンさん」


ツォン:「お前達には別の任務を与えたはずだ。行け。定時連絡を欠かすなよ」


イリーナ:「あっ!そうでした!…それでは、私とルード先輩は…

ジュノン港へ向かったセフィロスを追い掛けます!」



………………………。


気まずい静寂が辺りを包む

明らかにやらかしたイリーナだが本人は全く、本当にこれっぽっちも感じ取っていないようで不思議そうに首を傾げていた

その様子にツォンは呆れたようにため息を吐く

…ツォンの苦労が目に見えたな…



ツォン:「……イリーナ。私の言葉の意味が分からなかったようだな」


イリーナ:「あっ!…す、すいません……」


ツォン:「…行け。セフィロスを逃がすなよ」


「「はっ!!」」



ツォンに敬礼して外へと向かう二人

それを見送るとツォンはこちらに体を向けた



ツォン:「さて…エアリスは?一緒ではないのか?」


クラウド:「エアリスはここにはいない。別行動をとっている」


ツォン:「そうか……よろしく伝えておいてくれ」



そう言うと、ユリアの方に手を差し出す

クラウドは腕で庇うようにユリアの前に立つがツォンは気にも留めずに真っすぐ見つめている



ツォン:「まだ帰る気にはならないか?」


ユリア:「ちっともならない」


ツォン:「そうか…」



それだけ言うとツォンはスッと背を向けて外へ出ていった

…いったい何しに来たんだ?



その後はタークスや他の神羅に遭遇することもなく、無事にミスリルマインを出た一行はアンダージュノンへと向かった



ユリア:「うっわ、何この廃れた町…」



錆びれた住宅が並んでいる光景に思わず声が出る

今までの町のような活気は見られないし、町の住人も若者より年配者の方が多いように感じた



レッドXV:「とりあえず町を散策してみよう」



クラウドは聞き込み、レッドXVは町内の探索、ユリアは海辺の調査を始めた

海岸に降りていくと水際に人の姿が見えた



ユリア:「……ん?なんだ?あの子」



砂浜に一人の少女が佇んでいる

ユリアはゆっくりと少女に近づいていった



「ねぇ〜、イルカさ〜ん!」



海に向かって語り掛ける少女

水が軽く跳ね、イルカが顔を出した



プリシラ:「わたしの名前はね、プ〜リ〜シ〜ラ!ハイ、言ってみて」


ユリア:「それは無理なんじゃないか?」



笑いながら声をかけると、プリシラと名乗っていた少女は驚いて振り向く

こちらの存在に全く気付いていなかったようで、目を大きく見開いてユリアをじっと見つめていた



レッドXV:「ユリア、特に変わった事はなかったぞ」


クラウド:「なんだ、また遊んでいたのか?」



探索と聞き込みを終えた二人が海岸へ来る

プリシラは二人を注意深く見つめてから口を開いた



プリシラ:「あなたたち誰なの?もしかして神羅の人間!?」


ユリア:「まぁ、昔は神羅にいたけどさ」


レッドXV:「今は神羅と戦っている」


クラウド:「…というわけなんだ」



一人一人の顔をゆっくりと見つめるプリシラ

そしてぶんぶんと首を横に振った



プリシラ:「信用できないわ!ここから出ていって」


クラウド:「参ったな…」



困ったように頭を掻く

と、水平線上に何か見えた



ユリア:「レッドXV、あれって…」


レッドXV:「間違いない!モンスターだ!」


プリシラ:「イルカさんが危ない!」


ユリア:「バカ!!戻れ、プリシラ!」



ユリアの制止も無視して海へ入っていくプリシラ

そこにモンスターは容赦なく襲い掛かった



プリシラ:「きゃぁっ!」



モンスターの攻撃を受け、水面に叩きつけられるプリシラ

その体はぴくりとも動かない



ユリア:「っプリシラ!!」


クラウド:「おい、助けるぞ!」



クラウドを先頭にモンスターへと向かっていく


なんとかモンスターを倒してプリシラを助けだすが、その時にはプリシラは呼吸をしていなかった



ユリア:「嘘…だろ?」



自然と手が震えだす

また……また、ボクは…


「プリシラ!」



町の方から人が下りてきた

プリシラのお爺ちゃん、か?



