無垢色の祭壇 | ナノ


▼ エピローグ

港に続き鉄道が敷かれ、パラディ島が発展を遂げる傍らで情勢は悪化の一途を辿る。

ジークが島に持ちかける作戦は女王ヒストリアを犠牲にするもので、そもそも「地ならし」がどういうものか、エレン以外に本当の所がわからない。唯一の友好国であるヒィズル国に関しても真意は不明。

そんな中、単身でエレンがマーレへと向かった。

始祖を宿す彼を見殺しには出来無い。島に、調査兵団に、選択肢は無かった。ナマエがパラディへ戻ってきてから、約1年が経っている。いつも心のどこかにあった不安は、現実となったのだ。

「リヴァイ兵長!」

本部の中へ、見慣れた馬車が入って来る。窓からずっと待ち構えていたナマエは馬車が止まるより前に駆け寄り、扉が開くと同時に口を開いた。

「ハンジさんは……?」

「まだ憲兵の奴らと会議中だ。俺は先に他の準備を終わらせて来た」

「じゃあ……」

「ああ。明日には出発だな」

少し早足でリヴァイは執務室へ向かう。ナマエは足並みを揃え、隣に並んだ。

途中、ミカサに出会した。リヴァイはミカサにいくつかの指示を出し、また早足で進む。本部内はリヴァイが戻って来たと同時に、ざわざわと、波が押し寄せる様に騒がしくなっていく。

「装備と飛行船に関してはハンジが確認してくるだろう。各班の伝達はジャンだ。ミカサにはアルミンを……」

リヴァイはナマエにも必要事項を説明しながら歩く。ナマエも頭の中で、それらを確実に理解していく。

執務室の手前でナマエはリヴァイより歩調を速め、先に扉を開いてリヴァイを促した。リヴァイは視線だけで礼を述べ、部屋へと入り、深いため息を吐いた。

「今日こちらで確認しておくことは、先程のことで全てですか?」

「ああ。またハンジの会議が終わる頃には、俺も行かなきゃならねぇが……」

ふいにリヴァイは、視線をナマエに向ける。窓は閉められているのに、風が吹いたような気がした。いつか見た風景。いや、いつか見たいと思っていた情景。

「それでは……少し休憩を挟んでいきましょう。お疲れさまです」

場違いに微笑むナマエ。でもその表情と雰囲気に、リヴァイの強張った体の、顔の、筋肉がほんの少し緩むような。いつも忘れがちな感情を拾い上げるような──

リヴァイは少し間を置いてから「そうだな」と呟く。

明日からのことなんて、リヴァイにもわからない。世界は広い。人間同士は戦い続ける。それでもナマエはリヴァイの目の前にいて、紅茶なんかを淹れている。呑気だな、とリヴァイは思う。きっと明日には、今目の前にある景色が懐かしくなる。愛しくて堪らなくなる。しかし以前と違うのは、部屋の中には穏やかな紅茶を淹れる音が響いていて、生きている限り、ナマエはリヴァイの隣にいるということだ。

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