小説 | ナノ



01
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鉄筋の上を走る音がこだまする

その足音は複数

そんな中、一人の怒声が響いた



バレット:「早くしろ、お前ら!」


ユリア:「はいはい。分かりましたよ」



面倒くさそうに返事をして、くるりと後ろを振り返って立ち止まる

こちらに合わせて相手も立ち止まり、戸惑ったような声で叫んだ



兵士:「ユリアさん!なぜ…、なぜ貴方が……っ」


ユリア:「うーん…、ごめんな?」



笑みを向けるのと同時に引き金を引く


(───パァン!!)



兵士:「ぐぁっ…!!」



急所は外したがダメージはそれなりにあるはずだ

蹲る一般兵を一瞥し、体の向きを変えたユリアにクラウドは目で先を促した



クラウド:「…行くぞ」


ユリア:「うん…」



ついさっき、壱番魔晄炉に爆弾をセットした

あと8分もすれば爆発するだろう

が、出口に向かうにつれて現れるモンスターや兵士達

もはや鬱陶しいを通り越して飽き飽きしてくる



ユリア:「あー、疲れた!!クラウド、交替なっ」


クラウド:「あ、おい!」



クラウドに後方の戦線を(無理矢理)交替させ、全力疾走でその場を離れる

後ろから怒鳴り声がしたような気もするけれど…

気にしたら負けだと思う


出口へと向かいながら見張り役のジェシーを探す

この辺りで落ち合う手筈になっているはずなのだが、それらしき姿が見えない



ユリア:「…どこ行ったんだ?」


ジェシー:「ユリア!助けて〜!!」



ふと視線を落とせば、足元でジェシーが藻掻いていた

どうやら鉄筋の隙間に足が挟まったらしい



ユリア:「……何してんの…」


ジェシー:「うかつ…足が挟まっちゃって……」



グイグイと力強く足を引っ張っているが焦っているせいかなかなか抜けそうにない



ユリア:「あーあー、無理にやらないで。ボクが……」

───ムリにやろうとするなよ。俺がやってやるからさ



脳内で聞き慣れた声が再生された

思わず手が止まる



ユリア:「……………」


ジェシー:「ユリア?」



突然動きが止まったユリアを不思議そうに覗き込むジェシー

そこでユリアは我に返り、少し焦ったように手を動かした



ユリア:「あ、あぁ。ごめん……はい、取れた」



誤魔化すように頬笑み、隙間から足を引き抜いてやるとジェシーは満足そうに“サンキュー♪”と言って走り去っていった



ユリア:「さて、ボクも急がないと
「待て」



強く肩を掴まれて引き戻される

怒気を含んだ声とそのトーンの低さに背筋が凍った

ゆっくりと、できる限りゆっくりと振り向けばそこにあるのは金色のツンツン頭



クラウド:「ま・さ・か、手伝うよな?」


ユリア:「も…、もちろん!」



全身から、逃げようもんなら容赦しないと言わんばかりのオーラを醸し出すクラウド

……こ、怖い…


次々と襲い掛かるモンスター達を倒し、なんとか壱番魔晄炉を脱出した一行は街の中でしばらく自由に行動することになった

ユリアもその辺を散歩しようと思ったが目の前にクラウドが見え、そちらに歩み寄る



ユリア:「クラウド、どうした?」


クラウド:「…すごい騒ぎだな…」



街の様子を見回しながらクラウドがぽつり、と呟く

ユリアも辺りを見回して小さくため息を吐いた



ユリア:「そりゃあ魔晄炉が爆発すりゃ皆騒ぐだろ」



行き交う人々は皆、叫び、走りまわっている

道の中心に立っているユリア達にぶつかった人も何人かいたが、誰も何も気にしていない

と、そんな中に一人の女性が逃げる素振りも見せずに道に立っていた



ユリア:「?何してんだ?」


クラウド:「あれは…花を売っているみたいだな」



こんな街中で花売りなんて珍しい…

ユリアがそちらを見つめていると、女性と目が合い、相手はこちらに歩み寄ってきた



花売り:「ねぇ、何が起きてるの?」


ユリア:「…あまり気にしない方がいい。それより、花なんて珍しいな?」


花売り:「あ、これね。気に入ってくれた?1ギルなんだけど、どう?」



クラウドとユリアの顔を交互に見ながらニッコリと頬笑む花売り

ユリアは丁寧に断り、クラウドは暫らく考えた末に結局買っていた



花売り:「ありがとう!はい!」



花売りはクラウドに花を手渡すと、“私も避難、しなきゃね”と言ってにこやかに去っていった

花売りの姿を見送り、ユリアはクラウドの顔を見上げてニヤリと意地悪い笑みを浮かべた



ユリア:「その花、誰にあげるんだ?ティファ?マリン?」



片手に持った花を見つめるクラウドに面白半分で訊ねてみる

と、クラウドはこちらを向いて花を差し出した



クラウド:「ユリアにやる」



予想外の返答にユリアはポカンと花を見つめ、やがて我に返り、慌てふためいた



ユリア:「え、ボ、ボク!?なんで!?」


クラウド:「ユリアに似合うと思って」



そう言って花を手渡し、軽く頬笑む

その笑顔に不覚にもドキッとした

動揺を隠すために受け取った花を内ポケットに少し乱暴に突っ込む



ユリア:「い、いきなり何言うんだよ、クラウドは!」


クラウド:「照れてるのか?」


ユリア:「んな訳あるか!!」



赤くなった顔を見られたくなくて小走りになり、路地を曲がる

…激しく動揺していたからか、周りの気配に全く気づくことができなかった





(…──パァンッ!!)



