小説 | ナノ



05
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夜、クラウドが出ていってしばらくした後にユリアも外に出た

街は昼間ほど賑わっていないがまばらに人影は見える

ユリアは適当な集団に歩み寄ると声をかけた



ユリア:「なぁ、自警団の手伝いをしたいと思ってるんだけど、どこに行けばいいかな?」


「おや、お前さんもなんでも屋かい?」


「自警団の詰め所ならあっちだよ」


「若いのにえらいねぇ、頑張りな!」


ユリア:「ははっ、ありがとう」



優しい人たちでよかった

親切に教えてくれた人々に手を振り、あっち、と指差された方向に歩き出す

クラウドが単独で仕事をこなしているなら、こちらも単独で動く練習をしておかなくては!と思い、行き着いた結果がこれだった

自警団の存在は人々の会話から聞いたものなのでうっすらとしか分からないが、モンスター討伐などを行なって治安を守っているらしい

そこでならきっと役に立てるかもしれない…

ユリアはホルダーに入っている銃をそっと撫で、足早に詰め所へと向かった








ウェッジ:「ジェシーとビッグスの様子も見てきてほしいッス」


クラウド:「あぁ…」



ウェッジを家に送り届ける道中に二人の家の前を通ったのだがまだ帰ってきていなかった

着地点が悪かっただけならいいが、明日に障りがあっては困るだろう

報酬の話もあるからまずはジェシーの様子を見に行くか

ウェッジと別れ、ジェシーの家に向かう

家には明かりが点いており、ドアをノックすると中からジェシーが顔を出した



ジェシー:「わあ!やっぱりクラウド!そろそろ来る気がしたんだ〜」



ニコニコしながら外に出てくるジェシーは先程まで行なっていた作戦の依頼主だ

今日持ち掛けられた依頼は“プレート上の七番街までジェシーを送り、神羅の倉庫から火薬を盗む手助けをすること”だった

待ち合わせ場所にはジェシーの様子を察したビッグスとウェッジも来ていたが二人の協力もあって無事に作戦は成功した

報酬であるマテリアを受け取るためにここを訪れたのだが、ジェシーもそれは分かっているらしく洋服のポケットを漁っている



ジェシー:「じゃあ〜…はい、これ。ご苦労さま、なんでも屋さん」



マテリアを差し出され、そのまま受け取る

さて、次はビッグスか…と考えているとジェシーの爛々とした瞳と目が合った

なんだと問うよりも早く、ジェシーの唇が怪しい弧を描く



ジェシー:「それから、特別なごほうびっ」


クラウド:「っな…!」



ジェシーの腕が首に絡んできたかと思うと勢いよく抱き着かれた

突然のことにバランスを崩しかけるがなんとか持ち直すも、ジェシーは一向に離れる気配がない



クラウド:「…分かったから離れてくれ」


ジェシー:「じゃあ明日の夜、来て?同居人たち、みんな留守らしいから」


クラウド:「じゃあってどういう意味だ…」



未だ抱き着いたまま交換条件を提示してくるジェシーに脱力する

条件の内容は深く考えないことにして、連日ユリアを夜一人にするのは心配だ

昼間見た、ベッドに横たわる小さな背中とうなされている表情が頭を過ぎり、胸が苦しくなる

変に不安を煽られ、焦燥感からジェシーの両肩を掴んだ



クラウド:「とにかく、離れてくれっ」


ジェシー:「離れたら来る?明日の夜」



ぱっと体を離したかと思うとまっすぐにこちらを見つめてくる

…どうしてこうも食い下がってくるんだ…

この先ダラダラと言い合いをするよりも適当に切り上げてしまった方がいいのかもしれない

ジェシーの粘り強さに諦めの溜め息を吐き、小さく頷いた



クラウド:「分かった。考えておく」


ジェシー:「やったあ!じゃあ、とっておきのピザ焼いてあげる!」



大喜びするジェシーに思わず苦笑が漏れた

ほぼ脅しで取り付けられた約束だが、ユリアも連れて行けば問題ない

具は〜、と何やら耳慣れない食材を楽し気に話すジェシーの声に混ざって何かが動く音が聞こえ、そちらに顔を向ける

が、そこには闇が広がっているだけで動物一匹すらいなかった

…聞き間違い、か?



ジェシー:「ね、クラウド!それでどう?」


クラウド:「え?あ、うーん…全部、知らない」


ジェシー:「う〜ん!なんてキュートなのぉ!」



両手を組んで身悶えるジェシーを一瞥して、先程の闇の先を見つめる

たしかに何かがいた気がしたけれど…何だったのだろうか

小さく首を傾げてみるも闇の中には何も現れなかった











ユリア:「っふぅ…今日はこんなもんか…」



自警団に話をしに行くと大歓迎を受け、さっそくモンスター討伐を四件ほど入れられた

最初の二件は難なくこなせたのだが残りの二件は一人ではなかなか難しいものばかりで少し苦戦し、体力を削られてしまった



ユリア:「ガードハウンドと追いかけっことか無理…もう二度とやりたくない」



広大な荒野でガードハウンドと対峙したのだがなんとも逃げ足の速いやつで追いかけるのに苦労した

思い出しただけで身震いするような依頼だったがなんとかこなせたのでよしとしよう

自警団との繋がりもできたことだし、今日はもう帰ろう

…そろそろクラウドも帰ってきているかもしれないしな

アパートへの道のりを早足で歩いていると、何やら賑やかな声が聞こえてきた



「じゃあ明日の夜、来て?同居人たち、みんな留守らしいから」


「じゃあってどういう意味だ…」



なんて大胆な誘い方だ…いったいどんな人が口説いてるんだろう?

