- ナノ -

やきもち

今日は朝練でめぐちゃんの姿を見なかった。

もしかして学校休みなんかな?
スマホにメッセージがないか確認したが
何も連絡は入っていなかった。


SHRが始まる前に銀島に聞いてみると
昨日の夜に少し熱っぽいと言っていた
と教えてくれた。


1限が終わった頃にめぐちゃんから
メッセージがきていた。


風邪を引いて今日は学校を休んでいること、
今日は私と二人で食堂に行く予定だったので
一緒に行けなくてごめん


と言う内容だった。


そんなん気にしんといてな、
今はゆっくり休んで!
お大事にな!


と返信した。

めぐちゃん大丈夫かな…
夏場の風邪はしんどいって言うし。
銀島が帰りにお見舞い行くって言うてたから、
明日いろいろ聞いてみよ。


それにしても今日お昼一人か。


……また角名についていこかな。

いや、さすがに角名に頼りすぎやな。

それにこの間みたいにいじられるのはごめんや。


今日は一人で行ってみよーっと。




昼休み、教室を出たところで角名に捕まった。


「みょうじ、今日栗山とご飯食べる日だろ?
どうすんの?」

「怖っ、なんであんたがそんな事知ってるん」

「見てたらわかるよ、一緒に行く?」

「や、ありがたいけど」

と言うのと同時に後ろから声をかけられた。


「角名くん、今ちょっとだけ時間もらえる?」


角名に声をかけたのは、
チア部で一番可愛いと評判の浅田さんだった。

間近で見ると、どえらい美少女で
度肝を抜かれた。
なんかメッチャえぇ匂いするし。

「え、今から昼飯行くから無理」

角名による、まさかの塩対応。

「あ、ごめんなさい。タイミング悪くて」

角名から視線をそらした浅田さんと
目が合った。


あんた邪魔なんやけど。


そう言われてる気がして身がすくんだ。


「あほ、角名!昼休み長いねんから
今すぐ食堂行かんでもええやろ!」

私は小声で角名にそう言って
その場から逃げるように食堂に向かった。




券売機でいつものようにカレーの食券を買う。

カレーの列に並び、あの後
二人はどうなったんかなと考えていた。


浅田さん、……角名に告白したんかな。


あんなにかわいくてきれいな子に
好きって言われたら角名でも即OKやろ。

そうなったらもう今までみたいに
気軽に話もできひんやろな…



「なまえちゃん!」

肩を叩かれ、呼ばれていることに
気がついた。

「あ、カレーの……佐藤くん」

夏休み前に治くんに教えてもらった
名前で呼ぶ。


「なんや、元気ないで?どないしたん?
角名くんと喧嘩でもしたん?
そーいえば今日はおらへんし」

「や、角名は関係ないよ。…夏バテかな?」

「夏バテにはカレーが一番やもんな!」

ニッと笑う佐藤くんにつられて

「そやね」

と言って笑った。

「角名くんおらんねやったら
友達と来てるん?」

佐藤くんは周りをキョロキョロする。

「約束してた子が学校休んでるから
今日は一人やねん」

「え、そうなん?
じゃ、俺と食べようや!!」

佐藤くんはパァッと明るく笑った。





空いている席を見つけて
佐藤くんと向かい合わせで座る。


「ホンマに良かったん?
友達と来てたんちゃうん?」

「ええねん、あいつらとはいつも一緒やし
せっかくメシ食うんやったら
カワイイ女の子と食べたいし!」

「かわいい女の子やったら
あっちにいっぱいおるやん」

「ごめん、言い方が悪かった!
俺は二人きりやったら
好きな女の子やないといややで?」

ニコニコしながら佐藤くんはカレーを頬張る。

「……そういう冗談、苦手やからやめて」

佐藤くんはカレーを食べる手を止め、
笑顔でじっと私を見つめてくる。

「あ…の、佐藤くん?」

その時、佐藤くんは私から視線を外した。

「みょうじ」

呼ばれて振り返ると角名が立っていた。


「なんで先行っちゃうの?」

「や、……お邪魔かなと思って……」

「あの場面で邪魔なのあっちの方だろ?」

