STORY | ナノ

▽ 六月の付き合い方 縁


酷く甘やかされて育ったと思う。
だからかな。誰かの気持ちに気付くのが遅すぎて、それからは後悔の繰り返し。
でも、それって結局無意味だと知って、ならば笑おうと思った。
笑って誰かを安心させられたらなって。笑うことだけが私の取り柄。
強くなんてない。わたしは弱い。認めてやるものか。
いつも誰かを傷付けて逃げているお前が、強さなんて持ち合わせているはずがない。



ハイカラシティ。の、隅っこに建てられた喫茶店。"個人経営"というやつらしく、昼間なのにハイカラシティにしては珍しく、客入りもそんなに多くなかった。そこにわたし達は来ていた。わたしとしては美味しいってよく聞くお店が良かったんだけど、フチドリがそれを許してくれなかった。話せる場所ならどこでもいいと思うんだけど、それに静かだと、逆に話しづらくって緊張してしまう。
「はっきり言って詰めが甘い」
席に着いて開口一番がカザカミのそれだった。正論過ぎて反論が出来ない。うぐ、とわたしが俯くと、ケイがふふ、と笑った。ケイって、未だによく分かんないなぁ。なんていうか、大人びすぎて掴み所がない。対するフチドリは見なくても分かるくらい不機嫌オーラ満々だった。
カザカミがこう言うのも仕方ない。実はわたし達、先程までプラベにいたのだ。プラベの前はタグマ。タグマなんてはじめてではじめはどういう仕組みなのか分からなかったけど、近いウデマエのチームと当ることもあれば、かなりウデマエの高いところと当ることもあった。ケイもカザカミもウデマエは低いけど確かに強くって、ウデマエAばかりのチームと当たっても普通に勝つことができ、すいすいとウデマエを上げることが出来た。そんなこんなでわたしもウデマエSになり、当たるチームも格上が増えてきた。そこでカザカミがプラベを提案。二対二でやってたのだ。
「フチドリは突っ込みすぎ。かと思えばケイを気にしすぎ。ケイは君より経験積んでるんだからそこまで過保護にならなくてもいいよ。もっと臨機応変に考えて。あともっとデスらないことを意識して」
これにはフチドリも図星みたいで、なにかを言いかけて口をパクパクさせていた。目付きはかなり鋭い。正直言って怖い。怖すぎるよ。
でも、ホントに不思議。フチドリって、凄くケイのことを守ろうとする。バトルでも、普段の生活でも。チームを作ろうとしたのも、ケイの為らしいし。でもでも、わたしにも優しくしてくれることだってある。カザカミに嫌なこと言われた時だって、怒ってくれたし。...なにを張り合ってるんだろう。わたしは。
とにかく、フチドリは見かけによらず優しいのだ。それがケイに行き過ぎてるだけで。
「あと、ケイはサブをもうちょっと使わないと」
「練習はしているのだけど、本番になると忘れちゃうのよね。ごめんなさい」
注文した紅茶の取っ手を揺らして言った。少し微笑んで。うんうん、絵になる。
フチドリ、ケイときて、きっと次はわたしだろう。なにを言われるか分からないけど、気を引き締める。カザカミって、かなりはっきりしてるから、これくらいしておかないと心がもたない。
「それからエンギ」
「はい、なんなりと!」
「エンギは、ずっとホクサイで来てたの?」
思いもよらぬ質問に首を傾げる。ホクサイになにかあるのだろうか。
「ううん。A+カンストする前くらいから。してからしばらくはガチあんまり行ってなかったなぁ」
「は? A+にカンストなんてねぇだろ」
フチドリが割って入った。その発言の意図がよく分からなかったけど、少ししてああ、と納得する。そうか、そういうこと。気付かない内ににやにやしてしまったのか、フチドリにかなり呆れた顔で見られた。
「そっかぁ〜。フチドリは知らないんだねぇ」
「なにをだよ」
「少し前までウデマエは上限がA+だったのよ。きっとフッチーが来た頃には既にS+だったのね」
フチドリはかなり大きな声を出して驚いた。その様子に思わず吹き出す。笑うわたしをフチドリが怒り出した辺りで、店員さんに止められてしまった。ここは静かだから、少しの声も大きく響く。
「無知なフチドリは置いといて、エンギ」
カザカミがわたしに向き直った。片隅でひっそりと舌打ちが聞こえたけど、知らないふりをしておこう。

