小説 | ナノ



02
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六番街への途中には小さな公園があった

そこでの休憩をエアリスが提案し、クラウドとユリアは足を止める



エアリス:「クラウド、ユリア!こっちこっち」



滑り台の上に登り、隣に来るようにと呼ぶエアリス

クラウドは易々と登ったがあそこに3人は座れそうもない

ユリアは滑り台の階段に腰掛けた



エアリス:「…ねぇ、クラスは?」


クラウド:「クラス?」



唐突に振られた話題にクラウドは首を傾げる



エアリス:「ソルジャーのクラス」


クラウド:「ああ、俺は……」

『1ST(ファースト)…』

クラウド:「クラス……1STだ」



自信満々に答えるクラウドにエアリスは感心したような目を向ける



エアリス:「ふ〜ん。おんなじだ」


ユリア:「同じ?誰と?」


エアリス:「初めて好きになった人」



笑顔で、でもどこか悲しげに笑うエアリス

口調は明るいが言葉からは寂しさのようなものを感じる

ユリアはその表情からそっと目を逸らした



クラウド:「……付き合ってた?」


エアリス:「そんなんじゃないの。ちょっと、いいなって思ってた」


クラウド:「もしかしたら知ってるかもしれないな。そいつの名前は?」


エアリス:「うぅん、もういいの。そんな親しい訳でもなかったし」


ユリア:「…………」


クラウド:「そうか……」



少しの間、気まずい空気が流れる

と、それを掻き消すように自分たちの後ろにある道を一台の馬車がガラガラと通っていった

そこにはティファとよく似た女性の姿があった……いや、

あれは間違いなくティファだ!!



ユリア:「クラウド!!ティファが…!」


エアリス:「あれに乗っていた人がティファさん?」


ユリア:「いったいどこに行くんだ?それに、少し様子が変だった気が…」


エアリス:「よし。じゃあ、行こうか!!」


クラウド:「!?っ待て!アンタは帰れ!」



呼び止める声も聞かず、エアリスは馬車と同じ方向へ走って行ってしまった



ユリア:「エアリス、待ってよ!!」



急いでユリアとクラウドも追い掛ける

着いた先は…


怪しく光るネオン、明らかにソレっぽい宿

オトナな雰囲気の建物が並ぶ町“ウォールマーケット”だった



エアリス:「いろんな所で聞き込みしてみよっか」


ユリア:「ボク、ここの雰囲気…苦手だなぁ」


エアリス:「女の子は皆そう思うわよ。ま、男の子はどうだか分からないけどっ」


ユリア:「え?」



このメンバーの中の唯一の男の子(?)であるクラウドをちらっ、と見上げる

が、間が悪くバッチリと目が合ってしまった

なんとも言えない気まずさから慌てて目を逸らすがクラウドは不思議そうに首を傾げている



クラウド:「なんだ?」


ユリア:「な、何でもないっ!!」


クラウド:「?……それより、エアリス。この町は…その……分かるだろ?危険だから帰った方が
エアリス:「いまさら帰れって言うの?」



エアリスに詰め寄られ、たじろぐクラウド

だが、その気迫に負けたのか呆れたようにため息を吐いた

情報収集のために向かった先は、町の人たちの口からよく聞かれた“蜜蜂の館”

店の前には男性が複数人群がっていて中の様子は窺えそうにない

どうしたものかと考えていると、店の入口に立っていた従業員がこちらに気付いて笑顔で歩み寄ってきた



男:「いらっしゃい!!モテない君でも、ここ蜜蜂の館でなら運命の彼女に出会えるはず!!あなたも彼女探しですか?」


クラウド:「…ティファという子を知らないか?」


男:「おっ、あなた聞き耳早いねぇ。ティファちゃんはムチムチの新人さんだよ。でも、残念です。ティファちゃんは今、面接中」


ユリア:「面接?」


男:「蜜蜂の館の習わしでね。新人の子は、ドン・コルネオの屋敷に連れてかれるんだ。ドン・コルネオは有名な独身貴族。そらそろ身を固めるってんでお嫁さん探しに熱心でねぇ」