「んなわけないやん、
明らかに私邪魔やったし。
……それに角名と約束してたわけちゃうし……」

「は?」

「すとーっぷ」

佐藤くんが私と角名の言い合いに
割って入る。

「角名くん、今な、俺となまえちゃんは
楽しくご飯食べてるねん」

「だから?」

「俺らの邪魔すんのやめてくれる?」





「佐藤くん、ありがとう」

「それは角名くん追っ払ったこと?」

「あ、うん……」

「そっか、やっぱりなまえちゃん、
元気ないの角名くんとなんかあったからなんや?」

「や、そういうわけじゃないねんけど……」

「まっ、とりあえずカレー食べようや!
せっかくのおいしいカレーが冷めてまうで?
話はそれからや!」

「うん……」




カレーを食べ終わってから
佐藤くんと体育館脇の日陰に座る。

まだまだ残暑きびしく、
いつもは体育館で遊んでいる人も
結構いるのだが、今日はまばらだった。


「で、何があったん?」

パックのバナナオレにストローを
突き刺して佐藤くんは話を切り出した。


「……角名はぜんぜん悪ないねん…
私の問題、というか……」

「ゆっくりでええよ」

佐藤くんにおごってもらったイチゴオレを
ぎゅっとにぎって私は話し始めた。



「今日食堂来る前にな、角名と喋っててんけど
チア部の浅田さんが角名に話があるって
声かけてきたから……私、邪魔かなと思って……
逃げてきてんけど」

「ほんほん、それで?」

「浅田さんめっちゃかわいいやん?
あんな子に好きって言われたら
角名もお付き合いするかなーと」

「確かに、浅田さんは別格やしな」

「……だから、角名が浅田さんと付き合ったら……今までみたいに話とかできんくなるんかなと思って……」

「角名くん、浅田さんと付き合うん?」

「それは知らんけど……
でも浅田さんみたいな子やったら
断る理由ないやん?」

「んー、どうかなー。
もし角名くんに他に好きな子おったら
断るかもよ?」

「そんなん……角名にもおるんかな……」

「どやろ、ふふふっ」

「佐藤くん、なんか知ってるん?」

「や、角名くんも苦労するなと思って」

「どういうこと?」

「ええねん、こっちの話。
とにかくなまえちゃんは
角名くんに彼女できたら
寂しいってことやろ?」

「身勝手やろ?
さっきも角名悪ないのに
感じ悪い態度とってもうたし。
ほんま私、最低やわ」

「そっかそっか。
ま、角名くん離れするには
ええ機会なんちゃう?」

「そう……かな」

「俺で良かったら手伝うし。
慣れるまで角名くんと話すのしんどかったら
俺と約束してるって言うて逃げたらええやん」

佐藤くんはバナナオレをズゴーと
飲みきって近くのゴミ箱に投げた。

空のパックはきれいな放物線を描いて
ゴミ箱に入っていった。

「わ、さすがバスケ部」

「次のエースになる男やで?
もっと褒めて!」

佐藤くんはドヤ顔でポーズをきめる。

あまりにコミカルなので自然と
笑顔になれた。

「やっぱりなまえちゃんは笑った顔がええわ」




あれから2日、みょうじとは
ろくに口をきいていない。

声をかけようとすると
何かと言い訳をして逃げられたり、
俺が別の誰かに声をかけられたり。

しかもあの日から佐藤が食堂以外でも
みょうじの周りをうろちょろして
邪魔でしょうがない。

二人の間で何があったのか確認したいけど
肝心のみょうじと話ができない。

佐藤なんかに声はかけたくないので
俺のイライラは募るばかりだった。

昼休み、みょうじを見かけたので
今日こそは逃すまいと声をかける前に
みょうじの腕を掴んだ。

みょうじはびっくりした顔をして、
私、約束あるからと腕を振り払おうとする。

そのタイミングでまたどっかのクラスの女が
俺に声をかけてきた。

そいつには今取り込み中だからと言って、
みょうじの腕を引いて廊下の突き当りにある
非常階段への扉を開く。

二人で非常階段の踊り場に出てから
扉をバタンと締めてみょうじと向き合った。