ユリア:「っあ…!!」


クラウド:「ユリアッ!?」


兵士:「見つけたぞ!こっちだ!」



角を曲がった瞬間、正面から来た兵士に狙撃された

不意打ちだった事もあり、うまく避けきれなかった弾は二の腕をかするように抉っていった

当たり所が悪かったようであまりの強い痛みにユリアは傷口を抑えながら膝を着く

その間に銃声を聞きつけた多くの兵士達が集まり2人は簡単に囲まれてしまった



クラウド:「おい、立てるか?」


ユリア:「立てるけど…ちょっとつらいかも…」


クラウド:「ユリア…」



苦笑気味に返すとクラウドはこちらを心配そうに見つめる

そんな間にも、兵士達はじりじりと間合いを詰めてきていた



ユリア:「クラウドだけでも…逃げろ」


クラウド:「なに…?」



大きく見開かれた青色の瞳

それを真っすぐに見つめ、余裕があるように口角を上げてみせた



ユリア:「タークスなめんなよ?」



タークスに所属していたユリアにとって、こんな傷や敵に追い詰められた状況など慣れたものだ

どこか頼れる雰囲気を持ったユリアにクラウドは微かに頷いた



クラウド:「…元(もと)、な?」



そう言って軽く頬笑むとクラウドは高架下にひらりと飛び降りた

……ように見えた

実際は運良くきた列車の屋根に飛び乗ったのだ

兵士がクラウドに気を取られてる隙にユリアは静かにその場を離れる



兵士:「待って下さい!!」



逃げ出そうとしたユリアにいち早く気づいた兵士が慌てて呼び止める

なぜバレたのか…と頭をかきながらもユリアは大人しく立ち止まり、兵士達に向き直った

そこには先程のような攻撃的な空気はなく、困惑や戸惑いの様子が見られた



兵士:「ユリアさん、あの…我々と共に本社へ戻りましょう?」


ユリア:「いやだ」


兵士:「何故ですっ!?ユリアさんは実力もあるし…」



あっさりと拒否されたことにショックを受けたのか、兵士達の声が大きくなる

しかもなかなか諦めようとしないしつこさも重なり、ユリアの中で苛立ちが募った



兵士:「それに、社長からも気に入られていて
ユリア:「うるさいっ!!!!」



“社長”という単語にユリアの怒りは爆発した

突然の怒鳴り声に驚く兵士達

ユリアは怒りを鎮めようと大きく息を吐き出しながら兵士一人一人を睨みつけて呟いた



ユリア:「お前らなんかに…ボクの苦しみが分かってたまるか…」


兵士:「ユリアさん!!」



くるりと背を向けて走りだす

しばらくしてから後ろを振り返ったが、彼らは追ってこなかった

そんな様子を鼻で笑い、ゆっくりと走るスピードを落とす



ユリア:「っ!!う、…!」



立ち止まった瞬間、がくんと体中の力が抜けて道の真ん中に倒れこんでしまった



