みんなに唇に人差し指を押し当ててしーっといえば、なぜかみんなも同じ動作を返した。
なんだよこの、戦国武将どもは!かわいすぎだろう!
そんなことを思いながらもこわごわと、人差指で通話ボタンを押した。



「もしも、」
『楓−−−!!!!』
「いっ」
電話の向こうからいきなり大きな声が聞こえて耳を貫いた。じんじんと麻痺したように痛む耳を押さえながら電話を少し遠めにして声を出した。
「急に大きな声出さないで!耳がいたい!」
『あぁ、ごめんごめん、でもどうしても楓の声が聞きたくて聞きたくて…』
ふと、その声に少しだけ疲れが混じっているのに、気がついた。兄は私に対してはそんな姿を見せるのを嫌う。それは幼い私に心配をかけまいという気持ちと、そんな姿を妹に見られたくないという意地の二つからきていたのだろう。でも、確かに今聞いている兄の声にははっきりと疲れが滲んでいた。
「どうかしたの…?」
思わず聞けば、電話の向こうで兄が言葉に詰まった。
『ーっ、な、なにもないよ。あぁ、そうだ楓、メリークリスマス』
「へ?」
急に告げられた言葉に思わず間抜けな声を上げれば、電話の向こうで笑い声が響いた。
『やっぱり今年も忘れてたな!今日はクリスマスイブだぞ。こっちもやっとイブになったところだ』
「あ、あぁー。道理で町がきらびやかだと思ったら…もうすぐだなあとは思ってたけどいつの間にか当日だったんだね」
『もちろん、お兄ちゃんからの愛のこもったプレゼントは送ってあるから楽しみにしてろよ』
愛のこもった、という言葉に周りのみんなの動きが一瞬ぎしりと軋んだ気がしたけれど、私にとってみればいつものことだったのでため息を返しておく。
「はいはい、私からは帰ってきてからね」
『あぁ、ちょっと仕事は落ち着いてきたから年末は帰れる。だが、そのな…』
「?」
そこで初めて兄ははっきりと私に疲れたため息を聞かせた。でもそれは嫌な疲れではなく、どちらかというと困惑という言葉が当てはまるような溜息だった。
「お兄ちゃん…?」
『その、今年は一人友達を連れてきてもいいか…?』
「お兄ちゃんの友達?」
『あぁ、うーん、友達っというか。うーん、まぁ、そんなものだな』
「うん、構わないよ」
友達がいたほうが、もしかしたらみんなのことを説明するときに兄の怒りも少しは収まるかもしれない。というより、殴りかかるのをとめてくれるかもしれないという期待を込めつつそう言えば心底ほっとしたように兄は息を吐いた。
『そうか、よかった…じゃあまた連絡する』
「うん。じゃあ、またね」
そういって通話終了のボタンを押して長々と息を吐いた。見れば、周りのみんなも同じように緊張を解いて大きく息をはいていた。
「兄貴か?」
小十郎さんにそう尋ねられてこっくりと頷く。
「はい、年末にお友達連れて帰ってくるって」
「そン時に俺たちがいること言うんだろ?」
「ええ、そうしようと思ってます…その、兄はすごく、なんというか私に対しては非常に過保護で…」
「あ〜…電話聞いただけでも猫っ可愛がりって感じだったねえ」
言葉を言い淀んでいるとそう言って佐助さんが眉尻を下げてつぶやいた。皆、どうやら先に待つ困難が見えたらしい。不安そうな空気を感じ取って、慌てて口を開いた。
「で、でも!兄がなんと言おうと私はみなさんを、守りますからっ!」
ぎゅっと拳を握って咄嗟にそう叫んでいた。
叫んでから、皆の驚きに丸くなった目を見て急に自分がいった言葉の恥ずかしさを意識した。
「いやっ、ま、守るって言い方も変ですけどなんていうか、いやでも当てはまる言葉探してたら守るってのが一番しっくりきてね…」
「ぶはっ、あ、あはははは!楓かっこいいな!」
そういって一番に笑いだしたのは慶次さんだった。そのままぐしゃぐしゃと私の頭を撫でながらくっくと笑う。それを皮切りにみんなが肩を振るわせ始める。
「さすが俺のHoneyだな!そんで未来のWifeだな!!」
「楓殿…!某、感動いたした!お、おやかたさまあああああ!」
「政宗さりげなくwifeとかいうのやめてくれる?!それに幸村お館様って誰!」
そう叫んでいるとぐらりと視界が揺れた。よく考えれば、私は未だに元親さんにだっこされたままだった。視界が揺れたのは、元親さんが笑いすぎて身体をかがめたからだった。
「ま、守るなんてのは、俺は初めて言われたぜ」
元親さんは笑いすぎて隻眼にうっすらと涙をためてそういうと私の身体をトン、と床におろした。長い間私なんかの重い身体を持ち上げてて、あの腕は痺れていないだろうかとちょっとだけ心配だ。
「そ、そんなに笑うことないでしょう!ま、まじめに言ったのに!」
「あははは、ご、ごめん」
「わ、わるい…」
ひいひいとおなかを抱えたまま慶次さんがひらひらと手を振りながら言う。よく見れば、あの小太郎までもが無言で顔を伏せて肩を震えさせていたものだから、余計に恥ずかしい。
それにまたむきになってブンブンと手を振り回していると、佐助さんが眼尻にたまった涙をぬぐいながらそう言えば、とつぶやいた。
「楓ちゃん、めりーくりすますってなに」
「え?」
「あぁ、それは俺も思ってた。くりすますとはなんだ?なにかの祭りか?」
「そういえば、皆さんクリスマスとか知らなくて当たり前なんですよね」
みんなが過去から来た人だということを失念していた。クリスマスなんて知らなくて当たり前なのだ。
「ええと、それじゃあ大雑把に起源は説明するとして、みんなでクリスマスパーティーでもしましょうか。用はお祭りです、楽しめばいい日なんですよ!」
合言葉は”メリークリスマス!”です!といえば、皆がめりーくりすます!となぜか復唱してきたのが、やっぱりなんだかやたらとかわいかった。



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