- ナノ -

君だけ見つめたい

みょうじとの電話を切った後、
親に明日向こうに戻るからと伝えた。

急な話ね、じゃあ姉さんにすぐに
連絡しとくわねと母は寂しそうに応えた。

ごめん、母さん。

俺は今、みょうじとのプールが最優先です。

帰ることが決まれば次は銀だ。

メッセージを送ると、割とすぐに返事がきた。

【別に予定ないし明日ばあちゃん家から
戻るからええで、行くで】

とのことだった。

次の日、家を出る前にみょうじに連絡し、
銀と栗山の約束を取り付けたことを確認した。

これで準備はバッチリだ。



兵庫に戻り、俺はまたみょうじに連絡した。

「あ。角名?もうこっち着いたん?」

「うん、おかげさまで」

「そっか、おかえりー」

「ただいま。早速だけど、
明日集合場所まで一緒に行かない?」

「別にええで。あ、そっか。
角名こっちに土地勘ないもんな、
気ィつかへんくてホンマにごめんな」

明日行くプールには親戚達と何度か
行ったことがあるから
本当は大丈夫なんだけど。

そこは黙ってみょうじの好意に
甘えることにした。

「うん、助かる。
じゃあ、みょうじの最寄り駅のホームに
9時でいい?」

「わざわざ電車降りなくていいよ、
ちゃんと角名の乗る電車に乗るし」

「入れ違いになったらやだから」

「わかった、じゃあ明日な」

「うん、また明日。楽しみにしてる」




いよいよプール当日

みょうじの最寄り駅のホームに降り立った。

約束の時間より少し早い。
みょうじはまだ来てないみたいだ。

ベンチに座ってスマホをいじりながら
待っていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。

声のする方を向くと、
ふんわりした水色のワンピースに白いカーディガンを羽織った
みょうじが俺に手を振りながら走ってきた。


やっば、メチャかわいいじゃん!


ニヤける口元を手で隠し、
おはよと声をかける。

「おはよー、あれ?角名髪の毛切ったん?」

「あぁ、時間あったしね。それに暑いし」

「ええやん!さっぱりしてて」

「ありがと。みょうじも私服かわいいじゃん」

「これ、ええやろ?
こないだみんなで買い物行ったとき見っけてん!」

そう言ってみょうじはスカートの端を
摘んでフリフリと揺らす。
なにその仕種!可愛さの暴力じゃん!

たまらずスマホを向けると
バッチリポーズをきめてくれたので、
そのままま写真を撮る。

「後で送るから」

「うん、ありがとー」

そう言ってみょうじは俺の横にすとんと座る。

「はぁー、暑い!今日もプール日和やわ」

「だね。たのしみ」

「なー!」

あぁ、もうこれ完全にデートだよ!
一緒に行こうって言って良かった……

ホームに電車が入ってきた。

それから休みの間お互いどんな風に
過ごしていたかとか、課題の話、
インターハイの話などをして
銀達との集合場所に向かった。



更衣室で着替えていると、めぐちゃんは

「うぅー、緊張する!銀ちゃんとプールとか
小学校以来やわー」

「えー、緊張とかする?」

「だって、子供の頃と違って鍛えてるやろうし、
どうしよ、恥ずかしなってきた」

「今更やで。向こうもそう思ってるかもな」

ニヤリと笑って言うと

「もうー!なまえも角名くん見たら
そうなるかもやで!」

「ないない、だって、角名やで?」

なんて、軽口をたたきながら更衣室を出ると、
自販機の列に銀島が並んでいた。

「おう、二人とも、何飲む?」

「え、買ってくれるん?」

「後で割り勘な!」

「ほんじゃ、私お茶やったら何でもええわ。
あれ?角名は?」

「先行って場所取りしてもらってんねん。
みょうじ行ったってくれへん?」

「銀ちゃん、私も一緒に並ぶわ」

「おう、ありがとー」

何だか示し合わせたかのように
私と角名を二人にしようとする気がする。

とはいえ、このままここに居ても
私がめぐちゃんの邪魔になってしまうので、
角名のところへ行くことにした。

人の波を抜けて行くと、
角名がこちらを見ていた。

無表情で。

なんだかんだ言って一人は心細いんかな?

手を振って角名のところへ向かった。

もうすぐふたりも来ることを伝えて
改めて角名と向き合ったのだが

あれ、角名ってこんなにガッチリしてたっけ?

普段は割とゆったりめのシャツを
着ているので気付かなかったけど、

え、何、あの胸板、ぶ厚っ!
腹筋もバキバキやし、腕も…
え、ヤバない?めっちゃ男の人やん!

宮兄弟とプールで会ったときも、
さっき銀島に会ったときもそんなん
全然気にならへんかったのに。

なるべく、角名の方を見ないようにソローっと
隣りに座ったら、一緒に写真を撮ろうよと言う。

動揺を隠そうと、ええで!
なんて元気よく答えてしまった。

角名が、いそいそとスマホを操作しながら

じゃ撮るよーと言って私の背中にピタリと密着した。

ぎゃー!

あわてて押しのけた。

角名はもっとこっち寄って!なんて言う。
これ以上近づくってどういうことやねん!!
もう肌触れとるやろ!!