独身貴族か…

そのうえ屋敷を建てるということは、この町を仕切るぐらいの金と権力があるに違いない



エアリス:「ありがとう、おじさん。…行ってみましょう?」



その呼び掛けに頷き、クラウド達は町の奥へと向かう

辿り着いたのは、外観からして“ここの主は権力を持っています”と主張しているなんとも目立つ屋敷だった

屋敷の前には構成員と思われる一人の男性が立っており、こちらに気づくと厳しい表情を向けた



男:「ここは、ウォールマーケットの大物、ドン・コルネオ様のお屋敷だ。いいか、ドンは男には興味ないんだ。さっさとどこかへ……」



と、ふいに視線をクラウドからエアリスへと向けたかと思うと、ぱぁっと顔を輝かせて一歩詰め寄った

もちろんエアリスは一歩退いた



男:「ああっ、よく見たらきれいなお姉ちゃんも一緒!ね、どう?うちのドンと楽しいひとときを過ごしてみない?」



ニヤニヤとしている男に背を向け、3人で顔を寄せて話し合う



エアリス:「ね、ここがドンの屋敷みたい。わたし、行ってくるね。ティファさんに2人のこと話してきてあげる」


ユリア:「待って待って、確実に危ないだろ」


エアリス:「でも、誰かが入らないと…」


クラウド:「確かにそうだが…アンタ一人じゃ危険すぎる」


ユリア:「じゃあ、ボクが一緒に…」


クラウド:「ダメだ!!」



いきなり大声で叫ぶクラウドにユリアもエアリスも目を瞬いた



ユリア:「びっくりした〜…なんでだよ!」


クラウド:「なんでって……ここは……その…………分かるだろ?」


ユリア:「何が?」



心底不思議そうに首を傾げるユリアにクラウドは大きなため息を吐く

こいつの鈍感ぶりもどうしたものかと腕組みをしながら考えていると、横でエアリスがくすくすと笑っていた



クラウド:「何がおかしいんだ?エアリス」


エアリス:「クラウド、女の子に変装しなさい。それしかない、うん」


クラウド:「ええっ!?」



その言葉にぴしりと固まるクラウド



エアリス:「あと、ユリアももっと可愛くしてもらわなきゃね」


ユリア:「はぁ?!ボクはいいよ!」



抗議の声を無視してエアリスは館の前にいる男に告げる



エアリス:「ちょっと待っててね。キレイで可愛い友達、連れてくるから」


男:「お友達も、か……。そりゃいいな。その方がドンも喜ぶし、もしかしたら……ウヒヒ」



怪しい笑みを浮かべる男からそそくさと離れ、ウォールマーケットに戻るとクラウドは飽きれたような表情をエアリスに向けた



クラウド:「エアリス、いくらなんでも…」


ユリア:「ボクはこっそり2人についてくから、その…可愛くとかは勘弁してほしいんだけど…」


エアリス:「2人ともごちゃごちゃ言わない!ティファさんが心配なんでしょ?さ、早く早く!」



こうしてクラウドとユリアの(意思を無視した)変装作戦が始まった…



エアリス:「わたし、ユリアと見たいところがあるの。少しの間、自由行動でいいかな?」


クラウド:「別に構わない」


エアリス:「じゃ、待ち合わせは服屋の前でね?行きましょ、ユリア」


ユリア:「うん……」



腕を引かれながら連れてこられたのはいわゆるメイクサロンだった

受付を済ませ、カタログを渡されるとエアリスは“どうしよっかな”と鼻歌まじりにページをめくっている



ユリア:「なぁ、ここで何するんだ?」


エアリス:「お化粧よ?」


ユリア:「化粧………………」


エアリス:「ティファさんを助けるため、でしょ?」


ユリア:「……ぐっ……」



“ティファのため”と言われてしまうとどうにも言い返せない

大人しくなったユリアにニッコリと頬笑み、エアリスはカタログを閉じてカウンターにいるスタッフと話し出した

なんの話かさっぱり分からないが “素材を活かしつつ” “ちょっと大人めで”と何やら要望を言っているようだった

一通り話が終わったのかエアリスはこちらに向き直り、手招いた



エアリス:「さ、行こう?」



スタッフの案内に従って椅子に座らされたかと思うとテキパキとメイクの準備を進められる

…生まれてこの方、メイクなんてしたことがあっただろうか

ふと鏡を見ると、知らない人物が映っていた

まぶたにはブラウンやゴールドのシャドウが塗られ、まつ毛はマスカラのおかげで普段の倍は長い

短い髪の毛には地毛と同じ色のエクステが付けられ、丁寧に巻かれている

そういえば昔は髪長かったんだよな……

無意識に巻かれた髪の毛を触る

何で髪の毛伸ばしてたんだっけ…



エアリス:「ユリア?どうしたの?」



支度が終わったらしいエアリスが心配そうに鏡越しに顔を覗き込んできた



ユリア:「うん。なんか、ボクじゃないみたいでさ…」


エアリス:「大丈夫よ、ユリア。あなたはちゃんとここにいるから」



そう言って頭を優しく撫でてくれるエアリス

その手が気持ちよくて、思わず

“お姉ちゃん”

