▼ 15/07/09 (22:13)

「ボクは乱藤四郎だよ!今度の人は女の子かぁ〜嬉しいなぁ。」

「……今度?」


ヒラヒラと可愛らしいフリルのついた裾を軽く摘まんで、ペコリと頭を下げた。そしてコップの中が空になっているのを確認してから、布団の上まで乗り出して、くりくりとした大きな眼で覗き込む。


「うん、君のこと」



“今度”
妙に含んだ言い方をした。子供のような無邪気さの中に、棘のある声が混ざる。好奇の色を持ったビー玉のような眼が、どこかで値踏みするように鈍く光った。
その眼に圧されてか、喉がごくりと鳴る。


「おいおい、そんなに喧しく騒ぎなさんな。」

「ちょっとやめてよ、薬研ー!」


軍帽に似た乱藤四郎の帽子を掬い、器用に宙で回す。そして自分の頭にヒョイと乗せた。


「俺っちは薬研藤四郎。よろしくな、大将!おかわりは要るか?」


水差しの表面に露が付くほど冷えた水を注ぎ足してくれたのは、眼鏡をかけた男の子。帽子の鍔と眼鏡の間から、柔らかく眼を細めた。
灰がかった紫色。艶やかな黒髪と相まって、危うげさもある。
藍色に、気品ある紅色と金色の装飾。気崩すことなく着用されたダブル前のジャケットときっちりと締められたネクタイは堅実さを覚えた。


●唐突にの続き4


▼ 15/07/08 (22:24)



「いち兄ぃ!お水持ってきたよー!」

「走ると溢すぞ、乱」


二人分の足音がこちらへ向かっている。閉じられた襖の向こう側には、長い廊下が続いているのか。次第に近付き大きくなるそれが、屋敷の中に響き渡った。
外ばかり気が行っていたが、どうやら内も端然としている。30畳以上ある広々とした室内には、細工の施された床の間と欄間。主張しない程度に、品の良い調度品が置かれていた。
そうやってここをぐるっと見回したことで、自分が此処に居る事の違和感が強まった。


「あぁ、また厄介な方を連れてきてしまった。」


白手袋で口許を隠しながら小さく息を吐き、肩を落とすように、曇る整った顔ばせ。


「なんだと?厄介とは失礼な事を言う。」


スパァンと小気味良く開け放たれた戸から入ってきたのは、先程出ていった子と、真っ白な装束を来た青年だった。


「あまり大きな声を出されるな、起きられたばかりですぞ。」


その勢いに思わずきゅっと握り締めた布団の端。
はい、どうぞ!と水の入った硝子コップを寄越したのは、一期と名乗った彼と同じくネクタイをきちんと締め、仄かにピンクがかった明るい髪をした子。もう一人の白の青年は、片手を眉間の辺りに翳して後ろからこちらを覗き込んでる。


「溢さないように気を付けてね!」


受け取ったコップからじわりと伝わる冷たさ。勢いよく飲み干せば、は、と無意識に息をついた。カラカラだった喉に食道に、そして胃に、冷えた水分が移動していく。
そのお陰で頭にかかっていた靄が、ゆっくりと晴れていった。

●唐突にの続き3


▼ 15/07/07 (22:58)

1日10行ずつでも書けば、一ヶ月くらいである程度纏まるんじゃないかって思って…。
こういうのもアリな気がしてきた。
名前変換は出来ないので、ちょっとややこしいけど。

一期の口調、間違えてたら申し訳ありません_(:o」 ∠)_
思い立った!


▼ 15/07/07 (22:55)

幼い頃の曖昧な記憶だ。
母に手を引かれ、照り返しの酷い坂道を上れば、背筋が丸く曲がりきった曾祖母に迎えられた。優しく頭を撫でるしわくちゃな掌と、私の名前を呼ぶ穏やかな声。買ってもらったばかりの靴で、庭の草木を避けて走る。
そう言えば、あの庭にも小さな池があった。紅と白の鯉がいて、優雅に泳ぎ回りながら、時々水面をそのヒレがパシャッと音をたてて打つ。


「……、だれ、?」


はっ、と息を吸う自分の音に、眼と意識の焦点が合う。ゆっくりと熱が引いていき、漸く発した自分の声は酷く渇れたものだった。


「……気が付かれましたか。良かった。今、乱に水を持って参らせますので、」

「あ、のっ……、」

「それまでは暫しお待ちくだされ。」


暑苦しさを微塵も感じさせない何かを、彼は醸し出していた。先程触れた体温の冷たさと、淡々と話すその姿。肌が自然と汗ばむ季節だと言うのに、きっちりとシャツは首元まで釦が閉められ、清廉な白手袋をはめている。
そして何よりも眼が離せなくなったのは、彼のすぐ真横に置かれた長物だ。1m程あるそれは、どこか儚くも凛とした威圧感を放っていた。


「あぁ、これは申し訳ありません。」


私の視線を読み取ったのか、流れるような無駄のない所作で、刀を私から少し遠ざけた。
朱と金の鞘に付いた飾り紐が、畳の上でぶつかり合いながら転がる。


「私は一期一振。粟田口吉光の、」

「え、……あ、……い、ちご?」

「はい。なんなりとお呼びください。」


あまり耳にしない名前に、思わず声が零れる。何か言いかけていたようだったが、それ以上は続けなかった。軽く頷きながら、あやすようにふ、と浮かべた柔らかな笑み。
絹糸のような水縹が、部屋を通り抜けた風に吹かれてキラキラと靡いた。
●唐突にの続き2


▼ 15/07/06 (20:34)

誰かの囁きが、何かの呪いのように耳にこびりついていた。それは耳鳴りに似た不快音で、眩暈を伴って頭の中を揺らす。
身体が乱暴なまでの力で後ろに引っ張られたかと思えば、水中から酸素を求めて顔を上げた瞬間のような感覚。水面が揺れるように、瞑った眼の裏がグラグラと泳ぎ、息をし忘れていたのか、口を思いきり開いて空気を吸った。
一気に肺に取り入れられたそれに驚いたのか、喉が噎せ返る。胃液の味が喉の奥でした。


「ーーーー大丈夫ですか!?」


焦りを含んだ声がする。宥めるように肩を擦る手がひんやりと冷たくて、思わず肩が跳ねた。
肩を上下させながら何度か空気を嚥下し、漸くゆっくりと瞼を開ける。視界に飛び込んできたのは、きっちりと手入れが施されている草木と、小さな石で縁取られた池。青い青い空が塀越しに在って、ふっくらとした真っ白の入道雲が見えた。
広い広い日本庭園。
その手前には御簾が掛けられ、所々花結びで飾られている。


「目を覚まされましたか、……乱、お水をお持ちして差し上げなさい」

「はい!」


パタパタと足音が響く畳の間。
辺りには井草の懐かしい匂いが漂っていた。これだけ広い部屋は、昔田舎の曾祖母の家で見た位だ。今みたいに、蝉の鳴き声と風鈴の音がする夏の日だった。




●唐突に思い付いた(物凄く書き出しだけ)





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