- ナノ -

ポケットの中には

「なまえ、誕生日来月やんなぁ?」


いつもの4人で昼ごはんを食べている時に
話題は私の誕生日の話になった。


「せやで。ちょうど中間テスト終わる
金曜日やな。」


サンドイッチを頬張りながら答えると、
めぐちゃんがこんな提案をしてくれた。


「ちょうど部活始まる日やんか?
部活前のお昼ごはんの時にお祝いせーへん?」

「え、まじで!祝ってくれるん?」

「あたりまえやーん!」


めぐちゃんがにこにこ、答える。


「どうする?コンビニでケーキ買ってくる?
それとも学校の近くのケーキ屋予約しよか!
私、昼休みにチャリ借りて飛ばしてくるで!」

そう言って早希が息巻いた。


ケーキもいいけど……


「なあなあ、それやったらみんなで
食堂のカレー食べようや」

「出たで、なまえのカレー好き」


せいちゃんがうんざりした顔をする。


「ええやん。せっかく自分の誕生日やから
カレーのかほりに包まれたい」

「ほんで、4人みんなでカレー食べるん?」

「おもろいやん?」

「お前ひとりで食え」

「えー、せいちゃんがつめたいー」


そんな具合で騒いでいると、
空いていためぐちゃんの隣の席に銀島が座る。

少し遅れて角名も来た。


「みょうじ、もうすぐ誕生日なん?」

二人は私達の話を聞いていたようで、
会話に参加する。


「来月のテスト最終日が誕生日やねんて」

「来月だったら双子と一緒じゃん」

「そうなん?うわー、ただでさえいつも
女子いっぱい来るのに!
当日は入場制限掛けなあかんのちがうか!」

「2組と4組のやつは大変やな」

「それにしてもみょうじは秋生まれって感じ
しないね」

「え、そう?じゃあ、角名的に私って
いつ生まれっぽいん?」

「そういわれると、……あんまイメージねぇな」

「なんやそれ、適当か」


銀島が即座にツッコむ。


「なぁなぁ、ふたりも私を祝う
カレーの宴に参加せーへん?」

楽しい事をするのに人数は多い方が良い。

自ら二人を誘ってみた。


「ちょっと、いつカレーの宴になってん」

「そんな怖い顔せんでもええやん、
せいちゃん」


そんなにカレー食べるん嫌なんか。


「銀ちゃんと角名くんも参加する?」


めぐちゃんが改めてふたりに聞くと

「あぁー、テスト最終日かー。
確か学校の体育館が点検で使えへんから
市内の体育館借りるとか言うてたよなぁ?」

「うん、先週のミーティングでそう聞いた」

「だからみょうじ、すまん!
多分テスト終わったらすぐ学校出なあかんわ!
カレーパーティには参加できんわ!」

「カレーの宴や」

「だからカレーの宴ちゃうし」

「誕プレはちゃんと用意しとくからな!
なぁ、角名!」

「そうだね。レトルトのカレーでいいよね?」

「もうカレーから離れようや!」





みょうじの誕生日が来月だというのを
この間、偶然知った。

話の流れで、銀とカレーをプレゼントする
とは言ったものの

何か、こう、喜ぶ顔がみたいなぁと
ぼんやり考えていた。


その日の部活帰り


「俺、あっこのハンドクリームやないと
あかんねんけど、一人で行くの嫌やから
角名ついてきてーや」

「はぁ?治は?
そもそも、あっこってどこだよ」

「治には逃げられた」

「………」

逃げそびれた俺は侑に引っ張られて、
沿線のショッピングモールに連行された。


目的の店はカラフルで良い香りのする
ハンドクリームやボディソープなどで
溢れていた。


店内には当然のごとく女子しかいない。


なるほど、これは確かに男一人では入りにくい。

治が逃げた理由もよくわかった。

えらいところに来てしまった。


侑から少しずつ距離を取り、
店の入口近くで待つことにした。



店内のディスプレイを眺めながら
ふと、みょうじが

最近、乾燥気味で……

と言っていたことを思い出した。



あ、……これいいかも。


侑がレジで会計をしている隙に
素早く商品をチェックし、
後日、一人で買いに行った。



さくらんぼの香りがするリップクリームは
唇にのせるとほんのり紅く色づくらしい。


薄いピンクの小さな包みにリボンをかけられ、
今は俺のポケットに収まっている。


これを渡したとき、
みょうじはどんな顔をするのだろう。


淡い期待がポケットから溢れ出すのを感じた。