小説 | ナノ



06
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無事にティファとバレットと合流して改めて作戦の確認を行う

今回の作戦は『プランE』と命名されていて、線路沿いに歩いていくものの駅には行かず、直接魔晄炉まで行くというものだった

なかなかの長距離移動にユリアは途中で顔をしかめたがバレットは至って上機嫌だった



バレット:「プランE、なかなかいい感じじゃねえの!」


ユリア:「ボクは全然そう思わない…」


バレット:「あぁそうかよ!お前はどうだ?元ソルジャーさんよ?」


クラウド:「ビッグスが考えたんだろ?」



ふいに投げかけられた言葉に、先を歩いていたクラウドは顔を少しだけ振り向かせて答える

と、バレットは得意げに胸を張った



バレット:「オレの意見も入ってるぜ?」


ユリア:「え………」



クラウドとユリアの表情が同時に引きつる

冷静頭脳派なビッグスが作戦の考案者だとばかり思っていたが…熱血肉体派のバレットの案も入っているとなると話は変わる

クラウドはそっと前を向いてゆっくりと頷くと真剣な声色で呟いた



クラウド:「…慎重に進もう」


バレット:「どういう意味だそりゃ」



そんなやり取りをしながらも螺旋トンネルを進み、迷路のような四番街プレート内部を抜けてビッグスとのランデブーポイントへ向かう

電力不足だったメインリフトを再起動させ、全員で乗り込むとティファは不思議そうに首を傾げた



ティファ:「派手に暴れたのに誰も追ってこないね」


ユリア:「でもたくさん兵器は送り込んできてただろ?」


クラウド:「ミッドガルは神羅の手の内だ。監視はされていただろう」



クラウドが呟くとティファは驚いたようにこちらを振り返った



ティファ:「二人とも気づいてたなら言ってよ!」


ユリア:「いや、知ってるものだと思ってたから…」



神羅の所有する監視カメラの数は膨大だ

本社のビル周辺はもちろんのこと、市街地やプレート内部など至る所に設置されていると聞いたことがある

全部を管理しきれているのかは疑問だけれど…兵器を寄越して来たりするぐらいなのだから今のところは監視の真っ只中といったところだろう

…こちらの計画まではバレてないといいけど


リフトを降りてしばらく進むと無事にビッグスと落ち合うことができた

が、クラウドは人の気配を察してか、部屋に足を踏み入れた瞬間に剣を振るって見事にビッグスの首スレスレに剣を当て、ビッグスも人が来る気配は察知していたもののクラウドのスピードには勝てず、両手を上げて降参のポーズをしての再会だった



