そんなこんなで、あたしはあることに気づいてしまった。
川本さんは、とってもえっちがおじょうず。ちょっとしつこいけど。
なので、あたしは自動的に男をあさる必要がなくなってしまった、結果として。
「ふふーん」
ご機嫌で待ち合わせ場所に向かう。
だって考えてみ、繁華街行ってもいつもいつも男が捕まえられるわけじゃない。
でも川本さんはいつでも、そう、あたしが平日の夜いきなり訪ねていってもだいたい、やらせてくれる。
もちろん急な残業で遅いとか、そういうのはあるけど、なんか、なんだっけ、ライフワークバランス?ワークライフバランス?みたいなの奨励してる会社らしくて、終電間際になっちゃう残業とかはまずないみたい。
なんちゃらバランスがなんなのかは、知らない。
「最近あおいちゃん、ご機嫌だね」
ってはぐにも言われちゃうくらい、あたしは胃袋と子宮を掴まれている、あの男に。
今日も、三日ぶりに会うので、やりたい。そろそろむらむらしてきた頃!
『ごめん急用できた』
そんなむらむらが一気にイライラに変わるラインのメッセージが届くのである。
「はあ!?」
スマホを睨みつける。
あたしより大事な用事ってなに!?
みたいなヒステリックな思考が浮かんできたので、あたしは怒りに任せてそれを送る。
『ばあちゃんが危篤』
あ、あっ、それはしょうがない…ね……。
てか、あいつばあちゃん子だったのか、なんか納得。
料理とか、なんかふるさとの味、みたいな感じで、奇抜なやつつくんないもんな。
完全にやる気だったあたしは、あまりにも仕方なさすぎる事情で放り出されて、どうしていいのか分かんない。
「えーどうしよ」
久々に繁華街行くかな…。
★★★
というわけで、ぴゃっと行ってぴゃっと男をゲット。
ホテルに入ってキスをされる。
……。…………。………………。
「先風呂入っておいでよ」
男を風呂に誘導して、あたしは財布からホテル代を出してテーブルに置いた。
「……つまんないの」
ホテルを出てぷらぷら歩きながら、さっきのキスを思い出してみる。
別にへただったとかじゃない。
でも、なんか、違った。
なんだろう、なんかよく分かんないけど、川本さんの顔を思い出してしまった。
こんな気分でほかの男とえっちしたって気持ちいいわけない。
でも今日は川本さんとやれないしな〜。
「つまんないな〜……」
なんて思っていると、後ろから腕を掴まれた。
「えっ」
「何出て行ってんの」
「あ、ごめん、急用思い出して…」
「はあ?」
ホテルに置いてけぼってきた男があたしを追いかけてきていたのだ。
「急用って何」
「…ばあちゃんが危篤で」
「……ウソだな」
「ウソだね」
そういうやり取りをして、でもそんなにもめずに、解放された。
男的にも、やる気なくなったあたしを無理やりどうこうってのは頭になかったみたい。
そんなことより、ばあちゃんが危篤、ウソだな、ウソだね、っていうやり取りのほうが気になった。
そうだよな、ふつうウソだよな……なんであたし信じたんだろ。
唇を噛んで、家に戻っていた足の向きを変える。
川本さんの家に向かいながら、こんなことして何になるんだろ、って思う。
これで家から女とか出てきたら笑えないっしょ。
まあ、川本さんに限ってそんなことはないんだろうけど……。
「……」
マンションのエントランスの近くまで来たところで、川本さんが出てくる。
女と一緒だ。
女は、川本さんの腕にしがみついて、なんかおいしいの食べたい〜とか言ってる。
「……あおい」
なんだ。
操立てる必要なんかぜんぜんなかったじゃん。
あほくさっ。
「ばあちゃんが危篤なんじゃなかったの?」
「……あー」
「いや、別にウソでもいいけどさ、もっとうまくやれよ…」
「あおい」
なんかもうあきれてものも言えない。
川本さんが浮気するのを、あんまり責めるつもりがない。
だってビッチのあたしに責められるとか、川本さんもめちゃ不本意じゃん?
それくらい自分でも分かるし、ていうかさっきあたしも浮気しそうになってたし。
「なんだよー、川本さんが浮気してんだったらさっき萎えなきゃよかった…」
「は?」
「え、ひろとくん、もしかして彼女?」
川本さんの腕にくっついてた女が声を上げた。
おまえ名前ひろとくんって言うんか、初めて知ったぞ。
「うん、彼女」
たらっ、ときっつい目つきをとろけさせた川本さんに、なんか居心地悪くなる。
「ええー!?なんでわたしに教えてくれないのー!?」
「おまえに教えたら面倒なことになるから」
「いいじゃん!えっ、てか、美人!いくつ?肌きれいだね!」
「俺が飯食わしてんだからきれいで当然だろ…」
「はい、出たー、ひろとくんの餌づけ大作戦〜!」
は、話が読めない。
この女は誰だ。
「あおい、ばあちゃんが危篤ってのはウソだった。駆けつけたらぴんぴんしてやがった。なので俺はどっと疲れたのでこいつと今から飯に行こうとしている」
「いや…うん」
「ちなみにこれは妹だ。俺に似てなくてかわいいだろ」
「うん……おお……」
「で?俺が浮気してたら、さっきなんだって?」
「………」
なんにも言えなくなって口を閉じて後ずさる。
ずい、と近づいてきた川本さんは、妹さんにちらりと視線を投げて言い放った。
「俺用事できたからおまえ、帰れ」
「ええ〜!?」
「今度どっかの美味い飯食わしてやる」
「ちえ〜!帰る〜!絶対だよ〜!」
帰らないでくれ、頼む、あたし殺されてしまう。
願いもむなしく妹さんはあたしが来た道をぱたぱたと歩いていってしまった。
残されたあたしと川本さんは、しばし黙る。
「あおい」
「っ」
「俺言ったよな、今度ほかの男にさわらせたら殺すって」
「それは聞いてない!抱き潰すとは言われたけど殺すとは言われてない!」
「覚えてんだな」
「あっ」
慌てて弁解したおかげで墓穴を掘るはめになる。
腕を掴まれてマンションに連れ込まれる。
ギリギリミシミシと音がしそうなくらい強く掴まれてるので抵抗もできない。
部屋に入って靴を脱がされベッドに叩きつけられるように押し倒される。
「い、たっ」
「俺は見ての通り気が短いんだ。どこまでさせた?」
「っ……」
どうしようホテル入ってキスしただけだけど、それ言ったら軽く一晩はヤられる。
そんな気がして、あわあわして黙っていると、何を勘違いしたのか舌打ちされた。
今ならその視線で金属も切れる気がするなあ!?
「お、おねがいゆるして」
「そう言われて許すと思うか?」
「おもわない…」
「賢いね」
どうなるあたしの明日!!!!
続くのか!やめてくれ!ここでおわりにしたい!
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