爺:「ダメじゃわい…呼吸しとらん…。おっ、あれじゃ!」



老人はユリアとクラウドを交互に見ながら言った



爺:「そこの若い衆、人工呼吸じゃ!!」


「「じ、人工呼吸!?」」



同時に発された声

や、だって……じ、じ、人工呼吸なんて…



ユリア:「クラウド、任せた!」


クラウド:「あ、いや…あの、女の子だし……」


レッドXV:「私には無理だな」


クラウド:「…やっぱりユリアがやった方がいいんじゃないか?」


ユリア:「なんだよ、そんなに女の子とするのが怖いか!?」


クラウド:「誰もそんな事言ってないだろ!?」



そんな口論の末、結局ユリアが引き受けることにした

とにかく息を大きく吸い込んで、限界までに息を止める



ユリア:「スゥ──…」



そして、その息を口移しする



ユリア:「フゥ───…」



それを数回繰り返すうちに、プリシラに変化が見えた



プリシラ:「う、うぅん…」


ユリア:「っ!プリシ
爺:「ほほっ!大丈夫かプリシラ?」



お爺ちゃん……いや、ジジイはユリアを押しのけてプリシラを抱え、家へ帰っていった

めちゃめちゃ元気じゃんか、あの人!

絶対人工呼吸する気力ぐらいあったろ!!



ユリア:「おい待て!!お礼ぐらい言ってけよ!」



暴言を吐きながらユリアは老人の後を追って走りだした



レッドXV:「ユリア!?」



驚いたレッドXVも慌ててユリアを追う

そして残されたのは……未だ砂浜に座り込んでいるクラウド



クラウド:「……………」



頭の中を、人工呼吸しているユリアの姿が延々と流れている

伏せ気味な目、少し尖らせた唇、顎を支えている細い指先…って、



クラウド:「…俺は変態か……っ」



思わず赤くなる顔をなんとか隠そうと片手で口元を抑える

以前、ユリアから言われた事を思い出す




―――ユリア:「いいか?ボクの事は男だと思え!あ、でも女だって事も忘れるな」




…今思えば無茶苦茶な話だ

神羅ビルの独房で見たユリアの寝顔

あの時は自分の中の何かと戦うのに必死だった…


というより、普通は仲間だとしても異性と同じベッドで寝ようとか考えないだろ

…もしかして、俺は男として意識されてないのか?

いや、仲間として信頼されてるのか…?



ユリア:「クラウド〜!何してんだよ〜?」



俺の近くに駆け寄る、悩みの種

その能天気な表情に少し苛立ちを感じてしまった



クラウド:「……別に」



ふい、と軽く視線を逸らす

ユリアは首を傾げたが、特に気にせずに話しだした



ユリア:「あっちのお婆さんがベッド貸してくれるってさ。行こうよ」



俺の腕を掴み、歩きだす

その触れている部分がじんわりと熱をもつのが分かった



クラウド:「なぁ、ユリア」



無意識のうちに名前を呼ぶ



ユリア:「ん?」



歩みを止めて、こちらを振り返るユリア

俺はその目を真っすぐ見つめる


…待て、俺は何をする気だ?



クラウド:「ユリアは…」



やめろ!ユリアは仲間だろ!?





クラウド:「ユリアは、俺の事をどう思ってるんだ?」





仲間としての友情より、ユリアへ対する想いが勝ってしまった

頭の中では後悔と達成感とが混ざり合ってパンクしそうだ

だがそんな思考も表情に出さずにただじっとユリアを見つめる



ユリア:「え…?」



突然の質問に##NMAE1##はキョトンとしていた

だが、質問の意味を理解した途端にみるみる顔が赤く染まっていく



ユリア:「な、な、何言ってんだよ!!!!バカな事聞くなっ!」



そう叫ぶと掴んでいたクラウドの腕をやや乱暴に放し、再び走って町の方へ戻っていってしまった

けれど、さっきの反応からすると…



クラウド:「望みはある、か?」



ゆっくり歩きながら民家へと向かう

家の中へ入るとユリアはベッドに潜っていた



レッドXV:「ユリア、外から帰ってきたと思ったらずっとあの調子なんだが…何かあったのか?」


クラウド:「…さぁな。ほっといてやれ」



俺も寝るとするか…

ユリアとは反対側にあるベッドに入り、目を閉じる

気分は最高によかった










ユリア:「クラウドのバカ…」



朝早くに目が覚め、皆を起こさないようにそっと宿を出た

昨日、浜辺で言われた言葉が頭の中を反芻して離れない

頭を冷やしたくて町を出た所にある、広い野原で風に当たってみた

海風もあってひんやりとした風が熱を持った顔や頭を冷やしてくれる



ユリア:「……戻ろ」



悩んでたって仕方ない

とりあえず皆の所へ行かなくちゃ…

と、町の方から何やら賑やかな音楽が聞こえてきた

これから何が始まるんだろう?

