空腹と、固い地面に転がされたことによる全身の痛み。
恐怖に震えながら眠りについても、悪夢で何度も目が覚める。
この狭い一室に幽閉されてから三日、ずっとそんな感じだった。
さっき獄寺くんに壁を壊してもらってから、久しぶりに新鮮な景色を見たような気がする。
安心してないと、ろくに寝ることすらできないのか。
「千崎さんっ…!」
獄寺くんの顔を見てから、どのくらい経っただろうか。
やけに意識がしっかりしているのは、安心感のせいだろうか。
でも、夢かと思った。
目を明けると、沢田くんがいた。
夢かと…思った。
「さわ…だ…く…」
「よかった、…無事だった…」
頭を動かして周囲を見ると、もう骸さんたちはいなかった。
白いベッドに山本くんや獄寺くんたち、ここで倒れたみんなが寝ている。
「そうか…」
「え?」
「やっぱり、連れて…いかれちゃったん、だ……」
この後、彼らがどうなるかも知っているのに。
わたしだけは、ずっと前から、知っていたのに。
「ごめん、なさい…」
「千崎…さん…?」
「…ごめんなさい……っ」
また、力になれなかった。
フゥ太くんを守れなかった。
みんながこんなにも傷を負うことを知っていたのに、何もしなかった。
何度覚悟しても、わたしには勇気が足りなかった。
「みちる、落ち着け」
「う、あぁ…っ、も、やだよ…っ」
「みちる」
リボーンくんの小さな手が、わたしの頭にそっと触れた。
腕を自分の目蓋に押し付けて、わたしは泣いた。
「お前は、戦わなくていいんだ」
そこから先の、記憶はない。きっと、寝てしまったんだ。
みんなとまた会えて、安心したのだろうか。
もうわたしは悪夢も見なかったし、小刻みに目覚めることもなかった。
骸との戦いから、約半月後。
ツナに獄寺、山本・雲雀・ビアンキ・フゥ太・そしてみちるは、あの戦いの後すぐ、病院に運ばれた。
そして、半月を過ぎた今、彼らは無事に全快し、退院を果たした。犬と千種に歯を抜かれた了平や草壁も同様にだ。
…ただひとり、みちるを除いて。
「京子ちゃん、ハルっ」
ツナと獄寺・山本の三人は、自分たちが退院してから毎日、みちるの様子を見に来ていた。
リボーンや、ツナの母親である奈々も、ランボやイーピンを連れて、たまに見舞いにやって来る。
そして今、みちるの病室を出てきたのは京子とハルだった。
「あ、ツナさん!」
「あの、千崎さん、今日は目が覚めた…?」
ツナのその問いかけに、ハルの表情から笑顔が消えた。
そして京子は、黙ってふるふると首を横に振った。
「そっか…」
「ってことは、もうすぐ三週間ってとこか?」
山本のその言葉に、そこにいたメンバーはしゅんとうな垂れた。
「…あ、そういえば、さっき雲雀さんが来てたよね、ハルちゃん」
「あぁ、そうですね!」
「……え?なんで?」
「へ?もちろん、みちるちゃんのお見舞いですよ」
「…えぇっ!?」
一際大きな叫び声を上げたのはツナだったが、獄寺も山本も、同じように驚いていた。
「へー、あの雲雀がなぁ…」
「んなわけねーだろ!あいつ、まだ入院してんじゃねーの?」
「それはないよ、退院してたもん。…山本と同じ日に退院だったはずだし」
「そうだよなー」
「でも、わたしたちがみちるちゃんの病室に入る前に、入れ違いで出て行ったんだよ?」
ハルはともかく、京子に言われては、獄寺ですら返す言葉がない。
雲雀がみちるを気にする理由などあるだろうか。そこにいる全員、首を傾げるしかなかった。
「みちるちゃん、ずっと点滴だから、もともと細いのにもっと痩せちゃってて…」
「外傷はほとんど治ったらしいんですけど、あとは右腕の包帯と、…精神的なショックが大きいらしいです」
「どうしてそんなことになったの…?犯人のアジトに、どうしてみちるちゃんが?」
「…っそれ、は…」
ツナが黙ってしまうと、獄寺と山本はツナの表情を不安そうに伺った。
沈黙を破ったのは、この場にやってきた、ひとつの足音だった。
「ツナ兄…みんな…」
そこに立っていたのは、フゥ太だった。
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