ビッグス:「降参っ!…てか、クラウド?ユリアまで!」



当初の計画にいなかったはずの二人の顔を確認するとビッグスは驚いたように目を瞬く

首を傾げながら“ジェシーとウェッジは?”と問うが後から来たバレットがそれを遮った



バレット:「どんな感じだ?」


ビッグス:「犯人グループが列車から飛び降りたって、上は大騒ぎ。おかげでここは静かでな、魔晄炉へのルートは確保済みよ」



そう言って壁に空いたダクトを指してニッと笑うと、ビッグスはバレットからの感謝のハグを華麗に避け、ティファに向き直った



ビッグス:「で?あとの二人は?」


ティファ:「ジェシーがね、ケガをしちゃって」


ビッグス:「ひどいのか?」


バレット:「口数は減ってねぇ。大丈夫だ」



ケガと聞いて表情を強張らせたビッグスだったがバレットの言葉にホッと息を吐く

そうしてクラウドとユリアに顔を向けると小さく微笑んだ



ビッグス:「世話になるな」


クラウド:「仕事だ」


ユリア:「気にするなって!」



親指を立てて笑うユリアにビッグスは少し驚いたように目を見開いた



ビッグス:「お、何でも屋コンビ復活か?」


ユリア:「うん!また二人で頑張ろうって決めたんだ」


ビッグス:「へぇ〜、そうか」



何やらニヤニヤとした笑顔でクラウドとユリアを見比べるとうんうんと頷き、なぜかクラウドの肩だけ叩くビッグス



ビッグス:「ま、頑張れよっ」


クラウド:「……」



応援とも冷やかしとも取れる言い方にクラウドの眉間に軽く皺が寄るが、ビッグスは気付かないフリをしてバレットたちの方へ話をしに行った

その背中とクラウドの顔を交互に見ながらユリアは頭に“?”を浮かべる



ユリア:「クラウドは頑張らなきゃいけないのか?」


クラウド:「ユリア、その話はやめておこう」


ユリア:「えっ、なん」
クラウド:「なんでもだ」



一切目は合わないが強い口調で押し切られ、渋々了承する

…最近こういうパターン多い気がするなぁ



ティファ:「みんなのこと、お願い」


ビッグス:「おうよっ」



ティファに補給物資と脱出用のワイヤーリールを渡すとビッグスは下へと降りていった

ここでビッグスとは一旦解散となる

次に会うのは……無事に作戦を終えて七番街スラムに帰ったとき



バレット:「よし、オレたちもワイヤーの装備だ。落とさねえようにしっかりくくりつけとけよ?作戦が終わったらこいつで一気に下まで降りる」



そう言ってバレットは魔晄炉へとつながるダクトを見つめる

ここから先は、神羅の中心部だ

今までのようには進めないかもしれない

…それでも先に進まなくてはいけない



バレット:「生きて帰んぞ」


クラウド:「当然だ」


ティファ:「うんっ」


ユリア:「もちろん!」



各々が覚悟を決めた顔で頷く

それを確認してニヤリと笑うバレットを先頭に順々にダクトの中に入っていった



ダクトを抜けるとそこは完全に魔晄炉の内部だった

場所の把握をしようとユリアがあたりを見回しているとバレットが歩み寄ってきて隣に立つ



バレット:「構造は壱番と同じようなもんだろ?」


ユリア:「そうだな、魔晄だまりは近いと思う」


バレット:「おっし、そんじゃ行こうぜ」



そう言って先を歩くバレットの背中をユリアはじっと見つめる

作戦中はたいていいつも先陣を切って歩いてくれている

それが…リーダーとしての役割…



―――さて。お仕事だぞ、と



ユリア:「あ……」


クラウド:「どうした?」



思わず漏れた声にクラウドがこちらを振り返る

“なんでもないっ”と慌てて首を振って誤魔化すとユリアは小さく溜め息を吐いた

どうして今アイツの顔を思い出してしまったのか…

頭の片隅にちらつく赤毛をさらに隅に追いやっていると、バレットとティファが下への降り口を見つけたという声が聞こえてきた



バレット:「おっ、こりゃいいな」


ユリア:「どれどれ?どこから降り、」



瞬間、ユリアの体が強張る

目の前には、柵に足をかけて下を覗き込んでいるティファ

なんだ?今日は飛び降りる日なのか?厄日でしかないな?



ユリア:「悪いけど、ボクは違うところから降りるよ…」


バレット:「そうか?意外と足場もしっかりしてそうだぜ?」


ユリア:「…足場?」



バレットの言葉におそるおそるティファの視線の先を覗き込んでみると、たしかに太いパイプが下り坂のように伸びている

なるほど、ここを滑り降りていくってわけか



ティファ:「私、先に行って見てくるね」



そう言ってティファは軽々と柵を飛び越えるとパイプを滑り降りていった

バレットも“先行くぜ”と続いて降り、ティファの小さな悲鳴とバレットの楽しむような絶叫が反響した

ユリアも続こうと柵に足をかけると、ふいに腕を引かれる

何事かと振り返ると驚いた表情のクラウドと目が合った



ユリア:「どうした?」


クラウド:「あ、いや…滑れる、のか?」


ユリア:「あぁ、うん。ちょっと高いけど…足場があれば怖くないんだ」


クラウド:「そうか…」


ユリア:「?」



心なしか残念そうな表情で手を離したクラウドに首を傾げながらもユリアはひょいと柵を乗り越えてパイプの上を滑り降りた

下の階には充電中と思われる巨大な神羅兵器が佇んでおり、バレットが興奮気味にそれを眺めている

後から降りてきたクラウドが最新鋭の神羅兵器について説明しているのを横目に通り過ぎると、少し先でティファがキョロキョロとあたりを見回していた



ユリア:「ティファ?どうかしたか?」


ティファ:「…静かすぎない?」



真剣な表情でそう言ったティファの声は固い

たしかに、ここは神羅の所有する施設の中だというのにそれを忘れそうになるほど静かで、誰もいない

壱番魔晄炉の時は頻繁に兵器や警備兵と遭遇していたのだが今は敵の気配さえ感じられない



ユリア:「ビッグスは警備が四番に集中してるって言ってただろ?だからこっちは手薄なんじゃないか?」


ティファ:「そっか…うん、たしかにね」



ユリアの言葉にティファは納得したように小さく頷く

が、ユリア自身は自分の言葉に納得できずにいた

神羅がこんな簡単に侵入を許すだろうか…?

