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13-14




「ナナシさんは途中まで赤井さんと一緒だったんでしょ?どこにいるか分からない?」
「警備隊を集めるために移動してると思うけど、階数までは……爆弾が仕掛けられてるなら、館内放送とかで避難を促した方がいいんじゃない?」
「それがそうも行かなくて……って、聞こえてたの!?……さっきフロントに電話したんだけど、放送設備と非常用の電源ユニットが壊されてるんだ!」

普通に沖矢さんを赤井さん呼びしているコナン君は焦っているようだった。爆弾は安室さんが何とかするような口ぶりだったけれど、工具も防護服もない状態で公安である彼が処理できるものなのだろうか。まあ、安室さんはといえば焦っている様子はまったくなかったので、私が心配することでもないんだろうけど。そしてコナン君も、爆弾に慌てているというよりは……。

「ベルモットって、誰?」

シンとした廊下に、2人分の足音だけが響く。コナン君から返答はなかった。さっきコナン君は、ベルモットという人物と一緒に来たのではないか、と安室さんに聞いていた。安室さんがこのフロアに部屋を用意していた点と、まさか嶋崎さんが身代わりになるとは、と発言した点から考えて、彼らの組織が誘拐未遂の首謀で間違いない。並行して、安室さんは嶋崎さんと接触するという目的があった。ベルモットとやらがここに来ていることを安室さんが知らなかったということは、誘拐の実行犯達が合流しようとしていた人物は、突然現れたベルモットでも、別の目的で動いていた安室さんでもない組織の他の誰かだったということだ。……その人物は計画の途中で殺害され、死体に爆弾を取り付けられた、と考えられる。犯人は状況から見てベルモットという人物だろうが、それがコナン君が焦っている理由か。因縁があるのか、重要な人物なのかは分からないけれど、赤井さんは組織を追っていると言っていたし、伝えなければならないのだろう。しかし、他の仲間がホテル内にいると知っていながら共謀者を殺害して爆弾を仕掛けるあたり、あまりメンバー同士が仲良しという感じでもなさそうだ。そして過激である。

「とにかく、30階まで下りよう」

コナン君は繋がらないスマホを諦めたようにポケットにしまった。あたりをつけて探すしか手はないようだ。しかし、ラウンジを抜けてエレベーターの前までやってきたところで、インジケーターの階数表示がフッと消える。さらに、廊下の照明も消えてしまった。すぐに非常用電源に切り替わるはずが、一向に明かりはつかない。壁に設置されたドライフラワーの飾られた額だけが電池式なのか、オレンジにぼんやりと光っているのが見えた。人の声もない、暗闇にシンと静まり返った空間はホテルとは思えない。

「真っ暗になっちゃったね……どうする?」
「うん……でもこれなら赤井さんがスマホを確認してくれるかもしれない。階段で下に行こう」

スイッチを押すような音がして、コナン君の腕から出た光がパッと正面を照らした。懐中電灯だ。時計と一体になっているのだろうか。身に付けられる懐中電灯は便利だな。前に探偵ごっこが好きと言っていたし、便利なアイテムを他にも持っていそうだ。そう考えて、ふと、頭の隅に何かが引っかかる。……何だろう?ひとり首を傾げたその時、少し離れた場所から、おい、と男の声が聞こえた。顔を向ければ、暗がりの中に複数人、人が立っている。暗かったとはいえ、まったく気付かなかったことに驚いた。……いや、違う。気配はたった今生まれた。つまり、部屋から出てきたのだ。その部屋は位置的に、一番初めにこのフロアにきたとき、男達に連れられて入った部屋のようだった。と、いうことは。
私がコナン君の前に入るように体を動かすと、それに気付いたコナン君が背後で息を飲む。

「なんだ、ガキかぁ?……そっちのお前はさっきの女だな?」
「お早いお目覚めですね」

ライトの光でこちらの姿を判別したらしいリーダーの男は、ずかずかと大股で歩み寄ってきた。銃声が聞こえたせいで縛る時間がなかったのが悔やまれる。

「クッソ、舐めたマネしやがって!おい、やれ!」

男の合図で他の2人が襲いかかってきた。暗い中、ドタドタと複数の足音が響き渡る。闇の中では、それがかえって相手の行動を読み易くした。

「ナナシさん、逃げて!」
「コナン君、女と子供って最強の組み合わせだよね」
「えっ?」

殴りかかろうと突っ込んできた男の右腕を、体をほんの少し傾けてかわす。そのまま相手の勢いを利用して両手で右腕を掴むと、ぐいっと下に引っ張って、男が前のめりになったところで鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。女の蹴りなどそう大した威力はないが、男の体重が加わった分、重い一発になる。ぐえ、と蛙のような声を上げて倒れた1人目を踏みつけ、次に右足を大きく踏み出し、怯んでいる別の男の首に真正面から思いきり手刀を叩き付けた。そこは急所だ。さらにダメ押しで股間を蹴り上げればしばらくは再起不能である。声もなくもんどり打って倒れた男はさっさと進路から蹴り出して、最後の1人に向き合った。残ったのはリーダーの男で、銃こそ所持していないものの2人に比べると体格が良い。表情が見えなくても分かる。良い感じに激昂しているな。わざと男に近付いて、伸びてきた腕に肩を掴ませると、私は自分の腕をぐるりと回してその反動で男の指を真横から払い除けた。バランスを崩した大きな体躯の脇腹に、またも膝で蹴りを入れる。鈍い音と共に、ぐ、と男が呻いたところで軸足の踵を反転し、今度は回し蹴りで廊下に引き倒した。ドサリと倒れた男をヒールでぐりぐりと踏んで、コナン君に向き直る。コナン君が呆然としているのが暗くてもよく分かった。が、今はそれどころではない。男どもが起き上がらないうちにお暇しなければ。

「だって油断するでしょ?相手が」
「…………」
「さ、行こう!前を照らしてくれる?」
「う、うん……?」

私はコナン君を抱きかかえ、非常階段に向かうためにラウンジの方へと走り出した。




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