チルチルミチル | ナノ


▼ 13.地下へ

ハンジとアルミンが準備した煙幕の準備が整い、教会の地下へ潜入しようとしていた。

ナマエは緩く結んでいた髪を一度ほどいてから、高い位置でしっかりとシニヨンに結い上げる。記憶の遠くで、エレンがミカサに髪を切るよう促していた光景を思い出した。

(いい加減に切るかな……髪)

その前に、件のエレンを助けなければいけない。ナマエの髪をよく結ってくれたヒストリアも。

「準備整いました!」

アルミンの声が響き、礼拝堂の中でそれぞれ立っていた一同の視線がアルミンの方へ向かう。

「そうか……それでお前ら、手を汚す覚悟の方はどうだ?」

その視線に問いかける様にリヴァイが言うと、全員が黙って頷いた。

「俺から降りる。順番についてこい」

礼拝堂の床に隠し扉になっている箇所があった。地下に続いている。梯子を下りると、少し行った先に扉があった。ハンジの推測では、おそらく広い空間になっているということだ。

「アルミン、樽を」

油を仕込み、火薬を括りつけた樽。それをリヴァイは受け取り、扉を開ける前に一度振り返った。

「準備はいいな?」

ナマエは頷き、隣のミカサに拳を向ける。一瞬だけ、ミカサも自身の拳をそこに重ねた。

「行くぞ」

リヴァイが扉を蹴破る。特攻隊はリヴァイとミカサとナマエ。サシャはすかさず、樽に目掛けて火矢を放った。

矢は真っ直ぐと樽に命中し、すぐさま爆発音と煙が上がる。それに紛れて、ナマエはアンカーを放った。

敵はストヘス区で見た時と同じ立体起動を装着している。背後を狙えと言ったのはアルミン。彼の言う通り、その隙に回り込めばそれは巨人よりもずっと簡単だった。

「敵数35!手前の柱あたりに固まっている!作戦続行、すべての敵をここで叩く!」

リヴァイの声が飛んでくる。それに機敏に反応しながらも、ナマエの目線の行く先はケニーを探していた。しかし直前にコニー達に見せたような動揺はなかった。周囲の気配に気を配り、敵の背後に回る。斬撃の後、また周囲を見回す。リヴァイの姿を確認し、また次の目標へ。

いささか機械的な動きであった。忠実な、兵でいようとする。

(静かだな)

散弾の音も、アンカーを射出する音も、悲鳴も響いているのに。ナマエの中はひどく静まり返っていた。

(ケニーがいなくても、平気なんだよ)

どうしてか、それをケニーに伝えたかった。私にはリヴァイがいるから。リヴァイと一緒に戦えるからと。それを伝えたらケニーは何と言うだろうか。きっと口汚く揶揄われるに決まっている。

しかし状況は、そんな希望は通らない。

「ハンジさん!」

恐らくジャンの声だった。その悲鳴の先には肩を撃たれ、床に投げ出されたハンジの姿。すぐさまナマエはそちらに向かおうと振り返ったが、近くにはリヴァイがいた。

「アルミン、ハンジは任せた!」

敵の中央憲兵は一様に地下空間の奥へと後退していく。リヴァイに続き、他のメンバーは残りの中央憲兵を追う。まだエレン達の姿は気配も無い。全員が近くに集まりかけた瞬間、それは起こった。

「……エレン」

ミカサが小さく呟いたと同時、アンカーを放った。巨人化の時の閃光だった。ナマエもそれに続く。状況がよくわからない。誰も説明など出来ない。

一際高い空洞の、崖っぷちに縛られたエレン。巨人化していたのは彼では無い。

では、誰が?

壁際にヒストリアが蹲っている。リヴァイ達がエレンの方に飛んでいったので、ナマエはミカサに続いてヒストリアの方へアンカーを放った。

巨人化しているのはおそらく、ロッド=レイスだ。

絶望的な状況だった。次に自分がどうなるかもわからない。しかしナマエはもうケニーに会えないような、そんな気がした。

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