目が覚めた一週間後、わたしは退院した。
そして帰った、あのおじさんと、おばさんに連れられて。
この世界の“みちる”の家に。



そんなことばかり考えるのだが、それはつまりわたしとこの世界のみちるさんを離して考えることだ。
初対面のおじさんとおばさんがいきなり両親になり、いくら同じ“千崎”とはいえ、知らない家に住んでいる自分。
どうしても落ち着かなくて、慣れるわけがなくて。

退院したてで、学校のこともしばらく考えなくてよさそうなので、わたしは毎日外を出歩いていた。
見たことのない街、商店街。それでも、空も風も記憶どおり、わたしのいた世界と同じだから、不思議だ。
ただ単に、いきなり元の両親に捨てられて、おじさんたちの養子にでもなって、遠くの街に引っ越してきた。そんな気すらしてくる。
わたしの空白の一年間に、勝手にそういうことになっていたとか。
…そうだったら、どんなによかっただろう。いろいろなことを悩みすぎて、頭が割れそうだ。

ふと顔を上げると、下校中の中学生が反対側の歩道を歩いているのが目に留まった。
ああ、学校があるんだ。わたしもそのうち、編入することになるのかもしれないなどとのん気なことを思った。
だって、もう同じようなことを悩みすぎて、さすがに疲れてきて。
本当の娘であるみちるさんがどうなってしまったのかとか元いた世界のこととか、…もちろん気になるけど。
わたしのことを愛してもくれない両親はもういない。
だったら、たどたどしくも、本当に繋がれなくても…おじさんたちと過ごすほうが、よっぽど――


「…並…盛っ…、中学校…?」

さっき見た中学生の集団の流れに逆らって歩いていたら、いつの間にか彼らが勉強をしているのであろう場所にたどり着いた。
ナミモリ、と読むのだろうか、いや、読む。だってわたしは、この学校を知っている。
今、人気の漫画…と記憶している、「REBORN」の舞台のひとつ、並盛中学校。
え?え?と軽く混乱しながら、冷静を取り戻そうとした。

(ありえないでしょ、だってあれは漫画だもの)

実在する地名ということなのだろう。そうか、知らなかった。よく考えれば当たり前だ。
一瞬でも、この校門から、あの漫画の登場人物たちが出てくるのではないかと期待したわたしは、「REBORN」が好きだったんだと再確認する。
まさか、そんなわけない。
いくら別世界だのなんだのとありえない想像をしたところで、さすがにそれが漫画の中の世界だなんて。
それに案外、本当にわたしはあの事故で記憶障害か何かを起こしていて、この町内も両親のことも全く違う記憶だと錯覚しているだけなのかもしれない。

そうだよ、やっぱりあっちやこっちの世界があるなんてバカらしい、きっとわたしは、単にこの世界の“みちる”なのだ。
きっと事故の後遺症でおかしくなっているんだ、大丈夫、きっとあのおじさんたちも、本当はわたしの両親に違いない。


「なーんだ、やっぱりそうなのよ。そうと決まったら明日にでも病院に…」

「てめー山本!10代目に馴れ馴れしくしてんじゃねぇ!迷惑だろ!」
「ご、獄寺くん、オレ別に迷惑じゃないし…」
「そーだぜ獄寺、お前カルシウム足りてないんだよ」
「んだとてめぇ!」


わたしのすぐ横をすり抜けていった三人組にあまりにも見覚えがあって、わたしは固まった。
ま、まさか。だって彼らは、漫画の中の…!

恐る恐る振り向くと、いちばん背の高い…山本の肩に乗っていた何かがこっちを向いた。

「…リ……っ!」

スーツを着た赤ん坊とばっちり目が合い、わたしは慌てて彼らに背を向けて走り出した。
なんで、なんでなんでなんで、どうして。

やっぱりあの赤ん坊は、リボーンだった。
そしてあの三人は、漫画の中でいうところの、沢田綱吉・獄寺隼人・山本武…なのだと思った。



リボーンがわたしを見てにやりと笑っていたことなんて、慌てて駆け出したわたしは知る由もなかった。

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