「ねぇ、俺なんかした?
なんで逃げんの?」

「……別に逃げてないやん。
角名こそ、何怒ってんの?」


視線が合わない。


「みょうじが俺避けてるからだろ?」

「避けてないよ、気のせいやろ。
それより、さっき角名声かけられてたのに
……あんな事女の子にしたらあかんよ」

「俺にとって優先順位が高い方を
選んだだけなんだけど」

「……せっかく向こうは勇気出して
声かけてくれたのに……」

「俺の気持ちは?
俺だって今日、勇気出して
みょうじに声かけてんのに」

「私相手に……そんな、勇気とか……」

「……みょうじに何がわかんの?」


思わず出てしまった声色の冷たさに
みょうじはビクッと俺を見上げて、
ちょっと泣きそうな顔をする。

うつむいて、ごめん、なんて言う。


そんな事言わせたかった訳じゃないのに。
そんな顔させたくないのに。


みょうじはゆっくり話し始める。


「……ほんまごめん……
私な、角名に彼女できたら……
ちょっと寂しいなって思って
……だから……角名離れできるように
しなあかんと思ってん……」


なんだよ、それ


俺が誰かに告られようが
関係ないとか言ってたくせに

すげぇ気にしてんじゃん

寂しいとか言って

ほんと、なにそれ


……可愛すぎかよ



俺ははぁーとため息をついて
その場にしゃがみ込んだ。


「すっ、角名、……ごめん、呆れたやろ?」


顔を上げてみょうじをじっと見つめる。


「……アホだね、ほんと、みょうじは」

「……ごめん……」

「俺だって、今はバレーすんのとみょうじと
飯食ったり喋ったりすんのが楽しいんだよ!
よくわかんねぇ女に好きだって
言われても何も響かねぇの!」

「え、うそやろ?
浅田さんみたいな美少女に好きって
言われたら普通コロッといくやろ?」

「は?断ったし!」

「なんで!もったいない!!
角名の人生であんなかわいい子に
告られんのなんて二度とないかも
しれんのに!!!」

「言ってくれんじゃん。
だって、響かねぇんだもん、
仕方ないじゃん」

「……角名は………なんか特殊な趣向でもあんの?」

「どうだろね!」


ははっと笑い飛ばして立ち上がる。


「それより最近佐藤と仲いいみたいだけど
どういうこと?」

「へ?どうもこうもないけど
……怒れへん?」

「……内容による」

「角名離れするのに協力してもらっててん。
でも佐藤くんはぜんぜん悪ないから」

「そっか、じゃあお礼しなきゃね」

「顔怖いねんけど、角名。
佐藤くんに何かしたらあかんからな!」

「何言ってんの?お礼だよ?
安心してよ」

「ホンマに?」

「ホンマ、ホンマ」





後日、佐藤を見かけたので"お礼"を言いに行った 。

「どぉも、佐藤くん。
みょうじに余計なアドバイスしてくれたみたいで」

「お礼には及ばんよ、角名くん。
おかげでなまえちゃんと親密になれたし、
角名くんがモテモテなおかげかな!
あはは!」

「そんなことないよ、
佐藤くんの方がモテモテじゃん?
わざわざみょうじ狙わなくても
女には困ってねぇだろ?」

「それはコッチのセリフなんやけどなー、
角名くん。
それにしょっちゅうなまえちゃん振り回すような事
してるらしいやん?
代わりに俺が大っ事に大事にしたるわ。
さっさと他に彼女でも作ったら?」

「ごめーん、佐藤くん!
それはできない相談ってやつだから!
そっちこそ、二度とみょうじに
話しかけないでくれる?」

だんだんヒートアップしてきたところで
治が間に入る。

「角名も佐藤もそこまでや。
あとなまえちゃん泣かしたらお前ら許さん」

「は?!治どういうこと?!」

「なまえちゃんは大事な友達やからな。
友達いじめるやつはぶっ潰す」

「おおーこわ!バレー部物騒やわー!
退散退散!」


佐藤はそそくさと逃げていった。


「………一応聞いとくけど」

「おん?」

「深い意味はないんだよね?
さっきのは」

「言葉通りや。お前らと一緒にすんな」