油断させて気が緩んだ時に…もしかしたら
クラウド:「ユリア」


ユリア:「ぅわっ?!」



突然背後から声をかけられ、思わず大声をあげる

慌てて振り返ると、まさかこんなに驚かれると思っていなかったのか目を軽く見開いているクラウドがいた



クラウド:「どうしたんだ?」


ユリア:「それはこっちのセリフだっつの…何の用だよ?」


クラウド:「着いたぞ」


ユリア:「え?」



クラウドの視線の先を見ると、そこにはつい先日見たばかりの魔晄炉の炉心があった

ぼんやりしながら歩いていたようで炉心はブリッジを渡ったすぐ先にある

…だが、ここまでこうして考え事をしながら歩いていられるほどなんの音沙汰もないのはやっぱりおかしい

再び考え込み始めたユリアに首を傾げながらクラウドは先を歩いた



クラウド:「先に行くぞ」


ユリア:「あ、待ってよ!」



慌ててクラウドの背中を追いかけると、ふいにクラウドがぴたりと歩みを止めた



ユリア:「え?!ちょ、んぶっ!」



勢いあまってクラウドの背中に激突し、強かに鼻をぶつける

止まるなら止まる素振りを見せるということを世の常識にしてもらいたい

痛む鼻をさすりながら文句を言おうとクラウドの顔を覗き込む



ユリア:「おい、クラウド。ボクの鼻がつぶれたらどうしてくれ、る…?」


クラウド:「………っ、…ぁ……」


ユリア:「…クラウド?」



きつく閉じられた瞳、苦しげに寄せられた眉、耐えるように頭を押さえている手、次第に荒くある息

全てが異常事態を知らせていた



ユリア:「だ、大丈夫か?しっかりしろよ、クラウド…クラウドっ!」



その声に反応して先を歩いていたティファとバレットがこちらに駆け寄ってくる



ティファ:「なに?どうしたの?」


ユリア:「クラウドが…っ、なんか、つらそうで…」



軽く揺さぶってみても声をかけても返答はない

ただ苦しそうに呻いて、痛むのであろう頭を強く押さえて耐えている姿はあまりに痛々しい

…こういうとき、自分の無力さを痛感する

どうすればいいのかと焦っているとバレットがすぅっと息を吸い込んだ



バレット:「おい!しっかりしろ!」



その声にクラウドの目がハッと開かれる

困惑するように揺れている瞳はゆっくりと目の前にいる人物を捉えた



クラウド:「ティファ…?」


ティファ:「ん?」



顔を覗き込むようにして屈んでいるティファをクラウドはじっと見つめる

が、すぐに目を逸らすとなんでもないという風に首を振った



ティファ:「大丈夫?」


クラウド:「…あぁ」


バレット:「ったく、人騒がせな野郎だぜっ」



クラウドの反応に安心したのかティファとバレットは再び先に歩き出し、クラウドもそれに続く



ユリア:「…クラウド…」



小さく呟いてみるも彼に届くはずもなく、その背中は自分から離れていく

クラウドはボクのことを仲間だと言ってくれているけど…たまに怖くなることがある

今のようにまるで……

まるで、ボクはそこにいないかのような…
―――「はい、どうぞっ」



ユリア:「…え?」



突然聞こえてきた声に辺りを見回す

が、当然まわりには誰もいない

でも、たしかに聞こえて
―――「キミ、腕から血、流して倒れてた。そんな人放っておけないよ」
―――「ねぇ、お茶飲まないの?」



流れてくる声に思わず耳を塞ぐ

自分の心臓がバクバクと脈打っているのがうるさいほど聞こえてくる

…今の声はいったい…?