そう呼んでしまいそうだった





エアリス:「…クラウド、来ないね」


ユリア:「そうだな…」



待ち合わせ場所の服屋の前

結構待っているが、クラウドは来ない

ばっちりメイクを施されたこの顔で外にいるのはなんだか落ち着かない…

早く室内に入りたくてソワソワしていると、遠くにちらりと見知った影が見えた



ユリア:「あ。あれ、そうじゃないか?」



見た事ある服装の金髪ツンツン頭が駆け足で近づいてくる



クラウド:「すまない、遅くなっ、……!」



エアリスからユリアに視線をうつした瞬間に固まるクラウド

ついさっきまで短かった髪は長く伸びて巻かれ、化粧っ気のなかった顔にもしっかりとメイクが施され、頬も唇もピンク色に染まっていて……

服はいつもと同じなのにこんなに変わるものなのかとクラウドはまじまじと見つめる

頭のてっぺんからつま先まで視線で辿られているのが分かり、ユリアはちょっとむず痒い気持ちになった



ユリア:「な、何だよ…」


クラウド:「いや……その…」
エアリス:「は〜い、そろそろ行きましょうね〜?」



照れて口ごもるクラウドにしびれを切らしたエアリスはその腕を引っ張り、服屋の中へと入っていった

クラウドにはいつの間に注文したのか“サテンのドレス”が渡される



エアリス:「ユリアにはこれね?」



そう言って渡されたのは、“シルクのドレス”



ユリア:「これ…着るのか?」


エアリス:「勿論!」


クラウド:「あ、ユリア。これも……」



そう言ってクラウドから渡されたのは……

可愛いピンクのランジェリー

突然のプレゼント(?)に若干引いたが、それ以前にどこでこんなものを…



ユリア:「どこから盗って……ま、まさか…脱がせて…!?」


クラウド:「っ違う!俺は………女装に必要な何かを感じて…」


ユリア:「蜜蜂の館へ行ったって訳か…」



“蜜蜂の館”

