「フゥ太っ…お前こんなところまで…よく、ひとりで来たな?」

ツナは笑って、フゥ太を出迎えた。
しかし、その笑顔は引きつっていた。
フゥ太も、みちると同じくらい幽閉され続け、加えて骸に操られ、精神的ショックを負っているはずだ。
未だに、どう接していいものか迷い、ツナは動揺を隠すことに必死だった。

「ツナ兄…僕ね…」
「……うん」
「みちる姉に、謝らなくちゃいけないよ…」

まだ年端もいかない、背の低いフゥ太と視線を合わせようと、ツナはしゃがんだ。
しかし、落ち込んだように俯くフゥ太と、視線が合うことはなかった。

「…何か…あったのか?」

山本が優しい声で問うた。
フゥ太は少し躊躇するような間を置いた後、言った?

「僕…みちる姉…を…、」
「…うん」
「みちる姉を、…殴っちゃったんだ」

その場に、一瞬だけ緊張が走った。
しかしツナは、フゥ太の肩に優しく触れて言った。「…骸のせいだ。お前は、悪くないよ」

「でも僕っ…」
「フゥ太」
「この本で、みちる姉のお腹を、思いっきり殴ったのは…僕なんだよ…?」

「フゥ太じゃない」

ツナの言葉は、なんの迷いも動揺も、含んでいなかった。

「ツナ…兄…」
「…なに?」
「あのとき…ね、みちる姉は、きっと、僕を守ってくれようとしたんだ」
「…そっか」
「なのに僕…」

何も知らずに、操られたまま、大切な人を傷つけた。

「僕、みちる姉に、嫌われちゃうかな…?」
「……許してくれるよ、絶対に」
「ほんとう?」
「ああ。だって、千崎さんは、フゥ太のことが大好きだから」

「だから、守ろうとしたんだよ」ツナがそう言い終わらないうちに、フゥ太はツナの肩に抱きついた。

「みちる姉が目を覚ましたら僕っ…すぐに会いに行く…!」
「うん、…そうしよう」

「早く、会いたいよ…」

フゥ太の涙が、ツナの服の肩あたりを濡らした。
京子とハルはフゥ太に駆け寄り、背中を優しく撫でてやった。

「うん、オレも千崎さんと、早く話したいよ」

ツナがフゥ太の頭をポンポンと撫でると、フゥ太はそれに応えるように、ツナの肩に回した腕の力を強めた。



「寝ちまったな」

京子とハルを、彼女たちの家の近くまで見送り、ツナと獄寺・山本・フゥ太の四人はそれぞれの家まで向かっていた。
泣いたせいもあり、疲れが見えたフゥ太をツナが負ぶさると、フゥ太はそのまま夢の中へ。
山本がフゥ太の寝顔を見ながら、笑ってそう言った。

「いい子だな」
「うん、フゥ太は優しいんだ」

病院のみちるはまだ起きない。
しかし、フゥ太の存在が見えたことで、ツナたちの心の緊張が、少しばかり解れたのは事実だ。

「ね、獄寺くん、…獄寺くん?」
「…あ、はいっ、なんですか?10代目」
「どうしたの?最近、元気ないよね」

まぁ、みんな元気ないけどね、と小さく付け加えながら、ツナは言った。
獄寺は口許だけで笑いながら「…すみません」とだけ返した。

「え?そんな謝らなくても…」
「…自分、ここで失礼します」
「ええ?獄寺くん…?」

獄寺はツナに小さく頭を下げて踵を返した。山本のほうなど一度も見ずに。

(すみません、10代目…)

先刻、獄寺の視界に飛び込んできたのは、みちるの行きつけの花屋だった。
京子の家から戻ってくるとき、意識せずとも、見えてしまった。

すげぇ、みっともねぇけど。
気になって仕方がないんだよ。


「…千崎…」

だって、戦いの前に最後にケンカしたのは自分で。
敵陣で会って、衝動的に抱きしめたり…なんかしてしまって。

「…オレ、どーかしてんな…」

獄寺の足は、自然と、病院に向かっていた。

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