聞き覚えのあるようなないような声に余計に頭が混乱する

どういう事だろう…あの声の正体は誰なんだろう…

どうしてボクはここにいるんだろう…


ボクは、誰なんだろう……



バレット:「ユリアっ!お前もボサッとしてんじゃねえぞ!」



離れたところから聞こえた怒声に我に返る

少し先にいるバレット、ティファ、クラウドは足を止めてこちらを振り向いていた



バレット:「ったくよぉ…元神羅の連中ってのは立ち止まって考えることが好きなのか?」


ティファ:「考え事は、作戦終わってからにしよ?」



あきれたように腕組みをしているバレットと、こちらに微笑みかけているティファ



クラウド:「ユリア、行こう」



まっすぐ見つめて頷くクラウド

三人の顔を見回すと自然と気持ちが落ち着いていった

そうだ、大丈夫

何も不安に思うことはない

ボクはボクのやるべきことをやらなくちゃ



ユリア:「ごめん、今行く!」




慌てたように駆け寄ると、炉心はもう目と鼻の先だった

クラウドはバレットから爆弾を受け取るとそれをセットし、操作する



クラウド:「タイマーは何分だ?」


バレット:「何分でもいいぜ?」



余裕のある笑みを浮かべるバレットにクラウドと、その後ろで聞いていたユリアは頭にはてなを浮かべた



ユリア:「どういう事だ?」


ティファ:「実はね…、これ」



そう言ってポケットから取り出したものは何かのスイッチのようだった

それと爆弾を結びつけ、ユリアは納得したよう頷く



ユリア:「あぁ、リモートスイッチ式ってことか」



これなら爆破の制限時間に追われて慌てて脱出する必要もない

前回の時は本当に…敵の数のわりに時間があまりなかったからな…

今回は余裕をもって脱出できそうで何よりだな



ティファ:「うん。ジェシーが作ってくれたの」


バレット:「安全圏まで離れてから、ポチッ…ドッカーン!っははは!」


クラウド:「安全圏?」



上機嫌に笑っていたバレットだが、クラウドからの冷静な指摘に笑みを引っ込める

ここが敵地であることを一瞬忘れていたのかバレットは“ねえか、そんなもん”と苦笑気味に呟いた



バレット:「っよし、脱出ポイントは正面口だ。来た道戻るぞ」



その声に従い、炉心に背を向けてブリッジを渡り、ここまで降りてきたはしごに向かう

…やっぱり絶対におかしい

先頭を歩きながらユリアはまた考え込んでいた

爆弾をセットし終わってもなお、なんの動きもない

神羅がここまで傍観を貫くはずがないし、黙ってやられっぱなしでいるわけもない

必ずどこかで仕掛けてくるに決まってる

…あの社長は、そういうやつだ

沸々と沸き起こる怒りを抑え込みながらはしごに手をかけようとした

瞬間だった



ユリア:「うわっ!」



急に手が空を切り、思わずバランスを崩しかける

何事かとはしごを見やると、あるべき場所にその姿はなかった



ユリア:「え、」

ティファ:「あ!」


バレット:「待て、待て!」



上を見上げて叫ぶ二人に倣って視線を向けると、全てのはしごが自動で畳まれていくところだった

上へと続くはしごはここ以外にはない

だが、それが“脱出しようとしたタイミングで畳まれてしまった”のだ

まるで、見計らったかのように



クラウド:「タイミングが良すぎる」


ユリア:「だよな…。やっぱり監視されてるってことか?」



警戒するようにあたりを見回していると、ふいに奥の通用口のドアが開いた

そこから滑り込むように4基の兵器が入り込んでくる

兵器はこちらのまわりを旋回するように飛び回るとそれぞれ四方に飛び、巨大なホログラムを映し出した



「ガハハハハ!薄汚いネズミども、よく来たな!」


ユリア:「っ!」



空中に浮かび上がった人物の声にユリアは勢いよく顔を上げる

この特徴的な笑い方には聞き覚えがあった

自然と眉間に力が入る



ハイデッカー:「“戦意扇動広報作戦”を指揮する、神羅カンパニー治安維持部門統括、ハイデッカーだ」



自己紹介をしながら仰々しくお辞儀をする姿にバレットは首を傾げた



バレット:「軍の大将か?」


ユリア:「あぁ。警備兵や兵器をバカみたいに送り込んできてたのは全部こいつの命令、こいつが軍の指揮官だ。それと……ソルジャーやタークスの管理もしてる」


バレット:「お前らの上司ってことか


ユリア:「名目上な。直接的な指示をボクは受けたことがない」



以前に何かの任務でタークスの指揮を執っているのを見たことがあったが、それはひどいものだった

神羅役員の中で古参だからと胡坐をかいていて、軍を出動させることしか考えていない…はっきり言って無能だ

ホログラムを睨みつけたまま答えるユリアにハイデッカーは笑みを深めた



ハイデッカー:「紹介に感謝しよう。まずは喜ぶがいい。貴様らの悪行はミッドガル中に放送されているぞ」



そう言って手で指し示したところにモニターが出現する

そこには神羅が監修しているニュース番組が映し出され、番組内ではバレットを先頭に自分たちが壱番魔晄炉内に侵入した時の映像が流されていた



ティファ:「なに、これ…?」


アナウンサー『伍番街魔晄炉からの中継です。神羅カンパニーは魔晄炉の爆破予告を分析し、爆破の対象を伍番と特定。施設内にて実行犯を発見し、現在追跡および爆発物の探索にあたっています。…続いて、各地の反応です』



