お疲れ様です(七海)
七海は任務終わりに高専に立ち寄った。ここで教師をしている恋人から、今夜の食事の誘いがあったのだ。彼はもちろん定時で切り上げたが、教師はそうもいかないのだろう。彼女は約束の時間になっても校舎から出てこない。邪魔をするつもりは無いが、様子を見るためにいつも彼女が仕事をしている部屋へと足を運んだ。懐かしい校舎を通り抜け、目的の部屋のドアを静かに開ける。中を覗けば、机に顔を伏せる彼女がいた。開け放たれた窓から風が吹き、カーテンを揺らす。外はもう真っ暗だ。

「名前。こんな所で寝ていたら、風邪をひきますよ」
「ん...ななみさ...?」
「食事に誘ったのはアナタでしょう」
「うーん...」

七海は自分のジャケットを脱ぐと、夢見心地な恋人の肩にそっとかけた。風で乱れた髪を指で何度か梳いてやる。余程疲れていたのか、起きる気配は無い。七海はしっかりと閉じられた目を確認すると、身を屈めて額に唇を近づけた。しかし、この時彼は大切なことを忘れていた。彼が今最も会いたくないであろう人物もここに勤めているということを。
件の男、五条は相手にとって嫌がらせであるとわかっていながら、明るく声をかけた。七海はドアを開けたままであったことを酷く後悔した。いつから見られていたのか想像したくない。

「うわあ〜七海ってば砂糖マシマシ!!」
「今見たこと全部忘れてください」
「イヤだね。激レアだもん」
「もうすぐ三十路の『だもん』は可愛さの欠片も無いですよ」
「ひっどーい」

昔から変わらず人を苛立たせるのが得意な様だ。七海がもう一言文句を言おうとした時、苗字が目を覚ました。

「あれ!? 七海さん来てたんですか!?」
「時間になってもアナタが門の所に来なかったので」
「ごめんなさい、寝ちゃってました。すぐ片付けますね!」
「ねえねえ僕もいるんだけど? 同僚は無視?」
「あ、五条さんいたんですか。お疲れ様です」
「君ら僕の扱い雑だよね」

七海の影響だろうか、苗字は一応先輩である五条に対して素っ気ない対応をする。それを見て満足した七海は先程の苛立ちはすぐに消えた。
PREVBACKNEXT
- ナノ -