メイクサロンのスタッフから聞いたが、あそこはいわゆる男性専用の娯楽施設らしい

そこで働く女性は可愛い系やセクシー系など幅広いジャンルの子が在籍しているというから、このド派手なランジェリーが似合う持ち主もそこにいるのだろう

館には癒しを求めて足を運ぶ男性が後を絶たないらしいが、そこにクラウドも混ざっていたのかと思うとなんだかげんなりした



クラウド:「そ…!!あ、いや、違
エアリス:「さ、早く着た着たぁ!!」



無理矢理試着室に押し込められ、カーテンを閉められる

パッとドレスを広げてみるが、一生涯着ることのなさそうなデザインに足が震えた

小さくため息をつき、“ティファのため…!!”と言い聞かせながらなんとか着替え、エアリスと既に着替え終わっていたクラウドの前に立つ

クラウドの女装姿は思いのほか様になっていて少しムカついた

エアリスはうんうんと頷きながらユリアのまわりをぐるりと回る



エアリス:「うん、とっても似合ってる!私は…これにしよっと。………のぞいちゃダメよ」


ユリア:「はいはい」



エアリスが着替えている間にクラウドにそっ、と耳打ちする



ユリア:「おしとやかに歩けよ?クラウドちゃん」


クラウド:「……何がおしとやかに、だ」



やれやれというクラウドのため息と同時に、試着室のカーテンが開いた

薄ピンクのひらひらしたドレスに着替えたエアリス

すごく似合ってて、可愛かった

自分の姿を鏡で確認するとエアリスは張り切って外に向かって歩き出す



エアリス:「さて、行きましょ」



心なしか楽しそうに見える…

いや、楽しんでるのかも…

はぁ、とため息を吐いていると隣でクラウドが何かを被っていた



ユリア:「わぁ…」


クラウド:「ん?」



サラサラと靡(なび)くブロンドの髪の毛

長さは胸辺りまである



ユリア:「それ……」


クラウド:「あぁ、これか?これははカツラだ。いつもの髪じゃおかしいだろ?」


ユリア:「そうだけど…」



よく見れば、薄くメイクがしてある

ただでさえクラウドは美形なのにいつも以上に綺麗に見える



ユリア:「…ずるいよ、クラウドは」



本人に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟く



クラウド:「何がずるいって?」



怪訝そうにしているクラウドをちらっと見やる

小首を傾げてこちらをのぞき込んでいる様はモデル顔負けの可愛さだ



ユリア:「……なんでもない…」


クラウド:「…?」


エアリス:「何してるの?行くよ〜」


ユリア:「おー!ほら、行くぞ!」


クラウド:「あぁ…」



釈然としない表情のクラウドの背中を軽く叩いて先に行くよう促す

そうしてボク達はコルネオの屋敷へ向かった




男:「おっ、カワイイ子連れてきたね!……3名様お入り〜!」



入り口にいた男に案内され、館の中に入る

中は雑然としていて落ち着かないし、なんだか変な雰囲気だった

しばらくするとカウンターにいた男は、コルネオに知らせると言って居なくなってしまった



エアリス:「今のうちにティファさん探しましょ」



館の中をくまなく調べていると、2階の奥に地下へと続く階段があった

クラウドを先頭にゆっくりと降りていく

と、一人の女性が佇(たたず)んでいた

……ティファだ!