ちょっとした好奇心が湧き、物陰に隠れながら声のした方に近づく

その姿が見えた時、数秒前の好奇心旺盛な自分を呪った


クラウドの首に腕を回し、抱き着いているジェシー

だって…クラウドはジェシーに依頼されて取引に行っているはずじゃあ…

しばらくその光景から目が離せず、呆然としているとクラウドが“とにかく離れてくれ”とジェシーを引き剥がした

そこで我に返り、二人の声だけが聞こえるように身を隠している壁に背を預ける

あんまりじろじろ見てはいけない…そんな気がした



ジェシー:「離れたら、来る?明日の夜」



どこか甘えるように問うジェシーの声

クラウドは諦めに似た溜め息を吐いた



クラウド:「わかった。考えておく」


ユリア:「あ……」



断らなかった

クラウドは明日の夜もジェシーとこうするのか……これが、取引の内容なのか…?

いや、考えてはいけない、仕事にはいろいろな種類のものがある、それでいい

喜びではしゃぐジェシーの声が耳に届き、思わずその場から逃げるように走り出す

二人の会話が聞こえないところまで行かなくちゃ…!

何も考えずにあてもなく走っていると前方に見知った人物が立っていた



ユリア:「…ビッグス?」


ビッグス:「ん?あれ、ユリア?こんな時間に一人でどうしたんだ?」


ユリア:「あ〜っと……散歩?」


ビッグス:「なんで疑問形なんだよ」



クックッと笑うビッグスに少し心が落ち着いていく

と、ビッグスは頬を緩ませたまま、はぁ、と溜め息を吐いた



ビッグス:「いやぁ、ユリアのこと考えてたらまさか本人登場とはな」


ユリア:「え、ボクのこと?」



どうして?と問うとビッグスは少し申し訳なさそうに眉を下げた



ビッグス:「壱番魔晄炉ではユリアのこと怒らせちまったけどさ…。やっぱり、俺から見ればユリアは“カワイイ女の子”なわけよ。あ、もちろん力量とかそういうのは関係なく、見た目の話な!?」