ユリア:「やば……血、足りないかも…」



弾が当たった二の腕を触ってみるとなんとも嫌な感触がした

出血も酷ければ傷口の状態も良くない…こんな状態で全力疾走したのだから当たり前なのだが…



ユリア:「やっぱり…元タークスなんだな…」



自分の力の及ば無さ、対応力の無さを痛感しながら自嘲する

だんだん気が遠退いていくのが分かった



ユリア:「…疲れた……寝よ、」



何の力にも逆らわずに自然に任せて目を閉じる

すごく、気分がよかった








気がつくと辺り一面が白色に包まれた世界にいた

どこまでも続いているその空間に未知の世界を想像する



ユリア:「ここが、天国…?」


『ユリア!』



聞き覚えのある声に辺りを見回す

が、誰の姿も見えない



『何しに来たんだよ…ったく、世話焼けるなぁ』


ユリア:「…、……っ!」



声の主に話しかけようとするがうまく声が出ない

なんで?もどかしい…!!



ユリア:「お…、っちゃ「はい、どうぞっ」…へ?」



突然、目の前の景色が変わった

…どうやらさっきのは夢だったらしい

落ち着いて自分の状況を確認すると、ふかふかのベッドに寝かされ、傷口には丁寧に包帯が巻いてあった

そしてベッドの横には茶髪の女性が座っている

その女性の顔には見覚えがあった



ユリア:「あれ?アンタは確か……花売りの…」


花売り:「うん、わたし、エアリス。…お茶、飲む?」


ユリア:「…っ、なんで…」


エアリス:「だって、寝言で“お、ちゃ……”って言ってるんだもん。飲みたいのかな?って」


ユリア:「そっちじゃなくて……いや、いい。…何でボクはここに?」


エアリス:「キミ、腕から血流して倒れてた。そんな人放っておけないよ」


ユリア:「…………」



助けてくれなくてもよかったのに、という思いが胸をよぎる

そうすれば今頃は…



エアリス:「ねぇ、お茶飲まないの?」



笑顔で顔を覗き込んでくるエアリスにユリアは軽く頬笑んだ



ユリア:「貰うよ、ありがとう」



ゆっくりと起き上がり、手渡されたお茶を一気に飲み干す

自分では気づかなかったがかなり喉が乾いていたようで、エアリスから貰ったお茶が体に染み渡っていくのが分かった



エアリス:「いえいえ。…ねぇ、キミの名前は?」


ユリア:「ボクはユリア。元、」

エアリス:「タークス、でしょ?」



変わらぬ笑顔で返され、思わず咳き込む

情報漏洩を疑ったが、神羅社員の個人情報は厳重に守られているはず…

善良に見える一般市民がどこで自分のことを知り得たのかと思いながら恐る恐る尋ねた



ユリア:「何で知ってるの?ボクの事…」


エアリス:「その服装。それに、名前だけ聞いた事あるの。彼らが言ってた」



“彼らって誰?”