それを見たクラウドは慌てて後ろを向き、エアリスはティファに近づいて話し掛けた



ユリア:「何で隠れるんだよ」


クラウド:「恥ずかしい、だろ」


ユリア:「……確かに」



ふとエアリスの方を見ると、エアリスがこっちを向いて笑いかけた

……むしろ、ニヤッとした…



エアリス:「ね?クラウド、ユリア」


「「っ!!」」


ティファ:「クラウド?ユリア?」



軽く首を傾げるティファ

やがて理解したらしく、目を見開いて飛び上がった



ティファ:「ちょ、二人とも!?そのかっこどうしたの!?ここで何してるの!?あ、それよりあれからどうしたの!?身体は大丈夫!?」


クラウド:「そんなにいっぺんに質問するな…」


ユリア:「ボクもクラウドも、エアリスに助けてもらったんだ」


クラウド:「…ティファ、説明してくれ。何があったんだ?」


ティファ:「え、えぇ…」



ティファの説明はこうだった

伍番魔晄炉を抜けた後、怪しい男がうろついていたので捕まえ締め上げたところ、この館の主“ドン・コルネオ”の名前が出てきたらしい

バレットは放っておけと言ったが、ティファは気になってしまい、ここまで来たのだと言う



ティファ:「コルネオはお嫁さん探しとして毎日3人の女の子の中から1人を選んで……あの…その……」



……大体の察しはつく

とりあえず、ティファが選ばれなければ今夜はアウト、ということだ



エアリス:「でも、ここにこうして4人もいるのよ?問題ないじゃない」


クラウド:「ダメだ、エアリス。あんたを巻き込む訳にはいかない」


ユリア:「…ということは、ボクやティファは危険な目に会ってもいいんだ?」


クラウド:「いや、それは…」



焦るクラウドを横目に、ティファがエアリスに一歩近寄る



ティファ:「いいの?」


エアリス:「わたし、スラム育ちだから危険な事、慣れてるの」



そう言ってティファの方に向き直る



エアリス:「貴女こそ、わたし信じてくれる?」


ティファ:「うん。ありがとう、エアリスさん」


エアリス:「エアリスでいいわよ」


「おーい」



階段の上の方から男の声がする

見上げると、カウンターにいた男が立っていた



「おネエちゃんたち、時間だよ。コルネオ様がお待ちかねだ」



それだけ言うと去っていった

帰りぎわ、“これだから最近の若い子は…”とかぶつぶつ言ってたけど……



クラウド:「聞くまでもないと思うけど、あとの1人ってやっぱり…俺…なんだろうな」


ティファ:「聞くまでも」

エアリス:「ないわね」



クラウドは盛大なため息をついて、階段を昇る

全員その後に続き、地下の部屋を出た

ここを出たら運命の花嫁選び…

でもまぁ、自分が選ばれることはまずないだろうな

ユリアはどこか他人事のような気持ちで後に続いた


部屋の中に入ると、中年のおじさんと肌の黒い男とサングラスをかけた男が待っていた



「よし、娘ども!ドン・コルネオ様の前に整列するのだぁ!」



その声に従い、机の前に横一列に並ぶ

すると、中年おじさんは飛び上がって身を乗り出した



コルネオ:「ほひ〜!いいの〜、いいの〜!」



左端のエアリスから順に顔を覗き込んで行く



コルネオ:「どのおなごにしようかな?ほひ〜、ほひ〜!」



エアリスは柔らかく頬笑む



コルネオ:「このコにしようかな〜?」



クラウドは素っ気なく顔を背ける



コルネオ:「それともこのコかな〜?」



ティファは色っぽくウインクをする



コルネオ:「このコもいいの〜」



ユリアの全身をなめるように見るコルネオ

興奮してるのか、息が荒い……

ユリアはありったけの顔面の筋肉を総動員させて笑顔を作ってみせた

最後にコルネオは再びクラウドを何度か覗き込んで叫ぶ



コルネオ:「ほひ〜!!決めた決〜めた!」



高々と挙げられる手



コルネオ:「今夜の相手は…」



どこからかドラムロールの音が鳴り響く

選ばれるのはスタイル的にエアリスか、ティファ…

いや…顔でクラウドというのも考えられる…





コルネオ:「このスレンダーなおなごだ!」




瞬間、がっしりと腕を掴まれた



ユリア:「……へ?」


「「「っ!!??」」」



3人一斉にこちらを向く

ユリアは内心焦りながらも、持ち前の演技力ではにかみとぶりっ子声をつくってみせた



ユリア:「コルネオ様ぁ…ユリア、嬉しいっ」



軽くウインクしてやると、コルネオは狂ったように踊りだした

…本当になんなんだ、こいつは

ふと皆の方を見ると、ティファとエアリスが呆然とこちらを眺めていた

やめろ!そんな目で見ないでくれっ!!

クラウドはこちらを見向きもしなかったが、吐き気を催してしまったのか口元に手を当てていた

耳まで真っ赤にしている…可哀想なことをしてしまった…



コルネオ:「あとはお前達にやる!」



待ってましたとばかりにコルネオに敬礼するサングラス達



「「ヘイ!!いただきやっす!」」



サングラスの男は先程からチラチラとクラウドを見ている

あの可愛らしいドレスの中身が屈強な男だと分かったら彼はどうなってしまうのだろうか…

サングラスの男に心の中で合掌しているとふいに腕を掴まれた



コルネオ:「さ〜て、行こうかの〜!」



ユリアの腕を掴み、部屋の奥へと促すコルネオ

3人と視線を合わせて軽く頷き合い、それぞれ案内される部屋へと向かっていった











―コルネオの部屋―



部屋の中はピンクの照明とミラーボールが怪しく光っている

そして中央には無駄に大きなソファとベッド

なるべくコルネオと距離をあけてベッドの端に座る

が、それさえもコルネオには興奮剤らしい



コルネオ:「ほひ〜!これこれ、そんなに恥ずかしがらんで…もっと近くへ、な?」


ユリア:「…え、えぇ…」



痛いぐらいに見つめてくるコルネオに体が震える

もちろん、恐怖で…



コルネオ:「ほひ〜、何度見ても可愛いの〜。お……お前も、俺のこと好きか?」



…………は?????

何を言っているのかさっぱり分からないし理解する気もないけどこのオヤジは相当イカれてるな

心の中で悪態をつきながらもニッコリと甘く笑いかけた



ユリア:「ふふ、もちろんよ?」


コルネオ:「ほひ、嬉しい事言ってくれるのォ!ほんなら、ナ、ナニがしたい?」


ユリア:「そうねぇ……貴方のス・キ・な・コ・ト・でも…する?」



今すぐ顔面と鳩尾に拳を埋めたい衝動を抑え、軽く上目遣いで言ってやればコルネオの鼻息はさらに荒くなる



コルネオ:「ほひほひ〜!!た、堪らん!じゃあ、お願い……」


ユリア:「なぁに?って、ちょ…!!」



突然ベッドに押し倒されたと思ったら自分の上にコルネオが馬乗りになる

そして目の前には息も荒々しく、野獣と化したコルネオの顔

その恍惚と輝く顔からは期待を込めた言葉と同時に唇が突き出された



コルネオ:「チューして、チュー!!」


ユリア:「え……えぇええ!?」



全身から血の気が引いた

これまでタークスとして数々の任務をこなしてきた実績と自信はあるが、ここまで身の危険を感じ、かつ気持ち悪い任務はやった事がない

そしてこのコルネオの行動はユリアにとって予想外だったため、情報処理能力が追いつかなかった



コルネオ:「“えぇ”!?…OKって事か!ほひ〜!!」


ユリア:「ち、ちが…そうじゃなくて!」



必死に抵抗を試みるが、コルネオは上から動かない

寧ろ近づいてきている…



ユリア:「ど、退いてよバカ!!」


コルネオ:「ほひひ〜!退いたらチューしてくれる!?」


ユリア:「するかバカーーー!!」



もうダメだ……!

