その音にぽかんとしている間に、目の前で寝ていた赤いひとと蒼いひとが小さく唸って、目を開けたことまでは認識できたもののそのあとにいきなり天井に穴が開いたことで私の視界は粉塵で一瞬塞がれた。咄嗟にぎゅっと目をつぶった瞬間に私の首の両脇からひやりとしたものがあてられた。
それが刃物だと知ったのは、収まって来た粉塵のなかから、ぎらぎらした4つの瞳をみてからだった。



声が出せずに、ひくりと喉が引き攣った。剥き出しの感情がぴりぴりと肌を焼いた。
「政宗様、ご無事ですか」
「旦那、怪我はない?」
目の前の二人が、私から目を離さないまま始めて口をひらいた。
まさむねさまやだんなってなに!と思っていると彼等後ろから、ふらりと先ほど倒れていた赤いひとと蒼いひとが現れた。
「どこにも怪我はねぇが、小十郎。此処は何処だ?何で真田がいる」
「むむっそれはこちらが聞きたいでござる!佐助、ここはどこだ!」
「あー旦那旦那、無事なのはわかった。うるさいからちょっと黙って。俺様も、おそらく右目の旦那もわからないんだからさ」
でしょ、と橙色の髪に自衛隊みたいなフェイスペイントをしたひとは私に刃物を突き付けたままちらりと横にいるオールバックのヤクザみたいなひとをみる。
よくよくみれば、寝室にいたふたりだ。そういえばリビングの上は寝室に当たるな、なんて頭の隅でこか冷静に思いながらごくりと喉を鳴らした。
「で、なにもわからない俺達の前に誰も知らない女が一人いるとなれば、怪しいよねぇ」
じゃらりと橙のひとの手の中で大きな手裏剣についている鎖が鳴いた。
瞬間、チリ、と首筋が痛み、なにかが流れ落ちる感覚に顔を歪めた。恐らく、薄皮一枚切れたのだろう。
「ねぇ、アンタ、誰?」
何の感情も浮かばない、暗い瞳が私を捕らえた。
「どうやって俺達をさらった?此処は何処だ?」
ねぇ、と言葉を重ねて、橙の人は目を細めてヒュンと私に刃を突き付けているのとは逆の手を微かに動かした。それだけなのになにかを投げたのだろう私の頬に痛みが走って髪がぱらぱらと舞い落ちた。壁に突き刺さったのか、鈍い音が響いた。
「あ、」
「答えてくれないとこのままさよなら、するしかないよ?」
にんまり、と脅すように橙の人は目を細めたけれど、その時はもうすでに私にはそれが見えているようで、見えていなかった。
投げられたなにか、恐らく刃物だろう、それが刺さったところ、つまり私の後ろにあるものを思いだしたからだ。
お母さんが作った、パッチワークのタペストリー。色あせてしまったけど剥がせずにずっとかけていた、それがあるはずだった。
「やめ、て」
私が発したかすかな声に、ぴくりと4人が反応したのがわかった。
ゆっくりと私は視線をあげてギッとその4人を睨み付けた。
「これ以上私の家を壊さないで!」
確かに怖くて堪らない。堪らないけれど、この家を、大事なものが詰まったこの家を傷つけられるのだけは許せなかった。
「大体、勝手にはいってきたのはそっちで、よくこんなもの突き付けて人の家壊して好き勝手いってくれるわね!」
早口でまくし立てれば、4人が間抜けな顔でぽかんとくちをひらいているのを見渡した。
「まずは勝手にはいってすみませんでしたって、家主である私に謝るべきなんじゃないの?!あんたたち正座しなさいよ!正座!」
そういってダン!と足を鳴らせば驚くべき早さで4人は横一列に正座した。
それをみてから遅れた涙が、私の目からひとつだけ零れた。



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