今日はバレンタインデー。
そっか、じゃあ今日は沢田くんの家で色々大変なことが起こるわけだ…

わたしは、昨日作ったものを鞄に詰めて、「行ってきます」と言って家を出た。




朝、学校に着くと、わたしの教室は女子の人口密度が半端じゃなかった。
原因はもちろん、並中の二大モテ男がこのクラスに在籍しているからだ。
よく見ると、他のクラスや他学年の女の子もたくさん居る。山本くんと獄寺くん、恐るべし。

ピークはやっぱり、朝の始業前と昼休み、そして放課後だろう。
わたしは特に彼らに用事もないし、至極平和な一日になるだろうと思った。

「よぉ、千崎」
「おはよう、山本くん」

始業五分前ともなると、他のクラスの女の子達はあらかた自分の教室に戻っていったらしい。
少しだけ疲れたような顔で、でも笑顔でわたしに挨拶をくれた山本くんに、わたしも笑顔で答える。

「やっぱりモテモテだね。すごいね」
「ははっ、勘弁しろよ、さすがにちょっと疲れたって」
「どうして?うらやましいよ」

そりゃ、わたしだってモテたくないわけじゃないし…
あれだけの人数に好かれる彼を、素直にすごいと思う。

「千崎は誰かにチョコやらねーの?」
「ううん、あげるよ。間接的に…」
「は?どういう意味だ?」
「えっと、」

理解不能と言った様子の山本くん(この言い方じゃ当然だ)に、続きを言いかけたところで、先生が教室に入ってきた。
わたしはこそりと、「今日の帰り道、沢田くんの家に寄ってくれない?」と耳打ちした。

「オレが?」
「うん。あ、獄寺くんと一緒に来てくれると嬉しいんだけど…」
「獄寺も?」

山本くんはとりあえずといった感じで「わかった」と返してくれた。
わたしは小さな声でお礼の言葉を述べると、席に戻った。
そして、鞄の中の袋を再確認。よかった、ちゃんとある。
喜んでくれるかどうかは正直、未知数なんだけど…、きっと大丈夫だろう。



放課後、さあ帰ろうと荷物を整理しているとき、沢田くんが脱皮?して、死ぬ気で走っていった。
ああ、ミッション開始だ…と思っていると、銃をしまったリボーンくんがわたしの机にぴょんと飛び移ってきた。

「みちる、今何が起こってるか当ててみろ」
「え?あぁ…家でビアンキさんと京子ちゃんとハルちゃんがチョコ作りしてるんでしょ?」
「さすがだな、当たりだ」

わたしは、この世界の未来を知っている。信じられないような話だけど本当だ。
リボーンくんが、この事実を疑っているから聞いているわけじゃないことくらいわかっている。
彼は、わたしになんとかしろとのたまうわけでもない。普通に接してくれることが嬉しい。

「わたしも後で行くつもりなんだけど、いいかな」
「何か対策でも考えてあるのか?」
「うん、ちょっとね」
「だったら大歓迎だ。なるべく早く来いよ」

やっぱり、さすがのリボーンくんもビアンキさんにはたじたじなんだな。
リボーンくんは「じゃあな」と言い残し、沢田くんを追いかけていった。

さて、わたしも行かないと。
鞄を肩にかけ、黒山の女子達に囲まれてる二大モテ男の横を通り抜けようとした。

「おい、千崎!」

教室の人口密度が上がっているからか、少し大きな声で呼び止められた。
ぴたりと足を止めそちらを向くと、女の子達より頭ひとつ分飛び出た派手な銀髪で、すぐにわかった。
…のだけど、当然ながら、その女の子達も一斉にわたしのほうを見たわけで。
妙な威圧感に緊張していると、そんなわたしに気付いたのか彼、獄寺くんは、「…またな」と言うだけに留まった。
多分、まだ何か言いたかったんだろうけど。でも、とにかくこの状況が痛い。何なのこの女と言わんばかりの、女の子達の視線が痛い。

「あ、あの、獄寺くん」
「あ?」
「や、山本くんに伝言しといたから!」

こ、怖い!女の子の視線が怖い!と、内心冷や汗ダラダラだった。
が、後ろから山本くんが「そーだぜ獄寺ー」とのん気に声を上げてくれたことで、幾分か緊張が解けた。
見ると山本くんが、違う女の子の輪の中からわたしと獄寺くんに手を振ってくれていた。

「千崎ありがとなー、オレが獄寺に言わなきゃなんねーのに」
「え、そ、えっと」
「そーだったな野球バカ!おら、千崎お前急いでんだろ早く帰れ」

獄寺くんはよくわかってないようだったが、咄嗟に機転が利く彼のことだ、合わせてくれたのだろう。
ふたりしてわたしを逃がしてくれた。ありがとう、後で絶対にお礼するからね…!

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