近い近い!そんな寄らんでも撮れるやろ
と思わず叫んだ。



更衣室で銀と並んで着替えていると、

「角名ぁー、めぐから聞いたで!
お前みょうじにプール行きたい言うて
ゴネたんやろ?」

「ああ、双子とは行って
俺と行かないとか嫌じゃん」

「でも、二人きりはいやって断られてんて?」

「あいつなりの照れ隠しだよ」

「お前、……ちょっと怖いわ。
まあ、おかげで俺もJKとプールやけどな」

「相手は幼馴染だけど」

銀とプールに向かうと
二人はまだ来ていなかった。

まぁ、女の子は色々と準備があるんだろう。

俺は飲み物買っていくから
角名は場所取りよろしく!

そう言って銀は更衣室を出てすぐの
自販機に並んでしまったので
俺は休憩場所を確保して、座って待っていた。

スマホを取り出して、
暇つぶしにゲームをしていたが、
ソワソワしてなかなか操作がうまく行かない。

まだかな?と更衣室のある方に視線を向けると、
人の波の中にみょうじを見つけた。

キョロキョロと周りを伺っていたみょうじは
俺を見つけると、手を振ってこちら側に
歩いてきた。

「角名見つけたー!銀島とめぐちゃんも、
もう少ししたら来るからな!」

なんて言いながらみょうじは明るく笑う。

写真ではパーカーを羽織っていたが、
目の前のみょうじはそれを羽織っていない。

見たくてみたくてたまらなかったみょうじの
水着姿を前に、俺は心の中で絶叫した。


はぁぁーっ!生肌!生足!生水着!!

今すぐこのスマホで写真撮りたい!
連写したい!

いや、落ち着け、ここで引かれたら
今日一日楽しめないっ

ギリッギリのところで平静を装いつつ、
隣に座ったみょうじにさりげなく
お願いしてみた。

「ねぇ、みょうじ、一緒に写真取ろうよ」

「ええで!後で送ってな!」

元気にそう答えるみょうじは
俺が悶絶していることには気付いていないようだ。

よし、安心した。

スマホを操作して、自撮りモードにする。

ここぞとばかりにやわらかな肌に
後ろからピッタリくっついたが
色気のない絶叫と共に即押しのけられた。

「みょうじ、もっとこっち寄って!」

「あほ!角名!近いねん!そんな寄らんでも撮れるやろ!」



私らあっちのプール行ってきていい?

といいながらみょうじと栗山は
流れるプールに行ってしまった。

残された俺はプールではしゃぐ
女子二人を見つめながら

「……戻ってきてよかった」

とつぶやいた。

「おおげさやなー」

そう言って貴重品を置きに行っていた
銀が隣に座る。

「とか言いながら、お前栗山のこと
直視できてないじゃん」

「ふへっ!?んなことないよ!」

「子供かと思ってた幼馴染がイロイロと
成長した姿で現れたら焦っちゃうよね〜
イロイロと」

「うっさいな!お前はみょうじガン見して
逃げられとるやんけ!」

「そりゃ見ちゃうでしょ?
ホントは今この瞬間もスマホで
連写したいんだけど、
毎回ロッカーに置きに行くの面倒だし、
みょうじに引かれたらやだから
網膜に焼き付けてるんだよ」

「キモっ、もう十分引かれとるがな」

「でも、もう見るのはいいか。俺らも行こう」

銀と連れ立ってザブンとプールに入り、
流れに身を任せつつ二人を目指す。

みょうじは浮き輪に乗っかる栗山に
抱きついてぷかぷか浮かんでいた。

「追いついた」

「え、角名も来たん?」

「銀も来てるよ」

すぐ後ろを指差す。

指差した方向を見ているうちにサッと
みょうじを栗山から引き剥がして
その腕を俺の首に巻きつけた。

おんぶするような感じで。

「ちょっ、すっ角名!」

「銀と栗山二人きりにさせてあげようよ」

コソッとつぶやくと

「そういうことなら……」

と言ってみょうじはおとなしく
俺につかまった。

「ほら銀、栗山流されちゃうから捕まえないと」

と言ったら銀はあわてて
栗山の浮き輪を捕まえた。

よし、うまくいった!
心の中でガッツポーズを決める。

水の流れに乗りながら
銀たちからゆるゆると距離をとる。

「気持ちいいね、みょうじ」

「うん」

「ねぇ、みょうじ」

「なに?」

「水着もかわいいよ」

「っ、ありがと……」

プールを一周する頃にはみょうじも
緊張が解けたのか、
リラックスしながら俺につかまっている。

少し先を行く銀たちも
何やら会話が弾んでいるようだ。

栗山が、コロコロと笑っている。


「ねぇ、みょうじ」

「なに?」

「後でもう一回写真撮らせて」

「ええー!もうええやろぉー?!
七五三の親ばりやん!撮りすぎやで!」

「じゃあ360度じっくり見せて」

「さっき穴開くくらい見てたやろ!
あっちにもっときれぇなオネェさん
いたはるからそっち見ときぃや!」

「知らない人よりみょうじがいいんだけど。
あとどれだけ見たって足りないんだけど」

「……都合のいいときだけ人見知りキャラ発動すんなや。
こないだからなんかおかしいで?
角名、暑さにやられたんか?
絡み方がもうキモい通り越して怖いわ」

「………え、そんなに?」

あぁ、俺ちょっとブレーキ効かないくらい
みょうじにハマっちゃってるかも。