チルチルミチル | ナノ


▼ 10.明けない夜はなくて

夜も更けてーーー馬小屋内で起こした焚火は、そこだけを橙色に切り取ったようになっていた。そんな中、まだ少し体調の悪そうなアルミン。

リヴァイは「反省会」の後、翌日の作戦を全員に説明した。追手の憲兵を捕えて制服を強奪した後、憲兵に成りすましてエレン達の居場所を探る。ただ、それだけだ。状況が悪ければ悪い程、作戦はシンプルになる。

馬小屋内は全員座り込んだ状態で、誰も眠ろうとはしていなかった。

「ナマエ、交代だ」

肩に掛けていた銃を降ろしながら、ジャンは小屋の中へと入ってきた。

「お疲れさま」

火の無い外は冷えるのだろう。顔色が悪いジャンを労うようにナマエが軽く肩を叩くと、ジャンは「ああ」と言いながら焚火の前へと蹲った。

ナマエが立ち上がったと同時、ミカサも腰を上げる。それを視界の端に留めたリヴァイは「休め」と呟いたが、ミカサは「すぐに戻ります」と言ってナマエの後を追った。

「来ると思った」

ミカサが外へ出てすぐ、それを見越していたかのようにナマエは彼女を待っていた。ミカサは返事をするようにマフラーの中に顔をうずめながら、壁を背にナマエのすぐ側に並び立つ。ナマエはその僅かに開いた距離を埋める様に、ぴょんとひとつ横飛びをして、ぴったりとミカサにくっついた。

「ナマエは変わった」

「私もさっき……自分でそれを思ってたとこ。でも、みんなそうじゃない?」

「そう……そう、だ」

「ミカサも」

「……うん」

「明日にでも、エレン達の居場所がわかればいいね」

「突き止める。絶対だ」

ミカサがここで、一番口に出したかったのはそれなんだろうなとナマエは思った。大丈夫も、頑張ろうも、今はあまり相応しくない気がした。その代わりに、ナマエは震えるミカサの手をとった。ぎゅっと握ると、ミカサもぎゅっと握り返してくる。

2人が顔を見合わせて微笑んでいると「おい」と低い声が響く。

「リヴァイ兵長」

「リヴァイ兵士長」

同時にその名を口にすると「交代だ」とリヴァイ。

「え、でも」

これまでしばらくリヴァイと行動を共にしてきた2人だったが、リヴァイがこのような見張りに立ったことは無い。困惑する2人にリヴァイは「さっさと中へ戻れ」と睨みつけた。

「リヴァイ兵士長が見張りをするなら、代わりに私が」

ミカサがそう名乗り出たものの、リヴァイはナマエの肩にあった銃を奪い取った。

「戻れ。他の奴らも疲弊してる。中でのお喋りは慎め」

ナマエはそれを聞いて、困った様に笑いながらミカサを見上げた。ミカサも少しだけ、表情を緩めてナマエを見下ろしている。

「じゃあ……お言葉に甘えて。ありがとうございます」

ナマエがそう言うと、ミカサは黙って頭を下げた。

「ああ」

ミカサから先に小屋の中に入る。ナマエは小屋の中に半分だけ体を入れて、頭だけ出して外のリヴァイに視線を送った。リヴァイがナマエの視線に気付く。満面の笑みでリヴァイを見つめるナマエ。

