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20-9



念のため、B班が何かを見つけて留まっている可能性を考え、私達は時間をかけて外部用のドミトリーを調べた。けれど残念なことに、おかしなところも世良さん達の姿も見つけることはできなかった。
仕方なく正面玄関に戻り、蘭さんと清掃のおじさんと合流する。ひょっとしたらと思ったが彼女達は戻ってきていないようだ。電波が悪いのか電話をしてもコール音は鳴らない。闇雲に探しに行くわけにもいかないので、ひとまず落ち着いて狭めのロビーの椅子に座る。

「……ああ、行方不明の話なら知ってるよ。俺はその時宿舎の担当じゃなかったから聞いた話だが……2年くらい前に宿泊してた学生が忽然と消えちまったんだと。その時の清掃担当も騒ぎのせいなのか何も言わねーで辞めちまってなあ……」
「色々と噂のある建物だったんですね……」
「管理人もその時に辞めて、今の人が入ったんだよ」

山中さんの話を聞いている蘭さんの顔色が悪くなった。それ以上に戻ってこない世良さんが気になるようで、さっきからスマホを気にしている。間違って別のルートから411室を調べに行ったのだとすればそろそろ戻ってきていい頃だ。さっき笹山さんが言っていた歩き回る不審人物に遭遇したとしても、3人いるのだから全員が即座にどうにかなることは考えにくい。襲われれば騒がしくなって部屋にいる宿泊客も気付くだろうし。おそらく自分達の意志でルートを変え、どこかに行ったのだ。理由は……何か妙なものを目撃でもしたか。

「もう22時になりますね……私達がこれ以上勝手にここを歩き回るのもどうかと思いますし、警備員さんを呼んで一緒に探してもらうのはどうでしょう?」
「そうだな……放ってはおけねえし……ん、電波が悪いな。歩いて守衛まで行くしかないか」

管理人さんまで消えてしまったとなるとドミトリーも色々困ったことになるだろう。山中さんが守衛まで行ってくれることになったが、途中でまた行方不明にならないとも限らないので、結局は全員で一緒に行動することになった。ぞろぞろと外に出て、ところどころ明かりの点いているドミトリーを外から眺める。確か411室はこちら側から見えるはずで……ん?他の部屋と照明が違うな。青っぽいというか、青白いというか。っていうか、あれって……。立ち止まってぽかんと建物を見上げる私に、蘭さんがどうしたんですかと言って釣られるように視線をあげる。あ、と思ったが、彼女もそれを目撃してしまった。

「ッ……キャアア!」
「!?」

人のいない構内に悲鳴が響く。ぼんやりと浮かび上がる、部屋の中で首を吊る人の姿。光の加減とかではない、間違いなくそう見える。悲鳴に驚いたみんなも次々に立ち止まり、それを見上げてギクリと体を強張らせた。顔の判別は不能、何となく男のようにも見えるが……確かにこれは心臓に悪い。それをじっと見つめながら、何かが頭の中で引っかかるが、違和感の正体にすぐにはたどり着かない。

「何で……さっき見に行った時は何も、」

上擦った声で笹山さんがしぼり出す。そうだ、さっきは何もなかった。私達が外に出たタイミングを見計らって仕掛けか何かを作動させたのだろうか。そうすると犯人はずっとこちらを見ていたことになるが……。

「あっ、コナン君!」

蘭さんの焦った声がして目を向けると、コナン君が建物に向かって走り出したところだった。部屋に行くつもりなのだろう。ひとりで行かせるわけにはいかない、後を追わなきゃと思い体の向きを変えたところで、それを呼び止めるかのように「おーい!」という声が別の方向から聞こえてくる。暗くて見えないが世良さんの声だ。コナン君も足を止め、全員の視線が声のした方に集中する。小走りで姿を現した世良さんは私達の目の前までやってきて、両手を合わせて頭を下げた。

「ごめん!急にいなくなって……探したか?」
「ちょっと世良さん、どこにいたの?」
「それが色々あってさ……」

世良さんが説明したところによれば、見回りをしている最中に窓の外におかしな人影を目撃したのだという。それは周囲を探るような動きで、暗いところを選んで歩いているようでもあり、とてもここの学生には見えなかった。深夜にドミトリーを歩き回る人間がいる、その噂話をちょうどしていた時だったので、もしかしてアイツじゃないかということになり、3人で外に出た。ところが見失ってしまい、ドミトリーに戻ろうとしたところで……。

「あの幽霊を見たんだね」
「ああ……それで篠田さんがびっくりして走って行っちゃってね……今は管理人さんが追いかけてるよ」

ボクは地理に詳しくないし、みんなに合流して報告しないと心配すると思ったから。なんかここ、携帯繋がらないんだよね。世良さんはそう言った。真夜中にドミトリー内を歩き回る人間と世良さん達が見た人影は同じなのか、そしてそれは幽霊騒ぎとも関連があるのかは分からない。なかなか一筋縄では行かなそうな雰囲気だ。

「お、おい……警備員は呼ぶぞ?」
「そうだな。ボク達はあの部屋を見に行ってくるよ」
「え……見に行くのか?人が来るのを待ってた方がいいんじゃ……」
「そんなことしてたら消えちゃうかもしれないだろ?アンタ達は守衛に行って誰か呼んできてくれ!ボク達で見てくるから」
「わ、わかった……」

守衛所に走った男2人を横目に、世良さん、コナン君、蘭さんと私は411室に戻ることにする。世良さんはようやく事件の要が現れてどこか嬉しそうだが、蘭さんはだいぶ精神的にキているようだ。それでも置いていかれるよりはマシだと思ったのだろう、411室行きに同行することになった。足音を潜めて廊下を走りながら、コナン君がふと何かに気付いたように世良さんの方に顔を向ける。

「ねえ、幽霊を見てびっくりしたってことは、笹山さんと同じで篠田さんも幽霊を見たことがなかったの?」
「ああ、そんなことを話してたよ」
「……サークルで使ってる部屋から411室が見えて、怖がった部員が辞めちゃったんだっけ……」
「さっき幽霊を見て死にそうな顔でブツブツ言ってたから、本人もかなり怖がりなのかもな」

確かに、篠田さん本人が見たとは言っていない。さっきの態度を見るに清掃の山中さんも今日まであの首吊り姿を見たことがなかったのかもしれない。清掃といえば朝早くて夕方には撤収しているのだろうから、夜中にこんな場所を通るとも思えないし。
今度はエレベーターを使って4階に到着すると、411室の前に立ってみんなで頷き合う。世良さんがマスターキーで解錠して、ゆっくりとその扉を開けて……中は真っ暗だった。



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