少し駆け足気味にユリアはアンダージュノンの町に戻っていった



ユリア:「何?なんの騒ぎ?」


ティファ:「神羅の新しい社長の歓迎式リハーサルだそうよ?」


ユリア:「ルーファウス……」



とうとう、正式に社長就任か…



エアリス:「今からクラウドが裏技使って上に行ってくるんだって。ユリアも行ってきたら?」


ユリア:「ボ、ボクはいいよ!クラウド一人で大丈夫だろ?」



クラウドと二人になっちゃったら、何喋ればいいか分かんないし!

…って、ボクばっかり気にしてるのはバカみたいだけど……



ティファ:「じゃあユリアはあっちのエレベーターから行けばいいんじゃない?」


ユリア:「へ?」



見ると、エレベーターの前に見張りの神羅兵が一人立っている



バレット:「ユリアならまだ顔パス効くかもな!」


ユリア:「…やってみるよ」



神羅もそんなバカじゃないと思うけどなぁ

そんな事を思いながら兵に近づく

すると兵がこちらを見て体を動かした

うわっ、やっぱバレ
兵:「タークスのユリアさんですね?お顔は存じてます!お通りください!!」


ユリア:「あ、ありがと…」


通されるままにエレベーターに乗り込む

ドアが閉まる時に遠くから手を振るバレットたちの姿が見えた


神羅のセキュリティの甘さに頭を抱える

脱走者の顔と名前ぐらい晒してると思ったのに…

…いや、もしかしたら罠かもしれない

この先さらに気を付けていかないと!!


