騒がしい日常。
鳴り響いた電話。



「よし、と」
パチンといつもの兄へ朝のメールを打ち、音を立てて携帯を閉めた。同居人が7人に増えて今日で一週間だ。その間にいろいろあったものの、今では新しく来た元親さん達もこの世界にだいぶ慣れたようだった。拗ねていた四人も機嫌をなおして、みんなの仲はなかなか良好、と、いいたいところだけれど、
「終わったでごさるか!楓殿!某、朝の散歩にいきたい!」
「Shut up!真田!Honeyは俺と今からEnglishを勉強をするンだよ!」
「………」
携帯を閉じた瞬間、我先にと押しかけて来た政宗と幸村、そして無言だけど、しっかと私の服の裾を掴んでいる小太郎に押し倒されそうになる。
「わ、わー!まってまってまって!」
「むっ、が、学問なら某とて…!」
「Ha!教科書開いて5分で寝るやつに言われたかねぇなあ!つか風魔!お前さりげなくHoneyの服引っ張ってんじゃねぇ!」
「な、なんと!卑怯でござるぞ!!風魔殿!!!」
「……」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を無視するかの如く、小太郎はフンとそっぽを向いてまた私の服を引っ張った。
「ちょ、っとホント危ないってこける…!」
あまりの押しにぐらりと視界が揺れて、倒れることを覚悟してぎゅうっと目をつぶった。
のに、いつまでたっても衝撃は来ずにふわりと体が浮いた感覚がしただけだった。
「あ、あれ…?」
「お前等なァ、楓があぶねぇだろうががっつくんじゃねえ!」
至近距離のびりびりと空気を震わせる声に体がびくっと跳ねたけれど、聞き慣れた声にそろそろと目を開ければ目の前に元親さんの顔があった。
「ったく。楓大丈夫か?」
「あ、はい、一応」
「そンならいいけどよ」
右腕一本で軽々と身体を担がれたままの体勢で尋ねられて、なんとか返事をする。そして、三人を見れば申し訳なさそうに眉尻を下げていて、その姿がほほえましくて思わず笑ってしまった。
「…Sorry、Honey」
「申し訳ないでござる…」
「……」
「ううん、大丈夫だったからいいよ」
「今度から気ィ付けろよ」
フン、と鼻を鳴らして元親さんはそういうと、そのままの体勢で移動しはじめたものだから、ぐらぐらと揺れるのが怖くて咄嗟に元親さんの頭に抱き着いた。
「わわっ」
その瞬間、ひょいと慶次さんが入口から顔を出した。その手にはキーキーと何故か嫌そうに暴れる夢吉の姿だ。
「楓ー。夢吉お風呂に入れるから手伝ってくれな、…て、あれ、なんで楓、鬼の旦那に抱っこされてんの?」
「い、いやなんでっていわれてもなんでかわたしにもわかんないですよ!」
「ガキ3人が取り合いしてたから救出したんだよ」
「へぇ!掻っ攫ったわけだ!やるねぇ」
「Hey!聞き捨てならねぇ言い方するじゃねえか!!」
「…!!」
「はははは破廉恥でござる!!!」
「えー!幸村いまさらそこにツッコミ!?」
「楓どうした?」
「なになにどうしたの?って、なにしてんの長曾我部の旦那!」
真っ赤な顔の幸村に思わず突っ込んでいると、騒ぎを聞き付けた小十郎さんと佐助さんもこっちにきたらしい。元親さんの腕に抱えられた私を見た瞬間、二人の顔が変わる。小十郎さんはあからさまに顔をしかめて、佐助さんは目が笑っていない笑顔だ。
はっきりいってどっちも同じぐらい怖い!
なんて、思っているとその場の空気を壊す音が、私たちの間に鳴り響いた。
「わ、わ!」
音の発信源にみんなの視線が集まる。その音の出所は私の手の中にある携帯電話だった。
「あれ、な、なんで」
慌ててディスプレイを覗き見るとそこにはちかちかと"お兄ちゃん"の文字が表示されていた。



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