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17-14



「……!?」

私達がいる場所から離れたところにあった点検用の梯子が、瞬時にひしゃげて落下する。男に腕を取られた私は、引っ張られるがまま反対方向の通路へと走った。銃撃されている。どうして急に。彼女がゴンドラから逃げたことで、収容を諦めて始末することにしたのか。だが彼女とて組織の幹部なのだから、そんなに簡単に始末するという結論に至るものなのだろうか。爆弾を解除していることに気付いて銃撃してきたのかもしれない。
この基部には知る限りで現在、私と刑事さんの他にコナン君、安室さん、赤井さん、それからゴンドラの中で気絶してしまった風見刑事がいる。

「そもそも、何で爆弾を仕掛けたんですか!?」
「計画が失敗したら全部吹っ飛ばすつもりだったんだよ、彼女は逃げたしこうなったらヤケクソだな!」

銃弾の標的にならないように逃げながら、大声で私の少し前を走る刑事さんと会話する。最悪なことを聞いてしまった。結局爆弾がどうなったのか分からないが、こうして銃撃しているということは誰かを狙っているのだろう。ローターが回転して空を切る音が聞こえる。ふと見上げると、発射の際のマズルフラッシュで照らされたその機体が闇夜に浮かび上がっていた。飛行機のように左右に広げた固定翼。その翼にヘリコプターと同様の回転翼、つまりローターが備えられている。明らかにどこからか拾ってきたとか、古い型を横流ししたとかいう代物ではない。私は思わず転びそうになりながら、前にいる男の腕を引っ張った。

「ちょ、ちょっと!あれ何なんですか!」
「IDWS搭載したオスプレイ」
「は?海兵隊から盗んできたんですか!?」
「ノーコメント!」

それは欲しいなぁと思ったら一機あたり軽く100億はする最新型輸送機である。しかも防御兵器システムを搭載、アームがついているカスタム品。さっきから観覧車を攻撃しているのはM134だ。このガトリング銃は最大で1秒間に100発くらい発射するため、ちょっとかすった、とか、1発だけ当たってしまった、とかいうことがない。少しでも被弾したら即死、ジ・エンド。痛みも感じないと言われている。試したやつは全員漏れなく死んだので真実は分からないけど。
銃身が回転しているため着弾位置はズレやすく、特に撃ち始めはそれが顕著だ。とはいえ、こんな場所では被弾しないまでも足場を崩されれば危険。さっきから敵は観覧車の基部ばかりを狙っており、ゴンドラに被害は出ていないようだが……ノースホイールには子供達が、反対のサウスホイールには乗客がまるまる取り残されている。この状態では地上にいて、いいところ拳銃しか武器を持たない警察が打つ手はないだろう。足元に飛んできたゴンドラの外壁らしき破片を見て、私は辺りを見回す。

「コナン君……、大丈夫かな、」
「……探しに行こうか?」
「えっ?」

頂上から落ちたから、大体あの辺かな。男がそう呟いて私の腕を引く。辺りにはくねくねと曲がってしまったパイプや階段の一部とおぼしきものが転がっており、その奥に墜落したゴンドラがあった。ただ、どこかに引っかかってから落ちたようで粉々にはなっていない。人の姿はなく、途中で投げ出されたのでなければどこかに退避したようだ。ひとまず私達は更に進む。

「うーん……何で俺、自分で調達した兵器に狙われてるんだろう……」

前方でこの状況を妙だと思い始めたらしい男が緊張感のない声でそう呟いた。……なんで私、軍隊が出動するレベルの案件に巻き込まれているんだろう。武器は手に持っているニューナンブのみ。これで空飛ぶ金属の塊に立ち向かうのは不可能である。一般にガトリングへの対抗手段はミサイルやライフル等で射程外から撃つことだが、この接近した状態ではもはや射程距離に意味がない。それに敵は堅牢な機体の中だ。撃ち落とす方法なんてあるのだろうか。

「ナナシさん!?」
「コナン君!」

しばらく進むと、唐突に名前を呼ばれる。視線を下げれば壁に身を預けるようにして辺りの様子を窺っている子供の姿があった。無事だったようだ。良かった。胸をなで下ろす私に、コナン君が走って近付いてくる。

「ナナシさん、どうしてここに!?」
「ちょっとね、巻き込まれちゃって……風見刑事や他の人は大丈夫かな?」
「今はまだ大丈夫だけど、何とか手を考えないと蜂の巣だよ……とりあえず合流しないと」

そんなやりとりを刑事さんが不思議そうに眺めている。動けばすぐに狙われてしまうことから、しばらくは身を潜めているしかなさそうだ。安室さんや赤井さんのことをコナン君に聞きたいけど、この男の前で名前は出さない方が良いだろうな。ちらりと刑事さんを見ると、目が合う。

「そう言えば話が途中だったね」
「……ええ……、あなたが約束の場所に来られなかったのは分かりましたけど、あの銀髪の男がいた理由は?私がモールに場所を変えてってメールをしたから、行けなくなったあなたは急いであの男を呼んだんですか?」

横にいるコナン君が何故かハッとして勢い良く私の方を見た。その視線は見たことがないくらい鋭い。何だろう、そう思いながらも私は男と話を続ける。もうすっかり夜も濃くなった頃合だろうが、何時なのかは分からない。残された時間は限られているのだ。

「いや、あいつのことをあそこで殺すつもりだったから、適当な理由を付けて呼んでおいたんだよ。君を呼び出したこととは関係ない」
「…………え?」
「怪しまれないように、君と一緒に公園に来た奴を殺して、その首を「八坂から情報を受け取った奴」として持って行くつもりでさ……」
「…………怖すぎ……近寄らないでください……」

思わずずりずりと壁伝いに横歩きした私を、男はその腕を伸ばして引き留めた。腰に回された腕は力強くてびくともしない。嫌な汗を掻きながら、私は男を横目で睨む。
男が語ったところによれば、警備員もどきも暴行犯も、あのショッピングモールで銀髪の男を仕留めるために用意した人員だった。爆弾を仕掛けさせたのもこの男。思わぬところでベルモットの邪魔が入ってしまって男自身が行けなかったのと、私が急に場所を変更するなどと言い出したため、段取りはめちゃくちゃになって混沌化してしまったらしい。警備員には「現れる男を始末しろ」と伝えていたため、安室さんにまとめてぶっ飛ばされるという末路になってしまった。暴行犯については女性警官を殺してしまったのをわざと見逃して、手駒として使っていたということのようだ。……とんだ悪人である。

「君からちょうど場所をモールに変えてってメールが来るから、あの女を誤魔化すの大変だったよ……まさかこれからジンを始末しようとしてるなんて言えないからな」

私が受け取った刑事さんからの「了解」メールは、ベルモットが返信したそうだ。意図は分からない。おそらくは私の名前も本名で登録されていないだろうから、誰なのか分からずに「刑事さんが身動き取れない」状態でいることを隠すつもりだったのかもしれない。
モールもかなり訳のわからないことになっていたが、裏側でも相当大変だったらしい。まあ、私には関係ないし危険な目に遭ったのはこの男のせいなので可哀想とかは一切思わないけど。……あの銀髪はジンっていうのか。

「ナナシさん……!」
「……ん?どうしたの、コナン君」

さっきから小さな手が私の服を引っ張っていたことには気付いていたのだが、強めにぐいぐいとやられてコナン君のほうに顔を向ける。レンズ越しに必死に私を見上げる瞳がそこにあって、私は首を傾げた。




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