そう思ってきつく目を瞑る

瞬間、体がふっと軽くなった

恐る恐る目を開けると今まで自分の上にいたコルネオが居なくなっていた

…正確にはベッドの下に転がり落ちていた



クラウド:「お前…何してるんだ…?」



ベッドの横には額に青筋を浮かべたクラウドと



ティファ:「ったく、私を甘く見ると痛い目みるわよ!」



拳を鳴らしながら詰め寄るティファと



エアリス:「大丈夫?ユリア」



いつも通りのエアリスが居た



ユリア:「みんな…!」



急いで起き上がり、エアリスに抱きつく

本当にもうダメだと思っていた

今更自分の心臓が早鐘を打っていたことに気づき、ぎゅうっとしがみつくようにエアリスの服を握った



エアリス:「よしよし、怖かったね〜」



優しく頭を撫でてくれるエアリスの声と温もりに心が落ち着いた



コルネオ:「ほひ〜。なんだ、なんだ!何者だ!」



吹っ飛ばされたコルネオはベッドによじ登る

状況を理解できないようでクラウド達の顔とユリアの顔を交互に見ていた



ユリア:「ごめんな、コルネオ」



バッ!とドレスを脱ぎ捨て、普段のタークスのスーツに戻る

コルネオは驚いて引っくり返った



コルネオ:「ほひ!?な、何がどういうこと?」


ティファ:「悪いけど、質問するのは私達の方よ」



ティファが容赦なくコルネオを睨む

その後コルネオは、



クラウド:「切り落とすぞ」

エアリス:「ねじり切っちゃうわよ」

ティファ:「すりつぶすわよ」



の脅しに負け、全てを吐いた

神羅はアバランチのアジト、七番街スラムを潰す計画を立てていることをポツポツと話し出した



ティファ:「クラウド、七番街スラムへ一緒に行ってくれる?」


クラウド:「もちろんだ、ティファ」



力強く頷いて外へ出ようと走りだした瞬間、コルネオに呼び止められた



コルネオ:「ちょっと待った!」


クラウド:「黙れ!!」



クラウドの突っ込み(?)にも負けずにコルネオは話し出す



コルネオ:「少しだけ聞いてくれ……俺達みたいな奴らが、べらべらホントの事を喋るのはどんな時だと思う?
1、死を覚悟した時
2、勝利を確信した時
3、何がなんだか分からない時」


エアリス:「3じゃないかな?」


ティファ:「………1?」


ユリア:「2だったりして!」


コルネオ:「ほひ〜!スレンダーなおなご、あったり〜!」



そう言ってベッドの横の水晶を押す

と、床が揺れ始めた

ふと下を見ると、自分達が立っている絨毯に何か書いてある



ユリア:「音…死、安……奈………落し穴!?」



それと同時に床が無くなり、クラウド達は地下へと落ちていった

ユリアは落ちる瞬間、コルネオがまた怪しい腰振りダンスをしているのが見えてしまい、心の中に強い殺意が芽生えるのが分かった


あの中年エロオヤジ……

次会ったら潰す!!








下水構に落とされたユリア達は突然襲ってきたモンスターと戦っていた



(ズズ……ン)



ユリア:「っよし!」



なんとかモンスターを倒したが、大きな時間ロスになってしまった



ティファ:「もうダメだわ……マリン…バレット…スラムの人達…」



あきらめ気味のティファにエアリスが近寄る



エアリス:「あきらめない、あきらめない。柱、壊すなんてそんなに簡単じゃないでしょ?」


ティファ:「………そうね……そうよね!まだ時間はあるわよね!!」


ユリア:「よし、七番街へ急ごう!」



……と、意気込んだまでは良かったが…



ティファ:「このダクトから行けそうね」



そう言ってひらりと飛び降りるティファ



ユリア:「…え?」



背中を嫌な汗が流れた

今…、飛び降りた…よな?



エアリス:「どうしたの?」


ユリア:「あ、いや……エアリス、先にどうぞ?」



引きつった笑顔でエアリスに先を促す

その行動に何かを察したらしく、エアリスはニヤリと笑った



エアリス:「困った時は王子様に助けてもらうといいよ?」


ユリア:「はぁ!?」



言い逃げするかのように、さっさと飛び降りるエアリス

残るは……



ユリア:「ク、ラウド…」


クラウド:「俺は最後に降りる。ユリアから行け」


ユリア:「…………」


クラウド:「どうした?顔色が悪いぞ?」



うっ…、言ったら呆れられかな?

…でも……


……えぇい!言ってしまえ、いつかのために!!



ユリア:「ボク、高所恐怖症なんだ!だから、こういう飛び降りるのとか苦手で…それで…っ!!」


クラウド:「…………」



ユリアが話すのを黙って見つめるクラウド

あーーーっ!!やっぱそういう反応だよな!!

