黒塗りの漆は月の無い夜空を思わせる。私は日に何度もその窓枠を眺めるのだ。そこからは空の代わりに雲海が望める。
「疲れたのか、王よ」
「2人の時は字で呼んで」
腕を組みながら言えば、我が国の麒麟──私のリヴァイは少しだけ口角を上げる。
「この王宮の生活だけで精一杯よ、私。これから国を動かせると思う?」
「それが出来るからここにいる」
「そうね。そんな私を選んだのはリヴァイだった」
恨めし気にリヴァイを睨み、私はわざとらしく靴を脱いで椅子の上に両足を抱え込んだ。こんなにもはしたない恰好は、一国の王がする動作ではないだろう。
「湖州という地方で反乱が起きかけているそうよ。軍を動かすかどうかで、夏官長が私の判断を待っている」
「ああ……即位直後に内乱が起きるのは国が不安定な証拠だ。すぐに鎮圧させることは可能だが、根本は変わらねぇ」
「どういうこと?」
「民衆は王の側面だけを見て怯えやがる。奴らはその辺の羊とでも思え」
私はついに両手を椅子の外に投げ出して天井を仰いだ。
「それが麒麟の言葉?」
「ああ。俺の言葉だ」
麒麟は仁道なのだと説明したのは誰であったか。
「……私はどうすればいいの、リヴァイ」
人が住む地上が窓からも見えない程、高い王宮の中で。即位したばかりの私は反乱の火種をこの目に捕えることも出来ない。
「俺に命令すればいい」
リヴァイはゆっくりと私に近付き、私の前髪を引っ張る。こつんと額同士がぶつかると、その灰色の瞳が私を刺した。麒麟にとって額を障られるのは何よりも嫌なこと……らしい。転変した時に角が生える部分だから。
「お前を守ることなんざ造作もねぇ……ナマエが行く所に、俺は行こう」
息が詰まりそうな程重責を浴びせられた世界で、私はこのリヴァイの殺し文句に度々救われるのだ。
忠実なしもべ