気合いを入れ直したところでエレベーターが止まる

エレベーターを降りると、廊下をバタバタと走る神羅兵達が目についた



ユリア:「うわぁ、忙しそう…」



たとえリハーサルと言えど、その準備がどれほど大掛かりなものか想像がつく

と、慌しく走る神羅兵の中の一人がこちらに歩み寄ってきた

その神羅兵はまっすぐにこちらを見ており、ユリアはヘルメットから覗く見慣れた表情に小さく息を飲んだ



ユリア:「……クラウド?」


クラウド:「ユリア、昨日は
ユリア:「いやぁ〜、今日はお日柄もよくって!絶好の歓迎式日和だな!!あははは!!」



クラウドの言葉を無理矢理遮り、大声で喋る

明らかに挙動不審な様子にクラウドも顔をしかめた



クラウド:「おい、ユリア。話を「な〜にやっとるかーーー!!」っ痛!!」



どこから現れたのか、クラウドが紛れ込んでいた隊の隊長らしき人がクラウドの頭(を包んでいるヘルメット)を思い切り叩いた

…………スリッパで



「お前は何をやっとんだ!?この忙しい時にナンパなんぞしよって……一人前になったつもりか!?ん?」


クラウド:「……いや…」



スリッパを握り締め、説教をする隊長

威厳は全く感じられない



「まったく…早く来んかい!」


クラウド:「……じゃあユリア、また後で」


ユリア:「…うん」



ぷんすか怒りながらどこかへ去っていった隊長のあとに続いて行くクラウド

ユリアはその光景からなんとなく目を逸らした


が、クラウドは立ち止まってユリアの方を振り返る



クラウド:「…なんだ?」


ユリア:「へ?」


クラウド:「手…」


ユリア:「え?…あ」



言われた箇所に視線を落とすと、自分の手がクラウドの着ている神羅兵の制服を掴んでいた

うそだろ、無意識だった…



ユリア:「あのさ、クラウド」


クラウド:「なんだ?」


ユリア:「ボクも…一緒に行っていいかな?」



以前、“あの人”にも同じ質問をしたことがある

あの人の答えは……


と、クラウドの手が自分の手に触れ、我に返る

服を掴んでいる指をゆっくり外されていく


やっぱり、駄目か……


が、そのままクラウドの手はユリアの手を包み、優しく引き始めた



ユリア:「な、何?どこ行くの?」


クラウド:「…ジュノン港だ」


ユリア:「?」


クラウド:「…俺と一緒に行きたいんだろ?」


ユリア:「い、行っていいの!?」


クラウド:「嫌な時は、嫌だと言うさ」



少しぶっきらぼうに言うクラウド

ヘルメットに隠れて表情は見えないけど、これが彼なりの表現の仕方なんだと思う



ユリア:「ありがとう、クラウド」


クラウド:「あぁ…」


「こら〜!早くしろっ!!」



遠くから隊長の声がする

顔を見合わせて頬笑み、繋がれた手は離さないまま二人は駆け出した





ユリア:「ここで待ってろって言われてもなぁ…」



クラウドは、行進に参加しなければいけないからと言って途中で別れた

そのへんをぶらぶら歩いていると、タークス時代の行きつけのバーがあった



ユリア:「わぁ、懐かしいな〜。ここのマスター、お茶かジュースしかくれなかったっけ…」



…覗くだけなら、いいよな?

久しぶりに来たんだし、思い出に浸ったって許される!はず!


自己完結させ、店へと足を踏み入れる

が、すぐに軽率に店に入った自分と店内にいる人物を呪うこととなった



ユリア:「なんでいるんだよ…」



入店早々物陰に身を隠しながら、目標物を覗き見る

少し離れたバーのカウンターには、ツォン、レノ、イリーナがいた

…まぁ、ボクをここに連れてきてくれたのもツォンだったし……

つーか、アイツらサボりか!?



イリーナ:「まったく。いつまでサボってる気ですか?」


レノ:「まぁまぁ、イリーナも飲めよっと」


イリーナ:「結構です!」



差し出されたグラスを押し返すイリーナ

その反応にレノはつまらなそうに唇を尖らせた



レノ:「…つれないぞ、と」



そう言ってレノはまた一口お酒を飲んだ

もしユリアがタークスにいたら、


「勤務中はお酒禁止ーーーっ!!」


と怒鳴りつけていただろう



ユリア:「怒鳴りたい……どつきたい…」



その衝動をユリアは拳を握って耐えた



レノ:「ユリアは喜んで飲んでたぜ?酒弱いくせにガンガンな」


ツォン:「止めれば鉄拳、止めなければ潰れるまで飲むからな。厄介だった…」


イリーナ:「へ〜、ユリアにそんな過去が……」



あ、あいつら…っ!!

余計な事をべらべらと!



レノ:「………アイツ、タークス戻ってくる気ないんスかね?」



………え…?

レノの言葉にずきりと胸が痛む

そういえば、タークスを辞めると言った時にそばに居たのはレノだったっけ…



ツォン:「さぁ、な。今じゃユリアは俺達の敵だ……いや、ユリアの敵が俺達なのか?」


イリーナ:「あたし、ユリアと一緒にタークスやってみたいです!!ユリアって強そうだし、楽しそう!」



胸がチクチク痛む

居たたまれない気持ちになり、店を出ようとした



ユリア:「……そうだ」



ポーチから紙とペンを取り出し、文字を走り書く

そしてそれを丸めると、レノに向かって投げつけた



レノ:「?なんだ?」



背中に何か当たったような気がして後ろを振り向くと、床に丸まった紙が落ちていた



レノ:「なんだ?これ」



おもむろに紙を広げて見ると、そこには


“今度飲む時は誘え!”