「ふざけてるの?」

「...え」
少しの沈黙。声を出せなかった。ふざけてる? わたしが? そんなこと、した覚えがなくて、カザカミがなにを言っているのか、よく分からなかった。
「フデ系統でガチに来るなんて自殺にも甚だしい。遊んでるとしか思えないよ」
「そ、そんなことないよ! わたし頑張ってるもん」
「証明は出来るの」
「え、えと...」
口篭ってしまった。そんな、その時の行動の証明なんて、出来るはずがない。
「エンギはかなり役に立ってくれてるわよ。敵を散らしてくれるし、お陰で行動しやすいわ」
「その分デス数も同等くらい、ね。攻撃は最大の防御とは言うけど、エンギはこれに当てはまるのかな?」
なにも言えなかった。だってカザカミの言うことは正しい。わたしは散らせはするけど、すぐにデスる。ホクサイだから、仕方ないなんて思ってきてはいたけど、他からしたらそれで済ませられることじゃないよね。ああ、こういう時、どうすればいいのかな。俯いてしまう。きっと謝って別のブキに変えちゃえばいいんだろうけど、それはつまり...。
「おい。別に誰がなんのブキ使おうが口出しする権利なんてねぇだろ」
今まで黙っていたフチドリがかなり低い声で言った。プラスかなり怖い目付きで。わたしの為に、怒ってくれている。場違いだとは知っているけど、なんでかな。嬉しかった。フチドリの発言にケイが明後日の方向を見たのが少し気になるけど。
「でもこのチームってさ、ウデマエ上げるのが目的なんでしょ。だったらきちんとした編成にした方がいいと思う」
「そこまできっちりしなくてもいいのよ。出来る限り上げられたら、それでもう十分だから」
「それってケイの考えでしょ。僕は違う。やるならしっかりとやりたい」
そう言われてケイは苦笑した。思想の違い。こういうのって、いくつ見てきただろう。今の意見はカザカミの方が近いからなのか、フチドリはなにも言わなかった。
どうしよう。凄く気まずい。わたしのせいで。早く謝らないと。早く謝って、他のブキに変えるって。でも、もし、もしそれで、また今度も、全部壊れちゃったら...。
「僕、君のこと知ってるよ」
「し、知ってるって、なにが?」
嫌な予感がした。嫌だ。聞きたくない。聞きたくない...。
「色んなとこのチームに入っては壊滅させてる子がいるって話。君なんでしょ。詳しい話は聞いたことないけど、もしかしてそれが理由? ホクサイ使ってさ、みんながぎすぎすするの喜んでるの?それとも」

「それとも、自分が強いからって、いい気になってる?」

かなり大きな音が響いた。かなりの衝撃だと思う。木でできたテーブルがぎしぎしと音をたてている。わたしの手も、少し痛い。でもそんなこと気にならないくらい、心が痛い。
「ひ、酷いよ。なんでそんなこと言うの!? わ、わた、わたしだって、望んでやってるわけじゃないのに...!!」
涙が出てきた。声が上手く出ない。顔も熱い。でもカザカミは、いつもの変わらない表情だ。
「なに、図星? だとしたら被害者ぶるのやめてよね。迷惑なのはこっちなんだから」
「...っ! もういい。カザカミなんて知らない!」
「ああそう。僕も無理矢理入れられたこのチームなんて知らないよ。勝手にすれば」
そう言うとカザカミは乱暴に立ち上がって店を出て行った。惨めで、居たたまれなくて、わたしもその場から逃げ出した。

「あらあら。さあ、どうする?」
「どーするもこーするもねぇだろ。あいつらがなんか始めたことだし」
「でも心配、なんでしょ?」
「...チームのついでにしてやってるだけだ」
「ふふ。じゃあ私、カザカミを見てくるわね。エンギをお願いしていいかしら」
「これまた面倒な方を押し付けたな」
「いいじゃない。こういうの、あなたの方が上手だって、よく知ってるから」