そう聞こうとした瞬間、部屋のドアが開いた



エルミナ:「エアリス、教会に人が落ちてきたって……あら、目が覚めたのかい?」


ユリア:「あ、はい!ご迷惑をおかけして申し訳ありません、お世話になりました」



エルミナの方を見て深々と頭を下げる

するとエルミナは驚きに目を大きく見開き、何度か瞬いた



エルミナ:「おやおや。タークスの中にも礼儀正しい人はいるんだね」


エアリス:「お母さん、タークスに失礼よ?それにユリアは“元”タークスなんだから、ね」



腰に手を当て、エルミナを叱るエアリス

エルミナは“そりゃすまなかったね”と笑いながらユリアを見る

ユリアは気にしなくていいというように手を振り、ふと頭の中に湧いた疑問を口にした



ユリア:「2人ともタークスに詳しい感じだけど、何かあいつらと関わりがあるのか?なぁ、エアリス…」



そこまで言ってエルミナの顔が強ばったのが見え、ユリアは口を閉じた

その様子を見たエアリスはにっこりと頬笑む



エアリス:「ユリア、散歩してみない?…お母さん、教会に人、落ちてきたって言ってたよね?ちょっと様子見に行ってくるね」


エルミナ:「行ってらっしゃい。気を付けるんだよ?」



エアリスに優しく腕を引かれるようにして立ち上がり、そのまま家を出る

家の庭には綺麗な花畑が広がっていた



ユリア:「キレイ……」



自然と出た言葉に驚いて口を手で覆う



エアリス:「でしょ?帰ってきたら一緒に花摘み、しようね」



嬉しそうに話すエアリスとは対照的にユリアは暗い気持ちで満たされる

久しぶりに浮ついた気持ちを持ってしまった…もう忘れたと思っていたのに…

嫌悪感がぐるぐると自分の中で渦を巻く

そんな時にパッと明るい表情でエアリスが口を開いた




エアリス:「ユリア、古代種って知ってる?」


ユリア:「え?古代種?」



突然の質問に渦巻いていた感情は忘れ去られ、古代種の情報に置き換えられた

何の話か一瞬理解できなかったが、聞かれたことを頭の中で反芻してゆっくり答える



ユリア:「古代種についてはボクの担当じゃないから詳しくは分からないけど……とりあえず、保護しなくちゃいけないっていうのは聞いた事ある」


エアリス:「そう……」


ユリア:「なんでいきなりそんなことを?」



寧ろ、なぜエアリスが“古代種”というものを知っているのかが不思議だった

疑問だらけの話に首を傾げているとエアリスは屈託のない笑顔をこちらに向けた



エアリス:「わたし、古代種なんだ」


ユリア:「へぇ、エアリスが古代種………えぇっ!?」



突拍子もない暴露に変な声が出てしまった

でも確かにエアリスが古代種であればタークスの事を知っていてもおかしくないのだから、納得もする



エアリス:「別に“古代種だからどうこうしろ”とかそういう事を言いたいんじゃないの。ただ…ユリアには隠し事をしちゃいけないと思って……」



一瞬だけ見えたエアリスの寂しげな表情に不安が生まれる

心配そうに見つめるユリアにエアリスは笑みを向けた



エアリス:「なんか不思議だね!…さて、ここが教会。どんな人が落ちてきたのかな?」



静かに扉を開け、中を覗くと中央に小さな花畑があった

そしてその中心部分に人が倒れている

金髪で…頭がツンツンしてて…まるで……



ユリア:「クラウド…?」


エアリス:「知り合い?」


ユリア:「…たぶん」



小走りで花畑に歩み寄る

近づけば近づくほど、クラウドの姿がはっきりと見えてきた



ユリア:「クラウドだ…」



整った顔とその長い睫毛に見惚れながらもクラウドの頬を軽く叩く



ユリア:「もしも〜し?起きてますか〜?むしろ生きてますか〜?」



頬を叩いても反応が無い

上を見上げると、穴が空いた屋根と果てしなく上の方にプレートが見える

…あそこから落ちてきた、なんてことはないだろう…と信じたい