とだけ書かれていた



レノ:「お前まだ未成年だろーが…」



名前は書いてないが、見慣れた文字で察しはつく

自然と頬の筋肉が緩むのが分かった

レノはその紙を大事そうにスーツの内ポケットにしまった





ユリア:「クラウド〜」


クラウド:「ユリア!どこにいたんだ!?」


ユリア:「あっちの方…」


クラウド:「……誰にも会ってないだろうな?」


ユリア:「あ、会ってない!誰も居なかった!!」


クラウド:「…ならいい。行くぞ、時間がない」



そう言って走りだすクラウド



ユリア:「待ってよ!」


クラウド:「今度はなんだ?」



振り向いたクラウドに満面の笑みで手を差し出す



ユリア:「一緒に行ってくれるんだろ?」


クラウド:「っ!!────分かったよ」



少し乱暴に手を取り、二人で走りだす

グローブ越しにでもクラウドの手の温もりがじんわりと伝わってくるのが嬉しくて、ユリアは頬が緩むのがわかった



ユリア:「へへへ…」


クラウド:「何一人で笑ってるんだ?」


ユリア:「なんでもない!行こう、クラウド!!」



そして二人は無事に仲間の待つ船に乗り込み、コスタ・デル・ソルへと向かった



バレット:「カーッ!!暑いな、ここは!」



船から降り立った第一声

バレットは呑気というかなんというか……


ここへ向かう船の中、セフィロスが現れた

奴はジェノバを持ち歩いているらしく、ジェノバの腕を残して去った

“長き眠り”だの“時は満ちた”だのゴチャゴチャと言っていたが…


その事で皆、頭を悩ませてるのに……



バレット:「だがよ、せいせいしたぜ!これで、ちっこいセーラー服とおさらばだからな」


エアリス:「あら残念。バレットの水兵姿、結構可愛かったのに〜」


バレット:「可愛いだと?」



バレットの眉間に皺が寄る



ティファ:「うんうん。バレット、あのセーラー服、パジャマにしなさい」


ユリア:「い〜ね、それ。な?クラウド」


クラウド:「…そうだな。マシュマロ被ったクマみたいでぴったりだったな」


ユリア:「ぶふっ!」



思わず吹き出したユリアがとどめだったか、これにはさすがのバレットもキレて、『この一張羅が一番落ち着くんだ!』と怒鳴り始めた



レッドXV:「ゼーゼー…すまないが、少し急いでくれないか?ここは暑い、私の赤鼻が乾いてしまう」



地面にへばりつくようにしてダレるレッドXV



クラウド:「分かった。少し休憩したら出発する。あまり、遠くへは行くな」


ティファ:「…泳ぎに行っちゃおうかな?」


エアリス:「そうしよっか?」



何やらこそこそと話し合う二人にクラウドの頬がかすかに赤らむ

それを目ざとく見つけたエアリスは意地悪い笑みを浮かべながらクラウドの顔を覗き込んだ



エアリス:「んん?クラウド君、今なんか想像しちゃったかな?クールな顔が崩れてますよ〜」


クラウド:「…何も想像していない」


エアリス:「誰の水着が見たいのかな?ん?」


クラウド:「なっ、そんなこと考えられるかっ!」



わいわい言い合うエアリスとクラウドを遠巻きに眺めながら木陰でひと休みするユリア

ここまで話は聞こえてこないが、なんとなくクラウドがエアリスに絡まれているのは分かる

ご愁傷さまだね…

木陰にいても熱気でジリジリする顔を手で扇いでいると、いつの間にかさっきまでクラウドに絡んでいたエアリスが目の前に立っていた



ユリア:「あ、あれ?エアリス?」


エアリス:「ユリア、行くよ?」


ユリア:「どこへ…わっ!!」



突然、腕を掴まれて引っ張られる

驚いて制止の声をかけるがまったく聞き入れてもらえる気配がない



ユリア:「ちょっと、やめろよ!どこに連れてく気
ティファ:「もう!静かにしなさい!」



その声と同時に首に軽い衝撃を受け、何をされたか理解するよりもはやく意識が遠のくのを感じた



エアリス:「ティファ……ちょっとやりすぎかも…」


ティファ:「え?うそ!ユリアごめーん!」



目の前が暗くなる中、二人の会話が微かに聞こえた

手刀をキメられるなんて、不覚…

場違いな悔しさを胸にユリアは意識を手放した














ユリア:「……ん、…痛っ!」



甦った首元の痛みで目が覚める

ぼんやりとした意識の中で手刀を受けた部分を撫でながらため息をついた



ユリア:「ったく…本気でキメにくるなんて…」



気を失った自分をどこかに寝かせてくれたのか体を横にされているのが分かる

が、それにしても暑い…

熱気が全身にまとわりついて肌が汗ばむ

けれど衣服が張り付くような不快感はなく、むしろ軽くて…肌が直接熱にさらされているような………



ユリア:「えっ?!」



思い至った結論に意識がはっきりして飛び起きる

辺りを見回すと煌めく波と水飛沫、男女が楽しそうにはしゃぐ姿が見えた

……ここは、間違いなくコスタ・デル・ソルのビーチ

そしておそるおそる自分の格好を見やる



ユリア:「……ビキニ…」



