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20-6



コナン君、世良さんと合流したあと、私達はそのままカフェで夕食を済ませることにした。本当は夕食前に蘭さんと図書館でも見に行こうかと話していたのだが、思いがけずドミトリー組の方の時間がかかったためだ。カフェなのでそこまで本格的な料理はないが、女子と子供しかいないし軽い食事で十分だろう。席を移動して4人がけのテーブルで、蘭さんとコナン君が並び、その向かい側に私と世良さんが座る。

「随分長かったけど、管理人さんとは会えたの?」
「ああ、最初は依頼主であるドミトリーの管理人さんに話を聞いてたんだけど……探偵を雇ったって聞き付けた人が集まってきてね」

世良さんはそう言うと大きく口を開けてホットドッグにかぶり付いた。長めの粗挽きソーセージの皮がパリッと弾ける音がする。レタスも何もないシンプルなホットドッグだが、ふわふわと柔らくてほんのり甘いロールパンが美味しいと昔から評判だ。もぐもぐと口を動かしながら彼女が語ったところによると、管理人と話していた時に3人の男女がバラバラにやってきたらしい。彼らは管理人さんに幽霊騒ぎの件を何とかしてほしいと頼みにやってきていた。

「まず、サバゲーサークルの部長をやってるっていう篠田さん。21才、女性。サークルの定例会で使う部屋から幽霊部屋が見えるらしくて……怖がった部員が辞めちゃったから早く解決してほしいって言ってたよ」

サバゲーとはサバイバルゲームの略でエアガンとBB弾で敵味方に分かれ撃ち合って遊ぶ日本発祥のゲームだ。イメージ的に女子の人口は少なそうだが、部長を務めるということは相当好きなのだろう。世良さんと一緒に話を聞いていたはずのコナン君は我関せずといった様子で、小さな口でハムエッグトーストを食べている。あまり興味がないのだろうか。彼も探偵だから、別の探偵にきた依頼には遠慮しているのかも。そういえば工藤新一君が推理をしているところは見たことがないから、ちょっと見てみたいな。世良さんは続ける。

「次に、たまにドミトリーに泊まってる笹山さん。33才、講師の男性。もうすぐ学会があって、外部から偉い先生を招待するらしいんだけど、騒動のせいで評価を落とされたら困るって言ってたかな。最後のひとりは清掃作業員で……他の従業員がシフトを入れたがらなくなっちゃったみたいで怒ってたよ。名前は山中さん、40代の男性」
「それで、部屋には行ってみたの?」
「行ったけど、特に変わったところはなかったよ……まず実際にその幽霊を見てみないことには始まらないし、今日は夜更かししなきゃな」

ドミトリーは6階建てで学生用と外部用に分けられている。今回騒ぎがあったのは学生用の方だ。私と世良さんは泊まるとして、他のふたりはどうするのかと思えば、ちゃんとお泊まりセットを用意してきたという。蘭さんもコナン君が泊まると言えばそうせざるを得ないのだろう。心配で、というのはもちろんのこと、彼女はサラダのトマトを突っつきながら「今からひとりで帰るのは……ちょっと……」と言った。話を聞きながら私はクラブハウスサンドをぱくりとかじる。こんがりと焼き色のついた薄いパン生地3枚の間に、レタス、トマト、カリカリのベーコン、ローストチキンがサンドされている。ベースはマヨネーズで、少しの粒マスタードが良いアクセントになっていた。……あ、と思ってサンドイッチから顔を上げたが、向かいにいたのはコナン君。味のあるウッドデッキのオープンテラスでもなく、構内の綺麗なカフェ。改めて見ないでも、さっきからずっとそうだ。もう一口かじって塩味の強いお肉を噛み締めつつ、あの時どんな会話をしたっけなぁ、と考える。コーヒーを飲みながら世良さんが私のほうに肩を少し寄せてきた。

「ま、そんなわけで幽霊が出るまで時間があるし……中を見て回ろうよ。ボクも興味あってさ!ミョウジさんに案内して欲しいなぁ」
「うん、いいよ。さっき蘭さんと図書館に行きたいねって話してて……まだ閉まらないはずだし、そっちに行ってみようか」
「図書館?」

コナン君がようやく喋った。心なしか目が輝いているようにも見える。あ、そうか。工藤君が本が好きだから、蘭さんは図書館に行きたいって言ったのかな。本人がここにいることには気付いていないけど、彼が喜ぶ本があるのかもしれないと思って。いいなぁ。今の私がそんな風に勝手に解釈して羨ましく思うのはなかなかに見過ごせないことだ。
普通の恋がしたいと、以前の私はそう思っていた。けれど同時に、ここに生きていることが楽しくて、私は私という存在に自信を持っていて、他人に依存するそれが自身の世界の中心になることは今までなかった。

……もしかしたら私には、あまり時間がないのかもしれない。
それがいいことなのか、悪いことなのか、分からないけれど。
きっと、それは手を伸ばした瞬間に殊更輝き出すものなんだ。



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