アナウンサーの言葉にカメラが切り替わり、スラム街が映し出される

そこは喧騒に包まれていて、市民に囲まれたレポーターが厳かに話し出した



レポーター『はい、こちら伍番街スラムです。爆破対象の特定報告を受けて、神羅カンパニー危機対策本部からの避難勧告が通達されました』



レポーターの近くでは困惑して騒いでいる人や、取っ組み合いを始める人たちの姿が多く見られる

…不自然なぐらいに、多い



レポーター『壱番魔晄炉爆破事件に続く、連続爆破実行犯の非道な犯行に非難の声が巻き起こっています』


アナウンサー『プレジデント神羅は、市民の暮らしを侵す脅威を断固排除すると宣言しています』



そこでモニターは消えた

これはミッドガル中に流されている番組だ

その中で魔晄炉侵入から爆弾セットまでの一部始終、全てを放送された

いったいどれだけの市民が見ているのか…

これでは市民の不安を煽るだけで………



ユリア:「なるほど…ほんっと、やってくれたよな…」


ティファ:「どういうこと?」


ユリア:「市民の生活を脅かす悪者を神羅が成敗する、市民は神羅に感謝する、そんな神羅の支持率アップも兼ねたパフォーマンス。ぜーんぶ、神羅の罠だってこと」


ティファ:「ひどい!」



怒りをあらわにするティファだがハイデッカーは変わらずに不敵な笑みを浮かべている



ハイデッカー:「さあ、不満をため込んだ市民にとびきりの娯楽を提供してもらおう。クライマックスは……」



そう言って合図を出すとまた新たにホログラムが現れた

そこに映し出されていたのは、伍番魔晄炉に侵入した時に目にした充電中の巨大な神羅兵器



バレット:「デカブツ!?」


ハイデッカー:「我が社の誇る、最新鋭の大型機動兵エアバスターによる公開制裁だ!」



ホログラムのエアバスターがこちらに向きなおったかと思うと、急にビームを発した

疑似映像だと分かっていても思わず身構えてしまう

その姿にハイデッカーは愉快そうに笑い声をあげた

と、ハイデッカーのホログラムから別の音声が聞こえてきた



「整備班から報告です!エアバスターの整備進捗は現在60%。想定より遅延しています」


ハイデッカー:「っ撮影中だ!」



乱暴に言うとホログラムの映像がぷつんと切れる

次いで魔晄炉内に館内放送が響き渡った



ハイデッカー≪館内の警備担当に通達!侵入者をすみやかに捕獲し、ブリッジに連行しろ!≫


戦闘員:「大人しくしろ!」



放送とほぼ同時に戦闘員が駆け込んでくる

それと対峙しながらもハイデッカーの指令は続く



ハイデッカー≪くりかえす、館内にいる警備担当に通達!侵入者をすみやかに捕獲し、ブリッジに連行しろ!警備班はエアバスターを早急に仕上げろ!≫


ユリア:「仕上げろって……」



まだエアバスターは完璧じゃないうえに、ここで整備してるってことか?

戦闘員にとどめの一撃を撃ち込み、倒れたのを確認するとユリアはバレットたちに駆け寄る

バレットは延々と流されるハイデッカーの指令にイライラしているようでスピーカーをキッと睨み上げていた



ティファ:「このままじゃ神羅の思うつぼってことだよね」


バレット:「ああ。やつら、好きなようにニュースを捏造するぞ」


ティファ:「…くやしい」



きゅっと唇を噛んで俯くティファにバレットは力強く首を振った



バレット:「いやいやいやいや、そうは行くかよ!公開制裁っていうなら、あのデカブツをぶっ壊して神羅に赤っ恥かかせてやろうぜ!」


クラウド:「あぁ、悪くない」



クラウドも同意見のようで真剣な表情で頷くと、気を持ち直したのかティファの表情が少し和らいだ



ティファ:「それで、ここからどうする?」


ユリア:「そうだな…上には行けないし、このまま真っすぐ進んで整備区画を抜けよう。途中で整備中のエアバスターに会えるかもな」


バレット:「整備中のデカブツ?」


ユリア:「うん。さっきのハイデッカーの様子からするとエアバスターはまだ不完全。だからボクたちで整備の邪魔をして…」


クラウド:「整備不良に持ち込むってことか」


ユリア:「その通り!」



言葉を継いでくれたクラウドに拍手で感謝する

整備不良であればエアバスターも本来の威力を発揮できずに不発となる可能性が高い

そうすれば倒せる見込みは十分ある



ティファ:「なるほど!勝算あり?」


バレット:「へっへっへ、邪魔してやろうぜ」



こちらの計画に乗り気になったようでティファはウキウキと、バレットは意地の悪い笑みを浮かべている



ユリア:「じゃ、行きますか」



腕をぐるりと回して整備区画へとつながるドアを開く

やけに張り切っているユリアに驚きながらもクラウドたちはその背中についていく

ユリアの表情が怨恨に満ちていることなど、誰にも分からなかった







バレット:「何があろうと、オレたちはセブンスヘブンに返る。必ずだ。絶対だ」



今は整備区画を抜け、作業通路に設置されていたエレベーターで地上に向かっている

各フロアの整備室を襲撃して整備の邪魔をしたのでエアバスターはだいぶ弱体化したはずだ

残るミッションはエアバスターを倒すことと、その後に爆弾のスイッチを押すことのみ

エアバスターが待ち受けているであろうブリッジはエレベーターを降りたらもうすぐそこだった



ティファ:「うん。マリンに『ただいま』って言おう。もちろん、クラウドと#NAME1##も一緒に。ね?」


バレット:「スマ〜イルを忘れるな?」



そう言ってこちらを覗き込む二人の表情は明るい

クラウドは俯けていた顔を上げ、二人を見やった



クラウド:「報酬次第だな」



もはや口癖のようなその言葉は、今までのような冷たい言い方ではない

柔らかく穏やかな口調にバレットは小さく微笑み、ユリアは目を見開いた



ユリア:「クラウド…やればできるじゃんっ!」


クラウド:「…何がだ」



喜びに任せてクラウドの肩を叩いているとエレベーターが目的階に到着したことを知らせる

バレット、ティファと降り、クラウドに続いてユリアもエレベーターを降りると前にある背中に小さく呼びかけてみた



ユリア:「…クラウド…」



ぽつり、と呟くような声に自分でも苦笑する

何をそんなに怯えているのだろう

こんな小さな声では何も届くはずが
クラウド:「どうした?」


ユリア:「っえ!!」



突然振り向いたクラウドに思わず変な声が出る

そんなまさか、聞こえたっていうのか?あの声量で?

驚きのあまり呆然としているユリアにクラウドは不思議そうに首を傾げた



クラウド:「今、俺のことを呼ばなかったか?」


ユリア:「よ、呼んだ…けど…」


クラウド:「何か用だったか?」


ユリア:「あ、と…その…」



こちらをじっと見つめる青い瞳から逃れるようにそっと目を逸らしながら思考を巡らせる

考えろ…考えろユリア…不自然ではない言い訳を考えるんだ…!