上は背中と首、下は両腰を紐で結ぶ形となっている

白を基調としたそれは可愛らしいデザインだが、布面積が少し少なく感じた



ユリア:「砂に埋まっちゃいたい……」



こんな恥ずかしい格好をしたのは生まれて初めてだ

一人パラソルの下に蹲っていると、二つの影が目の前に現れた



ユリア:「エアリス!ティファ!二人とも本当に許さな
男1:「誰それ、お友達〜?」


男2:「俺らにも紹介してよ」



うわ、こんな展開本当にあるんだ…

ていうか今それどころじゃないんだよね…



男1:「ねぇねぇ、俺たちと遊ばね?」
ユリア:「遊ばない」


男2:「いいじゃんよ、ね?ね?」



しつこく言い寄ってくる男達にユリアのイライラも募っていく

男の一人の手が肩に触れた瞬間、##NAMW1##の中でプツンと音がした



ユリア:「っ、いい加減に
「おい」



後ろに感じる人の気配

目の前のナンパ野郎とは全然違う、聞くだけで安心する声



「…何してる」


男1:「な、なんでもありませんよ〜」


男2:「じゃあ、ぼぼ僕たちはこれで!」



目を泳がせ、ものすごい勢いで走り去っていった二人をふん、と鼻で笑った後に助けてくれた人物の方を振り返った



ユリア:「ありがとな、クラウド」


クラウド:「いや…ティファとエアリスに助けろと言われたんだが……怪我はないか?」


ユリア:「おう!あんなへなちょこに負けてらんないしな」


クラウド:「そうか…」



親指を立て、ニカッと笑ってみせるとクラウドは小さく微笑んだ



ティファ:「クラウド〜!」



ティファが走り寄ってくる

少し先で宝条がバカンスを楽しんでいるらしい



ユリア:「そうか…ちょっとシメてくるわ」


ティファ:「##NAME1だけじゃダメ!…そうだ、クラウド。ユリアの事も一緒に連れてってよ!」


クラウド:「…分かった」


ティファ:「よし、決まりね。ユリアはクラウドから絶対に離れない事!いい?」


ユリア:「…分かった」



少し納得いかない顔をしながらも返事をするユリア

ティファは軽く笑って手を離した



ティファ:「それじゃ、行ってらっしゃ〜い」


クラウド:「ティファのやつ、楽しんでないか?」


ユリア:「宝条め、ボッコボコにしてやる…!!」


クラウド:「…………」



クラウドの話など聞く耳持たずで燃え上がるユリア

それにクラウドは軽くため息吐いた



クラウド:「…ユリア」


ユリア:「ん?」


クラウド:「手、貸せ」


ユリア:「こう、か?」



クラウドに向かって手を差し出す

するとクラウドはその手を握った



ユリア:「っ!?な、なんだよ突然!」


クラウド:「これならお前が暴走しても止められるだろ」


ユリア:「ふん、暴走なんかしないよ」


クラウド:「だといいんだがな」



そんな軽口を言い合いながら宝条のもとへ向かう

宝条は本当にバカンスを楽しんでいた

宝条に話がある旨を近くにいた女性に伝えると、女性は気だるげに声をかけた



女:「博士ェ〜、お客さんよ〜?」


宝条:「今忙しい……」


女:「…だって。残念でしたァ〜」


ユリア:「…何言って…っ!」



宝条の態度に腹が立ち、詰め寄ろうとした瞬間、クラウドに繋いでいる手を物凄い力で握られた



ユリア:「いっ……!!」


クラウド:「……抑えろ…」



小さく告げられ、ぐっと気持ちを抑える

クラウドに制止役をしてもらってよかったかもしれない

と、宝条は片目をちらりと開けてこちらを見やった



宝条:「待ちたまえ。君たちの顔には見覚えがある」



寝そべっていた体を起こし、クラウドとユリアと向き合うと宝条はにやりと笑みを浮かべた



宝条:「久しぶりだね、クラウドくん。そして、元タークスのユリアくん」


ユリア:「っ!」


宝条:「いやぁ、君は神羅内でも絶大な人気を誇っていたよ?まぁ、いろいろと障害物もあったみたいだがね」


ユリア:「………」


宝条:「で、隣の彼は?“新しい”彼氏かね?」


ユリア:「ふざけるなっ!!クラウドは…、クラウドは……っ!」


宝条:「そう怒るな、冗談だ」



ユリアの怒鳴り声を躱し、ニヤニヤと笑う

悔しげに唇を噛むユリアを見て首を傾げながらもクラウドは宝条に顔を向けた



クラウド:「…こんなところで何をしている」


宝条:「見ての通り、日光浴」


クラウド:「まじめに答えろ!」


宝条:「ふん……私の目的は君と同じだと思うが」


ユリア:「!セフィロスか?」


宝条:「君たちは会えたのか?」



クラウドが無言で頷く

それを見て宝条は顎に手を当てて考えだした



宝条:「そうか……ふむふむ」



何か納得したらしく、ゆっくり頷くと急にチェアの上に立ち上がってこちらを見下ろしてきた



クラウド:「なんだ?」


宝条:「いや、ちょっと仮説を思いついたのだが…。君は…君たちは、何かに呼ばれているという感じがしたことはないかな?または、どうしてもある場所へ行かなくてはならないという気持ちになるとか……」


