STORY | ナノ

▽ 三月の付き合い方 傾


眩しいものを感じた。カーテンの隙間から差す日。目覚ましは、最近設定をしなくなってきていた。
もう、朝。
自分を映すテレビ画面に目をやった。気だるさとやるせなさを表面に貼り付けて。
朝なんて、来なければいいのに。
ふと思う。驚いた。どうしてだろう。あなたと会えるのに。
あなたと会う。それだけでここにいられるのに。


的だらけの練習場。そこには私と的以外、誰もいなかった。
狙い撃ち。からのクイックボム。時にはクイックボムを投げ続けたりして。的は無残に破裂して、また元通り。それを繰り返していた。
今はちょうどお昼頃。イカ型端末に目を向ける。フチドリはまたガチ部屋にいるようだ。イカ型端末をポケットに仕舞い、練習を再開した。
練習、という名のクイックボム練習。フチドリに指摘を受けてから、内緒で練習をしている。特に内緒にする必要もないけど、一緒にバトルする時に驚かせたくて。その分フチドリに会う時間は減ったけど、彼を驚かせる為だし、仕方ない。でも、これだけでいいのか、と思う。的は動かない。だったら、練習場に来るよりも実戦で練習していった方が良い。でも、その選択は選ばなかった。いつの間にか、フチドリのいないバトルなんて考えられないようになっていたのだ。
彼は、フチドリは、強くなってきている。着々と。自分の欠点を理解し、修正をしていっている。以前のフチドリはブキとの相性が合わなかっただけで、元々出来る子だったのだろう。ウデマエも上がってきていて、まさに絶好調といった感じだ。
私と違って。
そろそろお腹の空く頃だ。愛用のリッターを担いで、練習場を出る。イカ型端末に目をやる。彼は、まだガチ部屋にいるようだった。


駅を背に掛けられたベンチ。そこに、彼はいた。軽食を済ませたばかりの私は少し驚いた。ついさっきまで、フチドリはまだガチ部屋にいたのに。呆然と立ち尽くしていると、フチドリと目が合った。よう、と声を掛けられる。軽く返事をして、彼に駆け寄った。今日もガチに行ってたのね、と言うと、まあな、なんて彼らしい返事をして。少しして、彼は驚いた表情になった。どうしたのかを尋ねると、言葉を濁らせた。返事はくれないらしい。それから、隣に座るよう促される。私はお言葉に甘えて隣に座った。
フチドリは機嫌が良さそうだった。きっと連勝だったのだろう。私とは違って。むしろ、私がおかしいのだと思う。一緒に戦ってくれる味方がいなかった、と言うとフチドリは酷く驚いていた。それからも、フチドリ以外にまともに戦う味方など見たことがない。フチドリだって、私のいないバトルはよく勝ってくる。明らかにおかしいのは私だった。
それにフチドリはまだ希望を持っている。前も今も。強くなる。まだ上に行ける。そう信じて。対する私はどうだ。負けることに慣れすぎて、もう勝とうだなんて思わない。ただ、迷惑を掛けたくないと思うだけだ。迷惑を掛けるから皆戦ってくれない。私のことで、フチドリの重荷になりたくない。彼は、またウデマエが上がりそうだと嬉しそうに聞かせてくれた。フチドリならば、Aまであっという間だろう。彼の黒い瞳に、まだ希望が差す限り。
羨ましい、と思った。
どうして、彼ばっかり。私だって、最初は頑張っていたのだ。わかばを手にして、駆け回っていたあの頃。連敗続きでもまた明日こそ、と。ランクが上がっていき、リッターと出会ってこれならば、と。あの頃は全てが輝かしくて、フチドリに負けないくらい頑張っていた。それなのに、私は勝てない。彼よりも頑張っていたはずなのに、どうして。
そこでようやく気が付いた。ああ、私は、彼に嫉妬している。後から来たのに、上がり続ける彼に。それだけじゃない。とてつもなく恐ろしいのだ。折角肩を並べるフレンドが出来たのに、彼は行ってしまう。置いていかれることが、ひとたまりもなく怖い。


今日も終わり、家に帰る。愛用のリッターを定位置に置いて、ベッドに潜り込んだ。
きっと、このまま眠ってしまえば、朝がやってくるだろう。未来永劫、それが止まることなんて絶対にない。
明日なんて、来なければいいのに。皆私を置いていく、明日なんて。目を瞑るのが怖くて、イカ型端末に目を向ける。彼は、もう家に着いただろうか。
酷く惨めな気持ちになった。こんな酷い奴だなんて思わなかった。いっそのこと、彼から、フチドリから嫌われてしまえ。そうすれば、こんな気持ちだって、消えてくれるでしょう?




2016/03/10



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