帰りにスーパーに寄って少し買い物をした後、わたしは沢田くんの家の前に立っていた。
そんなわたしを見つけて遠くから手を振ってくれた山本くんに、わたしも手を振り返した。
隣の獄寺くんはちょっと不機嫌そうだ。山本くんの横ではあの顔が標準装備なんだろうなぁ、なんて思った。



「よっ。入らねーの?」
「うん、ふたりのこと待ってた」

一緒に入るほうがいいかと思い、わたしは山本くんと獄寺くんを待っていたのだ。
沢田くんと京子ちゃん・ハルちゃんはわたしが来ることを知らないはずだ。
しかも山本くん達を呼んだのは自分だ。勝手なことをしたとは思うけど、リボーンくんはいいって言ってくれたし。

「アホか、さみーだろうが。先に入ってろよ」
「まぁまぁ獄寺、せっかく待っててくれたんだからよ」

わたしに対してちょっと怒ったように言った獄寺くんを、山本くんがなだめる。
獄寺くんは山本くんに何か言いたそうに思いっきり顔を歪めている。
とにかく、これで揃ったのだから家に上がらせてもらおうと、わたしはインターフォンに手を伸ばした。
が、押す前に扉が開き、中から誰かが現れた。
え?と思いそちらを見ると、わたしの後ろで獄寺くんが悲鳴を上げて倒れた。

「(えーっ!)獄寺くん!?」
「あら、隼人ったらまた…しょうがない子ね」
「え…あ」

わかっちゃいたけど、ビアンキさんだ。彼女はわたしを見ると「いらっしゃい、みちる」と声を掛けてくれた。

「こ、こんにちは。お邪魔します…(知ってたけどここまで…可哀想な獄寺くん…)」
「隼人もわたし達のチョコレートが食べたいのね、素直にそう言えばいいのに」
「あはは…」

ビアンキさんとは、前に沢田くんの家に上がったときに顔見知りになった。
京子ちゃんとハルちゃんに優しい彼女は、わたしのこともあたたかく迎えてくれて、すごく嬉しかった。

「じゃあね、みちる。ゆっくりして行きなさい」
「あ、はい…」

どこに行くんだろう、と思ったけれどあえて口には出さなかった。
グロッキー状態の獄寺くんの傍から、少しでも早く彼女を離したほうがいいと思った。

「獄寺、大丈夫かー?」
「や、山本くん…とりあえず入ろうか」
「おう。あ、千崎、これ持ってくんね?オレが獄寺連れてくからさ」

山本くんは獄寺くんを肩に背負うと、足元に置いてあるふたつの紙袋を目で示した。
見るとその中にあったのは、大量のチョコの箱だった。ふたつということは、ひとつは獄寺くんの分だ。
すごいなぁ、と思いぽかんとしていると、山本くんはもうドアの前だったから、わたしは急いで彼を追った。




「「お邪魔しまーす」」
「はーい、って…山本と千崎さん!…に、獄寺くん!?大丈夫!?」
「来たか、みちる」

ツナくんの後ろからちょこんと現れたリボーンくんに、わたしはにこりと笑って頷いた。

「ま、まぁ、みんな上がってよ!ちょうどビアンキも出てったし」
「そういえば…どうしてビアンキさん出掛けたの?」
「ああ、オレがもみじ饅頭が食べたいって言ったら出て行ったぞ」
「広島まで行かせる気!?」
「いいじゃねぇか、アイツが居るとどうせチョコにありつけねーからな」

ビアンキさん、すごい愛ですね。
沢田くんは「獄寺くんはこっちで寝かせてあげようか」と言って、山本くんを連れて別の部屋に入っていった。
お前はこっちだぞ、と言ってリボーンくんに案内されたのは台所だった。
京子ちゃんとハルちゃんが椅子に座っていて、ふたりの前にはチョコレートのバケツがあった。

「はれ?リボーンちゃん、この人は誰ですか?」
「そっか、ハルは知らないんだな。けどこいつはハルのこと知ってるぞ」
「え?」
「ちょ、ちょっとリボーンくん!(いきなりバラした!)」

京子ちゃんはというと、学校で話すからもちろん知り合いだ。
わたしを見ると、みちるちゃんだ!と嬉しそうに笑ってくれた。

「さ、沢田くんやリボーンくんに聞いてるから知ってるの!緑中のハルちゃんだよね」
「はひーっ、そうだったんですか!はじめまして!」
「うん、あ、わたしは千崎みちるです」
「みちるちゃん…可愛いです!あ、でもツナさんは渡しませんからね!」
「ハル!何言ってんだよ!」

沢田くんと山本くんが部屋に入ってきた。沢田くんはハルちゃんの台詞にあたふたしている(そりゃそうだ、京子ちゃんも居るんだもん)
ふたりはわたしの横の席に揃って座り、リボーンくんがぴょんと山本くんの肩に飛び乗った。

「で、みちる、何持ってきたんだ?」
「え?えっと、チョコレートフォンデュでしょ?これどうかなって思って…」

わたしが鞄から取り出したのは、ビスケットとマシュマロ・そして林檎。
ビスケットは昨日家で焼いたものだ。マシュマロと林檎はさっきスーパーで買ってきた。

「うわぁ!豪華になった!」
「ありがとうございます、みちるちゃん!」
「じゃあわたし、林檎剥いて小さく切るね」

京子ちゃんがそう申し出ると、ハルちゃんが「ハルも手伝います!」と手を上げた。気配りができるのはさすが女の子だなぁと思った。(って、わたしもそうなんだけど…)

ばたばたと動き出した女の子達を見て、沢田くんと山本くんも立ち上がった。皿とフォーク出さないとな、などと言っている。
やっぱりそこはこの家の人間らしく、沢田くんが支持を出す。

「なぁ、千崎」
「ん?」
「これって千崎の手作り?」

これ、と言って山本くんが指差したのは、袋に詰めてきたビスケットだった。
いびつな形をした一枚を手にとって山本くんは笑った。

「これなんだ?タコ?」
「(タ…)違うよ!星だもん!」
「ははっ、だよな!冗談だって」

本当はもっと軽く食べられるクラッカーを作りたかったのだけど、そのときわたしは作り方を調べる余裕がなかったのだ。
別に手作りじゃなくてもよかったのだけど、なんとなく作りたかった。だから、一応チョコと合いそうなところを、と思いビスケット。

タコと表したそれを、山本くんはひょいと口に含んだ。
あ!とわたしが声を上げると、ハルちゃんが林檎を切りながら「山本さん!先につまみ食いはノーグッドです!」と怒った。
山本くんはハルちゃんに向かって手を合わせて謝りながら、でもちっとも悪びれた様子じゃない。

「うめーなっ!」
「…ありがと」

山本くんの笑顔を見ていたら、なんかどうでもよくなっちゃったけど。

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