ユリア:「何かに呼ばれている?」


クラウド:「俺はセフィロスがいる場所ならどこへでも行く!あいつを倒すために!決着をつけるためにな!」


宝条:「なるほど…。これはイケるかもしれないな」



満足そうな笑みを浮かべながらクラウドの顔を覗き込む



宝条:「ソルジャーか……クックックッ。ん、私の実験のサンプルにならんか?」



その一言でユリアの中の何かが切れた

…こいつ…クラウドのことをなんだと思って…!!

ユリアの手が銃に触れるより先にクラウドが剣に手をかけていた

クラウドの目は鋭く、真っ直ぐ宝条を睨んでいる

その迫力に圧倒されてユリアは一瞬怯んだ

が、宝条自身は何も恐れた様子はない



宝条:「ん…なんだ?剣でも抜くか?」


ユリア:「…クラウド、やめろ」



我に返ったユリアが繋いでいる手にそっと自分の手を重ねる

ここで暴れたら一般市民を巻き込みかねないし、重要な情報も得られなくなる

クラウドはこちらを見やり、宝条とユリアを交互に見、やっと剣から手を離した



宝条:「そうか……、……に…」


ユリア:「え?」



何やら宝条がブツブツと呟きだした

が、声が小さすぎて聞こえない



女:「あらら、博士のブツブツが始まっちゃったのね〜」



やれやれ、というように宝条を見た後にクラウドに視線を向ける



女:「ふふっ、アンタかっこいいから特別に通訳してあ・げ・る」


クラウド:「あ、ありがとう…」



ウインクを投げられ戸惑いながらも通訳を待つ



女:「ふむふむ………………“西に行けば分かる”って。それ以上は分かんなぁい」


クラウド:「……行くぞ」


ユリア:「うんっ!」



女性からの情報を皆に伝えるため、砂浜を後にして宿屋に向かった



クラウド:「ユリアは先に休んでていいぞ?」


ユリア:「あぁ、そうする。なんか…疲れたから」



宿主に声をかけ、ベッドへ向かう

繋いでいた手を離し、ユリアは軽く手を上げた



ユリア:「んじゃ、おやす
クラウド:「ユリア、」



言葉を遮るように話し掛けられ、ユリアは驚いて目をぱちぱちさせた



ユリア:「…なんだよ、いきなり」


クラウド:「いや、その……さっきは…止めてくれてありがとう」



きっと、宝条に斬りかかろうとした時のことだろう

別にお礼を言われるほどのことじゃないけどな…



クラウド:「ユリアが止めてくれなかったら……」


ユリア:「そんな気にするなよ。それより前にボクが殴りそうになったのをクラウドが止めてくれただろ?それでおあいこだ」


クラウド:「……そうか?」


ユリア:「そういうもんだ」



力強く頷くとクラウドは小さく吹き出し、“…そうか”と微笑んだ



ユリア:「じゃあ、今度こそおやす
クラウド:「それと、」



なんだよ、まだあるのか?