焦ったように弁明するビッグスに“わかってるよ”と笑って返すと彼はほっと息を吐いた



ビッグス:「そんなユリアがこれから先、また危険な任務に行くのかと思うと心配でさ」



そう言って困ったように笑うビッグスに目を瞬く

彼に心配されているとは思ってもみなかった

ていうか、依頼と切り離した場でもそんなことを考えていてくれたとは…



ビッグス:「ほら、ユリアってしっかりしているように見えるけど妙に危なっかしいっていうか、目が離せないっていうか…守ってやりたいなって俺のアニキ心が思うわけよ」


ユリア:「アニキ心……」


ビッグス:「そう。アニキが妹を守りたいって思うのは当然だろ?」


ユリア:「うん…そうだね…」



胸の中がじんわりと温かくなるような心地

こんな安心感は、いつぶりだろう…



ユリア:「ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいよ。ありがとう」



照れくさかったけれど、ちゃんとお礼は言わなくちゃいけないなとビッグスを見上げて微笑むと、少し驚いた顔と目が合った



ビッグス:「おまえ、そんな顔もできるのか」


ユリア:「そんなってどんなだよ」


ビッグス:「うーん、…クラウドが怒りそうな顔」


ユリア:「はあ?」



意味が分からない、そう言おうとした瞬間、急に横から肩を引かれた

驚いてそちらに顔を向けると、肩を掴んでいる手の主は今まさに話題にしていた人物で


今、あまり会いたくない人物だった



ユリア:「クラウド…」


クラウド:「ここで何してるんだ」



発された言葉は刺々しく、冷たい

なんだよ、自分だってジェシーと…と言いかけて口を噤む

こんなこと言ってもしょうがない、やめた



ユリア:「ビッグスと話してた。見たらわかるだろ」


クラウド:「そういうことを言っているんじゃない。こんな時間にどうして外にいるのか聞いてるんだ」


ユリア:「……散歩してた」


クラウド:「嘘をつくな」



肩を掴んでいる手にグッと力が入れられた

真っすぐにこちらを見つめる蒼い瞳はなんでも分かってしまうらしい

本当に、あの瞳には適わない



ユリア:「悪かったよ。本当は、自警団から依頼を受けてた」


クラウド:「一人でか!?どうして…」


ユリア:「クラウドだって一人だろ?同じだ」


クラウド:「…それは同じじゃないって前に言わなかったか?」



怒気を孕んだクラウドの声に昨夜の記憶が呼び起こされる



クラウド:「ユリアは女の子だろっ」



あの時もクラウドはこうして怒っていた気がする

どうして、いつもいつも…



ユリア:「なんで…そんなに怒るんだよ…」



自分が何か気に障ることばかりしてしまっているのだろうか

でも、そんな覚えはないのに怒られるのは理不尽ではないか

何よりクラウドに怒られるのは悲しい

瞳から目を逸らして問うと、視界の端に少し驚いたような困っているような反応をするクラウドが映った



クラウド:「なんでって…」


ユリア:「………」


クラウド:「それは…っ、ユリアが心配だからだ」



力強く言い放つクラウドにビッグスの“よく言った…!”という声が聞こえた

心配……心配、か…

先程聞いたばかりの単語が過ぎり、自嘲的な笑みが漏れる



ユリア:「それはアニキ心ってやつなんだってな」


クラウド:「え…?」


ビッグス:「あ、いや、ユリア?それはだな、」
ユリア:「心配してくれてどうもありがとう。クラウドは明日の夜も忙しいんだから、ボクのことは気にしないで」



言いながら肩に乗っていた手を外すと、クラウドはハッとしてその手を掴んできた



クラウド:「あれはユリアだったのか…?」


ユリア:「なんの話だよ」


クラウド:「帰ろう、話がしたい」


ユリア:「…悪いんだけど、」



半ば強引にそれを振りほどき、数歩下がって距離を取る

こうすることでしか今は自分を保てない

自分の中の感情があふれ出す前にここを去りたい



ユリア:「今、クラウドと一緒にいたくない」


クラウド:「ユリア、
ユリア:「ごめん」



すばやく背を向け、走り出す

露店や住宅の間をすり抜け、ちら、と後ろを振り返るとクラウドが追ってくる気配はなかった

安堵の息を吐き、手近な宿屋に部屋を取る

さすがにあのアパートに返れる気持ちにはなれなかったし、帰る勇気もない

疲れた体を引きずって寝床に身を投げて天井を見上げる



ユリア:「…クラウドのバーーーカ…」



なんとなく言葉にしてみたがひとつもすっきりしない

むしろ胸の内のモヤモヤは増すばかりだ

…これから頑張っていこうと思っていたのに

どうしたら二人でやっていけるか一生懸命考えたのに

自分なりに、いろいろと……



ユリア:「バカはこっちか…」



自然と目尻から温かいものが流れ落ちる

あんなことを言いたかったわけじゃない

討伐任務なのにたくさん走って疲れたとか、久しぶりに体を動かせて楽しかったとか、そういう話を笑ってしたかっただけなんだ

それなのに、怒られたことに感情的になって、言いたい事だけ言って逃げ出して……本当に幼稚だ



ユリア:「明日どうしよ…」



“一緒にいたくない”などとひどいことを言った手前、合わせる顔がない

うまく答えが出ないまま目を閉じる

次第に意識は暗く、深いところへ沈んでいった


















「…ごめん、突然呼び出して」

「うぅん、大丈夫」




どこかの建物の中で男女が隣り合って話をしている

…これは、誰だろう…?



「俺は…―――もっと訓練して強くなって、―――守りたいって思ってる」


「大丈夫だよ!あたしも強くなって、自分のことは―――自分で守るから!」




元気よく微笑む女性に自分が重なっていく

女性の視点から男性を見上げると、顔は分からないけれど少し困ったような笑顔が見えた



「そしたら、―――のことも守ってあげるね?」



男性に笑顔を向けると、急に男性の姿がはっきりと形になる

それは毎日見てきた、クラウドの姿だった



「いや、お前に守ってもらわなくても大丈夫だ。俺は一人で戦える。今日からは別行動だ」



冷えた声が上から降ってくる

声も姿もクラウドなのに、これは彼ではないと何かが知らせている気がする

返事ができずに固まっているとクラウドは口角を上げ、こちらを見下ろした



「お前がそうしたいんだろ?」



違う!そんなこと思ってない!

そう言葉にしたいが全く声が出ない

どうして…どうしてこんな……

頭の中がぐるぐると回って混乱しているのが分かる

はやく目を覚まさなくてはいけない…ここに長く居てはいけない…

でも、目の覚まし方が分からない

どこを向いても闇に包まれている

どうすればいいのか、分からない




『そのままでいい…そのまま眠れ…』




いいのか?ボクはずっと、こうしていて…

あぁ、いいんだ…もう、どうにでも
「っおい、大丈夫か!?」



突然聞こえた声にハッと我に返る

明らかに先程とは違う声に思わずあたりを見回す

当然だが誰の姿も見えない



「起きろ!目を覚ませ!」



これは誰なんだろう?

でも、この声は聴いたことがある…

と、ふいに目の前に手を差し出された

特に何も考えず、無意識のうちにその手を取るとふわりと体が浮きあがった

握っている手が上へと引き上げてくれているようだ

海底から浮上するように、少しずつあたりの闇が薄くなって光が見えてくる

…この手は、誰だろう?