「もう、行け」

しっし、と埃でも掃うかのようにリヴァイは手をはためかせる。口調には反して、リヴァイの表情は久しぶりに見る柔らかな笑顔。

妙に機嫌のよさそうな顔で小屋の中に戻ってきたナマエに、ジャンは「兵長は?」と問いかけた。

「今夜はみんな、間違いなく生き延びられるよ。外で人類最強が見張りをしてくれているから」

少し茶化した口調でナマエが言うと、アルミンは「いいのかな」と視線を泳がせる。

「生き延びられるといいんですけどねぇ」

そう言いながらサシャは、焚火の前に座り込んだナマエにもたれるようにしてひっついた。

「サシャ重いよ」

と言いつつも、ナマエはそのまま隣のミカサに同じようにひっつく。

「ナマエ、重い」

並んで団子状態で座る女子組に「お前らあったかそうだな」とコニー。

「コニーも入る?私とミカサの間、ほら」

ナマエがわざとらしく隙間を空けたが、コニーは無表情のまま首を横に振った。

「いや、遠慮しとくぜ。そこ一番固そうだし」

「おいコニー。今お前、何を断ったかわかってんのか?」

「ジャン、声が大きいよ。外でリヴァイ兵長が見張りをしてくれてるんだ。僕らはちゃんと体を休めなきゃ……」

アルミンが慌てたように言うと「そうだな」とジャンは声を落とした。

「明日っから……正念場だよな」

思い詰めたように視線を落としたジャンに、ナマエは「おやすみ」と声を掛けてミカサに抱き付いた。ジャンの「ほんとにいいよな、お前は」という小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

ーーー翌日

「またアルミンが囮……」

憲兵を誘き出すために川で一人、わざと音を出して水を汲むアルミンを見張りながらナマエは呟く。

「お前、いい加減それ諦めろよ」

呆れたようにコニーがそう呟くと、ナマエはコニーの帽子に木の枝を突きたてた。

「いってぇ……しっ!」

一瞬ナマエに仕返しを目論んだコニーが、緊張を走らせて銃を構えた。視線の先には、アルミンの背後に忍び寄る憲兵2人の姿。

(あの位置ならミカサとリヴァイ兵長が……)

じっと息を押し殺すナマエとコニー。勝負は一瞬にしてついた。木の上に隠れていたリヴァイとミカサは、同時にその2人の憲兵に飛びかかり、捕えたのだ。

「……俺、憲兵行かなくてよかったわ」

「私も同じこと思った」

捕えた憲兵の名はマルロ=フロイデンベルクとヒッチ=ドリス。2人はアニと同期の憲兵だった。

当初は2人の制服を奪い、憲兵に成りすましてエレン達の居場所を突き止める予定ではあったがーーージャンの機転と、まさかのマルロの協力により、遠回りをする必要はなくなった。その脚で直接、中央憲兵の根城へと向かう事が出来たのだ。

***

「あの大きな木の裏側に見えてきます」とマルロが声を潜めて言ったので、マルロと先頭を歩いていたリヴァイは「全員止まれ」と振り返った。

「マルロ、ヒッチ。お前たちはもう行っていい。さっき説明した通り、ハンジ達の所へ行ってくれ」

2人はため息の続きのように「は」と声を揃えると、一度敬礼を構えた後、リヴァイ達に背を向けて走り始める。

ナマエはその背中を見送り、半ば独り言のように呟いた。

「……あそこに2人がいるんでしょうか」

「さぁな。エレン達がいるとは考えにくいが……こっちはこの人数だ。奇襲をかける」

リヴァイがそう言うと、全員の顔つきが強張った。

「アルミン、お前はここですぐに荷馬車が出せる状態で待機しろ。他の連中は全員中に入る。ジャンはミカサ、サシャはナマエ、コニーは俺でペアを組め。中に入ってしまえばそんなことは言ってられねぇが、なるべくお互いの背中を守れ。殺す必要は無い、エレン達を探して、いなければ知ってそうな奴を捕えて尋問する」

了解、と全員が口々に呟く。

ナマエは黙って、後ろにいたサシャに向かっててのひらを掲げた。サシャは無表情のまま、ぱちんと合図をするかのようにてのひらを叩いた。

「全員無傷で戻ってこれっかな……」

銃を担ぎ直しながら、コニーが空を仰ぐ。それを見たリヴァイは軽くコニーの肩を叩いた。

「奴らは今日、俺達が来ることを知らない。先陣は俺が切る」

言葉通り、リヴァイが先頭を歩き始める。ナマエが黙って頷いて見せると、全員が同じように頷いて歩き始めた。


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