金髪確定ガチャ2




両膝に添えられた大きな手はじわりと熱を持っていた。そのまま両手を使ってゆっくりと脚を撫で上げて、するりと布擦れと共に親指に引っかかったスカートの裾が押し上げられる。少しずつむき出しになっていく白い太ももを擦り合わせるようにしてナナシはバーボンの顔色を窺った。

「バーボン、まだ昼間で……」
「…………」

自らの手で綺麗に整えた女を、バーボンは確認と称してたびたび舐めるように愛でた。「別の男」の気配を感じた日はそれが殊更執拗だ。それが分かっているからナナシもできるだけバーボンを刺激しないようにしているのに、例の探偵だという男はどこかそうなるのを面白がっているようでもあった。ナナシは、この顔に命じられたら言うことを聞かなくてはならない。たとえ中身が探偵の男でも、アンクレットを外しておけと言われたらそうせざるを得ないのに……。

「ま、待って」

内股の柔い女の肌に褐色の指が食い込む。節くれだった指と指の間からはみでた真っ白な部分をちゅぅと吸われて、開かされた足を男の肩に乗せて抗議する。硬くてがっしりとした体はびくともしない。抵抗など一切、頓着しないバーボンがべろりと舌でそこを舐めた。

「あっ」

捲れあがったスカートから下着が見えて、ナナシは頬を染めた。否、最初から男には丸見えだっただろうが……白いレースのあしらわれたそれはワンピースと揃いの清楚で控え目なデザイン、ではなかった。布の面積が明らかに少なく、しかも一番隠さなければならない部分が半分透けている。分類としては誰が見てもそれと分かるセクシーな下着だ。もちろんこれもこの男が選んだ。脚の付け根の際どいところをかぷりと甘噛みされて、下着のリボンがふるふると震える。

「やっ、うぅ……」

筋の通った男の高い鼻が布地を押し上げてきて、外気にさらされると同時に熱い吐息がかかる。いまどき本物のお嬢様でもそういうスタイルは珍しいであろう清楚な白いワンピースと長い黒髪。それにいやらしい下着を組み合わせるというのはナナシの羞恥を煽っているのか、バーボンの趣味かは分からない。ベッドの上で彼女を手酷く扱うのは意外にも普段は優しい探偵の男だったが、彼も下着は脱がせずに事に及ぶことが多かったので案外そういう性的嗜好は同じなのかもしれない……今、そんな分析はいらないが。男の鼻の下にある、透けた布地のうえから、舐めたり、吸ったり、咥えたりと口でできるおよそすべての辱めをうけてナナシは身悶えた。昼間からこの調子では、おそらく明日の朝まで離してはもらえないだろう。あがる呼吸に混じって絶えず響く水音を耳にしながら、瞼を閉じた。




「はぁ…………」

ナナシはスマホの画面を見つめて嘆息する。もうじきあの男がやってくる頃だ。電源を落としてサイドテーブルに端末を置き、もう一度ため息をひとつ。
経営する会社の人員に空きが出たから、そこで働かないか……昨夜、突然母からそんな連絡があった。同じく組織に監視される身の母だが、ある時急にここを出て行き、一年足らずで会社を丸ごと任される地位にまで上り詰めていた。どうしてそうなったのか、まともな出世でないことは間違いない。
まあ何にせよ、このまま閉じ込められていても何にもならないというのはナナシが日々考えていたことだった。

「……ここを出る……」

問題はそれを三人のうちの誰に言うか、ということであった。
一番自然なのはバーボンだろうが、あの男はこの任務に強い執着がある。単に母から誘われたと言っても納得しないかもしれない。ただ、色々と厄介ではあったが一応それなりの待遇でナナシの面倒を見てくれていたわけだし、情がないわけではないのだろうから、一度は相談してみるのも良いか。
次にあの探偵だが、職業が本当かどうかは置いておいて、普段は三人の中で一番優しく穏やかな男だ。怒ったところも見たことがない。案外、何とかしてくれるかもしれない。
最後のひとりは何を考えているかよくわからない。けど、酷いことをされたことはないし、他の二人とは違って体を求められたこともない。ナナシに対する気持ちでいえばおそらく一番落ち着いている。

そうしてうんうんと唸っていると、バタンと、玄関の扉が閉まる音が聞こえた。「誰か」がやってきたのだ。

とにかく、彼ら自身がノーと言っても組織に話を通してくれさえすれば何とかなる可能性はある。まずは行動を起こさなければ。
ナナシの根底には「あの三人からそう悪く思われていない」という気持ちがあった。

「…………」

だめだ、誰に言うか決められない。ナナシは迷いに迷って、ある覚悟を決める。
……今日、このドアを開ける人が誰であっても、その人に言おう。
ここを出たいから助けてほしい、と。

ぎゅっとワンピースの裾を握り締めるナナシの目の前で、ガチャリと音を立ててドアが開かれた。




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