こうなったら死ぬ気で
クラウド:「なんだ、そんなことか」


ユリア:「え?っちょ、ぅわ…!」



ふいに体が浮いたかと思うと、これは世に言う“お姫様抱っこ”というやつで…なんとも言えない恥ずかしさに見舞われる



クラウド:「しっかり掴まっていろ」


ユリア:「どこにっ!?」


クラウド:「…首に手を回せ」



しっかりとクラウドの首に掴まり、目をつぶる

内臓が浮くような、この独特の浮遊感



クラウド:「…着いたぞ」


ユリア:「うっ……あ、ありがとな…」



フラフラするのをエアリスに支えられながら進む

元タークスが聞いて呆れるよな…

でも、皆そんなボクを気遣ってくれてた

レノもルードもツォンも……


はしごを登ると見知った場所に出た

列車墓場だ……って事は、もうすぐ七番街スラムに着く!



クラウド:「行くぞ」



全員一斉に頷き、走り出した






―柱の前―



ティファ:「間に合った!…柱が立ってる!」


ユリア:「よかった〜。これで一安心…
クラウド:「待て!上から…」



クラウドが上を見上げる

それにつられるように上を見ると、柱に何人か人がいるのが見えた

…まさか……



クラウド:「…聞こえないか?」


エアリス:「……銃声?」



と、一際大きな銃声がした瞬間、上から人が落ちてきた



クラウド:「大丈夫か?……ウェッジ!」


ユリア:「…っ!!」



落ちてきたのはアバランチの仲間のウェッジだった

じゃあ、上にはビッグスやジェシーが…



クラウド:「───っ登るぞ!…エアリス、ウェッジを頼む」



エアリスは静かに頷いた

ティファがエアリスに何か伝えている

きっとマリンの事だろう

ユリアはスラムの人々の方を向いて叫んだ



ユリア:「ここは危険だ!みんな早く柱から、七番街から離れろっ!!分かったな!?」



それだけ言って柱の階段を登る

たぶん、スラムの人達はあそこを離れない

何となく、そんな気がした…




途中、かなり弱っているビッグスとジェシーに出会った

考えたくはないが二人はもう、長くは持たないだろう


そんなことを思いながら階段を登りきるとバレットが一人で戦っていた



バレット:「クラウド!ティファ!ユリア!来てくれたのか!…気を付けろ、やつらヘリで襲ってきやがる」


ユリア:「…ヘリ!?」


ティファ:「さっそく来たわ!」



バレットがヘリに向けて銃を乱射する

すると、そこからひらりと男が降り立った



ユリア:「やっぱりレノか…!!」


レノ:「よぉ、ユリア。悪いが今はお前の相手をしてる暇はないぞ、と」



軽い調子でそれだけ言うと柱の中心にある機械に何かを入力し、ボタンを押す



レノ:「はい、おしまい!作業終了」


ユリア:「そんな…っ」



ボタン一つで町が一つ消える

ためらいも慈悲もない、神羅の恐ろしさと無情さに怒りが沸き上がった



ティファ:「解除しなくちゃ!クラウド!バレット!ユリア!お願い!!」


ユリア:「…ティファ、ボクがそっちやるよ」


ティファ:「ユリア…」



自分で言っていて悲しくなる

戦線に出ないということはすなわち“レノと戦わなくて済む”ということ

いくら昔の仲間とは言っても、今は敵同士

なのに、レノに銃口を向ける事ができない

その勇気がまだ自分の中に備わってないことをユリア自身がよく分かっていた

そんなユリアの気持ちを察してかティファは笑顔で場所を代わる



ティファ:「分かった。そっちよろしくね」


ユリア:「あぁ!」



皆に背を向け、コンピューターと睨み合う

英字と数字が入り交じっていて混乱しそうになるが、解除できない訳じゃない



ユリア『落ち着け…』



素早くキーボードを打ち、画面に文字や記号を並べていく

爆弾を解除するためには半端じゃない量の情報を打ち込まなければならない

目の前に羅列されていく長文に全神経を集中させてキーボードを叩く

真剣に取り組むユリアに向かって誰かが何かを叫んだ、気がした

何を言っているのか理解できないうちにふと手元に自分のものではない影が落ちた



レノ:「仕事熱心で感心感心、と」


ユリア:「え?っな…!!」



突然、地面の感触が消えて体が浮き上がる

そして間を空けずにあの大っ嫌いな浮遊感


…やっと分かった

今、自分はレノに担がれている

そして柱から飛び降り…て…



ユリア:「落ちるーーーーっ!!」


レノ:「安心しろ。死なないぞ、と」



下ろされたのはヘリの中

随分器用に中に入ったなぁ……じゃない!



