「じゃあ、楓ちゃんがいうことを総合すると、俺達は未来にきてるってことなの?」
私の支離滅裂の説明を簡潔にまとめてくれた猿飛さんはそういってため息をついた。
お言葉ですが、ため息を尽きたいのは貴方じゃなくわたしのほうです、という言葉はかろうじて飲み込んだ。



「未来、なァ。たしかに言われてみりゃあ見たことないものが多すぎるな」
片倉さんは部屋をぐるりと見渡してつぶやく。
「楓殿!これはなんでござるか!」
「ちょっと旦那!危険なものかもしれないんだからそうホイホイと触らないでってば!」
ばしばしとストーブを叩く真田さんを猿飛さんが慌ててと目に入るけれど始めてみる世界でうずうずしてたまらないらしい真田さんはそれでもストーブを触るのをやめない。ふと、寝間着のままずっといたから少し肌寒いのに気がついた。衝撃で忘れていたが今はもう11月だ。私が朝起きて一番にすることといえば、ストーブを付けて部屋を温めることだった。
「それはストーブっていって、部屋を温めるためのものです。ちょっとからだが冷えて来たので、付けてもいいですか?」
そういいながらちらりと片倉さんと猿飛さんを見る。
何故二人かというと明らかにまだ私を疑っていますというのが、ひしひしと伝わってくるからだ。誤解で殺されては、敵わない。先ほどの刃物の感触を思い出して小さく体を震わせた。
「かまわねぇ、すとーぶとやらをつけるといい」
片倉さんがそういえば猿飛さんが驚いたように声をあげた。
「へえ、右目の旦那随分と聞き分けがいいね、ま、俺も構わないよ。楓ちゃん、薄着だからこのままじゃ風邪ひいちゃいそうだし」
そういいながら油断ない目つきで見てくるふたりに居心地の悪さを感じながらカバーを開けてレバーをおろせば、一瞬低く唸るような音を立ててストーブに火がついた。
「おおっ!すごいからくりでござる!」
「へえ、今の着火ってどうやったの?」
きらきら目を輝かせる真田さんの横で、猿飛さんが口笛を吹きながらそうたずねてくるけれど、生憎ストーブの内部構造なんてわからない。
「仕組みはわからないんです。あ、触ると熱いですから触らないようにしてくださいね!」
今にも触ってしまいそうな真田さんにそういえば出しかけていた手を真田さんはぴゃっと引っ込めた。
「Hey、ところで楓」
いきなり呼び捨てか。と思いながら声をかけて来た伊達さんに向き直る。その手のなかでテレビのリモコンを弄びながら、伊達さんは真っすぐ見つめて来た。
「今、天下は誰のものなんだ?」
「誰の、ものというわけでもありません。争いで国を取り合う時代は随分前に終わりました」
その言葉に4人が驚いた顔をみせる。
「戦もありません。…うまく説明できませんが、あなたたちが来た時代から見れば今は平和ということばに当て嵌まります」
「成る程、道理で俺達の武器を楓ちゃんが驚いた顔で見るわけだ」
「ええ、今はそんなもの持ってたり、そんな服来て往来を歩いてたら確実に警察に捕まります」
「けいさつ、とはなんだ」
片倉さんが少しだけ首を傾げて尋ねてくる。な、何ですかその不意打ち。ちょっとかわいいとかおもってませんよ!内心の動揺を隠すためにひとつ咳をして、私はまた口を開く。
「みなさんの時代でいう、ええと、役人です。町の秩序を守るために怪しい人を尋問したり、犯罪者を捕まえたりするんです」
「捕まえられる前に逃げりゃあいいじゃねえか」
そういった伊達さんにゆっくりと首をふる。
「警察に穴はありません。全国至るところに配置されていて、みなさんが想像しないようなからくりを駆使して、捕まえにきます。そして、もし捕まったなら皆さんが過去から来たのを聞くやいなや頭がおかしいとかなんとか理由付けられて監禁されるのがオチです」
「お、恐ろしい組織でござる…けいさつとやら…」
素直に怯えている真田さんはいいとして、好戦的な笑みを浮かべたあとの三人へと視線をやる。
「来る度斬ればいい、と思ってそうですが、そうですね実際に見てもらった方がいいでしょう」
そういって立ち上がり、閉めていたカーテンを開ける。結露で濡れた窓の鍵を開け、4人を振り返った。
「車、つまり馬の何倍も速く走る鉄で出来たからくりに轢かれても勝てるならどうぞ」
がらりと窓を開ければ、ちょうど一台の車がものすごいスピードで家の前を通りすぎた。まったく危ない運転はいつもは迷惑だが、今日だけは感謝したい気分だ。
「なっ、いまのはなんだ?!」
「もう見えないだと、今のSpeedは半端ねぇぞ!」
「さ、ささささ佐助!見たか今の!」
「痛い痛い旦那襟掴んでゆさぶんないで!…でも今のは確かに、厄介だねえ」
「いかに最近のからくりがすごいか、わかりました?」
ぴしゃりと窓を閉めて、思い思いの感想をいう4人を見下ろした。コクコクと4人が人形のように頷くのを見て、満足して息を吐いた。
しかし、これからどうしようかとふと思案する。じっと4人を見下ろせば、8つの瞳がこちらを見ている。
見る。見つめられる、見る、見つめられ、て、な、なんだだんだん4人が捨て犬に見えてきたぞ!
ばかな、ひとりはヤクザみたいなのに!でもまじまじみたら皆かなり整ったかおしてる。何で気がついちゃったんだ私!あー、いま私が外に放り出したら、きっとこのひとたち行き着く先は警察か車に轢かれるか、いやいやもしかしたら自動ドアに挟まれて怪我しちゃうかも。そいえば真田さん柴犬っぽい。あぁ、でも伊達さんは黒猫。片倉さんはドーベルマン。猿飛さんも猫だなあ。
そんな、ことを混乱した頭でぐるぐると考えていると、可愛さでは断トツの柴犬こと真田さんが私を見上げてカクリと、首を傾げた。
角度も表情も完璧だ!
「楓、どの?」
とどめに呼ばれた名前に私は降参というように長々と息を吐いて、ついにいってしまったのだ。
いうまいいうまいとしていた、ひとことを。

「皆さん、よかったらここに住みませんか?」

あぁ、けれど可愛いは正義なのだ。




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