手から腕、腕から肩へと目で辿っていこうとした時、視界を何かで覆われた



「ごめん。まだだめなんだ」



苦笑気味に言うその声の主のことはよく知っている

知っているはずなのに…思い出せない



「ほら、目を開けて?」




声と同時にふ、と体に感覚が戻った

ゆっくりと瞼を開け、目が覚めたことに安堵の息を吐く



ユリア:「ひどい夢…」



こんなにひどい夢を見たのは初めてかもしれない

深く溜め息を吐きながらのそのそと起き上がると、外から少し騒がしい声が聞こえてきた

いつもの賑わっている声ではなく、悲鳴や怒声のように聞こえる

それと微かに、



ユリア:「…銃声?」



嫌な予感を全身が駆け抜ける

急いで宿屋を飛び出すと、あたり一面を黒い何かが支配していた

目を凝らすと、それは八番街で自分たちを取り巻いたあの黒いローブを着た浮遊体だった

しかもその数もこの間の比ではなかった



ユリア:「なんで…こんなに…」



前後左右、そして空までをも浮遊体が埋め尽くしている

こんな数を相手にできるほど自分の体力はない

どうすべきかと考えようとした時、再び銃声が聞こえた

断続的に聞こえるそれはおそらくマシンガンのもの…



ユリア:「まさか、バレット!?」



彼がいるとしたらセブンスヘブンだろうか

視界は悪いがここから店までそう遠くはない

…この浮遊体の群れを突破できればの話だけれど…

小さく深呼吸をして、銃を構える

なるべく時間をかけたくないためにも隙を作って強行突破していくしかないだろう

群がる浮遊体に向かって一歩踏み出す

と、急に群れは散っていき、その先も割れるように散って一筋の道を作っていく

しかも進行方向からするにこれはセブンスヘブンに向かう道だ



ユリア:「…気持ち悪…」



この浮遊体に導かれていると思うとゾッとするが、今回は襲う意思はないということだろうか

こいつらの気が変わる前に店まで向かってしまおう

少しの恐怖と圧倒的な違和感を抱きながら、ユリアは浮遊体の作る道を駆け出した




セブンスヘブンの店先では案の定バレットとジェシーが浮遊体相手に銃撃戦を繰り広げていた



ユリア:「バレット!ジェシ、…!」



二人の姿が見えてきて思わず声をかけるが、二人の手前には見知った姿が二つあった

一つはまわりを浮遊体に囲まれて剣を振るい、もう一つはそこから少し離れたところで浮遊体に捕まっている

クラウドと、ティファだ

昨日の気まずさから思わず足を止める

幸いクラウドたちはこちらには気付いていないようで、目の前の敵と対峙することに集中している

…どうしたらいい?

無意識のうちに後退していた体がドン、と何かにぶつかる

振り返ると一体の浮遊体が真後ろに浮かんでいた



ユリア:「…なんだよ」



“逃げるな”と言われているような気がして少しムカついた

逃げるつもりなんてないけれど…

退路を断つように立ち塞がるそれを睨んでいると、ふいに短い悲鳴が聞こえた

声のした方を見ると、店前の階段下にジェシーが倒れていた



ユリア:「ジェシー!?」



クラウドたちの存在など忘れてジェシーのもとに走り出す

ジェシーの周りには数体の浮遊体がうごめいている

そいつらは今にもジェシーに襲い掛かろうとしていた



ジェシー:「きゃあぁっ!!」


ユリア:「っくそ…!」



握っていた銃を構えてジェシーを取り囲むやつらに向けて撃つ

が、それはひらりと躱された

…と思ったが違った



ユリア:「え…?」



今まであたりを飛びまわっていた浮遊体が揃ってどこかへ飛び去っていく

ジェシーのまわりを囲んでいたものも例外なく、みんな彼方へ消えていった

まるで、役割は終えたと言わんばかりに…



バレット:「ジェシー!」



その声にハッとして慌ててジェシーに駆け寄る

半身を起こし、薄く笑っているジェシーにティファが心配そうに声をかける



ティファ:「ケガは?」


ジェシー:「えへへへ、ドジっちゃった…いっつ…!」



いつもの軽い調子で笑いながら立ち上がろうとするが、すぐに顔を歪めて座り込むジェシー

かなり痛むのか足首を抑えている



ユリア:「ジェシー、無理するな」


ジェシー:「あ、ユリア…」



こちらを見て少しだけ顔を明るくするが痛みには勝てないようでつらそうな笑顔になっている



ジェシー:「サービス、してみた?」


ユリア:「この状況でそれを思い出せるなら大丈夫だな?」


ジェシー:「あはは、ごめん。…本当はビッグスからだいたい聞いてる」


ユリア:「…そう…」



昨夜、あの場にはビッグスもいた

彼からジェシーまで筒抜けになることは予想していたことだった



ジェシー:「それで、罰が当たったのかもなぁ…」


ユリア:「…え?」



苦笑気味に何か呟くジェシーに聞き返そうとすると、隣に人の気配を感じた



クラウド:「大丈夫か?」



そう言ってジェシーの方を向いて膝をつくクラウドが視界の隅に映る

顔はよく見えない…見ようともしていないのだけれど、声からはジェシーを心配する雰囲気が伝わってくる



ジェシー:「平気って言いたいところだけど…あはは…」



力なく笑うジェシーにクラウドの体が軽く揺れる

と、そのまま流れるような動きでひょいとジェシーを横抱きにした

あまりにも突然の行動にユリアは思わず凝視するが、クラウドはそのままジェシーを店まで運んでいく



ジェシー:「ホントいやになる。クラウドに迷惑かけっぱなし…」


クラウド:「気にするな」



そんな会話をしながら店内に消えていく二人の背中を見送りながらユリアは呆然と座り込んでいた

…クラウドはこちらを一度も見なかった

クラウドの視界の中には、ジェシーしか映っていなかったのだろう

敢えて存在を無視されたのかもしれない…

それほどまでに自分はクラウドに嫌われ
「ユリア、」



ふいに呼ばれた名前に顔を上げると、目の前に手を差し出された

指先からずっと辿って、見上げた先には青い瞳



クラウド:「まさか…ユリアもどこか痛めたのか?」



心配そうにこちらを見つめるその瞳には自分の姿がはっきりと映っている

それだけでこんなにも気持ちが落ち着くなんて…不思議だ



ユリア:「ボクは大丈夫、心配してくれてありがとな」



差し出された手には遠慮して触れず、自身で立ち上がると突然勢いよく腕を掴まれた

もちろん、目の前にいるクラウドに

驚いて軽く目を見開くと少し慌てたような口調でクラウドは口を開いた



クラウド:「あ、っと……話がしたい」


ユリア:「…それは、今?」


クラウド:「あぁ、今だ」



昨夜みたいに逃げ出さないようにか腕を掴んでいるクラウドの手に軽く力が入る

同時にこちらを真っすぐに見つめている瞳が真剣みを帯びた



クラウド:「…昨日は悪かった」


ユリア:「……は?」


クラウド:「ユリアを置いて出かけたことに罪悪感があって、早く帰ろうと思ってたところにあんな時間に出歩いてるユリアの姿が見えたから…ついカッとなって強く言い過ぎたと」
ユリア:「ま、待って!ちょっとストップ!」