何やら呻いているユリアにクラウドの眉が軽く寄せられる



クラウド:「おい、どうし」
ユリア:「ど、どのぐらいの声で呼んだら聞こえるかな〜なんて…実験してた…かな?あはっ」



しん、と辺りが静まり返ったような気がした

やめてくれこの空気、居たたまれない…!

笑顔を貼りつけたままユリアが心の中でブルブル震えていると、ふとクラウドの目が優しく細められた



クラウド:「面白いことを考えるな、ユリアは」


ユリア:「あ、あはは…」



よかった怒られるわけではなさそう…

ひとまず安堵の息を吐いていると、ふいに頭にぽんと何かが乗った

それは何度かユリアの頭を優しく叩く



クラウド:「どんなに小さな声でも、ユリアに呼ばれたら駆けつける。安心しろ」


ユリア:「え、あ、クラウド…?」



自分の頭に乗せられているそれは、クラウドの手

どこから反応するべきかとおろおろしていると頭から重みは去り、代わりにフッという笑い声が降ってきた



クラウド:「すまない。慌てているユリアが珍しくて」


ユリア:「うっ…そういうのは思ってても言わないもんだぞ…」


クラウド:「そうだな、すまない」



全くすまなそうにしていないがクラウドはどこか満足そうな表情でこちらを見ている

その理由が想像できず、ユリアは首を傾げてみせるがクラウドは気付かないふりをして背を向けた



クラウド:「さぁ、行くぞ。またバレットに怒鳴られる」


ユリア:「ははっ、それは嫌だ!」



笑いながらクラウドの後に続いて早足で歩く

と、ユリアは速度を緩めるとクラウドと距離を取った

どんどん開いていく距離、遠ざかっていく背中



ユリア:「やっぱり、変わったな…」



姿形は変わらないのに……

自嘲気味に呟かれた言葉は誰に届くこともなかった




その後、いくつかのドアロックを解除し、正面ゲートをくぐると見慣れたブリッジが見えた

ここを渡り切ればもう魔晄炉の外だ



バレット:「よーし、出口だぜ!」



ブリッジを駆け、余裕の笑みを浮かべた

瞬間、



ティファ:「っ!見て!」



急にティファが立ち止まり、一点を指差す

全員が立ち止まってそこに目をやると、炉心で見たのと同じ兵器が4基飛び回っていた

と、先程同様に空中に巨大ホログラムを映し出した



バレット:「プレジデント神羅?!」



神羅カンパニーの社長であり、世界を牛耳っている存在でもあるプレジデントの登場に全員が息を飲む

すると一基の通信機が目の前を飛び回った

それはクラウドの前に来るとじっと顔を映すようにして止まった



プレジデント:「ほう、魔晄を浴びた者の目か。君は、ソルジャーだな?」



通信機のレンズ越しにプレジデントはこちらを見ているのだろう

クラウドは背中の剣を抜くと通信機を睨みつけた



クラウド:「“元”ソルジャーだ」


プレジデント:「ソルジャーは死ぬまでソルジャーだ。まぁ、役に立たなくなる者も多いが…。ソルジャーの死因で最も多いものは、劣化による自己崩壊。データは非公開だがソルジャーなら皆知って
ユリア:「クラウド、こいつの言う事に耳を貸すな。こいつは平気で嘘を吐く」