あんな高さから落下したのであれば命に関わる怪我をしていてもおかしくない

まさか……



ユリア:「おい、クラウド?生きてるよな?なぁ、起きろって、ば?!」



突然、腕を掴まれて引き寄せられる

その主はクラウドで、ユリアはそのまま彼の上に倒れこんだ



ユリア:「…何寝ぼけてんだよ…」


エアリス:「ふふ、ラブラブだね」


ユリア:「いや、どこが!」



どんなに藻掻いてもクラウドの腕は外れない

生きていることは分かったので強めのパンチで夢から覚ましてやろうと思っていると、寝言のようにクラウドが何か呟いた



クラウド:「………っ、」


ユリア:「ん?なんて?」


クラウド:「ユリア…」


ユリア:「……なに?」



その返事に反応してか、ゆっくりと目を開けるクラウド

暫らくボーッとしていたが、ユリアと目が合うと半分体を起こした



クラウド:「……何してるんだ?」


ユリア:「それはこっちの台詞。いつまで掴んでんだ?」



そう言って掴まれている腕を見せる

それをキョトンと見ていたクラウドだが、状況を理解すると慌てて手を離した



クラウド:「あ、いや、あの……すまない…」


ユリア:「気にしなくていいよ。それより、大丈夫か?どこから落ちてきたんだ?」


クラウド:「…伍番魔晄炉」



やっぱり上のプレートからか…

…たしか地上からプレートまでの高さって50mあるって聞いたような……

落下してくる距離を考えただけでゾッとするが、あんな高い場所から落ちても死なないなんてクラウドは不死身なのだろうか



エアリス:「屋根とお花、クッションになったみたい。……クラウド、だっけ?キミ、運いいね」


クラウド:「アンタ、花売りの……」


エアリス:「エアリスよ。覚えてる?」


クラウド:「あぁ、花を売ってたな。……悪かったな、花踏んで…」


エアリス:「うぅん、大丈夫。お花、強いから」



その場にしゃがみ、花を撫でるエアリス

ユリアもクラウドが踏んだ花を撫でてみると、少し花が元気になったような気がした



エアリス:「ねぇ、2人は何の仕事してるの?あの時も2人で居たよね?」



あの時、というのはエアリスと初めて会った時…壱番魔晄炉を爆破させた後のことだろう

真実を話すべきか迷っているとクラウドが口を開いた



クラウド:「……なんでも屋だ」


エアリス:「はぁ…、なんでも屋さん?」


クラウド:「なんでもやるのさ」



格好付けて言うクラウドに何言ってんだと突っ込みを入れたくなったがあながち間違ってはいないのかもしれない

星のために、爆破や殺し…なんでもやってしまうのだから

“なんでも屋”という言葉にクスクスと笑うエアリスに“なぜ笑う?”とクラウドは首を傾げる

そんな事を話していると、誰かがこちらに歩み寄ってくるのが見えた



エアリス:「ねぇ、なんでも屋のお二人さん。ボディーガードも仕事のうち?何でも屋さん、でしょ?」


ユリア:「……まぁ、そうだけど」


エアリス:「ここから連れ出して。家まで、連れてって」



必死な様子で頼むエアリス

それに疑問を抱いているとクラウドがすっ、と前に出た



クラウド:「お引き受けしましょう。しかし、安くはない」


ユリア:「おい、クラウド!!」


エアリス:「じゃあねぇ……デート、1回!」


クラウド:「はあ?」



あり得ないと言いたげなクラウドとユリアを交互に見てエアリスは肩を揺らして笑った



エアリス:「ふふふ、よろしくね?」



にっこりと頬笑むエアリスにクラウドは“いらない”というように手を横に振る

と、こちらに歩み寄ってきていた足音が止まった

そちらに向き直ると、赤髪を一つに結んでいる男と兵士が3人いた



クラウド:「どこの誰だか知らないが………」



そこまで言ってふと言葉を止める



クラウド:「知らない……?」



俺は、本当にこいつを知らないのか…?