つらつらと謝罪の言葉を述べ始めたクラウドを制止するときょとんとした顔で首を傾げられる



クラウド:「どうした?」


ユリア:「いや、どうしたじゃなくて……昨日のは完全にボクが悪いだろ?なのに…」



どうしてクラウドが先に謝るんだ

なんだか悔しいような気まずいような気持ちで唇を噛むと、クラウドは困ったように小さく微笑んだ



クラウド:「ユリアの気持ちをきちんと汲んでやれなかったと思って…」


ユリア:「っ、」


クラウド:「ユリアもいろいろ考えて行動してたはずだ、ってビッグスに言われた」


ユリア:「うん…」



さすが真の“アニキ心”の持ち主は違うなぁ

それに……

心臓がぎゅぅっと絞められたように痛む

たどたどしくも自分の言葉で語るクラウドの優しさと、その優しさに甘えている自分の幼さが苦しい

クラウドは単に怒っているわけではなかった

こちらのことを気にかけてくれていたのに、さらに気まで遣わせて……

安堵と自責からくる涙を目を閉じて抑え、気持ちを落ち着けてからクラウドを見上げた



ユリア:「ボクも…ごめん。クラウドに置いてかれないようにしなきゃって思って焦りすぎた…」


クラウド:「…あぁ」



“そんなことか”という言葉を飲み込み、ホッとしたように言葉を吐くとクラウドは微かに口角を上げた



クラウド:「大丈夫だ、置いていかない」


ユリア:「え…?」



聞き覚えのあるセリフに思わず固まる

それに気付いていないのかクラウドは遠くに視線を投げながら言葉を続ける



クラウド:「俺たちは二人で“なんでも屋”なんだ。どちらかが欠けてはいけない…だから、」



そう言って再びこちらに視線を戻した彼の瞳には温かさが宿っていた

晴天の青空のような、晴れやかな青



クラウド:「また、二人でできる依頼を探そう」


ユリア:「―――うんっ!」



勢いよく頷くとクラウドはフッと小さく笑う

その笑顔を見ただけで数分前までの陰鬱とした気持ちなど吹き飛んでしまっていた

自分の単純さに呆れるけれど今は晴れやかな気持ちの方が大きい

と、クラウドはセブンスヘブンの方にゆっくり歩き出しながら、顔だけこちらに向けた



クラウド:「店の中に行こう。ジェシーの様子が気になる」


ユリア:「あぁ、そうだな」


クラウド:「それと……」


ユリア:「ん?」



うまく聞き取れずに首を傾げると、少しだけクラウドの歩調が速くなる



クラウド:「ジェシーが俺とユリアを家に招きたがってる。食事を振舞ってくれるらしい」


ユリア:「え…?」


クラウド:「今夜、と言っていたが…どうだろうな」



いつの間にか先を歩くクラウドの背中を見つめ、自然とにやける頬をきゅっと引き締める

やっぱりクラウドはボクのこと、よく分かってるなぁ
















『神羅カンパニーより、乗客の皆様にお伝えします。本日、アバランチと名乗る反神羅組織による魔晄炉爆破予告声明に関わる特別警戒態勢の影響により、ダイヤが大幅に乱れての運行となっております。四番街駅には、定刻より遅れての到着予定となります。―――』



電車内のアナウンスが車内に響く

ユリアはぼんやりとアナウンスを聞きながら隣にいるクラウドに視線を移した



クラウド:「どうした?」


ユリア:「あ、いや…なんか急展開で…」



あの後、店に入ると足首を負傷して歩行も難しいジェシーは作戦からの離脱を余儀なくされていた

重要な役割を担っているメンバーが離脱してしまったが、今さら作戦の中止はできないし、何より先に単身で現地に乗り込んでいるビッグスがいる

どうしたものかと一同が考え込んでいると、ふいにバレッドがクラウドとユリアに歩み寄ってきた



バレット:「お前ら、今から出られるよな?」



その言葉に一瞬二人は驚いた顔で目を見合わせていたが、すぐにユリアは軽く微笑んで頷き、クラウドはバレットに向き直った



クラウド:「報酬は割増だ」


バレット:「おう、任せとけ」



そう言ってニッと笑ったバレットの瞳は、サングラスの奥で嬉しそうに輝いていた



バレット:「よーし、クラウドとユリアを入れて作戦再開だ!」



拳を握りしめて気合いを入れなおすとバレットはぐるりと一人一人の顔を見回す



バレット:「ターゲットは伍番魔晄炉!各自準備を整えて駅に集合!…頼むぜ、ソルジャーさんとタークスさんよ」








そうして駅で合流後、この列車に乗り込んで今に至る

ユリアの隣ではバレット、クラウド、ティファがこの後の流れについて話し合っていた



バレット:「ターゲットは伍番魔晄炉だ。駅からは市街地の裏道を抜けていく。魔晄炉内に入っちまえばあとは壱番と同じ…」


クラウド:「魔晄だまりを目指す」


バレット:「派手にドカンとかましてやるぜ。ジェシーとウェッジの分まで、オレらでやり遂げる」



それにクラウドとティファは静かに頷いた

本来作戦に参加するはずだったウェッジも、ジェシーの看病と先程のような不測の事態からマリンと手負いのジェシーを守るようにとバレットから命じられてセブンスヘブンに残っている

