呪詛師の彼※(家入)
※死ネタ


五条は血溜まり上に立ち、かつて仲間であった人物を見下ろした。彼は夏油と共に姿を消し、呪詛師に堕ちた苗字だった。五条の攻撃を受け、腹から血を流し浅い呼吸を繰り返している。五条の攻撃を自分の術式で相殺しようとして腹の傷だけで済んだのは、それだけこの男が実力をつけたという証だ。もし真っ当な呪術師のままだったなら、殺すに惜しい人材であった。そのような人物を、あの日の夏油のように終止符を打たなくてはいけないのか、と五条は胸が締め付けられた。すぐに自分を殺そうとしない友人を見て、苗字は声を絞り出した。

「なあ...悟。最後にひとつだけ、頼みがある」
「んだよ、名前。それ以上話すと傷が開くぞ」
「硝子に、会わせてくれ」

五条は目を見開いた。彼は学生時代、苗字が家入に好意を寄せていたのを知っていたからだ。今頃、他の術師の手当をしているだろう彼女の姿を思い浮かべる。苗字に戦う意思は感じられない。五条は友人の最後の頼みに頷いた。

「...待ってろ。呼んできてやる。その間に死んだらシャレにならねえからな」
「アイツに会うまで、俺は死なない」
「よく言うよ」

偶然近くにいたのか、苗字の感覚が狂い始めたのか、家入はすぐにやってきた。五条の姿は見当たらない。それはきっと彼なりの気遣いであろう。

「久しぶりだな」
「硝...子...、綺麗になったな。いや...昔からか」
「褒めても治さないよ、呪詛師」
「そんなこと...は、わかっ...てるさ」
「もうそれ以上喋るな。苦しいだろう」
「俺の...死体は、硝子になら、いくらバラしてもらっても構わねえ」
「わかった。今後の研究に貢献してもらうよ」

苗字が咳き込む。家入は彼の出血量を見て、もう長くは無いことを悟った。彼は家入を見つめ、僅かに目を細めた。泣いているようにも笑っているようにも見える切なげな顔だった。

「オマエのこと...ずっと、好きだった」
「...ああ」
「気づかれてんのも...そういうの、オマエが興味無いってのも...知ってた」
「...そうか」
「じゃあな...硝子、最後にオマエと、話せて...俺は...」
「苗字」

言い終わらないうちに彼の命の火は尽きてしまった。穏やかに目を閉じる彼を確認すると、家入は隣に座り込んだ。彼女の白衣が苗字の血で染まっていくのも気にせずに。そして小さく呟いた。

「...どいつもこいつも置いて行きやがって。本当に、ロクな野郎がいないクラスだったな」
PREVBACKNEXT
- ナノ -