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24-3



「知り合いって誰?」
「それはちょっと……名前を言うのも危ない人だから……」
「えー!どうして教えてくれないの?知りたい知りたい!」
「ちょ、ちょっとコナン君?いくら個室だからって廊下に響くよ!」

急に駄々っ子のように甲高い声で騒ぎ始めたコナン君の口を大慌てで塞ぐ。事案だと思われてしまうではないか。
ジタバタと暴れる子供を体力の落ちた体で必死に抑えながら、そういえば、と考える。
大場さんは外にいた警察に保護されたはずだし、気がかりなのは有川だ。ニュースでは負傷者について何も言っていない。もし死んでしまっていたとしても警察官のままだから公にはならないのかもしれないが……コナン君の様子からしてそれもないだろう。一応、あの男とこの子は顔見知りだ。
今思えば、あの男は本当にジンを殺す気があったのだろうか。何となく、生きていたとしても私の前には姿を現さないような気もする。

「…………?」

いつの間にか静かになったコナン君を不思議に思って覗き込む。彼は私に抱かれた状態のまま、目を輝かせてこちらを見上げていた。これは諦める気はなさそうだ。コナン君の前では極力怪しい行動を見せないようにしてきたつもりだったんだけど、おかしい。当たり前のように私が何かしたことになっており、白状する雰囲気になっている。ふうと溜息を吐いて、仕方なく彼の小さな顔に口を寄せた。
今回、コナン君の協力なしでは事件を未然に防ぐことはできなかった。それのお礼じゃないけど、こっそり告げるくらいなら許してもらえるだろう。どうせ言ってもピンとこないだろうし、というのが本音だったが。

それを行使した時、私もまた"俺"の偽物になる……。
私は結局、亡者と現世を繋いでしまった。この先に待ち受けるものは見当がつかない。私の存在を知った古巣はおそらく動かないのではと考えているが……電話の向こうにいた相手の顔を思い浮かべながら、口を開く。

「電話の相手はね……」
「うんうん!…………、…………えっ?…………」

私が折れたことでいきいきと輝くコナン君の表情。本当に純粋な興味というか、好奇心を満たすことへの意欲がすごいというか……楽しそうだ。
それが耳打ちするにつれて、子供らしい赤みのある頬からサーッと血の気が引いていく。おやと思う頃には一切の表情筋が動かなくなってしまっていた。

「大丈夫?」

ピシッと固まるコナン君から腕を離して尋ねると、彼はスッと視線を逸らす。何故だろう、どこか達観したような目だった。

「ボク、子供だからよく分からないや……」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
「よくねーよ……」
「え、なんて?」

コナン君らしからぬ低い声に首を傾げると、彼は我に返ったように瞬きしてから微妙な笑みを浮かべた。何でもないよ、と答える声は瞬時に元の小学生に戻っている。さすが女優の息子とでもいうべきか、その辺の諜報員よりもよほどスパイに向いているのではないだろうか。どうも触ってはいけないもの認定されてしまったようなのだが、それはこちらの台詞だ。これ以上突っ込まれたら困るので何も言えず黙っていると、コナン君が窓の外を見て思い出したように声をあげる。

「……あ、そうだ。類さんも近くに来てるんだ」
「そうなの?監視の人は?」
「もういないみたいだよ。引越しの下見だって言ってたから、ホテルからも出られることになったんじゃないかな。昨日公安の刑事さんと会ったみたいだし」
「随分、急だね……」
「うん……八坂さんが危ない諜報機関の構成員だったって分かった今、警察組織が類さんを匿うのはかえって危険だったんじゃないかな……でも、どうしてその八坂さんは黒の組織から情報を盗んだんだと思う?」
「え?」

八坂は降谷さんの部下だ。それをコナン君が知っているかどうかは微妙だが、日本側の警察関係者だということは類さんをめぐる公安の刑事の動きで気付いている。八坂は公安の任務によって黒の組織から情報を盗み、結果殺されてしまった。ここまでは分かりきったこと。コナン君はそれを知った上で「どうして組織から情報を盗んだんだと思うか?」と私に聞いている。
この問いは、正確には「事件の最中、まったく別の諜報機関の構成員だったことになった八坂」は、「何のために黒の組織から情報を盗んだのか?」ということだろう。八坂の所属が唐突に変わったことに私が絡んでいることをさっきの話で見抜き、最後までシナリオを教えろ……と言っているのだ。

「黒の組織が何年か前に中東にある軍事施設を爆破したらしいんだけど……そこはベルモットの言う「すっごく怖ーい組織」が掌握してた土地だから……流出した情報でも取り戻すつもりだったんじゃないかな?もしくは、死んだ仲間がいて一矢報いたいと思ったのかも……」
「なるほどね」

八坂がヘブライ語に堪能だったことから、その話は不自然ではない。……でも、今のは安室さんから軍事施設爆破の話を聞いて「ちょうどいいや」と組み立てたストーリーであって、最初から考えていたわけではない。私の行き当たりばったりがバレるところだったなと考えていると、コナン君は満足したのか、椅子からスタンと立ち上がった。

「コナン君、帰るの?私も一緒に行く」
「……入院中は外に出られないよね?」
「すぐ戻るから大丈夫。類さんに会いたくなっちゃった」
「待ってればここに来ると思うけど?」
「いま会いたいの」

ええ……と呆れる小学生を前にさっさと身支度を始める。
病棟の出入り口に鍵がかかっているわけでも、監視がいるわけでもない。ここは普通の一般病院なのだ。そしてコナン君以外は誰も訪ねてこない。この扱い、どう考えてもおかしいだろう。というわけで行動を開始する。コナン君はやれやれと肩を竦めた。

「外に出る服、ないでしょ?持ってきたから……ボクも行くからね」
「寄り道させちゃってごめんね。ありがとう」

お礼を言うと、はぁ、と溜息を吐かれてしまった。彼は最初から分かっていたとばかりに紙袋を差し出してくる。
有希子さんが用意してくれたという服に着替えて、私はコナン君と一緒に病院を抜け出した。



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