今回の作戦には二人の思いも乗せて臨もうということなのだろう

ユリアも心の中でバレットの言葉に同意した


その後、固まっていると目立つからとバレットは隣の車両に移っていった

ユリアはそれを見送るとティファに近づいてそっと声をかける



ユリア:「なぁ、爆破予告が予想より早く広まってるってホントか?」


ティファ:「うん…まさか、とは思ったけどこのお客さんの少なさを見ると…ね?」



言われて車内を見回すと自分たちを除いて乗客は3,4人しかいない

たしかに七番街でも爆破予告のことを話している人々をちらほら見かけたし、それほど神羅の情報開示が早かったという事だろう

アバランチから爆破予告を受けたことを全市民に伝えたところで神羅になんのメリットがあるのかは分からないが、“予告を受けたところで神羅は屈しない”という精神を見せるだけでも向こうには有益なのかもしれない

…それか、魔晄炉爆破などさせないという絶対的な自信があるか…



ユリア:「まぁ、市民が避難する時間が作れたと思えばラッキー、だよな」


ティファ:「ふふっ、そうだね」



こんな会話バレットには聞かせられないよな

二人でこっそり笑いあっていると車内にアナウンスが響いた



『まもなく、IDスキャニングエリアを通過します』


ティファ:「最初の関門だ…」


ユリア:「ジェシーの力作もあることだし、楽勝だろ?」



言っているうちに赤外線が車内全体を通過していく

この赤外線は市民一人一人に割り振られているIDを検知し、名前、年齢、職業、前科等の個人情報を読み込み、神羅のスーパーコンピューターで照会して管理している

今回の作戦に合わせてジェシーに持たされた偽造IDは優秀だからなんの心配もないだろう

なぜか自信満々なユリアに笑みを向けながらティファは困ったように眉を下げた



ティファ:「大丈夫だって分かってるんだけど…落ち着かないね」


ユリア:「この状況で落ち着いていられたらすごいよ。ソルジャーになれるかもな」



軽く笑ってクラウドの方に目線をやる

反対側のドア付近に凭れるようにして立っているクラウドはトンネル内の壁しか見えない窓を見つめている

落ち着いているというかかっこつけているというか…

と、ティファはクラウドの方に歩み寄り、“クラウド、”と声をかけた



ティファ:「隣の車両、見てきてもらってもいい?少し心配なんだ」


クラウド:「どういう意味だ?」


ティファ:「バレット、作戦の前はピリピリしてるから。お客さんたち怖がってるかも…」



不安そうに言うティファにクラウドは呆れたように溜め息をつく



クラウド:「放っておけ」


ティファ:「そう言わずにっ。私はユリアが一緒にいてくれてるし、大丈夫だから」



ね?と頼み込むように顔を覗き込むとクラウドは小さく息を吐いた

作戦の参加に緊張しているティファが少し心配だったが、ユリアが傍にいれば何も心配はいらない

あまり気の進まない依頼だが頼まれたものは仕方ない



クラウド:「…すぐ戻る」



そう言って隣の車両に向かっていくクラウドの背中を見送り、ティファはユリアに向き直る



ティファ:「クラウドっていつもあんな感じ?」


ユリア:「心配性なとこ?」


ティファ:「そう、それ」



笑いながらユリアが答えるとティファも笑って頷いた



ユリア:「自分のことは顧みないくせに、人のことはすぐ心配するなぁとは思ってる」


ティファ:「そっか、そうなんだ」


ユリア:「昔は違ったのか?」


ティファ:「うーん、どうだろう?」



本人のいないところで聞くのも申し訳ないが、昔のクラウドに少し興味がある

ユリアの先を促すような視線に苦笑し、ティファは窓の外に目を向けた



ティファ:「昔はね、村の子たちとケンカばっかりで。ちょっと近寄りがたいなって雰囲気だったの」


ユリア:「前も言ってたね。ケンカばっかりだったって」


ティファ:「うん。でもね、話したら…すごく優しかった」



懐かしむように目を細めるティファの表情が窓ガラスに映る

思い出に浸るようにしばらく無言になるティファの言葉を待っていると、ゆっくりと顔がこちらに向けられる

その瞳は真っすぐにユリアを捉えていた



ティファ:「だから、ソルジャーになりたいって聞いた時は驚いたし…今も……」


ユリア:「…ティファ?」


ティファ:「ねぇ、ユリア。クラウドって」



その時、パッと車内の照明が変わった

異様な雰囲気のなか、無機質なアナウンスと先程見た赤外線が答えを出した



『臨時IDスキャニング中です』


ユリア:「え…!?」


ティファ:「どうして…!」



同じ言葉を繰り返すアナウンスに乗客たちは戸惑いと驚きでざわめきだす



クラウド:「ユリア!ティファ!」


ユリア:「クラウド!」



隣の車両から戻ってきたクラウドの表情にも戸惑いが見られる



クラウド:「どうなってる?」


ユリア:「分からない…けど、おそらくボクたちのIDが引っ掛かったんだと思う」



偽造IDは完璧なはずだった

でも、それを神羅の技術が上回った



『非常警戒態勢を発動。手配IDの疑いあり』



その言葉に全員の表情が険しくなる

こんな序盤から神羅に捕まるなんて…!