わたしは、かなり早い時期に来たらしい。
お父さんやお母さんに頑張ってくるねって、お見送りしてもらったことは少しだけ覚えている。
それからのことは今でも鮮明に思い出せる。わかばシューターを手にして、一人で騒いでいたあの頃。
たまたまブキ屋を覗いたら新しくブキが入荷されていて、ただかっこいいからって理由でシャープマーカーを持つようになって、ガチ部屋にも行くようになった頃、ある子に声を掛けられた。
「君、強いね。アタシ達のチームに入ってみない?」
チーム。チームというのは、何度か聞いたことがあった。あまり興味を抱いたことはなかったけど、断る理由もないし、ただなんとなくでチームに入った。
それからは楽しく毎日を過ごしていた。対抗戦をしたり、大会に出たり、頑張りがいもあって、凄く充実していた。
でもそれは、わたしだけだったみたい。
ある日、チームの子達が喧嘩しているのを見てしまった。なんとか止めなきゃ。止めに入った時の、あの二人の目は今でも忘れられない。要するに、わたしが原因だったらしい。わたしが強いから、それでいて分け隔てなく接せる性格だから、わたしばかりに注目が集まって、ずるい、だそうだ。そんなこと、考えたこともなかったし、聞いたこともなかった。けど、いくら謝っても聞いてくれそうになく、チームは解散。唯一わたしを庇ってくれた子だけが傍にいてくれて、二人だけになってしまった。結局、その子も耐え切れなくなって、酷い言葉だけを残して去って行ったけれど。
チームを抜け出すとみんなの反応は早く、わたしをチームに入れようとしていた。あのチームが、ああだっただけだと言い聞かせて、いくつものチームを解散まで追い込んで。
お前ばかりずるい。強いくせに。ハイカラシティを出て行けばいいのに。
どうしてわたしばかりそんなこと言われなくちゃいけないの。ここに来たんだから、強さを目指したっていいじゃない。それにわたし、強くなんかないよ。みんながいないと、ただの弱いインクリングなのに。
これ以上仲間を求めるのは無意味な気がした。ただ誰かを傷付けるための、愚かな目的。強いなんて言われるなら、弱くなればいい。よく地雷だ、なんて言われるホクサイを手にした。
これならみんなわたしのことを強くないって、一目見ただけで思うはず。ガチ部屋にはもう極力行かない。ナワバリだけして、地雷扱いされて、なるべく親近感なんて持たれないよう、ひっそりと生きていこう。
そんなある日だった。仲良しそうな二人組みを見て、羨ましいな、なんて。少し話し掛けるくらいならいいよね。わたし達、敵同士だったんだから。これ以上のことは起きない。そう思ってたのに。今度こそは大丈夫だって、思ってたのに。