ユリア:「レノ!!お前、ボクが嫌いなもの知ってるだろ!?」


レノ:「さぁな?」


ユリア:「っ!!…じゃあ教えてやる。高い所と、……お前だ」


レノ:「えっ!?ちょ、それはひどいぞ、と」


ユリア:「ひどいのはどっちだよ!」


「うるさいぞ、レノ」


レノ:「なんで俺だけなんスか?ツォンさん…」


ユリア:「ツォン…?」



涙目のレノを横目に、ため息を吐いている人物を見やる

そこには黒髪の男性が立っていて、腕組みをしながらこちらを見ていた



ユリア:「ツォン!!」


ツォン:「挨拶すべき者はもう一人いるぞ?」


エアリス:「ユリア…」


ユリア:「エアリス!?……ツォンが連れてきたのか?」


ツォン:「あぁ。彼女には取引に応じてもらった」



マリンの命と引き替えに捕まれ、とでも言って脅したんだろう

易々と想像がつく

きっとマリンを逃がしている所を見つかってしまったに違いない

ツォンとレノが話している間にユリアはエアリスに近寄り囁いた



ユリア:「エアリス、逃げよう。ここから飛び降りよう」


エアリス:「でも、ユリアが…」


ユリア:「ボクは…たぶん大丈夫だよ」



作り笑いだってエアリスは分かってるかもしれない

けれど、自分を奮い立たせるには笑っているしかなかった



ツォン:「緊急用プレート解放システムの設定と解除は、神羅役員会の決定なしではできないのだ」


バレット:「ゴチャゴチャうるせぇ!」



こちらはまだ話が続いていたらしく、バレットが銃を乱射し、何発かがヘリの中に入ってきた


ツォン:「そんな事をされると、大切なゲストが怪我するじゃないか」



と、突然腕を引っ張られ、ヘリの入り口近くに出される

下にいるクラウド達の驚いた表情がよく見えた



クラウド:「エアリス!ユリア!」


ユリア:「クラウド…ティファ…バレット……」


ティファ:「二人に何する気!?」


ツォン:「さぁな。我々タークスに与えられた命令は“古代種”の生き残りを捕まえろ、ということだけだ」


バレット:「じゃあ何でユリアも連れていくんだ!?」


ツォン:「仲間、だからだ」


ユリア:「っ!!」



仲間……?

あたしが、タークスの仲間ってこと?

…それとも、クラウド達の仲間って意味?



エアリス:「ティファ、大丈夫だから!あの子、大丈夫だから!!」



エアリスの声で我に返る

と、ツォンが無言でエアリスに向かって手を振り上げた

嫌な思い出が脳裏をかすめる



ユリア:「っツォン!!」



今にもエアリスを叩こうとしていた手がぴたりと止まる

衝撃に備えて目を瞑っていたエアリスもおそるおそる目を開いた



ユリア:「……やめろ」


ツォン:「……………」



振り上げて上げた手をすっ、と下ろす

ツォンも思い出したのかもしれない

ボクがアイツに叩かれた、あの光景を……



クラウド:「ユリアっ!!」



声のした方を見ると、下でクラウドが両腕を横に広げて叫んでいた

それを意味するのはただ一つ



クラウド:「跳べ!」


ユリア:「っ………」



爪が食い込む程、強く握り締めた拳

震える手足

自分からエアリスに提案したくせに、いざ実行に移そうとすると足がすくんだ

くそ…くそっ!!動けよ、足…!!



クラウド:「俺を信じろ!」



信じたい…信じたいけど…

この世に“絶対”は無い

でも……


自分は何のために今までの自分と決別したの?

……そう、強くあるため

あの人を守れなかった自分にさよならを言うため


強ばった体に優しく手が触れる



エアリス:「頑張りすぎると、壊れちゃうよ?」


ユリア:「エア、リス…」



捕虜であるにも関わらず、不安そうな表情など微塵もない

どうして君はそんなに強いの…?



ツォン:「クックックッ!そろそろ始まるぞ」



その言葉と同時にヘリが上昇し、柱が崩れ始める



クラウド:「ユリア!…必ず助ける!!」


バレット:「おい!このワイヤー使って脱出するぞ!」


ユリア:「皆……」



柱が爆発する

崩れ落ちる七番街

町は燃え、煙を上げる



ユリア:「また……また、守れなかった…っ」



全身の力が抜けてしまったかように床にへたり込むユリア

目尻から静かに流れ落ちる涙

自分の中の何かも、柱と同じように崩れ、壊れていった





02 終



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