───……知ってるよ



頭の中で声がする

…あぁ、そうだったな



クラウド:「そうだ……俺は知っている。その制服は…」

ユリア:「レノ…?」



クラウドの後ろにいたユリアが赤髪の男を呆然と見つめる



クラウド:「ユリアっ」


レノ:「ユリア?……ま、まさか…ユリア!?」



お互いの顔を確認するために、ユリアもレノも一歩ずつ前に出る

日の光に照らされ、相手の顔がよく見えた

ユリアが見たその姿は間違いなくタークスでの先輩、レノだった



レノ:「ユリア……なんでこんな所に…」


ユリア:「…どこに居たってボクの自由だろ?」


レノ:「…いいや、違うな。お前が居るべき場所は…俺の隣だぞ、と」


「「っ!?」」



まわりの空気が凍りついた

ユリアはあからさまに顔をしかめる



ユリア:「絶対、嫌だ」


レノ:「相変わらずつれないな。…まぁ、そこもいいんだがな、と」



めでたい思考回路に飽きれて盛大なため息を吐くと、クラウドが前に出た

さり気なく、片腕でユリアを隠すように立ちはだかる



クラウド:「何しに来た、神羅のイヌ…」


レノ:「お前か…ユリアを連れ去ったっていう悪党は!!」


クラウド:「違う!こいつが勝手についてきたんだ」


レノ:「俺は騙されないぞ、と」



二人の間で見えない火花がバチバチと散る

居たたまれなくなったユリアはクラウドの後ろから口を挟んだ



ユリア:「なぁ、レノ達はエアリスを連れ去りに来たんだろ?」


レノ:「あぁ。その通りだぞ、と」



思い出したようにレノが後ろにいた兵士たちに手で合図をする

それに合わせて兵士が銃を構えようとすると、



エアリス:「ここで戦ってほしくない!お花、踏まないでほしいの!」



そう言ってエアリスはさっさと奥の部屋へと駆けていく

クラウドも追うようにして走っていき、ユリアも奥へと歩き出そうとした



レノ:「ユリア!」



突然呼び止められ、振り返る

レノはいつものような明るい感じではなく、少し哀しげな顔をしていた



レノ:「お前、タークスに戻る気はないのか?」


ユリア:「……今は、ないよ」



はっきりと“戻る気なんか無い!!”とは言えなかった

…なんで、ボクまで胸が苦しくなるのさ…



レノ:「お前とは戦いたくないんだぞ、と」



やめてよ…そんなの、ボクだって……

これ以上何も聞かないためにレノに背中を向けて歩く



レノ:「ユリア!!」



バカ、もう遅いんだって…



ユリア:「花!踏むなよ!!」



それだけ言って奥の部屋へと走った



その後、なんとかレノ達をかわして教会の外へと逃げ出す

屋根に空いた穴から中の様子を覗き込むクラウドとエアリス



エアリス:「ふふふ…、まだ探してるね」


クラウド:「ユリア?どうした?」


ユリア:「っ!!な、なんでもない!気にするなっ」



明らかに挙動不審かつ顔色が悪いユリアに首を傾げながらもクラウドはエアリスに向き直った



クラウド:「初めてじゃないな?やつらが襲ってきたのは」


エアリス:「……まぁ、ね」


ユリア:「だからタークスのことも詳しかったのか…」


クラウド:「でも、どうしてアンタが狙われる?何かわけがあるんだろ?」



そう問いかけるクラウドにエアリスは考えるような素振りを見せる

自分にはあっさりと“古代種だから”と暴露したがクラウドにはしないのか…



エアリス:「あ、わたしソルジャーの素質あるのかも!」


ユリア:「…いや、エアリス?
クラウド:「そうかもな。なりたいのか?」



勝手に盛り上がる2人にユリアは溜め息を吐く

もう、勝手にしてくれ…