相変わらずすすり泣く声が響いている。誰もいない路地裏。路地裏って、こんなにも静かで、寂しいところなんだとはじめて知った。そんなところを好んで家にするダウニーさんが尚更分からなかった。
先程のカザカミの言葉が何度も脳を過ぎる。わたしは強くない。チームを解散させたいなんて、思ったこともない。でも他からしてみれば、きっとそう見えるんだろうな。こんなにもチームをめちゃくちゃにしてきて、故意にやってるって思うのが普通だと思う。それに、よくよく思い返してみれば、地雷だって思われたくてホクサイを使い始めたのだ。わたしの望んでたことじゃない。でも、今となっては、この子も立派なわたしのアイボーなわけで。
少し早いけど、潮時かもしれない。わたしがいるって、やっぱりチームにとって毒なんだ。ケイのあの、不幸体質にあてられない、そういう条件がなかったら、そもそも誘われることさえなかったわけだし。だったらわたし自体は、いらないよね。きっとみんなに迷惑を掛けている。早く戻って、やめるって、言いに行かないと...。
「やっと見付けた」
よく知っている声。驚いてしまって、急いでその声の方を見る。息を切らし、そこに立っていたのは、フチドリだった。
「あんた、速すぎだろ。伊達にいつも走ってるわけじゃねぇのな」
そう言って隣にどかりと座った。その衝撃で、渇いた音が大きく響く。その音にびくりとしてしまった。...フチドリが来てくれたんだ。心がざわざわした。なんでだろう。よく分からないけれど。
「珍しいね。フチドリってこんな心配してくれる奴だっけ」
「うっせ。あんたこそどうしたんだよ。らしくない」
今は目を見て話すのが怖くて、少し目線を逸らした。フチドリは案外肌が白いらしい。遠くじゃ見えなかったけど、今ではその白い肌に汗が張り付いてるのが分かる。長袖のわりにサンバイザーだし、日焼け対策でもしてるのかな。そんなどうでもいいことなんて考えていた。
らしくない、か。
「わたしらしさって、なんなのかな」
そっと聞いてみた。わたし的にも、こんなこと聞く時点でらしくないなぁ、とは思う。
「俺からしてみれば、子どもっぽい、うざいくらいはしゃいでる、うるさい、くらいか」
フチドリがきょとんとして言った。なに言ってんだ、みたいな感じで。
「酷くない? わたし、当然だよ。子どもだもん。多分フチドリよりもっと下だと思う」
「ちょっと意味分かんねぇな」
「わたし、早熟型? だったんだって。お母さんが言ってた。みんなより早くヒトになれたって。だからここに来るのも早かったんだ。今、わたし十歳なの」
小さく笑ってそう言った。すると、フチドリはかなり驚いたようだった。それもそうだろう。普通は十四歳くらいでヒト型になるらしいし、そう考えるとわたしって、かなり早い。
少しだけ、沈黙。なんで、フチドリが来たんだろう。嬉しいけど、でもフチドリってこういうしんみりしたの嫌いそうだから、ケイに任せきるのだと思ってた。ケイは物怖じしないで色々と聞いてくるから、遠慮しなくていいし。フチドリって、照れ屋さんなところがあるから、なかなか話題とか切り出せなさそうだ。だったら、正直にわたしから言った方がいいのかな。
「わたし、チーム抜けた方がいいのかな」
「...あんたはどうなんだ」
「わたしはやめたくないよ。だって折角出会えたチームだもん。でも、カザカミの言う通りわたしっていつもチームをばらばらにしちゃうんだ。だから、いっそのことやめた方がいいのかなって」
「だったらずっとこのチームにいればいいじゃないか」
驚いてフチドリの目を見た。ふざけているのかと思ったけど違ったようで、フチドリの目は真剣そのものだった。
「聞いてた? わたし、やめた方がいいって」
「あんた自身はやめたくねぇんだろ。だったらいりゃいいじゃねぇか。他の意見なんか聞いてない」
フチドリはきっぱりと言った。きっぱり過ぎて清々しい。でも、それじゃあ駄目なんだ。わたしだって出来るならやめたくない。他の誰かの意見なんてどうでもいいのかもしれない。でも、そうしたらわたしはどうなるの? きっとカザカミみたいにわたしのことを知っているインクリングは他にいる。フチドリが良くても、知ってる誰かに会うたびにこうやって言われてしまう、わたしの心は?
「あんたがそれでもやめるって言うなら止めないけどな」
フチドリがわたしの目を見た。わたしと同じ、黒い目。まるで全て見透かしているような、目で。
「これはケイにも言ったことだが...。俺達はチームである以前にフレンドだろ? 守るのも、守られんのも、フレンドだからだ。あんたがなにか言われるようだったら俺んとこに来い。そいつをぶっ飛ばしてやる。あんたのことは俺が守る。それでも抜けるなら止めはしねぇよ。でも俺としては、あんたはチームにいてほしいけどな」

時が止まった気がした。
ああそうか。ようやく気が付いた。最近わたしに纏わりつく、この胸のざわめきは。
いつの間にか、わたしは泣いていた。気を遣ってくれたのか、フチドリは明後日の方向を見たまま、こちらを見ない。そっか、フチドリって優しいんだ。目付きとか怖いし、口も悪いけど、でも。
「ねぇフチドリ」
「んだよ」
「今日さ、今からわたしとオールしない? 一緒にナワバリとかガチとかしに行こうよ」
「...いいけど、途中で寝たりなんかしたら即バケツぶっかけるからな」
頭をこつんと小突かれた。小さなことだけど、それが凄く嬉しかった。

ようやく分かったよ。わたし、フチドリのことが好き。
目付きが怖いところも、口が悪いところも、それでいて仲間想いなところも。
でも、自覚したところでもう遅い。わたしの初恋は失恋で終わりだ。だって、お似合いの相手と、わたしと出会う前から一緒にいるんだもん。その隙間に入ることなんて、出来ない。
でも、それでもいいや。わたし、二人のこと好きだから。言わないなら、ずっと君に恋をし続けていても、いいよね?