少しうんざりした表情でクラウドを見やると、何か思い悩んでいるのか口元に手を当てて軽く唸っている

大丈夫かとユリアが声をかけるよりもはやく、意を決したクラウドが口を開いた



クラウド:「その水着、よく似合ってる」


ユリア:「え、…あっ!」



自分が今、水着でいることをすっかり忘れていた

こんな格好でクラウドの隣を歩いて、しかも手まで繋いで…は、恥ずかしすぎる

全身が赤くなっているのではないかと錯覚するほど羞恥で体が熱くなる

思わず近くにあったタオルを体に巻き付け、顔を覆った



クラウド:「ユリア?」

ユリア:「あ、あんまり見るな!恥ずかしいからっ!」



そう言う彼女の耳が赤い

クラウドは小さく笑んで、“分かった”とだけ言って部屋のドアノブに手をかけた

恥ずかしがらせるつもりはなかったのだが、言いたいことは言えたからよしとしよう

自分に言い聞かせるようにしてドアを開けると、背中に“クラウド、”と微かに自分を呼ぶ声を受けた

振り返ると、未だにタオルにくるまってはいるが覆われていた顔は半分だけ見え、瞳がこちらに向いている



ユリア:「褒めてくれたんだから、お礼言わなきゃと思って…」


クラウド:「あぁ」


ユリア:「…ありがとう」



蚊の鳴くような声で告げられた彼女の言葉はとても弱々しくて、その目は羞恥ではない何かで潤んでいる

それに違和感を感じつつもクラウドはいつもの調子で返した



クラウド:「俺は当然のことを言っただけだ」


ユリア:「っ!こら、クラウド!」



言い返してきたユリアの声にいつもの覇気が戻ったのを感じ、安堵したクラウドは優しく微笑む



クラウド:「おやすみ、ユリア」


ユリア:「あぁ、おやすみ」



部屋から出たクラウドは真っ直ぐに仲間たちの元へと歩みを進めた

先程の違和感を胸に抱えながら…







ユリアはクラウドが部屋から出ていったのを見届け、ベッドに置いてあった自分の服に着替える

脱いだ水着を改めて見やると、先程クラウドが言ってくれた褒め言葉が頭をよぎった



ユリア:「どこまで本心なんだろうなぁ…」



そう自嘲気味に笑ってベッドに潜り込む

眠気はすぐに訪れて、意識は深い所へ落ちていった



















………ユリア、起きろ


ユリア:「……え?」



誰かに呼ばれた気がして目を覚ます

が、部屋は暗く、いつの間にか帰ってきたメンバーはぐっすりと眠っていて誰も起きていない



ユリア:「夢、か……」



ふぅ、とため息を吐いてベッドから降りる

まだ寝ている仲間たちを起こさないように静かに外に出た



ユリア:「っしょ……」



宿からすぐの砂浜に腰を下ろす

さすがに早朝だと泳いだり騒いだりしている人の姿は見られない

繰り返される波の音を聞きながらぼんやりと水平線を眺めた

と、ふいに背後から聞こえた砂を踏む足音にそちらを振り返る



エアリス:「おはようっ」


ユリア:「エアリスか…」


エアリス:「あら。クラウドじゃなくてごめんなさいね?」



ニヤニヤしながら隣に座るエアリスから視線を外し、ユリアは苦笑した



ユリア:「いや、クラウドじゃなくてホッとしてる」


エアリス:「どうして?クラウドの事、嫌いになった?」


ユリア:「違う……と思う。ただ、クラウドを見てると“ある人”を思い出すんだ」


エアリス:「“ある人”?」


ユリア:「まぁ……たいした話じゃないんだけどな」



笑ってごまかすようにエアリスに微笑みかけた

エアリスはユリアを真剣に見つめる



エアリス:「ユリア。わたしに隠し事してる」


ユリア:「……え?」


エアリス:「すごく大事なこと、隠してる」


ユリア:「…………」



気まずそうに視線を逸らすユリア

それでもエアリスはユリアを見つめた



エアリス:「ねぇ、話してくれない?」



しばらく沈黙が続く

二人しか居ないビーチに波の音だけが静かに響いた



ユリア:「………ごめん。今は、無理なんだ…ボクの気持ちが決まってないから…」


エアリス:「そっか……。なら、仕方ないね」



そう言ってエアリスも海を眺める


ごめん、エアリス

いつか必ず話すから…










クラウド:「ある人、か……」



少し離れた所から二人の様子を眺める

別に盗み聞きしたくて来たわけじゃない

目を覚ましたら二人の姿がなく、少し心配になって探していたら聞いてしまった……と



クラウド:「言い訳にしかならないな…」



これ以上ここにいる必要もない

二人が無事ならそれでいい

クラウドはその場から立ち去った


ただ、ユリアが言った“ある人”が気に掛かった



クラウド:「俺を見てると思い出す……?」



それは、昨日感じたユリアの視線の違和感と関係しているのか…?

考えてみても答えは出ることがなく、悩みすぎてチリチリと痛み始めた頭を軽く押さえ、クラウドはひとまず考えることをやめた












そして、



クラウド:「行くぞ」


レッドXV:「あぁ」


ユリア:「頑張ろー!」



気持ちを新たに、一行は西へ向けて出発した





第四話 −終−