『後部車両より車両チェック、ならびに隔離準備を開始します』


ユリア:「なぁ、ここって最後尾車両じゃなかったか…?」


ティファ:「大変!」



その言葉とほぼ同時に後ろの車両ドアにロックがかかる音がした

車両内に閉じ込めたところを神羅の警備兵たちが乗り込んでくるという算段なのだろう



バレット:「お前ら、早く来い!」



隣の車両へのドアが勢いよく開き、バレットが顔を出す

その時、激しい音を立てて窓が割れたかと思うと警備兵器が中に入り込んできた

兵器は無差別に攻撃を仕掛け、乱射していく

乗り合わせた乗客たちは悲鳴をあげながら隣の車両へと駆け込んでいった



ティファ:「クラウドとユリアはそいつらをお願い!」


クラウド:「任せろ」



クラウドが頷くとティファは乗客を前の車両へと誘導するために走り去った

残されたクラウドとユリアだが、先程からユリアが一言もしゃべらずに飛び回る兵器を見つめている

どうかしたかと声をかけようとするとユリアは視線を外さないまま、そっと口を開いた



ユリア:「こっちを捕まえるためなら、無関係な人を巻き込んでも構わないってことか…?」


クラウド:「神羅らしいやり方だな」


ユリア:「…ふざけてる……っ」



グッと拳を握りしめたユリアは銃を取り出すと素早く兵器を撃ち落とした

足元で火花を散らす兵器を一瞥し、補充で入ってきた兵器を睨みつける



ユリア:「そういうところが大嫌いなんだよ…!」



吐き捨てるように呟いた言葉には怒りと憎悪が詰まっていた

その背中を見つめているクラウドにも、ユリアの感情が溢れ出ているのが伝わってくる



『車両ロックシステムを起動。3分後、この車両は隔離されます』


ユリア:「3分?なめられたもんだよな…」



無機質に響くアナウンスを鼻で笑い、ユリアは指先で銃を回す

顔だけクラウドの方を振り返るとその口角はにんまりと上がった



ユリア:「1分で片付けるぞ、クラウド」


クラウド:「あぁ」



そう言って頷いたクラウドは静かに剣を構えた









倒しても倒しても補充の兵器が入り、次々と襲い掛かってくる

隣の車両に移るとティファが乗客たちをもう一つ隣の車両へ誘導しているところだった

ここで自分たちが隔離された方が他の乗客の安全が確保されるからだろう

バレットも合流して兵器を撃ち落としていくが、相手の数が減る気配はない



クラウド:「キリがないな…」


ユリア:「むしろ増えてる気がしてきた…」



と、先の車両へと続くドアがガチャリとロックされる音が聞こえた

ユリアが振り返ると、ドアを背にしてティファが大きく息を吐いていた

先の車両に乗客全員を避難させ終えたらしい

…これで車両内には自分たちが完全に隔離されたことになる



『手配ID所持者4名の隔離を確認。掃討フェイズに移行します』



アナウンスに続いて次々と窓を割って現れる警備兵器たち

それを見てユリアはげんなりとした表情で肩を落とした



ユリア:「本当に増えたじゃん…どういうことだよ…」


バレット:「ハンッ!タークス様の言う通りってか?」


ユリア:「嬉しくない……」



唇を尖らせながらも弾を装填するとユリアは兵器に照準を合わせ、的確に撃ち落としていった

それでも兵器が減る様子は見られない

次から次へと補充されていくそれにクラウドは溜め息を吐いた



クラウド:「仕方ない」


バレット:「あ?」


クラウド:「駅は包囲されているはずだ。飛び降りよう」


ユリア:「はぁ!?」
バレット:「マジか!!」



目線を外に向けながら言うクラウドの声色は間違いなく本気だ

外は景色が流れているが、逆にそれが列車のスピードがどれほど速いかを表している

不安がるユリアとバレットの心中を察してかクラウドは再び目線を動かして、車両内の一角にある緊急停止ボタンを見つめた



クラウド:「速度を落とせばいい」


バレット:「そりゃビッグスの“プランE”だな!」



そう言ってティファと視線を交わして頷き合うと、バレットは乗車口を銃で破壊してドアを蹴落とした

次いでティファが緊急停止ボタンを叩くように押す



ユリア:「う、わ…!?」



ボタンに反応して列車が急ブレーキをかけた弾みで車体は大きく揺れ、バランスを崩したユリアは何かに背中からぶつかった



クラウド:「大丈夫か?」


ユリア:「クラウドか…ごめん、大丈夫…」


クラウド:「…顔色が悪いぞ?」


ユリア:「ん、あぁ…気にしなくていいから。それより、こいつらどうにかしないとなっ」



そう言って再び敵陣に突っ込んでいくユリアを見ながら、クラウド自身も兵器と対峙した

横目で“行くぜー、行くぜー…”と呟きながら勢いをつけて飛び降りたバレットを見送る

残すはティファとユリアと自分だけだ



クラウド:「ティファ!」



促すように声をかけるが、ティファは飛ぶのを躊躇っている

列車はブレーキをかけているが先程までのスピードがすぐに落ちることはない

恐怖で足がすくんでしまっているのであろうティファにどんな言葉をかけようかと逡巡していると、いつの間にか横に並んでいたユリアにぽん、と肩を叩かれた



ユリア:「ボクがこいつらを引き止める。クラウドはティファと先に行け」


クラウド:「そんなことできるわけ…っ」



が、そんな返事も聞かずにユリアはクラウドの前に立ちふさがると目の前の兵器たちに攻撃を与え、次々に撃ち落としていった

ドアのあたりではティファが困ったようにこちらと外を交互に見ている



“クラウドが有名になって、その時、私が困ってたら……クラウド、私を助けに来てね”