ひょいひょいと屋根を飛び移っていくクラウドにエアリスも続く

が、一般人と元ソルジャーの運動神経の差は歴然で、どんどん間が開いていく



ユリア:「エアリス、無理するなよ?ゆっくりでいいんだからな?」


エアリス:「うんっ、大丈…夫…」



あーあー、息切れしてるじゃんか…

ユリアは遥か先を行くクラウドに向かって声を上げた



ユリア:「おーい、クラウドー!!ちょっと待ってろー!」



聞こえていたらしく、しばらく進むとクラウドが待っていた

やっと追い付くとエアリスは膝に手をついて肩で息をする



クラウド:「おかしいな。ソルジャーの素質があるんじゃなかったのか?」


エアリス:「もう!いじわる!」


ユリア:「そうだ!エアリス、言ってやれ!」



誰からでもなく3人で笑い合う

まだ出会って間もないのに、エアリスには不思議と心を許してしまえる

と、ふいにエアリスがクラウドの顔を覗き込んだ



エアリス:「ねぇ……クラウド。あなた、もしかして…ソルジャー?」


ユリア:「っ!!」


クラウド:「……元ソルジャーだ。どうして分かった?」


エアリス:「…あなたのその目。その不思議な輝き…」


クラウド:「そう、これは魔晄を浴びた者…ソルジャーの証。だが、どうしてアンタがそれを?」


エアリス:「……ちょっと、ね」


クラウド:「ちょっと…?」


エアリス:「そ、ちょっと!さ、行きましょ!ボディーガードさんっ」



あまり深く語らずに先に進む事を促すエアリス

……本当に、どうしてエアリスはこんなに詳しく知っているんだろう…


そんなこんなでエアリスの家へと着くと、家ではエルミナが出迎えてくれた

エルミナに、クラウドはボディーガードだと紹介すると目を見開いた



エルミナ:「ボディーガードって……お前、また狙われたのかい!?体は!?ケガはないのかい!?」


エアリス:「大丈夫。今日はクラウドもユリアもいてくれたし」



心配そうな表情を浮かべていたエルミナも、エアリスが力強く頷くとホッと胸を撫で下ろした



エルミナ:「ありがとうね、クラウドさん、ユリアさん」



そう言ってエルミナは2階へ上がっていく

それを見送り、エアリスはクラウドとユリアに向き直った



エアリス:「ねぇ、これからどうするの?」


クラウド:「…七番街は遠いのか?ティファの店に行きたいんだ」


エアリス:「ティファって…女の人?」


ユリア:「あぁ」



目をぱちぱちさせるエアリスにユリアが頷く

と、ふいにエアリスはニヤリと笑ってクラウドの顔を覗き込んだ



エアリス:「…彼女?」


クラウド:「彼女?そんなんじゃない!」



勢いよく首を横に振るクラウドにエアリスはクスクス笑う



エアリス:「ふふふ、そ〜んなにムキにならなくてもいいと思うけど!…でも、まぁ、いっか。七番街だよね?わたしが案内してあげる」



任せろ、と言わんばかりの発言に驚いたのはクラウドだった



クラウド:「冗談じゃない。また危ない目にあったらどうするんだ?」


エアリス:「慣れてるわ」


ユリア:「慣れてるって…」



あまりにもケロッとした表情で答えるものだからなんだか力が抜ける…

クラウドはその返事にも眉間に皺を寄せる



クラウド:「…まぁ、慣れてるにしても女の力を借りるなんて……」



その一言に部屋に稲光が見えた

同時に鋭い眼差しが2人分、クラウドを突き刺す



ユリア:「は〜ん、なるほど。クラウドは“女なんぞに何ができるんだ”と言いたいんだな?」


クラウド:「あ…、違
エアリス:「そういう言い方されて黙ってるわけにはいかないわね。…お母さん!わたし、七番街までクラウド達を送っていくから」



