見える運命(伏黒)
数時間前、伊地知を通して任務の連絡がきた。母校の近くで強い呪霊が発生したようだ。一般人も巻き込まれたとの情報も入り、伏黒を焦らせる。
しかし、彼が現場に駆けつけた時には既に、呪いは祓われていた。周囲に散らばる残骸の中心で、一人の少女が呆然と立ち尽くしている。よく見ると、伏黒の幼馴染の苗字であった。彼女は非術師の家庭であったはずだ、と伏黒が思考を巡らせる。気配に気づいた彼女は、先に声をかけた。

「もしかして恵? 久しぶりだね」
「久しぶりだな名前。卒業以来か」

伏黒が通っていた中学は呪術とは無関係の普通の学校。もちろん苗字もごく普通の人間であった。彼女とは家が近所で、昔から津美紀とも仲が良かったのを覚えている。伏黒は幼馴染との再会を喜ぶ前に、気になっていた事を問いかけた。

「オマエ、見えてたのか」
「...うん。小さい時から、ずっと」
「術式...この力が使えることに気づいたのは?」
「小学校高学年くらいかな。1回だけ家に入ってきたのを倒したことがある。でもこんなに大事になったのは初めてで...」

高専に行くまでは毎日のように話していたはずなのに、伏黒にとって初めて聴いた話だった。その一方で、非日常的光景に一切動じていない伏黒の姿もまた彼女を驚かせていた。

「恵はこういうの、慣れてるみたいだね」
「まあな。俺も昔から『見える』側だ」
「そうなんだ。全然、知らなかったな」

そう言うと、苗字は落ち着かない様子で、自身が刻んだ呪霊の跡から目を逸らした。先程からどうしても生き物を殺した感覚が拭えない。罪悪感のようなものが胸に募っていく。彼女の様子に気づいた伏黒は、玉犬を呼び出し呪霊の破片を喰わせた。

「コイツらはただの生き物じゃない。殺さなかったらオマエが死んでた。...だから気にすんな」
「...ありがとう。相変わらず強くて、優しいね」

苗字が微笑むと、伏黒の脳内は古い記憶で満たされていった。思い出の中の彼女はよく笑っている。伏黒はその笑顔を見る度、ずっと何も知らずに平穏に生きていくのだろうと思っていた。しかし、彼女は地獄に足を取られてしまった。この笑顔を失わないために、なんとかしなくては。彼がそう思った途端、するりと言葉が零れた。

「なあ、俺と同じ学校に来ないか?」

術式に恵まれてしまった幼馴染を少しでも安全な方へ導くことができるように願った。
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