- ナノ -

からかわないで

インターハイでのバレー部一年生の活躍は
夏休みが明けてすぐに学校中に広まっていた。

特に、宮兄弟は以前にも増してファンが増え、
侑くんのところには連日
女の子が差し入れに来ている。

おかげでうちのクラスは
とても人口密度が高い。


そして角名や銀島にも差し入れをする
女の子がチラホラと現れだした。


ここのところ、休憩時間に見知らぬ女の子が
二人に話しかけているのをよく見かける。


今日はせいちゃんが彼氏とご飯を
食べる日なので、
私達3人はめぐちゃんのクラスで
ご飯を食べた後もダラダラとだべっていた。

めぐちゃんは休み明けの席替えで
廊下側の席になった。

さっき銀島が女の子に呼び出されたので
廊下の様子をはらはらと伺っている。


「銀ちゃんのあんなデレた顔
見たことないねんけど」

夏休みの終わりにめぐちゃんから銀島と
付き合い出したと聞いていたので、
ハラハラしながらもヤキモチをやく
めぐちゃんがとてもかわいい。

「ふたりはもう付き合ってんねんやろ?
そんな心配やったら他の子から差し入れとか
貰わんといて!てお願いしてみたら?」

とめぐちゃんの後ろの席に座っている
早希が言う。

「そんな感じ悪いこと言われへんわ!
……それに私らってなんか彼氏彼女っていうよりまだ幼馴染って感じやから……」

と、めぐちゃんは今度はちょっと
落ち込みはじめた。

「おいおい、私のめぐちゃんいじんなやー」

と早希に言いながらめぐちゃんを
抱きしめていると、今度は矛先が私に向く。

「なまえこそええん?
角名、今カッコイイいうて人気急上昇やで?
ほっといたら取られんで?」


なぜそこで角名の名前が出る。


「は?私と角名はただの友達やから
角名が誰に呼ばれようが、
付き合おうが私には関係ないし……」



確かに角名はかっこいい……と……思う。


背はスラッと高いけどひょろひょろじゃないし、関西人ちゃうからとっつきにくいかと思いきや、ノリええし。


あとやさしい。


困ってたらさりげなく助けてくれる。

……でもたまにからかってくるし、
プールんときとかめっちゃ見てきて
怖いしキモいし

「ふうん、みょうじにとって
俺ってそんな感じなんだ」


頭の上から声が降ってくる。


心の声を読まれたのかと焦って振り返ると、
すぐ側に角名が立っていた。





昼休みに食堂から戻ると、
教室の前の廊下で銀島が見知らぬ女と
話をしていた。


教室の廊下側の窓から栗山が
ハラハラした様子でそれを伺っている。


あぁ、またか。


2学期が始まってから、双子のファンが増えた。

おそらくインターハイでの活躍が
その発端だとは思うのだが、
どこで聞きつけたのか俺や銀にも
差し入れと言って会いにくる女が現れた。


銀は律儀にもああやってファンサしてるけど。


夏休みの終わり。
銀から栗山と付き合い始めたと
報告された。


「あ、そう。良かったじゃん」

特に気の利いた事を言うわけでもなく
そう返したのだが、

「プール行ったんがきっかけやから」

と、まるで俺のおかげとでも
言わんばかりの様子だった。

いや、俺はみょうじの水着姿が
見たかっただけなんだけど。


「で、角名はみょうじとどうなん?」

「別に?どうもこうもないけど?」

「まだ付き合わへんの?」

「まぁね、あいつ次第かな」


最近、この手の質問も多い。


クラスのヤツと話していると、
どこの誰か可愛いだとか、
告ったらいける!
なんて話になることは
これまでもよくあった。

ただ、近頃は差し入れ女子が現れたせいか

「ええなー、角名モテ期きてるやん」

「◯組の◯◯さんが角名の事
カッコええ言うてたで」

と、いじられる事が増えた。

その度に

「でも角名はあの隣のクラスの子と
付き合うてるんやろ?」

「いや、まだ友達だよ?」

「えぇー!すでに友達の距離感ちゃうやろ!
お前の感覚おかしない?」


なんて流れになる。


正直、そろそろ俺のものにしたいとは思ってる。


佐藤のようなやつが他にいないとも限らないし、この先現れるかもしれない。

その前にこちらから好きだと言ってしまいたい
という衝動に駆られることもあるが、
肝心のみょうじが俺を頑なに友達の括りに
縛っている節がある。



うかつに告白して

私ら友達やろ?

なんて言われた日には目も当てられない。


俺を男として意識しているのは
これまでの反応でよくわかっている。



あいつに俺を好きだと言わせたい。



俺が他の女と喋ってる時に
栗山くらいわかりやすくヤキモチでも
焼いてくれたらなー
なんて考えながら教室の扉をくぐると、
ちょうど津田がみょうじに俺の話題を
振っていた。


あいつ、どんなリアクションすんだろ


気配を消して様子を伺ったが、
期待した感じにはならなかった。




一体いつからそこにいたのか、
不機嫌な顔をした角名が私を見下ろす。


「みょうじは俺が誰から何貰おうが
告られようが興味ないんだ?」

「そ、そういう言い方は語弊があるやろ」

と慌てて言い訳めいた言葉を発してしまった。


角名はそれを皮切りにジリジリと
距離を詰めてくる。

でも窓とめぐちゃんの机に阻まれて
逃げ場がない。


「じゃあ俺に興味あんの?」

「興味とかそういうんやなくて」

「じゃあ何?」

「や、あの、友達……やろ?」

そう答えると角名は明らかに嫌そうな顔をする。

え?私ら友達ちゃうの?


「みょうじはホントにそう思ってる?」


窓に片手を付き、すぐ側から私を見下ろす。


「す、角名っ!ちっ、近い!」

「友達だったら近くても問題ないんじゃない?
いつも栗山とベタベタしてんじゃん」

「そ、そういうんやなくて!」

「じゃあ、俺たちってどんな関係なの?」

「もう!何を言わせたいねん!」


顔を見ないように視線をそらすと
早希と目があった。
ニヤニヤしてやがる。


「俺はみょうじにすっげぇ興味あるから」


ここぞとばかりに角名が耳元でささやく。

早希とめぐちゃんまでもがひゃーっ
などと言ってはやしたてる。

「……っ勘弁してください!」