プレジデント:「ほう…?」



話を遮るようにユリアが割って入ると、クラウドの前に止まっていた通信機はユリアの顔の前に移動する

ホログラムのプレジデントは微かに目を見開いたがすぐに細め、にやりと口角を上げた



プレジデント:「ああ、君か。随分と…ふっ、見違えたよ」


ユリア:「お褒めの言葉、どうもありがとう」



嫌味には嫌味をこめて返す

…こいつと話しているだけで心の奥底にしまっておいた黒い感情が溢れかえりそうになる

が、ユリアの心の内を知ってか知らずかプレジデントはわざとらしく大袈裟な口調で話し始めた



プレジデント:「君には本当に申し訳ないことをしたと思っている。君は神羅に多大に貢献してくれていたというのに…惜しい人材を手放してしまったと後悔するばかりだ」


ユリア:「思ってもないこと言うなよ。ボクは神羅に貢献なんかしていない」



プレジデントとは対照的に冷たく言い放つユリアの表情はこれまでにないぐらい硬い

その様子にプレジデントは愉快そうにクックッと笑った



プレジデント:「謙遜かね?まぁ、“役に立った”のは君だけではないからな」



瞬間、ユリアの顔色がサッと変わった

表情にも何かが走る



プレジデント:「君の」



そこで銃声とともにプレジデントのホログラムが消えた

ユリアの足元には撃ち落とされた機械が転がる

構えたままのユリアは銃を下ろさず、険しい表情でプレジデントが映し出されていた空間を睨みつけていた

その体は、溢れ出しそうな感情を必死に押さえつけているかのように微かに震えている



ユリア:「お前は…お前のことだけは、どんなに命乞いされても許さないからな…っ」



と、予備の兵器が飛んできて再び空中にプレジデントの姿が浮かび上がる

その表情は至って冷静だった



プレジデント:「相変わらずだな。変わりがなくて安心したよ」



言葉とは裏腹にうんざりしたような口調にユリアが再び兵器に照準を合わせたのとほぼ同時に、バレットが口を開いた



バレット:「おい、こっちは無視かよ!」


プレジデント:「ふん、君の話はだらだらと長い。そんな予感がしてね」


バレット:「てめえらの悪行を数えあげたらいくら時間があっても足りねえ」


プレジデント:「足りないと嘆く者ほど、浪費する」


バレット:「そう、それよ。浪費について話そうじゃねえか」



ああ言えばこう言う状態で言い合っていたバレットだったがプレジデントに、魔晄はライフストリームであること、このまま吸い上げ浪費し続けた時の星の今後について詰め寄った

が、プレジデントの方が一枚上手だった

神羅はあくまで魔晄を“提供”しているだけであり、“浪費”しているのは神羅ではないと躱されてしまった

バレットが言い淀んでいるとさらに、浪費している側もリスクを承知している可能性を提示され、“それはてめえらの洗脳だ!”と言い返すも“そんな魔法は使えんよ”とあきれたように一蹴された

プレジデントは話は終わりだというようにバレットから視線を外して全員の顔を見回す



プレジデント:「さて、スラムの道化師諸君。君たちは今から敵国ウータイの手先だ。市民の戦意を盛大に燃やしてくれ」



そこで一方的に通信は切られた

突然投げつけられた言葉に全員唖然とした表情で空中を見つめる



バレット:「ウータイだと?なんだそりゃ!」


ユリア:「どうしてわざわざウータイの手先に仕立て上げられるんだ?」



と、プレジデントと入れ替わるようにしてハイデッカーのホログラムが現れた

ハイデッカーはお得意の豪快な笑い声をあげている



ハイデッカー:「ガハハハハ!ネズミどもには理解できまい」



その言葉と同時に新たなモニターが出現し、炉心に仕掛けた爆弾が映し出された

そこには爆弾のまわりに群がって中身をいじる神羅兵器の様子がしっかりと捉えられている



バレット:「っ!?何してやがる!」


ハイデッカー:「いいか、これは貴様らの作戦ではない。我々が入念に計画した“戦意扇動広報作戦”なのだ。よって、爆破のタイミングも…神羅が決める」



言いながらハイデッカーは自身の手元を見せる

その手の中にはティファが持っているものと同じ形のリモコンが握られており、それに気付いた時にはすでにハイデッカーはリモコンのスイッチを躊躇いなく押していた



ティファ:「あっ!」



慌てて炉心を映しているモニターを見ると、爆弾の液晶画面は時限装置が作動したことを知らせていた

モニターの映像はそこで切れ、ティファは自分の持っているリモコンを何度か押して確認してみたが爆弾は止まりそうにない

バレットは怒りもあらわにハイデッカーを睨み上げた



バレット:「てっめえ…!」


ハイデッカー:「さあ、ショーの始まりだ」



空からバタバタと騒がしい羽音が聞こえてきた

見上げると、エアバスターを吊り下げた神羅ヘリがこちらに近づいてきている

ヘリは上空でホバリングを始めたかと思うと、急に上空からエアバスターを落下させた



クラウド:「避けろっ!」
ユリア:「ぅわ!」



ふいに腕を引かれ、後ろによろめく

先程まで自分たちが立っていた場所には上空から落とされたエアバスターが聳え立っていた

避けるの遅れてたら潰されてたな…



ハイデッカー:「ミッドガル全市民の敵、アバランチ。ウータイとの共謀による罪状は明らか。貴様らを即刻、粛清する!」



その言葉とほぼ同時にエアバスターが起動する

モーターが唸りをあげ、動き出した様子はモンスターと変わりない



ユリア:「これは…久々にやばいやつかもな…」


クラウド:「珍しく弱気だな?」


ユリア:「弱気なんじゃなくて、期待しちゃってしょうがないって感じ」



エアバスターに向けて武器を構えながらお互いに笑みを浮かべる

さっき避けた時にパーティーは分断され、ティファとバレットはエアバスターを挟むような形で分かれてしまった

戦力が二分化されてしまったのは痛いけど、これをどうにか利用して…
ティファ:「許さない…」



エアバスターの向こう側から微かに震えるような声が聞こえた

ユリアが首を傾げて覗き見ると、隙間からエアバスターを睨み上げるティファが見えた



ティファ:「ぜんぶ、大ッキライ!」


クラウド:「っ…!」



瞬間、ちり、と頭の奥で何かが瞬いた

何かを思い出しそうで思い出せないもどかしい感覚…

これを味わうのは何度目か分からない

ただ、分かるのは……



「あのときは、守れなかったな」



あのとき………?