2階に向かってそう呼び掛けると、エルミナは降りてきて“今日はもう遅くなってきたから明日にしたら?”と提案した

それにエアリスは頷くと、ユリアに頬笑みかける



エアリス:「ユリア、花摘みに行こっか!」


ユリア:「あ、おう」



決して広いとは言えない花畑だけど、咲いている花はどれもキレイで

ふと、その中からクラウドに貰った花を見つけた

そう言えば……あの花、兵士達から逃げる途中に落とした気がする…

目の前に咲いているその花を優しく摘み取ってエアリスに持っていく



ユリア:「エアリス、押し花ってできるか?」


エアリス:「うん、できるよ?……あ、その花ってクラウドが買ってくれたやつだ。へ〜、ユリアにあげたんだ?」


ユリア:「うん。けど、あの花落としちゃってさ。せっかくくれたのに失礼かなって…それで…」


エアリス:「分かった分かった。おいで?」



差し出された手をそっ、と握る

心地よい暖かさだった

どこか懐かしさも感じさせる、エアリスの雰囲気

きっと、姉がいたらこんな感じなのだろう…



エアリス:「出来上がり〜!」


ユリア:「うわぁ…ありがとう!!」


エアリス:「どういたしましてっ」


ユリア:「これで失くさないな…」



エアリスは“もう落としたりしないように”ということで押し花のしおりを作ってくれた

それを嬉しそうに見つめるユリアをエアリスは頬笑みながら見守る

すると、いきなり口を開いた



エアリス:「ユリア、ボクって言うのやめたら?」


ユリア:「……え?」


エアリス:「今すぐに、とは言わないけど。わたしと二人の時ぐらいは女の子っぽくしてほしい、かな」


ユリア:「な、なんで急に……」


エアリス:「だって、ユリア可愛いもん。勿体ないよ?」


ユリア:「……努力…するよ…」


エアリス:「お願いね!さて、クラウドのベッドの用意しなきゃ」


ユリア:「お……うん!」



その後もエアリスとはいろんな事を話した

タークスの事、レノの事、ティファの事……

主にレノの悪口だった気がしなくもないが、エアリスは楽しそうに聞いてくれた

ずっと…こうして話していられたら……







エアリス:「……、…ユリア、起きて?」


ユリア:「……ん?」



いつの間に眠ってしまっていたのだろうか

エアリスに揺すられ、体を起こす



ユリア:「…どうしたの?」


エアリス:「おはよ。ね、ついてきて?」



黙ってついていくと、そこは六番街へと続く入り口だった



ユリア:「こんな所で何するの?」


エアリス:「もうすぐ来るはず……あ、来た!!」



指差す方向を見ると、こちらを見て驚いている男性



ユリア:「クラウド!?」


エアリス:「お早い出発、ね?」


クラウド:「危険だと分かっているのにアンタに頼るわけにはいかないさ」


エアリス:「言いたいことはそれだけ?」



腰に手を当てて睨むエアリスにクラウドは困ったように頭を掻く

と、エアリスは大きなため息を吐いた



エアリス:「ティファさんのいるセブンスヘブンはこの先のスラム六番街を通らないといけないの。案内してあげる。さ、行きましょ!」



そう言って走りだすエアリス

それを見て、クラウドは軽くため息を吐いた



ユリア:「…なぁ、クラウド?何でボクも置いてこうとしたんだよ」


クラウド:「いや、ユリアにはちゃんと連絡するつもりだった」


ユリア:「ホントか?」


クラウド:「あぁ」



力強く頷くクラウドに嘘偽りを感じなかったため、心から安堵した



ユリア:「よかった…」



もう、置いていかれるのは

嫌だから……





01 終