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13-3



「蘭さん、久しぶり!」
「ナナシさん、本当にお久しぶりですね!」

コナン君、沖矢さんと談笑している間に、毛利さんのところの蘭さんとも会うことができた。最近は土日も部活で忙しいのか、長いこと話していなかったように思う。蘭さんは可愛らしい淡いピンクのシフォンワンピースに、胸元にはピンクの薔薇がついている。普通の女子高生に見えるのだが、実際は空手でもの凄く鍛えており、きゅっとしまって無駄がない体だ。そのわりに胸は大きめなのでつい見てしまうのだが、女子が女子の胸を気にすることって問題ないのだろうか……?聞くに聞けないで現在に至る。そしてまだ10代の彼女を見て、若いってヤベエ……と思うようになったのは私が年を取ったからか。10代後半の頃、パーティー会場で知り合った20代の女性に、若いってほんといいわよね、肌が違うから……と言われた時には意味が分からなかったけど、今ならよく分かる。確かに、この瑞々しさは10代特有のものなんだろう。

「ナナシさんは誰と一緒に来たんですか?」
「実は連れがちょっと遅れてて、先にひとりで来たんだ」
「早くしないとご馳走なくなっちゃうもんね?」
「そうそう。……よくわかったねコナン君」

肝心の嶋崎さんが少し遅れるとかで、待っていても良かったのだが「先に行って美味しいものでも食べてたらどうだ」と言われたため、ぼーっと待ってるのも退屈だしそうさせていただいた。みんなに私の目的がバレている。
しばらくみんなでお喋りをしながら美味しいご飯を堪能していると、沖矢さんが私を見て何か気付いたような仕草をした。

「どうかしましたか?」
「いえ、ナナシさんはブローチをつけていらっしゃらないなと思っていたんですが、そこにあったんですね」

沖矢さんが指差す先に、クラッチバッグに取り付けた私の分の薔薇がある。色は紫だ。本来は胸につけるものだが、上半身の服の素材がサテンなので、針を通すのはよくないと思って鞄につけていた。

「付けたいんですけど、服に穴が空いてしまうので……」
「これを使ってみてはいかがでしょう?」

そう言って沖矢さんが内ポケットから取り出したのは、一本のタイピン。あ、なるほど。挟めばいいのか。ちょうどいい具合にV字に胸元が開いているので、そこにつければ変にはならないだろう。

「それは思いつかなかったです。お借りしてもいいですか?」
「ええ、勿論です。ああ、爪が傷ついてしまいますね……僕がやりましょう」

ブローチを鞄から取り外すと、すっと腕が伸びてきて私の手から薔薇がなくなった。あっという間の出来事に大丈夫ですと返す暇もなく、沖矢さんの手が留め具をタイピンに引っ掛けるのを黙って見る。そうしてこちらに近付いてきた彼が、私の服の胸元にピンを挟んだ。指が柔らかな部分に触れてしまいそうな距離で、ちょっとだけ緊張する。正面から見るより、上からのアングルの方が見えてしまいそうだし。大きな手が細かな作業をするのをしばらく見ていたが、気になってちらりと彼を見上げた。眼鏡の奥のその表情は、やはりよく読めない。

「そうやって見られると誤解してしまいそうになりますね」
「……沖矢さん、そういうキャラ設定なんですか?」

赤井さんと沖矢さんは随分と違う。性格が似ていると逆にやり辛いのかもしれないが、ギャップが大きすぎてどう反応したら良いか迷うところだ。あの赤井さんが無理してそんな台詞を言ってるのかもしれない、と思うと愉快な気分にはなるけど。

「できましたよ」
「ありがとうございます。あとでお返ししますね」
「ええ。今度お食事でもいかがですか?」
「え?」

思いがけない急な誘いにきょとんとしてしまった。連絡先は前に交換していたのだが、今までそういった誘いは一度もなかったので不思議に思って彼を見つめる。その時に返してくれればいいですよ、と言う彼に、私はとりあえずで頷いた。ちょっと気になることも出てきたし、情報交換としてそれも良いだろう。そう言えば赤井さんの話を聞かせてくれると言っていたのは忘れられていないだろうか。ただ、赤井さんとの接触は危険なので沖矢さんの方と会う必要がある。どうせならコナン君も巻き込んでしまおうか。

「あれ?コナン君と蘭さんがいない……」
「すぐに戻ってきますよ」

つけてもらった紫の薔薇の位置を確かめるように指でそっと撫でてから、コナン君と蘭さんがいなくなっていることに気付いた。そう言えば、コナン君がどこかに行きたがって駄々を捏ねている声が聞こえたような。蘭さんもついていったのだろう。
嶋崎さんもそろそろ来ても良い頃だ。彼が来る前にあと一品、何か食べておこうとテーブルを覗き込む。すると、隣で同じようにテーブルを見ていた沖矢さんが、ふいに顔を上げて斜め後方に視線をやったのが視界に入った。不自然な動作に、訝しく思ってどうしたんですかと問い掛ける。

「……動くな!動けば撃つ!」

その場に似つかわしくない、緊迫した男の声が響き渡った。




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