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さて、前回盛大にフラグを立てた気がしないでもないが敢えて強気で行こうと思う。
結局、食べ物に半分くらい釣られた私は仕事としてパーティー会場にやって来た。他にも一応理由はある。赤井さんから聞いていた、話をしたいというコナン君に会うためだ。ポアロに行ったついでにコナン君の家に寄る、とかでも全然よかったのだが、小学一年生と社会人の予定を合わせるのは思ったよりも苦労する。鈴木財閥の次女は毛利さんのところの娘さんと同級で、ふたりはとても仲の良い友達らしく、今回のパーティーにもみんなで参加するのだとか。
パーティーの開催場所は、大規模リゾートホテルの多目的ホール。40階建ての施設の30階層から上を貸し切り、参加者のために部屋を押さえてあるというから驚きだ。さすがは世界でもその名を広く知られる鈴木財閥。私は今回の宿泊は遠慮したが、おもてなしの規模がすごい。

ホールは立食であれば500名ほどを収容できるという広々とした空間だ。今日は鈴木財閥の相談役が外国でのイベントを終え帰国したとかで、その打ち上げという名目だが、少し前に起きたベルツリー急行の関係者への慰労の意味もある。あれだけの事件になってしまい、大っぴらに慰労会をすることも出来なかったのだろう。打ち上げの割にきちんとセミフォーマルでドレスコードが設定されている理由はそこにあるらしい。イベントの共催や出資者、芸能人等、会場には様々な層が参加している、ようだ。
基本的なパーティースタイルに身を包んだ私は、他の参加者を気にする余裕をいっさい持ち合わせていなかった。

V型に胸元のカットされた白い布地に、金糸で花の模様が刺繍されたトップ。黒のオーガンジー素材のハイウエストスカートは膝よりも長めで、歩くたびにマーメイドラインが美しく揺れる。セパレートに見えるドッキングワンピースだ。背中も大きくV字にカットされており、なかなかに露出度は高め。足元は普通にストッキングと、グリッターシルバーの5cmヒールのパンプスを合わせた。
髪はゆるく巻いてからサイドアップにして、毛先がほんの少し肩にかかるくらいに纏めている。アイラインをいつもより太めにして、目尻にはピンクブラウン。ルージュは赤。チークもほんの少し乗せた。夜なので化粧は濃いめである。

「ナナシさん、だよね?」

聞き覚えのある声が控え目に横から私の名前を呼んだ。先程から視線は感じていたのだが、彼のものだったらしい。顔を向けると、予想通りの小さな姿。

「コナン君、久しぶり!」
「よかった、いつもと雰囲気が違うから人違いだったらどうしようかと思っちゃった」
「ごねんね、気付かなくて。蘭さんと一緒に来たの?」
「うん、そうだよ!蘭姉ちゃんもナナシさんに会いたがって……すごいね?」
「ん?」

私が体ごと向き直ったおかげで、それが視界に入ったらしいコナン君の目が点になった。私が左手に持つお皿には料理が盛られている。よくぞそこまで執念深く綺麗に皿に乗せたなというレベルだ。対するコナン君はお皿も飲み物も持っていない。ハッと目を見開いた私を、コナン君が戸惑いがちに見つめ返してきた。

「ナナシさん、どうしたの?」
「コナン君、ちゃんと食べてるの?これ美味しいよ?」
「う、うん?」

私はいったん自分のお皿を置いて、新しいお皿に鶏肉のしそチーズ焼きをとってコナン君に渡した。まったく、こんな美味しい料理、ちゃんと食べないと勿体ないではないか。素直に食べ始めた彼の様子を見て、サーモンとアボガドのトルティーヤロールも乗せてやろうと思い小学一年生の隙を狙っていると、今度は後ろから声を掛けられた。

「僕にもいただけますか?」

あれ、誰の声だっけ?と思うくらいには声を聞いていなかった気がする。振り返ると、そこには久々に見る人物が立っていた。
黒のタキシードに、茶髪を後ろに撫で付けてセットしたその男は、とても大学院生の貫禄ではない。上手い感じに着崩しており、インナーはシャツではなく黒のタートルネックになっている。やっぱり全体的に黒い。唯一別の色といえば、胸につけた赤い薔薇くらいだ。その薔薇はパーティー参加者全員に配られる参加証代わりのブローチで、造花だが、一見本物にも見える精巧なつくりになっている。色は赤の他にピンク、ブルー、紫、オレンジなど様々な色が用意されており、受付で渡される色はランダムだ。ちなみにコナン君はブルーの薔薇を胸に付けている。

「沖矢さん……それで学生って無理があるんじゃ……」
「そうでしょうか?ナナシさんもそういう格好をされていると随分と印象が変わりますね」

沖矢さんの分の料理もお皿に乗せて手渡してやれば、彼は受け取りながら礼を述べる。そして一言付け加えた。

「とてもお綺麗ですよ」

不自然ではないほどの小さな声で呟かれたそれに、私は瞬きを返す。沖矢さんは確かにそういうお世辞を言いそうなキャラクターではあるのだが、中身が赤井さんかと思うとちょっと面白い。ふふ、と思わず笑ってしまった私に、彼は首を傾げて「お世辞ではないのですが……」とどこか不思議そうに言った。こうして見ると普通に好青年で、穏やかな感じのイケメンだ。ずっと気になっていたのだが、顔はともかく声をどうやって変えているのだろう。こんな技術があればどこでも潜り込み放題ではないだろうか。まあ、彼の場合は体格がかなり良いので、パターンは限られてしまうのかもしれないが。



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