ハイカラシティ。お日様も顔を出し切った頃。駅を背に掛けられたベンチにわたしとフチドリはいた。この場所は、よくフチドリとケイの二人だけだった頃、よく集合場所として使っていたらしい。そんな場所に、わたしがフチドリと座ってていいのかな。いつもフチドリはケイのことばかり見てるから、今だけはいいよね。ごめんね、ケイ。にしてもこんなベンチがあったあんて、今更ながらはじめて知った。こんなにも人目の付きそうなところにあるのに、なんで気付かなかったんだろう。
「クッソ眠い」
隣にいるフチドリはぐったりしながら言った。サンバイザーを深く被って。そりゃあの後、休みなしでずーっとナワバリやガチに潜ってたんだもん。当たり前だって感じ。それでもわたしは、フチドリが一緒にいたから、疲れた感じはしなかったけど。
「フチドリは体力ないね〜。わたし全然だよ」
「あんたと違ってこっちは健康な毎日送ってんだよ。おうコラ」
恐ろしい顔をして頭を両拳でぐりぐりされた。これが意外にも強力で、思わず大声で痛い痛い、と叫んでしまった。それでもフチドリはお構いなしだ。かなり疲れたらしい。ご、ごめんね。でも聞いてみると、健康な毎日と言いながらわたしとそう変わらない睡眠時間だった。
それからしばらくして、二人組がわたし達の目の前で止まった。顔を上げると、そこにいたのは、ケイとカザカミだった。
「こんにちは。楽しそうね」
「どこをどう見たら楽しそうなんだよ。眼科行け眼科」
「生憎私、目はいい方なの」
「マジで返すなよ...」
ケイとフチドリが他愛のない話をする端で、わたしはカザカミと目が合った。相変わらず、なにも映さない冷め切った黒い目。思わず体を強張らせてしまう。言わなきゃ。わたしの決めたこと。逃げないで、きちんと。そう思って、立ち上がった時だった。
「ごめん」
カザカミは目をそらした。カザカミは案外背が低いけど、キャップを後ろ被りしてるから、目元がよく見えてありがたい。なんて変なことを考えて。そんなことを考えてしまうくらい、わたしは口をあんぐりとさせていた。
「...へ?」
「僕、このチームのリーダーでもないのに出しゃばりすぎたなって。反省してる。そうであっても、他の誰かに自分の意見を押し付けるものではないよね。僕の悪い癖だよ。だから、ごめん」
「カザカミ...」
「まぁホクサイは地雷ブキだって認識は変わらないけど」
「うぐっ」
横っ腹を槍で刺されたような気分になった。なんだよ。折角いい話っぽくなりそうだったのに。
「わ、わたしこそ、ごめんね。突然怒鳴ったりして」
「気にしてない」
「ううん。でも、わたし、やっぱりこのチームに居続けたいよ。まだもうちょっと一緒にいさせてほしい。だめ、かな」
胸の前で手を合わせてお願いした。これがわたしの気持ち。確かに今までチームを壊してきたかもしれないけど、今回は違う。みんなのこと、信じられるから。
「それ、僕じゃなくてケイとかフチドリに言うことじゃない?」
カザカミは他愛のない話をしていた二人に目を向けた。話を振られるとは思ってなかったのだろう、フチドリが凄くめんどそうな顔をしている。対照的にケイは凄く笑顔だった。
「私は大歓迎よ。エンギがいると楽しいもの。ねぇ、フッチー?」
「...うっせぇだけだけど、いないよりマシだからな」
顔を赤くしてそっぽを向くフチドリ。あれ、昨日言ってたことと違う。照れ屋さんモードに入ってしまったようだ。本当にフチドリって素直じゃないなぁ。
どうやらわたしは、みんなに認めてもらえたらしい。嬉しくなって、その場ではしゃいでしまった。カザカミから冷たい視線を向けられてる気がするけど、気にしない。
「それでね、わたし、ブキ変えようと思う!」
「え、無理に変えなくてもいいのよ?」
ケイが戸惑ったように言った。確かに、今までの流れだとわたしは許されたのかもしれない。でも、もうわたしにも、この子にも、嘘を吐き続けなくていいって、知ったから。
「いいの。元々わたし、ホクサイ使いじゃないんだ。今まで怖くて使えなかったけど、もう大丈夫だから。リハビリ大変かもだけど、頑張るよ」
だからまたよろしくね。シャープマーカー。



わたしって、酷く甘やかされて育ったと思う。
でも、そういうことがなければ出会うこともなかったとすれば、それで良かったって思える。
わたしは強くなんかない。わたしは弱い。
でも信じあえる仲間がいれば強くなれるって、よく知ってるから。
きっとわたし達、強くなれるよ。



2016/06/12



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