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20-7



時刻は21時。私達は構内の外れにあるドミトリーの玄関口に集まっていた。
講義は7限目がそろそろ終わる頃だが、さすがにこの時間帯にもなると外の人通りはほぼない。図書館を見終わってから恩師の元にみんなで揃って押し掛けて、他の3人が思ったよりも熱心に先生の話を聞き始めたので1時間くらいはそこにいただろうか。全員高校2年生(ひとり小さくなってるけど)だもんな……進路とか色々、悩み始める時期だよね……と、何だか学生時代を遠い昔のことのように感じながら礼を言って研究室を後にしたのが30分前。
その後はドミトリーにチェックインして、管理人さんに会って……世良さんが話してくれた3人ともさっき顔を合わせた。探偵もやってきたことだし、今日こそは幽霊騒ぎの正体を見極めてやると意気込んでいるらしい。
現在玄関口にいるメンバーは私と世良さん、コナン君、蘭さん、会ったばかりの管理人さんと他の3人だ。名前は女性が篠田さん、男性で若い方が笹山さん、青い作業服のおじさんが山中さん。予想より大人数になった。世良さんが全員を見回して腰に手を当てる。

「一応、夜の建物内の様子も見ておきたいからボクは見回りに行くけど……みんなはどうする?」
「もちろん、俺は行くぞ」
「私も……」

真っ先に挙手した笹山さんに続いて、篠田さんも頷く。幽霊騒ぎが起こるのは0時過ぎだ。しかも毎日というわけではないから今夜現れるとは限らない。けど世良さんは高校生だし、調査できる日も限られているため、詰め込み気味に調べるしかない。

「こんなに人数がいるんだから手分けしませんか?広いから時間がかかるし、大人数で歩くと宿泊者から苦情がくるかも……」

ドミトリーの管理人さんがそう言って輪になっている私達に近付いてきた。Tシャツにカーキのパンツというラフな格好なうえに若かったので、初めは受付のお姉さんかと思ったのだが、彼女が管理人なのだそうだ。黒髪を高い位置で結い上げた、化粧気のない控え目そうな雰囲気の女性。私よりも少し年上だろうか。彼女の提案にそれぞれが賛同したのを眺めて、世良さんは「オーケー」と頷く。

「じゃあ班分けしよう。夕方に下見したボクとコナン君は別々の班にするとして……そうだな……」

学生用の建物にある例の部屋から外部用のドミトリーの順に見回るのがA班の私、コナン君、笹山さん。それとは逆のルートで外部用の建物から例の部屋に向かうのがB班の世良さん、篠田さん、管理人さん。そしてC班が残った蘭さん、山中さん。班分けは最終的にこうなった。C班は怖がりな蘭さんもいることだし、ここに残って入り口の見張りだ。まだ生徒の出入りがある時間帯なのでさすがに何も起こらないだろう。
建物内はところどころ老朽化はしているが、照明のおかげでそこそこ明るく、懐中電灯がなくても問題なく歩くことができる。

「確か、例の部屋は4階だよね?」
「うん……夕方に世良の姉ちゃんと見た時は何もなかったんだ。幽霊騒ぎが起きてから誰にも貸してないって管理人さんが言ってたし、今はあの山中っていうおじさんが清掃に入ってるだけだと思うよ」
「鍵を持ってるのは管理人さんと清掃の業者さんだけってことだね」

蘭さんに手を振って歩き出した私達は少ししてB班とも別れ、1階の廊下を歩いて反対側の階段を目指した。細長い通路には無数の扉が規則正しく並び、それぞれに部屋番号が書かれている。ドアの間隔からしてそう広い部屋ではなさそうだ。幽霊騒ぎというが何も嫌な感じはしない。もともと霊感はないけど。辺りを観察しながら、私とコナン君の前を歩いている中肉中背の男に声を掛ける。

「笹山さんはここで働かれてるんですよね?」
「ああ、まったく迷惑な話さ……どうせ生徒の悪戯だろうけどな」
「ねえ、その幽霊ってどんな格好をしてるの?男の人?女の人?」
「さあな。俺は見たことないから知らないんだ」
「……え?見たことないんですか?」

コナン君の問いにさらりと答えた笹山さんは「深夜0時に外を歩いてるやつなんて少数だよ」と続けた。なら、噂だけを聞いて幽霊騒動を解決してほしいと乗り込んできたのだろうか?学会があるから、という理由だったと思うが、自分の目で見ていないのに随分と先走った行動のような気がする。コナン君とふたりで首を傾げていると、階段に差し掛かって先に一段、二段とのぼり始めた彼が肩を竦めた。

「俺は幽霊なんて信じてないけど、管理人さんが困ってるみたいだし……早く解決してやらないとだろ?」
「ふ、ふーん……」

もしかしてこの男、理由を付けてここにいるが管理人さんに気があるだけなのでは……とぬるい気持ちになる私をよそに、コナン君は階段を上りながら口元に手を添えて何やら考えている。ほんの些細な情報でも何かの役に立つかもしれないと思っているのだろう。探偵って大変だなと横目で見つつ、4階に到着した私達は例の部屋まで歩いた。

「411室……ここだな」
「それにしても、犯人はどうやってこの部屋に入ってるんだろうね?コナン君」
「うん……清掃用のマスターキーは複数あるって管理人さんが言ってたから、それをひとつ盗んで持ってるのかもしれないね」

笹山さんが鍵を開けて先に入室し、部屋の電気のスイッチをオンにする。蛍光灯の下に現れた部屋は六畳程度でほぼベッドに占領されているが、ちょっと仮眠を取るくらいなら十分だろう。一応入口のすぐ側にバスとトイレも付いている。隅々まで観察するほど見る部分もなく、特に変わったところはないようだ。コナン君は夕方もここに来て調べたはずだが、ベッドの隙間を覗き込んだり天井を見たりして唸っている。見れば見るほど普通の小学生の動きじゃないなと思いながら、私は思いきって彼に尋ねてみることにした。



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