バレット:「クラウド、ユリア、ぼさっとしてんなよ!…頼りにしてるからよ」


ユリア:「任せろって!そっちも頼んだぞ!な、クラウド?」



耳に飛び込んできたバレットの声に我に返ると、笑顔でこちらを振り返っているユリアと目が合った

クラウドは黙って頷き返し、剣を握りなおすとエアバスターに向かって斬りかかる

それを合図に戦闘が始まった



ハイデッカー:「もがけ、もがけ!簡単に死なれてはつまらないからな!」


ユリア:「ごちゃごちゃうるさいなぁ…!」



攻撃は当たっているしダメージも与えられているのだがパワーが桁違いすぎる

攻め方に苦戦しているとこうしてハイデッカーが煽ってくるのだからだんだんと腹も立ってくる



ティファ:「ユリア、大丈夫?」


ユリア:「全っ然大丈夫じゃない!すっごくムカついてる!」


バレット:「…クラウド、どうにかしてやれよ」


クラウド:「俺には無理だ」



怒りのままに銃を撃ち込んでいくユリアの攻撃威力は絶大で、エアバスターの機動力が目に見えて落ちているのが分かった



ハイデッカー:「アバランチ諸君、名残惜しいがお別れの時間だ。この映像は戦意高揚のため、大いに活用させてもらうぞ。ガッハッハッハッハ!」



最後にお得意の笑い声を残してハイデッカーは通信を切った

動きが鈍くなり、ぎこちなくなってきたエアバスターにクラウドは勝機を見出す



クラウド:「あと少しだ!力を合わせるぞ」


ティファ:「いつでも行けるよっ」


バレット:「おうよ!」


ユリア:「任せとけ!」



全員で頷き、タイミングを合わせて総攻撃をしかける

それが決め手となり、エアバスターは完全に動きを止めた

瞬間、それは大爆発を起こした



ユリア:「っわ…!」



爆風によって体が飛ばされ、地面に倒れこむ

痛む体を擦りながら体を起こすとあたりは煙と瓦礫に包まれていた



ユリア:「クラウド…?ティファ?バレット?」



あたりを見回しながら仲間の名前を呼ぶ

次第に煙が晴れ、視界が開けると離れたところにティファとバレットが見えた

こころなしかその表情は驚きと焦りを浮かべている



ユリア:「あれ…クラウドは?」



煙が薄くなってきたことで足元がよく見えた

先程の爆発で通路の一部がなくなり、こちらと行き来は不可能なほどブリッジは崩れている

向こう側にいるバレットとティファは、こちら側のブリッジの淵のあたりを見ていた

……まさか…!?

慌てて起き上がり、崩れたブリッジの淵から下を覗き込むと、瓦礫の一部を掴んでぶら下がっているクラウドがいた



ユリア:「っクラウド!!」


クラウド:「ユリア、無事だったか」


ユリア:「待ってて!今助けるから!」



淵ギリギリにしゃがみ込み、なんとかクラウドに向かって手を伸ばす

が、クラウド越しに見える景色に指先が震えた



バレット:「もうすぐ爆発するぞっ」


クラウド:「俺はいいから、ティファを!」



少し苦し気に答えるクラウドにバレットは少ししんみりとした声で俯く



バレット:「…いろいろ、悪かったな」


クラウド:「これで終わりみたいな言い方をするなっ」



少し苛立たし気にそう言うとクラウドはユリアを見上げる

ユリアの表情は不安と恐怖で満ちていた



クラウド:「ユリア、俺のことはいいから下がれ」


ユリア:「絶対いやだ!」



首を振って拒否しながらも震える腕を懸命に伸ばす

仲間を助けたい気持ちと自分の中の恐怖心がぶつかり合い、心をかき乱す

クラウドのことは必ず守るって決めたのに…

少しずつ体を傾けながらクラウドの手を掴もうとした時、ユリアの背後で爆発が起きた

魔晄炉の爆発ではなかったが驚いて思わず目をつぶる

と、そっと何かが背中に触れた


おかしい、後ろには誰もいなかったはず…

正体を確かめようと振り返ろうとした時、その触れていた何かが力を持って背中を押した

重力に従って、ユリアの体は前のめりにぐらりと揺れる



ユリア:「っあ…!」


クラウド:「ユリア!?」


ティファ:「うそ…っ?!」


バレット:「ユリア!!」



傾いた体はスローモーションのように角度を変えていく

振り向いた先には、爆煙に混ざって黒い何かが揺れていた

それが何だったかを思い出すよりも早く、浮遊感による恐怖が脳内を支配した

体全体が宙に投げ出され、先程までクラウド越しだった景色も今は眼下に広がっている

恐怖心を逃そうと力の限り叫びたかったが声も出ない

気が、遠のきそうだ…



「ユリア!」



意識が混濁するなか、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした

けれどもう、ユリアには反応する余裕はない



「必ず守る…」



大規模な爆発音と同時に聞こえた声

何かに優しく包まれているような安心感を感じながらユリアは意識を手放した





06 終

2020.08.15