「あわ、わわ」とは赤いひと。
「…oh」とは蒼いひと。
「えーと、」とは橙のひと。
「…」とは、オールバックのひと。
正座させたのはいいものの、一回零れ落ちてしまった私の涙はなかなか止まらず、ぼろぼろ涙を流しながら4人を睨みつけて、もう1分ほどたった気がする。その間、妙な四人組はそれぞれに何とも言いようがない顔で私を見つめていた。私の目から新しい涙が零れ落ちるたびに大の男達がびくりと肩を揺らす様は、よく考えればものすごくシュールな光景だったに違いない。



「え、えーと、その」
橙の人がそろっと身体を屈めながら私の顔を覗き込むようにして口を開いた瞬間だった。
何か言おうとしたらしいけれど、それは赤い人がその後頭部を思いっきりひっつかんで床にたたきつけたせいで床と彼の額がぶつかった音にかき消されてしまった。みれば、赤い人も一緒に頭を下げている。
このポーズは生では見たことはないけれど、知っている。土下座、ではないだろうか。
「誠、申し訳ない!主として、部下の無礼お詫びいたす!!」
ものすごい、轟音といってもいいぐらいの大声だった。びりびりとその振動で鼓膜が痛み、驚きで涙が止まった。
「い、痛い!旦那なにすんの!」
「うるさい!ええい、これ程でもたりぬほどだ!お、女子の身体に、き、傷を付けるなど…!」
ふるふると震える赤い人はぎりっと顔をしかめると橙の人をねめつけた。傷、とはこれのことだろうか。首筋に触れれば先ほど薄く切られた首から流れたちはすでに止まり、渇いていた。
「ちょ、それについて今謝ろうとー」
「うるさい!見損なったぞ!」
ぎゃんぎゃんと騒ぐ彼らを見ながら、恐らく赤い人は橙の人の上司なのだろうと見当をつける。しかし、この時代がかったしゃべり方は何なんだろう、と思っている時に横からはじめて蒼いひとが口を開いた。
「Hey、俺からも謝らせてもらう。事情が呑み込めなかったとはいえ、すまなかったな」
そう言ったあとに流暢な英語でsorryと続けられて、目を丸くした。深々と頭を下げる蒼いひとの隣でオールバックの人が政宗様!と慌てた声を出したがすぐに自分も渋々、といった様子でゆっくりと私に頭を下げた。
総勢4人に頭をさげられて急激に冷静になった私はあわてて自分もその人たちの目の前に正座した。
「そりゃ怖かったですけど、けど傷自体は深くないしもう大丈夫です。だから、顔上げてください」
そういえばゆっくりと顔をあげた蒼い人たちとは対照的に赤い人ががばりと体を起こした。ついでにその反動で抑えつけられた橙の人がまた小さく悲鳴をあげたけれど、それは一向に気にならないらしい。
「な、なんと…なんと慈悲深い言葉!」
「じ、じひぶかい…」
「shut up!うるせェんだよ。怯えてんじゃねえか」
どうやら赤い人はデフォルトで声がでかいらしい。蒼いひとがうるさそうに顔をしかめるけれど、私は怯えているわけではなく、ただただその迫力にびくりと身体を揺らすだけだった。
「某、真田源二郎幸村と申す!よろしければお名前をお聞かせ願いたい!」
「ちょ、旦那いつもそうやって簡単に名前なのっちゃダメっていってるでしょうが!」
「これは某の部下の猿飛佐助でござる!」
「あーっ!俺の名前まで!あーもう!!」
額を赤くして慌てる橙のひと、猿飛さんとは対照的に、にかっと笑うと赤いひと、真田さんはそういってきらきらした目で私を見返した。これは、あれだ。何かに似ている…。こ、いぬ?とかああいうこうふわふわした元気のいいいきものに似てる。あれでもさなだゆきむらとか、さるとびさすけって、なんか、聞いたこと…ある。きらきらした目を見返しながら現実逃避しながらそんなことを考えていると、蒼いひとがずいっと身体を乗り出してきた。
「俺は伊達政宗だ、そんで、こっちは俺の右目の片倉小十郎。OK?」
蒼いひと、伊達さんにそういわれてオールバックの人、片倉さんがまだ固い表情で頭を軽く下げた。
これで全員の名前がわかったわけだけれど、ちょっと待てよ、と私の思考は停止した。
だて、まさむね。さなだ、ゆきむら・・・?
しかし、気がつけばその思考を破るようにより近くに伊達さんがにじり寄ってきていた。
「俺たちは名乗ったぜ。What's your name ?」
「え…、あ、楓、一文字楓」
またもやいきなりの英語に驚きながらも名前を名乗れば次は伊達さんが目を丸くした。
「Oh、さっきから思ってたんだが、あんた異国語がわかるのか?」
「え、英語のことですか?ちょっとなら、わかりますよ」
中学生レベルぐらいですけど、と付け足せば後の方で真田さんがれべる?と首をかしげたのが見えた。英語がわからないのだろうか。まさか、レベルなんて単語もうほとんど外来語として日本語の中に息づいている。
そこまで考えて、はた、と頭の中でこんがらがっていたものが一本につながった。
伊達政宗、そして真田幸村。
その名前と同姓同名のひとたちが英語なんて、ほとんどの日本人が知らない時代に実在していたことに。
「あ、あの、ちょっと聞いてもいいですか…?」
「あぁ、何でも聞いてくれ」
にやり、と伊達さんは笑う。その腰に玩具とは思えないずっしりとした刀が六本。着ているものは蒼を基調とした、鎧のようなもの。
いやな汗が私の背中を流れ落ちた。
「今は、どんな時代ですか?」
その言葉に4人が4人とも、きょとんとした顔をしたあとすぐにまるで獣のようにぎらぎらした目になった。
「もちろん、戦国の世に決まってるだろ」
その言葉に私がくらくらと眩暈を覚えたのは仕方ないことではないだろうか。
戦国時代から偉人さんたち、ようこそ現代へ!なんて間抜けな言葉が頭の中で浮かんで消えた。



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