■ 始まる日

「これに伴い、管理局を解体とする」

そう、はっきりと言われた日を今でも覚えている。
やりがいのある仕事かと聞かれれば、死神らしいとも何とも言えないところなので、何とも言えないし。楽しいのかと言われれば、それもまた微妙なところで。でも、確かにあの頃、ここにいてもいいと思えたのだ。

「管理局を隊と改め、ここに配属を命じる」

重苦しく、総隊長殿がその紙に書かれた文字を読み上げた時、私の頭の中は何もかもが追い付いていなかった。なくなった居場所も、消えてしまった仲間たちも、理由があってそうなったのは明白なのに。誰も、それを話してはくれなくて。残った数名は、十三の隊へ散りじりに配属を命じられていたのを知っていた。そこに行かずとも、ここにまた同じような職務が与えられるなら、彼らにそれを与えてしまった方が適任だとすら思えるのに、なぜ私なのかと。
その理由を口にしようとする命令さえ、脳みそは聞かず、ただ茫然と、自分が流されていく様を他人事のように見ていただけだった。













肩書きだけは隊長になってから数日。
局の建物内は事件の捜査がなされたため、掃除をすることもなく引き払うことが出来た。次に別の用途でどこかの隊が使うことが決定したらしい。
私の仕事相手となる紙の束たちは、書庫に納められ、そこのすみへ机を置いて仕事をすることになった。たったひとりだけの隊ならそれもいいだろうと、数少ない荷物を持って、書庫へと向かう。
重苦しい扉を開けると、陽の光に照らされてほこりがきらきらと舞うのが見える。日焼けを防ぐために、基本的にここに陽の光は入らない。天井は高く、そこにある小さな窓からわずかに入るばかりだ。外から見る建物自体は、そこまで広いようには見えないのだが、地下にも大きく広がっているため、一歩足を踏み入れると、ちょっとした別世界だ。
数日離れていただけなのに、懐かしみすら感じるが、感傷に浸っている場合ではない。すでに運び込まれていた机を見つけ、
荷物を置こうとしたその時。

「…誰かいますか」

視界の端で、何かが動くのが見えた。霊圧を感知していれば入る前から気づけたかもしれないが、こんなところに一体誰が何の用事で入り込むのか。可能性すら感じない。
持っていたカンテラをそちらに向けて照らしてみると、それは光を恐れるように後ずさった。

「清花さん?」

「み、扇鶴さん…」

そこにいたのは、局であったときの同僚だった。
古森清花。長い髪は人を避けるように伸ばされ、人と外を避けているせいか色が真っ白だ。極度の人見知りではあるが、本と同僚とはうまく接することが出来る、そんな人である。

「八番隊に配属されたって聞いたけど」

「扇鶴さん、俺が普通に外でて死神らしく仕事できると思う?」

「…思わない」

「でしょう?あんなとこにいたってただの邪魔なお荷物にしかなれないんだよ。なんで解体なんかしちゃったんだよほんと…。ここでしか生きられない奴がいるってことくらい知ってほしいよね」

自らを笑いものとするように喋るのは、どこに行こうと変わらないらしい。

「それで、ここでさぼってたの」

「…誰も管理する人が、いなくなると思って」

彼の手元には、四十六室側に回収されたと思っていたここの資料のリストがあった。写本をするべきものや、修繕をすべきもの、今後の状態によっては棚から保管庫へ移すべきものなど、いわば本たちの診断書のようなものだ。

「…私にしか、伝わってないんですけど、実は、管理局は完全になくなったわけじゃないんです」

「え」

「護廷十三隊における…なんとか、長い名前なんだけど、司書部隊みたいな」

「なんでそれ、扇鶴さんだけ?ほかのみんなはそこにいないの?」

総隊長が読み上げたあの手紙、薄ぼんやりとしか見えなかったが、あれは局長の字だった。局長は、私に何をさせたかったのか、何を言いたかったのか。あの、「遺書」としか言いようのない手紙のほんの一文からでは何も汲み取れなかった。

「…分からないけど、でもよかった」

「何が?」

「みんないなくなって、何もかも消えちゃったのかと思ったけど、清花さんとここにある本は変わってないから」

寂しかったのだと思う。形が綺麗に作られていたあの場所が、一夜にしてふっと蝋燭に点った炎の方に消えてしまったのだ。
憧れていた、あの人も。約束をしてくれたあの人も。どこかに消えてなくなってしまった。そこにまたひとりぼっちで放り込まれて、さびしかったのだ。

「清花さんを八番隊から引き抜かなくちゃね」

「え、そんなことできんの」

「これでも隊長だから」

「扇鶴さん…!」

途端に顔を輝かせる彼を見て、現金だなあとは思いつつ、久しぶりに笑えたような気がして、少し嬉しかった。
















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空ちゃん宅から清花くんお借りしました



170216

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