クラウドの頭の中に、つい最近思い出した、幼馴染と交わした昔の約束が蘇る

そしてもう一つ…



ユリア:「早くしろっ!」



銃声に混じって聞こえるユリアの苛立たし気な声にクラウドは拳を強く握り、ティファに駆け寄るとその背中に声をかけた



クラウド:「…ティファ、」


ティファ:「え?」






二人が何か話しているのを横目に見ながらユリアは軽く舌打ちをする

早く行けと言っているのにいったいいつまでいるつもりだ…!

列車が止まれば確実に神羅の警備兵たちが乗り込んでくる

だからスピードが落ちていない今の状態で脱出するのが得策なのだ



ユリア:「その前に、こいつらにやられるのが先かも…」



自嘲気味に呟きながら、こちらを挑発するように飛び回っている神羅兵器を睨みつける

今に至るまで数えきれないほど倒したのに全くもって終わりが見えない

割られた窓から次々と現れるそれにうんざりしながらも銃を構えなおした

瞬間、



クラウド:「行くぞ」


ユリア:「はぁ!?え、ちょっ、と…!?」



背後からかけられた声と突然腕を引っ張ってきた力に驚いていると電車の乗車口だった部分に立たされる

先程までいたティファの姿はもうなかった

トンネル内の暗さも相まってレール部分はよく見えず、闇に火花が散っているように見える

が、流れる風の強さから未だに速度は落ち切っていないことがバシバシと顔面に伝わってきた

足元に広がる闇にユリアはごくり、と唾をのむ



ユリア:「ボ、ボクは後から行くから…クラウドが先に」
クラウド:「しっかり捕まっていろ」


ユリア:「えっ?!」



腰に腕を回されたかと思うとぐっと引き寄せられる

それに何かを察したユリアは反射的にクラウドの服にしがみついた

ふとクラウドの方を見上げるとぱちりと視線が合う

目で“行こう”と促された気がして、小さく頷くと腰に回されている腕に力が入り、体が前に倒れた


あ、やばい


目の前に迫る闇に背中が泡立つような感覚が襲い掛かる

脳裏に焼き付いた光景がフラッシュバックし、全身が強張るのが分かった

…あの時は、後ろ向きに落ちたんだっけ

過去の記憶と目の前の情景が重なりかけた時、ふいに視界がふわりと別の闇に包まれた

温かくて、優しくて、安心する

ユリアはそっと温かい闇、クラウドの胸元に額をつけた


無事に列車から脱出はできたもののその衝撃は強く、クラウドとユリアは転がりながら倒れこんだ



クラウド:「ユリア、平気か?」


ユリア:「う…目ぇ回った…」



自分の上に寝そべるようにして頭を押さえているユリアに心配そうな表情を浮かべるクラウド

半身を起こし、顔を覗き込もうとした瞬間、ユリアはハッと起き上がった



ユリア:「ご、ごめん!邪魔だよな!すぐ降りるから!」


クラウド:「え?あぁ…」



慌てたように立ち上がると、こめかみを押さえてきつく目を閉じるユリアをクラウドはじっと見つめる

…別に邪魔だとは言っていないのに…

変にモヤモヤとする気持ちに首を傾げながらも立ち上がると、列車が去っていった方から神羅の警備兵器が数機近づいてきていた



クラウド:「ユリア、行けるか?」


ユリア:「うん、もう大丈夫!」



ぱちっと目を開いたユリアは真っすぐに敵を見据える

それを確認してクラウドは武器を構えて敵に斬りかかっていった





ユリア:「よぉっし!今回は終わりがあったな!」



最後の一機を撃ち落とし、ユリアはガッツポーズを決める

クラウドも剣を収めて追手がまだ来ていないかとまわりを見回していると、遠くの方から女性の声と散弾銃のような音が反響して聞こえた

ユリアも気が付いたようでクラウドに駆け寄り、声のした方を見つめている



ユリア:「きっとティファとバレットだ!行こう!」


クラウド:「あぁ」



そう言って声のする方へ駆け出す

と、走りながらユリアがぽつりと呟いた



ユリア:「さっきはありがとな。その…飛び降りるの手伝ってくれて」


クラウド:「気にするな。苦手なんだろ?」


ユリア:「え?」


クラウド:「なんだ?」


ユリア:「あ、いや…」



誤魔化すように口ごもりながらユリアはクラウドをちらっと見上げる

平然としているその横顔は特に何も気にしていないようだ

クラウドに高所恐怖症であることは伝えていた

が、飛び降りるのも苦手だということは伝えていなかったはずだ

…考えてくれていたということだろうか…?



ユリア:「…ありがとう」


クラウド:「あぁ」



もう一度お礼を言うと微かにクラウドの口角が上がったように見えた

それが少し嬉しくて、ユリアもこっそり微笑む

自分たちの足音が反響するのを聞きながら二人はトンネル内を進んでいった





05 終

2020.07.12