タマキとライセ_3
「坊や。御前さん、もう幾つになるんだっけかね」
「……十五」
投げかけられた問いがあまりに脈絡のないもので、おれはこんな簡単な答えすら差し出すのに時間を要してしまった。
「おや、もうそんなになるかい?」
乱れた襟元を器用に正しながらおれに訊ねたライセくんは、いかにも驚いたように目を真ん丸くしてこちらをまじまじ見る。電灯の光をも飲み込むような黒々とした大きな目は今日も底知れない。
昔はこの瞳を神秘的だと感じたこともあった。今は、それよりも胡散臭さが先立つ。
「初めて会ったときはこおんなにちまこくてかわゆかったのに、時が経つのは恐ろしく早いもんだねえ。爺は置いてかれるばっかりだ」
親指と人差し指を擦り合わせるほど近付けて「こんなに」と示すライセくんは、なんだかしみじみとした様子だ。
ついさっきまであれだけねちっこく交わっておきながら、事が終われば即座に好々爺然とした表情を取り戻せるのが、ライセくんのいくつかある悍ましい面のうちのひとつだと思う。
「……さすがにそんな小さくはなかったでしょ。受精卵サイズじゃん。大袈裟なんだよ、ライセくんは」
「もう勘弁してくれ」と泣きついてなおも散々氣を搾り取られたあとの身体は重怠く、ただ口を利くだけでもぐったりする。精のつくご馳走を味わったあとみたいに肌をつるつるぴかぴかさせたライセくんはご機嫌で、両目を弓形ににまあっと細めると、白い手でおれを差し招いた。
「それよりも、タマキや。こっちゃおいで。甘ァい飴ころがあるんだ。ふたつみっつ、くれてやろうね」
――――
23/07/07
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